二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル
○月△日
クラッカーの音が響いた後に龍田が呟いた嘘って言葉。
頭ではわかってる、信じられないって思ったからこそ出た言葉だって。
でも僕はちょっと違ってた。
あぁ、やっぱりか。
冷たいと思うけど、頭に浮かんだ言葉はそんなもの。
わかってたはずだもの。僕が、夕立が、龍田が天龍だけがそうされたわけじゃないって。
だから僕はそんな冷たい思考で冷静に事実を受け止めることが出来た。
でもすぐに恥じた。
まるで宝物を失ってしまったかのように傷ついた表情を浮かべる提督を見て。
いつの間に僕は今の当たり前を当たり前と受け止めていたんだろう? かつて当たり前に反発していた僕なのに。
そう、提督にとっては今の六駆が浮かべる表情は当たり前じゃないはずで。その瞳に光が宿っている事が当たり前のはずなのに。
そんな事を考えていた矢先に提督が電に砲撃された。
騒然とする執務室を動きながら、僕は自分に失望した。
僕はバカだ。
何がこんな事あってもおかしくない、だ。何がやっぱりだ。
そんな自省し続ける中、提督は言ってくれた。
頼んだぞって。
ほんとに。この短い間で、提督には何度救われたんだろう?
強い決意を瞳に宿らせてこんな僕を頼ってくれた。
そのおかげで僕は慣れてはいけないモノを改めて確認することが出来たんだ。
うん、ごめんね提督。
その分、任せてよ。提督の決意、必ず貫き通させてみせるから。
○月△日
車の中、提督の真面目な顔にちょっとドキドキしながら隣に座っていたら不意に大本営について聞かれた。
先日の事もあって改めて考えるいい機会だと思って考えてみた。
皆が皆うちの提督みたいに……なるわけが無いと思うし、なったらなったでちょっと嫌だけど。そう、提督にも言ったけど役立たずにさせない様に僕たちをもっと使えないのかなとは思ってたんだ。
確かに、女の子の身体を持ってるけど僕たちは軍艦、兵器だ。なら所謂メンテナンスとして適切な扱いをすることは出来なかったのかなって。
多分それなら僕も納得してたと思う、それが普通なんだって。いや、ほんとに今にして思えばだけど。
ただやっぱりこれも言ったけど、そのおかげで提督に出会うことが出来たのだから悪くなくて。これも今にして思えばだけど感謝してる。
そう言ってみれば提督は僕の頭を撫でてくれた。そう、なでなでがあるから頑張れると言っても過言じゃないんだよ。これ、たまらないんだよぅ……。
……うん、思い出すだけでうっとりしちゃうから止めよう。
そろそろ着くかなって所で提督は運転手さんに寄り道したいって言って。
どこに行くのかなって思ってたら花屋さんだった。
軍人、正確にはうちの提督は軍属だけど。
その軍服姿を見たお店の人の態度はやっぱりだったけど、そんな事気にせず熱心に色々と聞く提督に嫌うことを根負けしたのか最後には笑いながら花の話をしてくれてた。
流石だなぁなんて思いながらその光景を見てるうちに提督はカランコエっていう花を買った。
何でその花なのか聞いたけど教えてくれなかった……寂しい。
だから、今度僕にも何か花を買ってねって言ったら、そのつもりだよって言ってくれて。
あぁ、うん。
当然だけど僕は轟沈した。提督の当たり前は反則だと思うんだ。
そうしてあの鎮守府に着いて、名目通り見学をして。
ちょっと思い出したくない提督と出会って古鷹と一対一で演習をすることになった。
多分僕は怒ったことがない。それは諦め癖がついていたからだと思う。
でも提督と出会って諦める必要が無くなって、期待することを覚えて。
だからはっきり怒りって感情を覚えたのは初めてだったんだ。
あの人が提督を下に見ていたこともそうだし、艦娘への扱いを垣間見たこともそうだと思う。
そう、提督を傷つけた原因がはっきりこの人だってわかったから。
堪えきれなかった。多分、一人であの人と相対していたら魚雷を打ち込んでいたと思う。
だけど何より。
提督が怒った。
だから僕も怒った。そんな単純なこと。
そしてその心のまま、古鷹と戦った。
夕立の真似をしたのは……うん、そうでもしないと勝てないって思ったからっていうのももちろんだけど。
僕も提督の牙である事を示したかったんだろうね。
古鷹にはちょっと辛い言葉をぶつけちゃったかなって思うけども、許してね。
そして戻ればなでなでが待っていた。
……。
はっ!?
……続き書こう。
その後はほんとの意味で思い出したくないんだけどね。
……提督が死んじゃったら、僕、自分がどうなるかわからないよ。
提督が言った言葉の意味はよく分かるけど、それは提督が居てくれる事が大前提なんだから。
でも同時に思ったんだ。この人は危ういって。
本当に簡単に、
それが信頼の下にあるならまたちょっと違うんだろうけど。提督は違う。
仮に提督が死ねば僕たちが幸せになるとするなら、すぐさま死を選ぶ。
そう思った。
だから決めたんだ。
僕は提督の命そのものになってやるって。
そうすれば、提督は軽々と命を捨てなくなるだろうから。
……あなたが死ねば私も死ぬなんて、ちょっと危ない人みたいだけども、ね。
僕の怒り、それだけじゃなくて色々な感情はもしかしたら提督からの借り物なのかも知れない。
でもそれでいい、だからいい。
僕の心に宿った想いを燃やし続けることが出来るから。
○月△日
結局、と言ったら嫌な感じだけど。提督が六駆の皆に頭を下げたことで収まった。
六駆の目に光が戻ったのは嬉しく思う。本当に良かった。
同時に提督の覚悟の重さがわかった。
多分、あの時あの人が頭を下げなかったら……本当にあの人の首を落としていたと思うし、責任を取るといった意味だと思うけど言った言葉もそうだ。
僕たちと初めて出会った時から、ずっとそう思っていたのかな?
