二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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有効射程距離はおよそ百分の一スケールにしてます


艦娘と体育会系してたら危ない雰囲気です

「え? 何これ? 竹刀?」

 

「初めて触ったっぽい!」

 

 時雨が作ってくれた夕食を三人で食べた後、俺は二人を連れ立って鎮守府内に建設されていた小さな道場にやってきた。

 隣続きに弓道場があるのがわかるが、そこは空母達が使ったりする事を想定されているのだろうか。

 

「あぁ。二人にはこれから、身体を動かす訓練をしてもらう」

 

「身体を動かす、訓練?」

 

 長年思っていた疑問。練度の内訳。艦としての強さと人としての強さ。

 それが合わさった物が練度だとするのなら。

 

 俺にも出来ることがある。

 

「あぁ、疑問があったんだ。何故お行儀よく砲雷撃戦をするのかと」

 

「お行儀、よく?」

 

 時雨が首を傾げながら聞いてくる。

 

 あの大淀に見せられた演習映像でもそうだった。

 何故、行儀よく隊列を組んで反航戦、同航戦をして、射程に入れば砲撃をするのか。

 

 この子達は、艦でも人でもあるのだ。

 

 別に深海棲艦と格闘戦をしろと言っているんじゃない。

 ただそれでも。

 

「例えば、だ。夕立」

 

「はいっ!」

 

 呼んでみれば元気の良い返事と共に片手を大きく挙げてくれる。

 

「12cm単装砲の有効射程は百五十メートル。それを止まっている相手に十発撃ったとして、どれくらい当てられる?」

 

「えっと、多分八発は当てられるっぽい!」

 

「時雨は?」

 

「僕も、同じくらいかな? 動いていたら半分位になると思うけど」

 

 まぁ大体そんなもんか。

 

「仮に私が艤装を展開出来て、海上を走る事が出来たとしよう。それならどれくらい当てられると思う?」

 

「え? いや、そんなの一発でも当たったらいいほうなんじゃ……」

 

「結構難しいっぽい!」

 

 いやいや、お嬢さん方。俺を舐めてもらっちゃ困るな。

 

「外れだ。正解は……」

 

 ふっと足を踏み出し、時雨に肉薄する。

 驚いたように竹刀を俺に振るう時雨だが、それを軽くいなして剣先を腹に突きつけた。

 

「全弾命中だ」

 

「……え?」

 

 時雨から少し離れて二人を見る。

 呆気にとられたような夕立と、驚いたままの時雨。

 

「簡単な話だ。こうして至近距離から撃てば外しようがない」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

 難しそうな顔をしながら反論しようとする時雨を遮り、続けて言う。

 

「出来ないと思うか? 私はそう思わない。お前たちは艦でも人でも無い……無いが、艦にも人にもなれる」

 

 黙り込む二人。

 

 練度、その内約。

 画面越しに見た彼女たちの戦い様はわからない。

 カットインが発生する理由は数値。飛んでいく艦載機、放たれる砲撃。

 

 それが、どういう状況で生まれるのかなんてわからない。

 

 だが、その状況を作ることは出来る。

 

 何もきちんと隊列を組んで、お手本のように射程範囲ギリギリから砲撃を狙わずともいい。

 

 クリティカルは何もたまたま運良く発生するというわけでもないはずだ。

 

 それが、艦としての練度であり、人としての練度だと、俺は思う。

 

「信じられないか?」

 

「そ、それは……」

 

 時雨が何か言おうとした時、隣の夕立が。

 

「信じるっぽい」

 

 俺に竹刀を向けた。

 

「夕立、難しいことはわからないけど。どうすれば強くなれるなんかわからないけど……提督さんを信じることは出来るっぽい!」

 

 そうして型も何もなく、ただ俺に向けてがむしゃらに竹刀を振るってきた。

 

 その刃を持っていた竹刀で軽く打ち払い、体勢が崩れた夕立の足を払う。

 

「きゃっ!?」

 

「ならば、打ってこい。強くなってくれ」

 

「……提督さん、もしかして強いっぽい?」

 

 強くなんて無いさ。二人に比べれば、全く強くない。

 

 俺は海で戦う事も出来なければ、その度胸だって無い。言われるがまま、自分の意志を伝える事もできず逃げ出した弱々しい男だ。

 

 それでも、強くさせることは出来る。

 

「さてな。それは夕立が強くなればわかることだ」

 

「なら強くなるっぽい!」

 

 その言葉を皮切りに俺たちは激しく竹刀を打ち合わせた。

 

 

 

「どうした? 息があがっているぞ? そんなものか?」

 

「ま、まだまだっぽい!」

 

「僕だって……!」

 

 始まってすぐは悩んでいた時雨も、やがて迷いを打ち払ったかのように混ざり、今は二対一。

 振るわれる竹刀を避け、時に打ち払い。訓練を行う。

 

