二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
「かんぱーいっ!」
「おうっ! おつかれさんっ! 乾杯っ!」
ジョッキを口に運んで中身をぐびっとね!
「ぷはー!! くぅ~! たまらないねっ!」
「あはは、それなら良かったよ」
世のお父さん方はこの一杯に生きているなんて言ってるらしいけど、その気持ちがよく分かるね。
以前から興味はあったんだけど、こうして初めて飲んでみたからこそわかることもあると思う。
これは確かにたまらない。喉を通っていく苦味のある炭酸飲料、ビールって飲み物が身体に染み渡っていく感覚。
「ほれ、こっちも食え食え」
「わぁい、いっただっきまーす!」
差し出された提督お手製のチャーハンに手を伸ばせば相変わらずの美味しさ。
何気にレタスの交じった鮭チャーハンとか、和風シーチキンチャーハンだとか提督のチャーハンレパートリーは豊富で。今日はお酒と一緒にって事で豚肉とキムチで作ってくれたみたい。
ピリッと少し辛めの刺激が更にビールを口に運ぶ要素になっていて……あぁ、しあわせぇ~……。
「落ち着けって、一応まだまだ用意してるからさ」
「う~……無理だよ提督。美味しいお酒、美味しい料理! 何より提督が居てすすまないわけないじゃーん!」
あの海域からなんとか無事に帰ってこれて。皆の修復が終わって。
あの時気恥ずかしくて言っただけだった約束とも言えない約束を、提督は守ってくれた。期待してなかったといえば嘘になっちゃうけど、やっぱり嬉しい。
そんなもんだから、あの会議が終わった後こっそりと。
――今夜俺の部屋に来てくれ。
なんて言われた時は思わず夜戦のお誘いかなんかだと思って慌ててお風呂に入ったもんで。長湯を古鷹に訝しまれた時はちょっと焦っちゃったよ。
ドキドキしながら部屋に入るとビールやら焼酎やら日本酒やらに囲まれた提督が居てねぇ。
恥ずかしい勘違いと言うか嬉しい誤算だったなぁ。
「いやいや、俺があんまり飲めないからさ。ゆっくり気味の方が嬉しいんだよ」
「え? そ、そう? もう、しょうがないなぁ」
いや、あたしも自分が強いか弱いかすらわからないしそう言ってくれるのはありがたいんだけどね。
でもそうなんだ、あんまり飲めないんだ。
「すまんな。とは言え加古が満足するまで付き合いたいからさ、のんびり楽しもうぜ?」
「お? 大きく出たねぇ? あたしを満足させることが出来るかなぁ?」
あはは、嬉しいな。ほんとに提督の口から出る言葉は心地が良い。
帰ってきてくれとお願いされたのもそうだし、この人の当たり前は本当に心へと響く。
あたしを望んでくれている。
疑いを持つ余地なんて無い、すんなりと自然にそう思えた。
そうだ、折角のお酒の席だし。
「ねぇ、提督? あたしって中途半端なのかな?」
「中途半端?」
中途半端。
それはずっとあたしが言われ続けていた言葉。
職場の飲み会で愚痴なんて、当たり前だよね?
「戦艦のように火力が出せるわけでもないし、駆逐艦のように足回りが優れているわけでもない。それにこんな性格でしょ? あたしも自分で中途半端だなぁなんて思うんだ」
もうちょっと言うなら。
あの鎮守府にいた時、古鷹と一緒に出撃をしないときのあたしは全然活躍できなかった。多分、見込まれている戦果は普通の重巡洋艦以下だったと思う。
何度かの機会で見抜かれて、ため息交じりに古鷹と一緒に出撃するよう命令されたのは良かったと言うべきか情けないと思うべきか。
それに、そうして古鷹と一緒に出撃してようやく求められた普通をこなせるようになったあたし。
それは言い換えれば一人では何も出来ないとも言えると思うんだ。
一人で何も出来ない重巡洋艦。重巡洋艦として見込まれない半端者。
あ、駄目だ。何か落ち込んできた。
そんなあたしに提督は。
「あー、確かにそうだな」
「あはは……やっぱりそうだよねって、うえぇえ!?」
笑ってそうだと言い切った。
あれ? そこはこう、そんな事無いよとか言ってくれる場面じゃないかな!? しかも何でそんな笑顔なのさっ!
「いやいや、落ち着けって」
「う、うー……」
落ち着けないっていうか落ち込むよ。
この人なら違うって言ってくれると思ってたのに……。
「確かに加古に限らず重巡洋艦ってのは戦艦みたいに火力が出るわけでもないし、足回りが特筆して良いとは言えないな」
「……」
「偵察機も飛ばせるし、徹甲弾も積める。だけど軽巡洋艦のようにソナーや爆雷を積める訳じゃないから潜水艦相手には無力。うん、実に中途半端で劣化戦艦、軽巡洋艦の方が使い勝手がいいと言われても仕方ないな」
あ、あれ? なんだろあたしトドメさされてる?
と言うかあの提督でもここまで言わなかったよ? え? 泣いていいかな?
