二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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三人称視点ですよ


それぞれの戦いがあるようです

「大淀さん!! しっかりしてっ!! 大淀さんっ!!」

 

 戦艦ル級が一隻。

 

 渦潮の向こう、製油所地帯沿岸を支配していると思われる敵艦隊の姿。大淀が偵察機越しに見たのはそんな光景。

 

 いつもの大淀なら真っ先に罠の可能性へと思い至り自重していた場面。

 それがいつもの大淀ではなかったこの時、迷いはあれど焦る気持ちに後押しされ止める仲間を振り切って渦潮を渡ろうと強行しようとした大淀。

 

 そしてそれはまさしく罠だった。

 

 異動する前の鳳翔であれば、もしかしたら艦隊の安全の為大淀を切り捨てていたかも知れない。

 だが、全員無事に帰って来いという提督の命令を守ろうと古鷹、加古と共に後を追いかけた。

 

 渦潮に足を踏み入れようとしたその時。

 大淀の側面から揃った砲撃が襲いかかり、大破。

 

 大破した身が渦潮に巻き込まれ流れて行きそうになった所を古鷹が拾い上げた。

 

「あ……ぐ……」

 

「大淀さんっ!!」

 

 呻き声を上げる大淀に意識は無い。一目見てわかるほどの重傷、大破。

 後一撃、掠りでもすれば轟沈してしまうであろうその姿に古鷹の背筋を汗が伝う。

 

 そしてその後一撃は無慈悲にもやってきた。

 

「くぅっ!!」

 

 自身の背後……自分たちが進んで来た方から。

 

「なんで……!」

 

「無事ですか!? ……どうやら私達は、最初から罠に嵌められていたようですね」

 

 大淀を庇い、砲撃をまともに浴びてしまった古鷹は中破。大淀にとどめはさされていない。

 ただ、鳳翔にそれを安堵する暇は無かった。

 

 ここまで何故あれだけの敵戦力を前に被害もなく進軍する事が出来たのか。

 その理由がここにある。

 

「鳳翔さんっ! 駄目だ、挟まれてるっ!!」

 

「ええ……私達がここまで無傷で進軍できたのは……どうやらこの状況を作りたかったようですね」

 

 渦潮向こうには戦艦ル級。そして自分たちが取った進軍ルートにも空母ヲ級率いる機動部隊。随伴艦は軽巡ホ級エリート二隻に駆逐ロ級エリート二隻。

 艦隊を二つに分け、随伴艦達に鳳翔達の背後を取らせたのか。それとも、自分達の索敵範囲外から現れたのかはわからない。

 

 わかることは今の状況が絶体絶命と言っていいほどの窮地であることだけ。

 

「……相手空母の相手は私が。加古さんはその随伴艦をお願いします、古鷹さんは大淀さんを」

 

「……たはー! これはあれだね! 帰ったら一年分位寝かせてもらわないとねっ!」

 

 調子づいて加古は言うが、その目に余裕は全く無く零れ落ちるほどの覚悟が溢れている。

 

 戻れない。

 

 それが嫌でもわかった。理解した。だからこそ希望を口にした。

 

「――報告完了です。……全員、無事に帰りますよっ!!」

 

「了解っ!!」

 

 そしてその希望で胸を塗りつぶした。

 絶望的な状況だからこそ、希望に縋り自身を奮い立たせるために。

 

 

 

「被害状況はっ!?」

 

「夕立ちゃんが中破っ! 私と時雨ちゃんが小破よ!」

 

 天龍が第一艦隊に合流した時。全員が大きく肩で息をしていた。

 

 それもそのはず、会敵した敵水雷戦隊はまるで龍田達を轟沈させる為ではなく、ただ足を止める事だけを目的としたかの様な動き。

 ひたすらに進路を妨害するためだけに動き、砲撃をしてきた。

 

 そうしてそんな相手を無理矢理に撃沈させるために取った行動は第一艦隊の全員を大きく疲労、損傷させる。

 

「くっ! 夕立、お前は――」

 

「魚雷が駄目になっただけっぽい! まだまだ動けるっぽい! ハンモックを張ってでも、戦うよ!」

 

 帰投しろと続けようとした天龍の言葉を遮り夕立は吠える。仲間の危機に何も出来ないなんて嫌だと叫ぶ。

 

 その夕立を見て天龍は、説得する時間の無駄を悟った。

 

「ちくしょうっ! だったら良いな!? 絶対に沈むんじゃねぇぞ! 龍田! こっからはオレが指揮を取るぞ!」

 

「お願いっ!」

 

