二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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提督ですが鎮守府の環境が最悪です

 薄い本を読み漁り妄想逞しくなった俺の提督像は間違いじゃなかった! 偉大なる艦娘ハーレム計画の第一歩は確実に進んだのだっ!

 やっぱさー三次元って良いよねー。ちょっと前の俺ならこんな事間違っても口にしなかっただろうけどさー、やっぱ触れられる感触あってこそだよ。なぁ?

 轟沈を出さない等っ! 艦これサービス開始から最終イベント達成までっ! 俺は一隻も出していないっ! そんな俺に不可能はないのだっ! きっと!

 

 しっかし、初期艦が二隻か。

 あの部屋に案内されるまで、電に癒やされながら提督するか、叢雲におかんされながら提督するか。はたまたオタ万歳漣しちゃうかと頭を悩ませていたが誤算だった。

 

 別鎮守府からの異動ということで、大本営が呼び寄せた艦娘。それが時雨と夕立だった。

 理由は特に聞かされていないからわからない。まぁ知る必要もないだろう。

 

 Need to know。

 

 そんな言葉がある。知る必要がある時に知ればいい、そんな言葉。

 

 ここは、鎮守府で俺はそこの提督。

 提督とは軍属である。故に、そういった軍ならではの常識は確かに存在するのだろう。

 知らされていないなら、それは知る必要がないことなんだ。……なんて無理やり納得する。正直根掘り葉掘り聞きたい気持ちはあるが。

 

 どんな理由であれ、俺は艦娘を俺に出来る限りを持って大切にする。それさえブレなきゃそれでいい。

 

 ともあれまぁ、なんだ。

 

 夕立はなんと言うか思ったまんまって感じだった。思わず妄想まんまの姿と仕草に頷いてしまうほど。けど、時雨はちょっと違ったな。

 飄々としながらも素直に思いを口にしてってイメージだったけど……いや、病まない雨は置いておけ。

 あぁ言った風に感情を爆発させるイメージって無かった。

 

 これも現実(リアル)ってやつなんだろうか。正直、よくわからない。

 ただ、これからもあぁ言った艦娘の悩みってやつはきっと出てくるんだろう。俺が艦隊これくしょんをする限り。

 

「まぁ……望む所、だ」

 

「なにか言ったかい?」

 

 どうやら口に出してしまっていたらしい、隣に立っていた時雨が柔らかい微笑みを携えながら反応を返してきた。

 

 あー可愛いなぁー……全く! 駆逐艦は最高だぜっ!

 

「いや、このみかん箱を見ると、な。やってやるって気持ちが湧き上がってきたんだ」

 

「ふぅん? そうなんだ。変わってるね?」

 

 変わってるかな?

 まぁそうなのかも知れないな。艦これサービス開始の時も思ったもんだ。あん時は家具コイン百でも嬉しかったし、これを貯めていけばこんな家具が……なんて期待ややる気に満ち溢れたもんだが、普通ならなんでやねんとツッコミを入れても良い光景だ。

 

「とりあえず執務……は、何もないな。私は大本営から渡された、この鎮守府近海の資料に目を通すとしよう。時雨は夕立の手伝いに行っても良いんだぞ?」

 

 夕立は今、割り当てられた私室と言うか寮と言うか。居住スペースの確認だったり、資材貯蔵庫にどれだけの資材があるか等鎮守府内を奔走してくれている。

 

「あはは。夕立にも似たこと言われたよ。こっちはいいから提督さんの手伝いをしてきてって」

 

「そうか。なら、一緒に見ようか」

 

 資料を手に取れば、時雨がそれを横から身を寄せて覗き込んでくる。

 

 ……なんと言うか、女の子ってこんな良い匂いするんだな。

 

 ど、どどど、童貞ちゃうわっ!

 

「どうしたの? 早く読んでみようよ」

 

「あ、あぁ」

 

 くぅ、せっかちさんめ! もうちょっと浸らせてくれや!

 

 まぁいい。これからいくらでも機会はあるだろう。

 

 資料とともに鎮守府近海の海図を広げる。

 もう何度も見た鎮守府正面海域、艦これで言えば1-1か。確か、最初に駆逐艦2隻程度と、水雷戦隊崩れみたいな深海棲艦隊と会敵する海域。

 

 よく低練度艦を練度十位まであげるのにお世話になったな。あとキラ付け。

 

「そう言えば、時雨と夕立は実戦経験はあるのか?」

 

 異動して来たって位だ。ある程度はあるのだろう、新任へのボーナス的な。

 

「……僕は何度か。と言っても両手の指には収まる程度だよ。でももう前回の出撃からだいぶ経ってる、正直前みたいに動ける自信はないかな。夕立は二回出撃経験があるよ。僕と同じく、前回からだいぶ間があるけどね」

 

 うーん、ボーナスでは無いな、間違いなく。

 ほぼ練度は一桁。よくても二桁にギリギリ届くかってところか。

 

「そうか。まぁ、問題ない」

 

「え、そ、そうなの?」

 

「うむ」

 

 弱いなら強くなればいいだけの話だからな。焦らなくても良いだろう。

 ブラックなレベリングは……出来ないだろうなぁ、するつもりもないが。

 

 最新の出撃から間が空いているという部分が気になるけど、笑顔で話していた時雨の顔が若干曇ってる。あんまり触れないほうがいいのかも知れないな。

 

 ともあれ鎮守府正面、一戦目で撤退を繰り返せばなんとかなるだろう。俺も指揮やなんやらを学ばないといけない。焦ってもいいことは無いんだ。

 

「で、でも……」

 

「ん?」

 

 そう言ってすっと横に開いていた資料を指差す時雨。そこには。

 