「うん、中途半端で器用貧乏だ。だが、それがいい」
「……え?」
それがいい?
それが良いって提督。もしかして馬鹿なの?
「いや、そこで憐れみの目を向けられる意味がわからんが」
「いやー……だってさー」
「だけどもねぇよ。あのな? 俺が思う重巡洋艦ってのはその中途半端が魅力なんだよ」
中途半端が魅力って……なにさ?
そんな事を思いながらじとーっと睨んでいると、提督はジョッキを呷ってから。
「言ってしまえば重巡洋艦には苦手がない。潜水艦には無力かも知れないけどな、それは役割の問題だし。幅広い装備の幅を間違えなければどんな戦場、戦況にも対応できる。それが俺の思う重巡洋艦だ」
「そ、それはそうかも知れないけど……」
「まぁ確かに俺は提督としてまだまだ未熟だからなぁ。そんな考えが間違いかも知れないし、足りてねぇかも知れないけどさ。それにな?」
「う、うん」
「そんな俺に重巡洋艦の良い所を教えてくれるんだろ? 古鷹やお前がさ」
……あーもう、この人はっ!
「ちょっ!? おいおい! そんな一気飲みは!」
「……ぷはぁ! あぁもう! わかったよ! 古鷹じゃないけどさ! 教えてあげるよっ! もうっ!」
そんな事言われたら見せなくちゃいけないじゃん! 見せたいって思っちゃうじゃん! 良い所っ!
ほんとにこの人はずるいよ。
多分自分で言う通りまだまだ提督としては未熟なんだろうけど、でも。
支えたいって思っちゃうじゃん。あなたの力になりたいって思っちゃうじゃん。
「……提督言ったよね? メリハリが大切だって」
「お、おう。言ったぞ? 加古にはそうして欲しいとも」
あー無理して一気飲みなんかしちゃったからかな? 頭がふらふらするー。
「とうっ!」
「う、うぉ!?」
あーあったかいー。提督はあったかいなー。抱き心地最高だよー。
「か、加古さんや?」
「……今はおやすみ、だらけちゅうだからさー……へへーしっかりあたしを支えてよー?」
あぁうん。
ほんとにあたしは半端者だったみたい。
海では古鷹に支えてもらって、日常では提督に支えてもらわないと駄目なんだなぁ。
「俺としては役得だけど……ってそれ、俺のビール……」
「ふへへー……ていとく? お酒、おいしいねぇ? こんなんじゃ、酔っ払ってもしかたないよねー」
「ったく、仕方ないなぁ」
「にへへー」
そうそう、仕方ないんだよ? 提督。
しっかり、責任持って面倒見てね?
─────
「もうっ! こんなんじゃ本末転倒なんだからねー!」
「うぅ、すまねぇ……」
流石の那珂ちゃんも怒っちゃうよっ!
確かに大淀さんの看病も大事だけどねっ! 自分もその風邪貰っちゃったら意味ないんだよ!
提督の頭に乗せたタオルを取り替える。
持ってみればちょっと熱いタオル、さっき測った体温は三十九度。うーん、氷枕持ってきたほうが良いよねぇ?
「提督? 那珂ちゃん氷枕持ってくるけど、食欲あるかな?」
「あんまり……だけど食わねぇとなぁ……軽いもん頼めるか?」
「うん。じゃあちょっと待っててね?」
そう言ってから提督の部屋から出る。すると。
「て、提督は!? 大丈夫!?」
「何が要る!? なんでも言ってくれ! すぐに持ってくるっ!!」
「那珂が居ない間は僕が……っ!」
「……あ、あははー」
ドアの前に居たのは天龍さんに龍田さん。それに時雨ちゃん。
皆必死な表情で私に詰め寄って来て怖いです。
「えっとー……じゃあ龍田さんにはお粥作ってもらいたいかなぁ? 天龍さんは氷枕とちっちゃい保冷剤を幾つか。あ、時雨ちゃんは大人しくしててね?」
「お粥ねっ! すぐに作ってくるからっ!」
「おうっ! 任せろっ! すぐに持ってくるっ!」
「は、放してよ那珂! 僕が提督の風邪を貰って……!」
はいはい、そう言いながら上着を脱がなくていいからねぇ? 時雨ちゃん。
と言うか天龍型の二人すごいねぇ、残像が……。
「ちゃんとじゃんけんで決めたでしょー? 今回は那珂ちゃんが時雨ちゃんの分もお世話するからね? 風邪が蔓延しても困るからお部屋で待っててね?」
「う、うぅ~……」
はいはい、そんな恨めしそうな顔しないでね?
那珂ちゃん、じゃんけんに勝った時の事思い出したくないからねー?
……ほんと怖かったんだよ? 負けたってわかった瞬間に瞳からすっと光が消えて……うぅ。
「じゃ、じゃあ……」
「那珂ちゃんは良いけど提督が困っちゃうよ?」
聞いてくれないので必殺技ですっ!
「わかったよ……でも、何かあったら何でも言ってね?」
「もちろんだよっ!」
こうかはばつぐんだっ!
