二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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戦闘を振り返るようです

「ひゃあっ!?」

 

「ちょっ!? ちょっと待つのですっ!?」

 

「あははっ! これで終わりっぽい!」

 

 ……六駆、あえなく全員撃沈判定。

 那珂ちゃんが奮闘するけど……うん。

 

 いやまぁ、わかってた事だけどまだまだ第三艦隊の練度は低い。

 特に対多数戦に慣れている第一艦隊相手は荷が重すぎるんだけども……。

 

 ――じゃあ、夕立と龍田で相手してやればいいんじゃねぇかな。

 

 第三艦隊の運用方法について天龍に相談してみればそんなアドバイス。第三艦隊は近距離海上走行練習の後に龍田、夕立相手に演習を行っている。

 その結果はペイント塗れの第三艦隊。

 

 そんな皆が帰ってきてみれば。

 

「提督さんっ! 夕立っ、今日も絶好調っぽい!」

 

「あ、あはは~……でも良いのかしら~……」

 

 ふんすっ! 褒めて褒めてと飛びついて来る夕立に何処か戸惑った表情を浮かべる龍田。

 手加減は要らないと事前に伝えているので気に病まないで欲しいんだけども、まぁなぁ?

 

「ああ、お疲れ様。忙しい所すまんな?」

 

「ううん! 全然大丈夫っぽい!」

 

「うん。……それじゃあ、時雨ちゃんと合流してから哨戒に向かうね?」

 

 一息入れてからで良いぞと声をかければ元気の良い返事の後戻って行く二人。

 

 さて。

 

「こんなんじゃ……駄目ね……」

 

「一人前のレディは……遠いわ……」

 

 ずーんと重たい空気漂う第三艦隊へと視線を向ける。

 

 那珂ちゃんがわたわたと皆を励まそうとしてるけど……あ、こっちに恨めしそうな顔を。可愛い。

 

「お疲れ様。どうだった? 初めての演習は」

 

「お疲れ様も何も無いのですっ! これはいじめなのですっ!」

 

「これも思い出だって言うんなら、司令官は相当ないじめっ子だね」

 

 いやぁ、好きな子をいじめちゃうタイプだとは自覚してるけども。まぁそういう意図じゃないので勘弁して欲しい。

 

「ま、まぁまぁ。……えっとー提督? とりあえずこんな感じだったけどー……いじめには満足した?」

 

「いじめじゃないってば。ちゃんと戦えたじゃねぇか」

 

「那珂ちゃん、手も足も出なかった事を戦えたとは言わないと思うよっ!」

 

 ぷんぷんと怒る那珂ちゃん。やっぱりかわいい。

 

 何処か少し走行練習の時にあった怯え。足の震えとは違って演習では見られなかった。多分、怯えるよりも戸惑う気持ちの方が強かっただけかも知れないけど。

 那珂ちゃんによる具体的な戦闘中の指揮はやっぱりまだまだ拙かったし、六駆の砲撃もあらぬ方向に飛んでいってしまうが。

 

「ちゃんと指示を出せたし、砲撃も出来た。それで十分だよ」

 

「……うぅ」

 

 未だ落ち込んでいる暁の頭を撫でる。

 

 そう、まずは海に、戦場に慣れる事。

 今の所……というか当面第三艦隊に戦闘での成果は望んでいない。って言えば怒られるかも知れないけど。

 練度の向上と共に、第一、第二艦隊が出来ない事を出来るようになってもらいたいと考えている。

 

「甘やかしてるの? 司令官、そんなんじゃ駄目よ。私達は早く強くなって皆と一緒に戦える様にならないと……」

 

「いやいやそんなんじゃ駄目だって。甘やかしてる訳じゃないさ。同じ言葉になってしまうけど、お前達にしか出来ないことがあってそれをやってもらう為の準備だよ。そしてそれは間違いなく進んでいる。焦る気持ちはわかるけど、安心してくれ」

 

 そう言ってから那珂ちゃんに目配せ。すると那珂ちゃんはため息を一つついた後。

 

「はいはーい。意地悪な提督をいじめるのもこの辺にしてー、皆でペイント落としに行こっか!」

 

「はぁい!」

 

 く、くそう。相変わらず那珂ちゃんには良い敬礼しおってからに!

 

 妬ましい……妬ましいぞぉ!