「各艦全速っ! 製油所地帯沿岸に向かうぞっ!!」

 

「了解っ!!」

 

 そう離れてはいない海域。

 だが、天龍を除く全員の疲労が強く思うようにスピードが出ない。

 

 スペック上ではそう変わらない速力を出せるにも関わらず、気を抜けば天龍だけが先行してしまいがちな進軍。

 

 このままじゃ間に合わない。

 

 そう天龍の勘が告げている。

 龍田、夕立、時雨も同じことを思っているのか、表情に焦りが強く浮かんでいる。

 

 それでも動けと必死な形相を浮かべながら前へと進む。

 

 間に合わなければどうなるか。

 第二艦隊を失う事になるのは当然。そう、当然辛い。

 そして同じかそれ以上に。

 

 ――提督が深く悲しむ。

 

 それだけは嫌だった。

 提督の約束を破らせてしまう事。彼を嘘つきにだけはさせたくなかった。それがこの場に居る全員の思い。

 

 だが、そう思っても身体は思うように動かない。

 

 その事に絶望を感じ深く沈み込みそうになった時。

 

「――!? 何かが来る!?」

 

「えっ?!」

 

 天龍がこちらに急速接近する何かを感じ取った。

 

 そしてそれは。

 

「おっまたせー! 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー!!」

 

「那珂!?」

 

 ポニーテール姿の第三艦隊を引き連れる、アイドル(旗艦)の姿。

 

「それじゃ、皆! お願いねっ!」

 

「了解っ!!」

 

 那珂の指示に従い、六駆の全員が手にしていたドラム缶の中身を躊躇なく龍田、時雨、夕立にぶっかけた。

 

「こ、これは?」

 

「えっとー那珂ちゃんよくわからないんだけどー……高速修復材? っていうんだって!」

 

 高速修復材。

 それは艦娘の傷を瞬時に癒やすだけではなく、疲労も抜き去る魔法の液体。

 

 初めて使用された夕立、時雨、龍田の顔に驚きの表情が浮かべられる中。天龍は海上に立つ六駆へと驚きの表情を浮かべていた。

 

「お前達……」

 

「そんなんじゃ駄目よ! 今は早く救援に行くのよっ!」

 

 言葉をかけようとする天龍を遮ったのは雷。

 

「そうよっ! 皆は私と違って一人前のレディなんだからっ!」

 

「うん。早く行かないと……手遅れになる前に」

 

 それに続いた暁と響。

 

「……これ、最後の一つなのです。大淀さんに……お願いするのです」

 

 最後に電が天龍へと中身の入ったドラム缶を差し出した。

 よく見れば、那珂を除く全員の足が震えている。

 まだ海への恐怖を拭い去れないままにここまで来たことが伺えた。

 

「絶対……絶対助けて欲しいのです。もう、私は……誰かが傷つく所を見たくないのです」

 

 それは一体何に対しての涙か。

 

 震える手で手渡されたドラム缶を受け取り、7.7mm機銃のかわりに装備する天龍。

 

 装備したのはドラム缶。だが。

 

「……まっかせとけっ! お前らの思い……しっかりこの天龍様が受け取ったっ!!」

 

「……もう、天龍ちゃんだけじゃないでしょ~?」

 

「うん。僕だってちゃんと受け取ったよ」

 

「夕立もっ! ちゃんと受け取ったっぽい!」

 

 そう言って再び走り出した第一艦隊。その足取りは先程とは全く違い、力に満ちている。

 

 その姿が見えなくなるまで、第三艦隊は見送った。

 

「……皆、大丈夫?」

 

「も、もちろ……あ、あれれ?」

 

 腰に手を当てて胸を張ろうとした暁の膝からかくんと力が抜け、海上に座り込んでしまう。

 見れば暁だけではなく、那珂以外の全員が座り込んでしまっていた。

 

「あらら。もー初出撃(ライブ)に緊張するのはわかるけどー」

 

「こ、こんなんじゃだめね……うぅ」

 

「情けない……」

 

「し、仕方ないのですっ! だって……!」

 

 六駆の言葉を那珂はくすくすと笑いながら聞く。

 わいわいと言葉を囃す皆の姿に喜びを覚えながら。

 

 ――提督が見たら喜ぶだろうな。

 

 そう思う。

 

 その光景を十分に堪能した那珂は。

 

「うん、よく頑張ったね」

 

「……うん」

 

 声をかけながら一人ずつに手を差し伸べて海へと立たせる。

 

「……那珂ちゃんのおかげなのです」

 

「えー? 那珂ちゃん何もしてないよー?」

 

 ニコニコと笑う那珂の手を握り、立ち上がる電は言う。

 

「差し伸べられた手を取る勇気……この手のおかげなのです。私達が立ち上がる事が出来たのは」

 

「そっかー! なら良かったですっ!」

 

 笑顔をより一層深めながら那珂は言う。

 

「でもね、まだ私達の出番は終わってないよ!」

 

「え?」

 

 その言葉に戸惑う六駆。

 それに対して初めて那珂は笑顔に悪戯を含めた。

 

帰るまでが出撃(アンコール)だよっ! それと、ね」

 

 ――帰ったら提督の手も、取ってあげてね?