トボトボと戻っていく時雨ちゃんの姿にちょっと胸が痛くなるけどー……仕方ないね。
大淀さんが復調して、狙ったかのように交代で提督は風邪を引いた。
今日は製油所地帯沿岸の掃討へ第二艦隊のメンバーに夕立ちゃんを加えて出撃。大淀さんは提督が倒れちゃったから代わりに執務をしてる。
大淀さんはもうなんていうか可哀想な位落ち込んでたけど。
提督が執務出来ない分しっかりフォローしてあげる事が何よりのお役目だよ。なんて言ってみたらものすごい勢いで執務室に飛び込んでいった。
第三艦隊の皆は鎮守府正面で走行練習してもらってるけど……雷ちゃんを抑えるのは大変だったなぁ。ううん、雷ちゃんだけじゃなかったけども……うん。大変でした。
「全く提督には困っちゃうね!」
那珂ちゃんだって忙しいんだよー?
今日はソナーと爆雷の開発をする予定だったのに……最近なんだか物づくりが楽しく……っは!?
「ま、まぁアイドルは忙しいものだもんねっ! 那珂ちゃんファイトッ!」
えっと? とりあえずお粥と氷枕はお願いできたし……。
後は汗かいてるだろうし着替え……は、部屋にあるよね? お湯もタオルもお部屋にあるだろうし。
「……やること無くなっちゃったよ?」
あれ? 那珂ちゃん要らない子?
う、ううん! そんな事無いよね!?
「はぁ……とりあえず私も風邪薬飲んどこう」
感染ったって事は感染力が高いって事だろうし、予防で飲んどかないとね。
それにしても。
「こうして思えば提督って……慕われてるなぁ」
何の変哲もない朝だった。
皆でおはようって言いながら食堂に集まって、珍しく一番最後に提督がやってきて……挨拶するかと思えばその場に倒れそうになった所を天龍さんが抱きとめて。
そこからはてんやわんやの大騒ぎだった。
出撃予定の人はもう泣きそうな顔しながら出撃を渋ってたし、提督を部屋に寝かせた後は誰が看病するかでまた騒いで。
我こそがーって! もう凄かった。
私じゃなくて提督がアイドルしたら大変な事になるんじゃないかなんて思ったり。
「何でじゃんけん勝っちゃうのかなぁ」
流石に皆冷静な部分もあって広げちゃいけないと看病は一人だけって話になって、大淀さんが一番執務には詳しいからって泣く泣く辞退してもらって。
残った皆で公平を期す為にーってじゃんけんになったけど。
……これがセンターを決めるじゃんけんとかなら良かったんだけどねぇ。
「……ううん、ダメダメ! 那珂ちゃん頑張るっ!」
別に嫌って事は無いんだもんっ! 役得位に考えておこうっ!
そうだ、汗拭いてあげようっ! さっぱりしてからご飯のほうが良いよねっ!
……あれ? 汗拭くって事はえっと……裸になってもらうってことで……。
……役得?
「き、きゃー!? きゃー!? な、那珂ちゃんえっちな子なんかじゃ無いんだよぅ!?」
な、何考えてるの私! お、落ち着いて……。
「……すー……すー……」
「あ……寝てる?」
部屋に入り直せば聞こえる寝息で落ち着いた。うん、静かにしないとね。
そっと顔を覗き込めば、少し苦しそうではあるけど結構深く眠ってるみたい。
「……そうだよね」
提督は、多分誰よりも寝るのが遅い。
私の部屋から提督の私室が見えるけど、部屋の灯りが落ちるのは誰よりも遅い。
それでも皆と一緒の時間には必ず食堂に居る。
「……こんな時じゃないと、ゆっくり出来ないんだね」
それもそうだと思う。
私達だって忙しいって思うんだもん、そんな私達を束ねる人はもっと忙しいよね。
皆に一週間に一回は休みをって言ってたけど……そう言えばこの人が休んでいるところは見たことがない。
「ほんと、馬鹿な人なんだから……」
そっと頭を撫でる。
私の手のおかげかは分からないけど少しだけ提督の顔から険が取れた。
「くすっ……可愛い」
何時も私達の前では幸せそうに笑ってる提督。
出撃の時や作戦会議の時の真面目な顔した提督。
そんな顔は沢山見たけど、こんなに安らいだ顔を見たのは初めてかも。
「ちゃんと、自分も大事にしないと駄目だよー?」
「う……うぅん」
あっと、危ない危ない。起こしちゃう。
でも、本当にそう思う。
皆が大騒ぎしたのだって、提督の事を大事に想ってるからなんだよ?
皆、自分が大事にされてるってわかってるから。あなたを大事にしたいって思ってる。
「那珂ちゃんはー……ファンを大事にするんだよ?」
そう、もちろん私だって。
少し意地悪で、すぐにファンをやめようとするあなただけど。
大事なんだよ? 本当に。
アイドルの仕事が皆を笑顔にする事なら、あなたは私達の永遠のアイドル。
この鎮守府に来てから、皆を笑顔にするあなたを私は尊敬しています。
「だから……早く元気になってね?」
あなたが私のファンで居てくれているように、私もあなたのファンで居たいから。