 

 羨ましいから那珂ちゃんのファンになって見習います。

 

 

 

「鳳翔、ただいま修復完了しました」

 

「うん、改めてお疲れ様。もう大丈夫か? ……早速で悪いんだけど」

 

 鳳翔の修復完了にはかなりの時間を要した。第三艦隊に海上走行練習をしてもらったり出来るくらいには。つまり、それだけ練度が高いって事なんだろう。

 

 礼を交わした後、鳳翔は作戦会議室に並んだ顔――天龍、大淀、那珂を見渡した後小さく頷く。

 

「ええ、もちろん大丈夫ですよ」

 

「すまないな。本当は少し間を入れて皆に休憩して貰いたいんだけど――」

 

「いいえ、提督」

 

 そう言う俺の言葉を真面目な顔で遮った後、表情を柔らかく崩して。

 

鎮守府(ここ)に居ること自体が何よりの休息ですから……安心して下さい」

 

「……ありがとう」

 

 そう言ってくれた。もう感謝しか言えないな。

 ここにこうして無事に戻ってきてくれた事を含めて、それ以外に言葉が思い浮かばない。

 

 だけどその事を十分に喜んでいる場合でもない。

 

「……よし、それじゃあ先の戦闘に関しての会議をしよう」

 

「了解っ!」

 

 全員が揃った敬礼を俺に向けた後、同時に着席。

 

 そう。

 あの戦いには疑問を感じる部分が多くある。それを解決しなければならない。

 

「まずはそうだな、渦潮の手前まで順調に進軍できた事……あれは鳳翔達の練度が高かったから安全に行けたという訳じゃないって話だけど……鳳翔、詳しく教えてくれ」

 

「はい。今にして冷静に考えればですが、あれは深海棲艦側の罠だと考えます。道中会敵した敵艦隊のレベルは間違いなく私達であっても多少損傷するはずの相手……いえ、しなければならないと言っても良い相手でした」

 

 確か重巡ネ級エリート一隻、軽巡ヘ級二隻、駆逐ロ級エリート三隻だったか。

 正面海域を攻略した時も思ったけど……イベントかな? 大規模作戦かな?

 うん、そう思っても良い位の敵戦力だわな。

 

「それが無傷で目的地点まで辿り着けた。あれは私達をその場所に誘い込んでいたのだと思います」

 

「戦力を犠牲にしてか? ……それだけの為に沈めさせるってのは何とも嫌な話だな」

 

 鳳翔の言葉に天龍が顔を顰める。

 

 そうだな、目的の為に犠牲を容認する。形は少し違うけどまるで捨て艦戦法と言っても良い作戦だ。自分達に照らし合わせてしまうと確かに気分は良くない。

 

「そこからは私が」

 

「……大淀さん」

 

 言葉を続けようとした鳳翔を遮ったのは大淀。

 少し驚いた顔を鳳翔は大淀に向けるが、その表情に対して笑顔を向ける大淀。

 

 ふっと鳳翔は瞑目した後、俺に本当に嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

 

 ――ありがとうございます。

 

 そう言ってくれているかの様。

 よせやい、照れるぜ。

 

「渦潮前まで辿り着いた私達は予定通り偵察機を飛ばしました。そして、渦潮の向こうにあった光景は戦艦ル級一隻という物。私は……」

 

「……うん」

 

 大淀は一瞬後悔にも似た表情を浮かべるけど、それも一瞬で。

 

「戦艦ル級一隻である訳が無い、ならばより詳細な観測を。そして……どういった理由があるにせよ戦艦ル級に敵戦力が合流するには時間を要するはずだ、今が叩く好機である。戦果を挙げようと焦っていた私は渦潮を渡航しようとし……敵の罠を成功させてしまいました」

 

「……私達の側面、渦潮を回り込んで来た敵艦隊。恐らく元はル級の随伴艦だったのでしょう、敵機動部隊による強襲で大淀さんは大破。大淀さんを止めようと隊列を崩していた私達は背後を取られ、ル級と挟まれた形になってしまいました」

 

 大淀の説明に鳳翔が続いた。

 

 なるほど、な。

 大淀が何をしてしまったのかという事は本人から聞いている。あの時何があったのかは、これで理解できた。

 

「敵の罠、か。纏めると、敵は渦潮前をキルゾーンと定め誘導し、第二艦隊を撃破するという作戦を立てていて……それに嵌った形ということか」

 

「だろうな。しかも後顧の憂いをも対処してた。その事を鳳翔さんが無線で提督に伝えたと同時に、援軍に向かうことが可能である第一艦隊への襲撃……偶然で片付けるってのは無理があるわな」

 

 確かにタイミングが良すぎた。

 天龍の言う通り、援軍を潰す。あるいは、向かうことを許しても損傷させて力を存分に出せないようにすることが目的だろうか。

 

 どういった意図があるにしても、深海棲艦側は一つの海域だけに留まらず広域に渡って管制を敷いている事が予想できる。

 正直、艦これだけでは及ばない部分。俺はまだまだ勉強しなければならない事が多いみたいだ。

 

「そこで第三艦隊、だな」

 

「うん。私達は妖精さんが急ピッチで作ってくれた高速修復材をドラム缶に詰めて出撃。輸送作戦ってやつだねっ! 無事に達成できてよかったよー!」

 

 ニコニコと自分達の成果を誇る様に那珂ちゃんは言う。

 そんな那珂ちゃんに優しい笑みを向ける皆。

 

 まぁ、おかげで高速修復材の材料であるボーキサイトは……まぁたすっからかんで。

 鳳翔の修復は出来るも艦載機の補充が進まなくて。

 

 ――提督? いえ、知らない子ですね。

 ――頭にきました。

 