「正面海域で、戦艦ル級を認めるって……」

 

「はぁ!? ……まじ、かぁ」

 

 うっそだろお前! とか叫びたい気持ちをぐっとこらえてそれだけ呟く。

 

 確かに、時雨や夕立でも戦えないことは無いだろう。改二にまで至っていれば、の話だが。

 

 流石にフラグシップ級……フラルだなんてことは無いだろうけど、それでも流石に低練度の駆逐艦が相手取るのは不可能。主砲一発大破間違いなしだ。

 

「いや、大丈夫だ。建造で戦力を増強すれば……」

 

「ていとくさーん! 資材の確認終わったっぽい!」

 

 だだだっと足音が執務室に飛び込んで来ると同時にそんな声。

 確か鎮守府着任時、初期備蓄はそれぞれ千程度はあったはず、なら戦艦とは言わなくても重巡洋艦位は……。

 

「えっと! 燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト……それぞれ三百程度の備蓄があるっぽい!」

 

「さん、びゃく……?」

 

「うん! 何回も数えたから間違いないっぽい!」

 

 キラキラーとした目を向けて来る夕立。言わずともがな、褒めて褒めてーってなもんだ。

 

「あ、あぁ。ありがとう夕立。よくやってくれたな」

 

「んふふ! お任せっぽい! じゃ、夕立、お部屋の掃除に行ってくるっぽい!」

 

「うむ、行ってらっしゃい」

 

 走り去る夕立をなんとか笑顔で見送る。

 

「提督」

 

「……何だ?」

 

「大丈夫?」

 

 ……詰んでるかもしれん。

 

 

 

 そうしてあらかた大本営からの資料に目を通して頭に叩きつける。

 

 わかったことは、鎮守府近海にして深海棲艦が全力過ぎるという事。正直、そんな場所によく鎮守府建てられたなとも言える。

 

 はっきり言って、新任が着任するような場所じゃない。ある程度戦力の整った中堅、もしくはそれ以上クラスの提督、艦隊がいて然るべき場所だろう。

 仮にこの鎮守府正面海域を突破できたとしても、その先には更に強い深海棲艦が待ち受けていることは想像に難しくない。

 

 加えて、鎮守府正面海域の制海権を保持していないという事は、遠征も難しいと言うことだ。

 何処へ向かうにしても正面海域は絶対に通る。それこそ空路を行くでもしない限り。

 その海路の安全が約束されていない。つまり遠征へと向かうことが出来ないということ。

 

 資源は各三百。

 

 ギャンブルして突っ込むにしても重巡洋艦にも至らない資材数。ならばと最低レシピで駆逐艦建造を行えば今度は出撃後の補給すら出来ない。

 

 つまり、時雨と夕立。

 現在保有している戦力で突破しなければならない。それも、資材が尽きる前に。

 

 練度向上と言えば演習だが、他鎮守府との演習を打診してみれば鎮守府近海で演習は行われる為、まずは近海の安全を確保せよとの事。

 

 ……うん、詰んでるな。

 

「どうしたものか……」

 

 鎮守府の見回りをしてくると時雨に言って、歩きながら頭を悩ませる。

 

 艦これゲームにおいて、1-1しか出撃を行わず、そのまま練度最大まで向上させケッコンカッコカリを行う提督がいたとかなんとか。

 だが、それすらも出来ないこの現状はどうしたものだろうか。

 

「ケッコンカッコカリ、か」

 

 練度九十九の艦娘に指輪を渡して限界突破。

 システム的に言えばそれだけの事だが、やはりケッコンという言葉。それに夢と妄想を滾らせた提督は多い、もちろん俺だってそうだ。

 

 ただ、少しだけ疑問もあった。

 

 多くの提督が妄想という名前の考察を行っていたが、俺もその一人で。

 艦としての練度を高めきり、指輪を渡すことで人との絆を紡ぎ、今度は人としての練度を高める。

 それが俺の出した結論だった。

 

 友人にそれを話してみれば、指輪を渡さないと人として強くなれないのは変じゃね? なんて言われて否定されてしまった考え。確かにその通りだと思う。

 

「指輪を渡さないと人として強くなれない、か」

 

 人としての強さってなんだろうか。

 心の強さとか言葉にしてしまえば陳腐に聞こえるそれのことだろうか。

 

 それとももっと単純に、身体の強さ、だろうか。

 

「わからん……」

 

 足は止まらず、艦娘が出撃するだろう波止場まで着いてしまった。

 春になったにも関わらず、まだ頬に感じる潮風は冷たい。目の前に広がる海は太陽を反射させてキラキラと光っている。

 

 この海で、彼女たちは戦っているのだ。今も、きっと他の鎮守府から出撃して守っているのだろうこの国を。

 

 こうして、生身で艦これを感じることで、初めて理解した。

 

 ――提督って、役に立たねぇ。

 

 彼女たちの心の支えにはなったりするんだろう、薄い本よろしく。

 だけど、それでも自身は海を征く事は出来ない。

 

 確かに俺は艦これでランキング不動の一位を誇ったさ。甲勲章を取りこぼしたことはない。

 ジュウコンカッコカリだってしたさ。練度が低い艦娘なんていなかった。

 

 それでも、今。

 

 俺には何も出来ない。

 

「認めねぇ……」

 

 それを、俺は認めない。

 約束だってした、決意だってした。

 

 だったらそれは裏切れない。

 

「試してみる、か」

 

 長年思っていた疑問。それを解決することが現状を打破する事が出来る、そう信じて。

 

 問題は。

 

「久しぶり、だな。……身体、ちゃんと動くかね?」

 

 随分とご無沙汰なこの身体が言うことを聞いてくれるかどうか、だ。

 

 

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