 

 続く言葉に、六駆は深く頷いた。

 ポニーテールを結わう髪ゴムに添えられたカランコエの蕾を撫でながら。

 

 

 

 ――もしも私達が独立した動きをしてもその役目を果たせていたら。

 

 弾着による波飛沫をかき分け、爆雷撃の矢を抜ける。

 

 そんな中鳳翔が考えたのはそんな事。

 

 第一艦隊の戦法が通じた様に又、鳳翔自身も第二艦隊の戦法が第一艦隊に通じた事に自信を覚えていた。

 内心、あの海域を攻略するような艦隊という情報もあり、自分達の力を過小評価していた節があったからこそ余計に。

 

 だからこそ自分達はこれで良いんだとも思っていた。

 提督の訓練で確かに能力の底上げは実感できた、だがそれでも艦隊運用自体に間違いはなかったとも。

 

 だがこの場面においては、それが求められていた。

 

「うぅっ!!」

 

「古鷹さんっ!?」

 

 古鷹、大破。

 度重なる渦潮奥から飛んでくる戦艦ル級の砲撃。大淀を庇いながら動く古鷹に限界が来た。

 

「うわぁ!? くっそぅ……!!」

 

「加古さんっ!?」

 

 加古、中破。

 空母以外の相手を一人でなんて出来ない。得意の砲撃精度でごまかしながら戦うも古鷹のフォローが無い為限界がある。

 

「きゃあっ!?」

 

「鳳翔さんっ!!」

 

 そして鳳翔もまた。大破。

 艦載機数の劣る軽空母が正規空母の相手をし続ける事なんて不可能。

 それでもここまで粘り強く相対出来たのはまさしく鳳翔だからこそだろう。

 

 ――だけど、もしも自分達が第一艦隊の様な動きが出来ていたら。

 

 こういった窮地からでさえか細い一つの光明すらもたぐり寄せていたのではないだろうか。

 

 そう思ってしまう。

 

「……任務、失敗。ですか」

 

 ちらりと気を失ったままの大淀に視線を向ける。

 

 大淀を責めるつもりは欠片もない。

 

 あの鎮守府に集まった艦娘だ、当然何かがあった。もしくは何かがあると分かっていた事だから。

 提督自身、第二艦隊へと大淀が組み込まれる際、鳳翔へとよく見ておいてやってくれと頼んでいた。

 事実、この海域へ来た時も鳳翔はその事を忘れずに注意していたはずだ。

 

 ――甘かった。

 

 あの場で引き返しておけばよかった。鳳翔はそう後悔する。

 あの時いざとなったら私が。等と考えるべきではなかった。

 

「鳳翔さん……」

 

「はい……ですが、私は幸せです」

 

 最後に、心からこの人の下で働きたいと思うことが出来て。

 

「あたしも」

 

「私もです」

 

「ええ、最後に任務失敗で終わってしまう事が心残りですが、あの方ならきっと……」

 

 私達の屍を乗り越えてこの国を、艦娘を救ってくれるでしょう。

 

 そうして、三人が思い思いに目を閉じた。

 

 ――その時。

 

「全艦一斉射っ!」

 

 大きな砲撃音が響いた。

 そしてその音は深海棲艦から立ち昇る。

 

「艦隊を二つに分ける! 龍田っ! 夕立と一緒にあの深海棲艦共のケツに砲雷撃をぶちかましてやれっ! 時雨はオレと一緒に第二艦隊の下へっ!」

 

「了解っぽい! 夕立っ!! 突撃するっぽい!!」

 

「任せて~! 死にたい船は……うふふ、沢山いるね~?」

 

「絶対……助けるからっ! 待ってて!」

 

 第二艦隊全員の目が大きく開かれる。眼の前の光景が信じられない。

 敵艦隊にとっては完全な奇襲。第一艦隊の一斉射で敵空母が沈んだ。

 