 なんて言われたのもいい思い出……に、したいなぁ……。

 

「しっかし良く出撃できたな?」

 

「ふっふー! 那珂ちゃんと提督が頑張りましたっ!」

 

 あ、ドヤ顔。まぁ俺も頑張ったって思ってくれてるみたいだしいいか。

 

 あ、天龍さんなんですか? そのまったくおまえってやつはって顔は。

 良いじゃないですか、ちゃんと皆出撃出来ましたよ? 無事ですよ? 褒めて褒めてー。

 

「ふぅ……ともあれ、襲撃してきた敵艦隊の狙いは撃沈ではなく疲労。あわよくば損傷させてやろうって感じだったらしいから。オレが第一艦隊へ合流した後は第三艦隊が運んでくれた高速修復材が無ければやばかった。全然思ったように走る事が出来なかったからな」

 

「えへへー」

 

「あぁ、那珂も提督も六駆の皆をしっかり褒めてやってくれよ? おかげで危機一髪第二艦隊を救援出来たんだから」

 

 あぁ、もちろんだ。

 でもね? 何か皆ね? 僕には敬礼してくれないの。何でだろうね……。電に至っては会う度に砲塔向けられちゃうよ? 何故にホワイ……。

 

「はい、古鷹さんと私が大破、加古さんも中破。意識が戻らない大淀さんも含めて……沈む事を覚悟したその瞬間でした、皆さんが到着してくれたのは」

 

「あぁ。辿り着いた時直ぐ様敵空母を一斉射撃で撃沈、その後は指示通り大淀に高速修復材をぶっかけて大淀と古鷹、加古の協力弾着観測射撃で戦艦ル級を撃沈。夕立、龍田も残りの敵戦力を撃沈することが出来たんだけど……」

 

 弾着観測射撃を皆でしたのか。ありゃ一人でやるもんだと思ってたけど……すげぇな。

 詳しいやり方とかはわからねぇけど凄いのはわかる。一人でやることを皆でするって難しさは良くわかるから。

 

 しかし歯切れが悪いな。

 

「天龍? どうした? 何か疑問があるのか?」

 

「いや……第二艦隊の下へ向かう道中に会敵することが無かったんだよ。ほんと今にして思えばだけどさ、第一艦隊の足止めを考えつく様な相手だ。なら二の矢があっても不思議じゃねぇだろ? それが気になってな」

 

 確かに。

 鳳翔もその言葉を聞いてはっとした後考え込んでいるようだ。

 

 単純にタイミングが噛み合ったという訳ではなく、相手の狙い、作戦だというのならばそれはあっても不思議ではない。

 

 そこまで運良く、都合よく事が運ぶのだろうか。

 

「大淀、どう思う?」

 

「……そうですね。私達が渦潮前までに会敵したのは二回。それまでに何度も偵察機は発艦していて、会敵を回避もしています。その敵が救援に来た第一艦隊と会敵する可能性はあって然るべきですが……」

 

 皆して頭を抱える。

 そんな中。

 

「あえて戦わなかったんじゃないかなっ!」

 

「あえて、戦わない?」

 

 那珂ちゃんが元気よく発言した。

 

 いや、あえて戦わないって。

 

「その理由はなんでしょうか?」

 

「わかりませんっ!」

 

 皆盛大に椅子から落ちた。痛い。

 

「こ、このやろっ!」

 

「わ、わー!? 暴力反対っ! 顔はやめてー! アイドルに手を出しちゃダメなんだよー!?」

 

 天龍が那珂ちゃんに襲いかかった。いや、まぁじゃれてるのかね。

 

 しっかしあえて戦わなかった……か。

 

 椅子に座り直しながら少し考える。

 

「鳳翔、もしもあえて戦わないって理由があるとすれば何が考えられる?」

 

「……そうですね。まずは戦力の温存が考えられますが……結局海域を奪われたのであれば意味は無いでしょうし……。他に考えられる事は……戦わないのではなく、戦えなかった……?」

 

 きゃーきゃー声が上がる中考える。

 

 鳳翔の言う通り深海棲艦側からすれば結局海域を奪われるなら戦力を温存する理由は無い。むしろ総戦力で迎え撃つべきだろう。

 

 そして戦えなかった、か。

 その可能性はありそうだけど……どういった理由で?

 

 あの時、深海棲艦に何があったのだろうか。

 

 頭をうんうんと悩ませ始めた、その時。

 

「失礼します。……提督? 電文が届きました」

 

「ん? あぁ、ありがとう古鷹」

 

 執務室に詰めて貰っていた古鷹が入室してきた。

 見れば一枚の紙を持っている。

 

「……」

 

「提督?」

 

 待て、俺はまだ製油所地帯沿岸突破を報告していないぞ? 

 なのに何でそれを知っている。そして……。

 

「南一号作戦、か」

 

 電文に記載されている指令。

 そこに記されているものは。

 

 横須賀方面の戦力を集め、南一号作戦を決行する。

 

 新たな作戦の発令だった。

 


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