 型なんて無い、正しい打ち込み方だって無い。そしてそれを教えるつもりもない。

 そんなものを覚えたところで深海棲艦との戦いでは何の役にも立たないだろう。

 

 ただただ、彼女たちにヒトの身体の動かし方を教える。ヒトの身体を導く。

 

 今も尚、これが無駄にしかならないかも知れないという思いはある。

 

 それを支えるのは、これしか無いという思い。そして何より、彼女たちの人としての強さを信じた。

 

 事実、始まって一時間程度にも関わらず、その動きは始まった時よりも輝きを放っている。

 

 汗が一つ床に落ちる度、竹刀が合わさり乾いた音が一つ響く度。

 

 間違いなく、彼女たちは一段、また一段と練度の階段を昇っている。

 

 ……二度と握るはずのなかったこの竹刀。握りたくなかった竹刀。

 

 今だって、何処か暗い気持ちが俺の胸を過る。

 それでも、彼女たちを沈めないと約束した。

 

 何よりも、ハーレムの主になるって決めたもんなっ! ちっとくらいかっこいいとこ見せてもいいだろっ!

 

 情けない提督にはなりたくなかった。彼女たちから信頼され、尊敬される提督になりたかった。

 

 唯一出来ること。

 自信なんて無い、これが正しいと自分に言い切ることも出来ない。

 

 だけど、それでも。

 

「何もしないで終わるなんて出来ねぇからなっ!」

 

「!!?」

 

 夕立の竹刀を打ち上げ、下ろす竹刀で時雨の竹刀を叩き落とした。

 

「……今日は、これまで」

 

「ありがとうございましたっ!」

 

 二人揃って頭を下げてきた。

 

 弾む息をそのままに、ザ・青春と言った感じの汗を拭うこともせずに。

 

(あー……やっぱ柄じゃねぇなぁ)

 

 そんな二人の姿を見て、俺は自分の恥ずかしいと思う気持ちを頬を掻くことでごまかした。

 

 

 

 それからの日々は訓練漬けだった。

 食事と、近海の状況確認をするための近距離航海と警戒。それ以外の時間はずっと。

 

 艦隊司令部からの指令は鎮守府近海の制海権を取れ。ずっとそのまま。

 みかん箱の上に不釣り合いなノートパソコンを設置し、二人が近海警戒へ繰り出している間に資料をデータ化し打ち込んだ。

 

 同時に、他鎮守府の演習光景の映像を大本営に申請し、手に入れた映像を食い入る様に三人で観て研究した。

 

 この時にこうすれば近づける。

 この砲撃は避けることが出来る。

 

 二人は貪欲だった。

 

 時雨は沈まない、沈ませないため。

 夕立は強くなるため。

 

 それぞれが胸の思いを元に必死で研究した。

 

 そしてその研究と共に実際に俺と共に身体を動かす。

 波止場から見える範囲の狭い海で、実際に演習弾を使って夕立と時雨が相対したりもした。

 

 俺も必死だった。

 

 ゲームで華やかな戦歴を持っていたとしても、こうして目の当たりにすれば指揮の「し」の字も知らない俺だ。

 勉強した。戦術書を腐るほど読んだ。わからない事があれば、大淀宛に電文を送った。この間なんて私用電話で一時間以上拘束したくらいだ。

 

 そうして各々が練度向上に努めた。

 

 時折、無駄なんじゃないかという思いに負けそうになりながらも。

 お互いを励まし合って、奮励努力した。

 

「提督」

 

「ん? 時雨、どうした?」

 

 道場でいつも通り汗を流し終わった後、時雨が俺に言う。

 

「やっぱり、その話し方似合ってないよ」

 

「あ、夕立も思ってたっぽい! 提督さん、俺っていうときと私って言うときの喋り方ガタガタっぽい!」

 

 う、うぐ……俺の提督像が変と申すか。よく言った、明日の稽古は倍にしてやる。

 

「……あー、まぁ、な。でも、やっぱ提督って威厳があったほうがいいだろ?」

 

「あはは、確かにそうなのかもね。でも、僕はどっちの提督も好きだよ」

 

「似合ってないって言ったじゃねぇか」

 

「夕立も! どっちも好きっぽい!」

 

 ぬぬぬ……ならば俺に一体どうしろってんだ。教えてハニー!

 

「どっちも提督だからね。好きにしたらいいと思うよ。でも、楽に話せる方が僕は嬉しいな」

 

「うんうん。時雨の言う通り! 気を使わないでほしいっぽい!」

 

「そ、そうか」

 

 そうかーでもなー俺もなーどうしたもんかなー。

 

 そんな話をしている時だった。

 

「!!」

 

 鎮守府内に大きく響き渡る警報。

 これは。

 

「……来た、か」

 

 着任から一週間。今まで鳴ったことの無かったこの音は。

 深海棲艦がやってきた事を知らせる物だ。

 

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