 敵艦隊に走る一瞬の動揺。

 第二艦隊にトドメをさすべきか、反転すべきか。

 だがその動揺を解決出来ること無く。

 

「あはは! 砲雷撃戦、始めるねっ!?」

 

「選り取り見取りっぽいっ!」

 

 龍田と夕立が突貫し、混戦状態へと雪崩込んだ。

 

 深海棲艦が対応すべきと判断がつくまでに駆逐ロ級エリートが二隻沈み、軽巡ホ級エリート二隻と龍田、夕立。二対二の構図となる。

 

 その戦闘を横目に全速で第二艦隊と合流する時雨と天龍。

 

「無事で良かったぜ……危ないっ!!」

 

 渦潮越しに飛んでくる戦艦ル級の砲撃から古鷹と大淀を天龍は身を挺して庇う。

 

 至近弾。

 

 天龍が小破するも、古鷹と大淀は無事。

 

「……どうして……?」

 

「んだよ? 提督が……オレ達が見捨てるとでも思ったか?」

 

 時雨の肩を借りて鳳翔がその下へと合流、加古も遅れてやってきた。鳳翔の目には驚きと困惑が浮かんでいる。

 

「戦力の逐次投入がどれほど危険な事か……っ!」

 

「んなもん知らねぇよ、鳳翔さん。オレは生憎と頭がわりぃんだ」

 

 カラカラと小破姿にも関わらず笑う天龍。

 その様子に鳳翔は表情を歪める。

 

「しかも私達を救出目的だなんてっ! 私達を囮にするならまだしも、どうかしています! 提督は一体何を――」

 

「だったらよ」

 

 ――ここであいつも倒せば良いんだろ?

 

 そう言葉を続けながら、天龍はドラム缶をひっくり返し大淀に高速修復材をかける。

 

「っ!?」

 

「よぉ。目ぇ醒めたか?」

 

「て、天龍……さん?」

 

 鳳翔や古鷹、加古が目を丸くする中大淀の意識が回復する。

 ちゃんと回復した事に内心ほっと一安心すると共に、天龍は言葉を続けた。

 

「わりぃが出番だ。大淀、偵察機……あそこに向かって飛ばしてくれや」

 

「えっ?」

 

「古鷹、加古。二人は偵察機の情報を頼りにあいつに照準を合わせろ」

 

「照準って……ま、まさか?」

 

 ――弾着観測射撃だ。

 

 天龍の言葉にその場にいた時雨を除く全員が言葉を失った。

 

 弾着観測射撃。

 本来であれば、一人で偵察機を飛ばし敵へと砲撃。その弾着点を観測し次の砲撃を修正、精度を高める攻撃方法。

 それを天龍はこの場の全員でやると言っている。

 

「む、無茶です! 古鷹さんは大破! 加古さんも中破してますっ……私だって……!」

 

「ならここで仲良く皆で沈むか? オレはゴメンだぜ? 提督が帰りを待ってるからな。それに……時雨」

 

「うん」

 

 鳳翔を支えるのをやめて、古鷹の身体を支える時雨。鳳翔はその場に腰を落とす。

 それに続き、天龍は加古の身体を支えた。

 

「二人は照準を合わせて引き金を引くことだけ考えればいい。それまで俺達が支える、敵の砲撃から守ってやる」

 

「安心してよ。かすり傷一つつけさせないから」

 

 天龍、時雨の雰囲気に生唾を飲み込む古鷹と加古。その様子に言葉を失ったままの鳳翔。

 

「敵空母は撃沈した。なら制空権は関係ない。後は……大淀、お前の偵察情報次第だ」

 

「で、ですがっ! 私なんかじゃ……!」

 

 大淀は覚えている。

 勇み足、功を焦った自分のせいで敵の罠にかかり第二艦隊壊滅の危機へと陥れてしまった事を。

 

 そんな自分がここに来て何故か回復し、戦況を決める重要な場面の鍵を握ってしまった。訳もわからないままに。

 

 戸惑い俯く大淀。頭に駆け巡るのはそんな事自分には出来るはずがないという思い。

 

 その大淀を。

 

「グダグダ考えてんじゃねぇ! 大淀っ! 出来るか出来ないかじゃねぇっ! やるかやらないかだっ!!」

 

「っ!!」

 

「信じてやれっ! オレや提督、皆が信じたお前をっ! 他ならぬお前がまずは信じてやれっ!!」

 

 天龍が一喝した。

 

 それは天龍がずっと大淀に対して思っていた物で。

 自分を信じてやれないやつがどうして信頼されようかと。

 だがそれでも提督は大淀を信じていると言っていた。ならば天龍自身も大淀を心の底から信じてやると決めていた。

 

 そしてその信じている者が情けない顔をしている。

 それが天龍にはどうしても我慢できなかった。

 

「――偵察機、発艦準備」

 

「よしっ!!」

 

「私の合図に合わせてくださいっ! まずは加古さん! あなたの勘、頼りにしています! それに古鷹さんは続いて下さいっ! いつもどおりですっ!」

 

「「――了解っ!!」」

 

 その言葉を天龍への返事の代わりとした。

 古鷹と加古は天龍、時雨に身を預け照準に全ての神経を注ぐ。流れる空気に鳳翔が唾を飲む。

 

「距離、約二二八……観測地点到着まで三、二、一……今っ!!」

 

「砲撃を集中だ、いっけぇー!」

 

「――至近弾っ!」

 

「主砲狙って、そう……撃てぇー!」

 

 大淀の合図に合わせて身体に鞭を打ち引き金を引く古鷹と加古。

 そして放たれた砲撃は――

 

「夾叉!! 戦艦ル級の小破を確認っ! 次発装填、急いでくださいっ!」

 

 僅かに戦艦ル級を挟むように逸れ、直撃とはならなかった。

 

「偵察機、折り返して再び観測地点に向かいます――っ!?」

 

 偵察機越しの視界に映ったのは戦艦ル級が足を止めて、こちらに照準を合わせる姿。

 その角度、体勢から密集しているこちらに寸分違わない砲撃が飛んでくる事が予想された。

 

 同じく天龍もその事を感じ取った。

 間違いなくここに砲撃が飛んでくる。そして天龍や時雨、大淀はともかくも損傷している艦娘は絶対に沈むと。

 それが分かっても、今装填を急ぐ加古や古鷹の支えを止める訳にはいかない。

 

 ――あいつは今足を止めている。ならこれは最大の危機であって好機。

 

 どうするか。

 その判断が天龍を急かす。

 

 だがその判断が付く前に。

 戦艦ル級の砲撃音が響いた――

 

「ちぃっ……!! って!? ありえねぇ……」

 

「すごい……」

 

 ――大淀の砲撃音と共に。

 

 そしてすぐやってきた二つの砲弾がぶつかり爆発する音。

 

「計算……通りです」

 

 戦艦ル級の砲塔角度、放たれる砲弾の速度。そして自身が放つ砲弾の速度。射撃の精度。それらを全て計算した上でその弾と弾を海上でぶつけ合い、爆発させる。

 

 大淀は、偵察機の視界を自身に重ねたまま神業とも言える事をやってのけた。

 

「装填は!?」

 

「か、完了ですっ!」

 

「お、同じくっ!」

 

「では、再度私の合図に合わせて下さい! 相手の足は止まっていますっ! 距離修正はいりません! 同地点を狙って下さいっ!」

 

 自分が行った事を露程にも気にかけず、指示を飛ばす大淀。

 変わらず視界は偵察機のもの。

 

 もしもこの時自分の目でこの場に居る者の顔を見ることが出来たなら、間違いなく大淀の先程までの悩みは吹き飛んでいただろう。

 

 驚愕や敬畏。そして、頼もしさと信頼。

 

 それら全てが大淀に注がれていたのだから。

 

「……大丈夫だ、お前らだって負けてねぇ。なんてったってこの天龍様が憧れて追い求めた奴らなんだからよ」

 

「天龍さん……」

 

「うん……」

 

 思わず集中を欠いた二人に天龍はそう声をかける。

 かつて自分がこれくらい出来れば……そう思っていたことを伝える。

 

「だからよ、特等席(ここ)で見せてくれ。お前らの砲撃(武器)を」

 

 そしてその言葉で二人は再び集中することが出来た。

 

 ――見せてみせる。

 

 かつてあの提督には認められなかった自分達。

 それがここに来てから嘘のように求められ、認められている。

 

 そして、それに応えたい。

 

 その思いが二人の身体を天龍、時雨と共に支えた。

 

「観測地点まで三……二……一……今っ!」

 

「ブッ飛ばすッ!」

 

「……直撃っ! 古鷹さんっ!!」

 

「いっけぇっ!!」

 

 加古の砲撃が直撃、間をおかず――古鷹の砲撃も直撃した。

 

「弾、直撃確認っ! ……戦艦ル級沈黙っ! 撃沈ですっ!」

 

 その大淀の言葉に。

 

「やった……やったああああああ!!」

 

 砲撃音よりも大きな鬨の声が響き渡った。

 

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