そう思ったら少し身体が震えた。
その身体の震えの意味はよくわからない。けど、この人を失ってはいけないって心底思った。
……頑張ろう、まだまだ足りない。
○月△日
鳳翔さん達がうちの鎮守府に着任した。あとよくわからないけど那珂も。
あの人はどうなったのかっていうのは全然興味無いんだけど、うちの鎮守府にあそこに所属していた艦娘が来るって事はそうなんだろうね。しっかり辛い思いをすればいいんだよ。
ともあれ急な戦力の増加だったから、しばらくすごく忙しかった。
運用するための資材が全然足りなかったから、資材回収の為に反復遠征で大変だ。
そう、大変だったんだよ。ねぇ? 提督。
あ、ううん。別にそれを口実に甘えてなんかいないよ? ほんとだよ?
……もうちょっとこの忙しさが続いても良いかなぁ。
なんて思ってたら那珂がドラム缶を作ってくれたりで思いの外捗っちゃって。
案外すぐに目標にしていた数は揃っちゃった。……むむむ。
まぁ良いんだ。
近々鎮守府内演習をするって言ってたから、そこで良い所を見せて……ふふふ、頑張るぞ!
○月△日
そう思って気張った演習なんだけど……。
良い所見せられなかったよ。
気持ちが空回りしたんだって自覚はあるんだよ、ジリ貧な状況だったけど天龍の指示を待つべきだった。
あの時、僕がここでなんて思わなかったらまた別の、より良い結果が生まれていたのかも知れない。
けど提督は相変わらずで……もう、ほんとに提督には敵わないよ。
反省はしっかりと。焦っても駄目だ、じっくりしっかり強くなろう。
あ、もちろんミートスパゲティは腕によりをかけて作るからね、提督!
○月△日
製油所地帯沿岸の海域を開放できた。
正直に言ってしまえば、少し嫌な予感はしていたんだ。大淀の様子を見て、だけど。
そしてそれは一緒に出撃していた龍田の無線から現実になって、慌ただしく救援に向かうことになった。
改めて思うけど……本当に皆無事に帰ってくることが出来て良かった。
提督を傷つけないで、嘘つきにさせることが無くて良かった。
僕も含めてだけど、誰も大淀を責めなかった。その事に大淀はすごく戸惑ってたみたいだけど。
きっと提督がいろんな物を晴らしてくれるさ。僕たちをそうしてくれたように。
忘れちゃいけないのが六駆の皆。
あぁして海で一緒に征く事が出来てほんとに嬉しい。
きっとすごく勇気が必要だったと思うんだ。だけど、それでもあぁして来てくれて。
僕たちの為、仲間の為に動いてくれたことが力になった。
あの窮地を凌げたのは間違いなく第三艦隊のおかげ。
第二艦隊の皆もよく持ちこたえたと思う。
そして天龍。
あの時不思議と、提督の姿が重なった。
もし、提督が僕たちの様に海を征けるならあんな風に指揮を取ってくれているのかも。そんな風に思った。
僕が提督の命になるって決めたように、天龍も……ううん、龍田や夕立だって。皆何かしら心に期する物が出来たんだろうね。
ちょっと苦笑いなのが、誰も護国の為にじゃなくて提督の為にって言う所なんだけど。
何時からだろうね、そんな風に思うようになったのは。
だけど。
心の底から守りたいって思うモノが出来るっていうのは、ほんとに気持ちがいいものなんだね。
艦娘だから、兵器だから、そういう存在だからじゃあない。
僕は
○月△日
やっぱりすっからかんになった資材……今回はボーキサイトだけど。海から回収する毎日。
そんな中、提督は色々試行錯誤してるみたい。
第二艦隊の旗艦を鳳翔さんから大淀に変えて運用してみたり、第二艦隊に夕立を加えてみたり。
僕にしてもそうだ。
この間初めて天龍が旗艦で、古鷹、加古と一緒に出撃した。
ここでのやり方に慣れちゃったというか染み付いちゃったからか、結構大変だった。
日中のお仕事が終わって、いつもの訓練が終わった後。
天龍達旗艦組は毎日執務室で戦術研究を提督としてるみたいだね。
たまに僕だったり龍田だったり、加古や古鷹だったり意見が欲しいって呼ばれる時があるんだけど……。
一言、毎日参加出来る人が羨ましい。
だってさ! 提督の真面目な顔をあんな近くで見られるんだよ!? 羨ましいよ!
この間龍田と一緒に行った時なんてさっ! 龍田にすんごく真面目な顔してどう思う? なんて聞いててさっ! 僕に! 聞いてよっ! 龍田顔真っ赤にしてあわあわ言ってるしさっ!
その後の! ありがとう。って提督がにっこり笑いながら言っちゃってっ!
その笑顔! 僕に! 下さいっ!
……。
うん、落ち着こう。
そう、そんな感じで新しい運用方法を考えてるみたいだ。
第三艦隊にしても、毎日の様に龍田と夕立と演習してるけど、どうも普通の水雷戦隊としての運用方法を求めては無い様に見えるし。
これからが楽しみって言えば不謹慎なのかも知れないけど、この鎮守府が力をつけていく事がやっぱり嬉しいね。
○月△日
提督かっこいい。
あ、いや。うん。
夕立があっけなく負けちゃったのは残念だと思うんだけどね? それよりもう提督かっこいい。
あ、うん。
このままかっこいいってずっと書いちゃいそうだから落ち着こう。
提督は思ってたよりずっと強かった。いや、強いんだろうなって思ってはいたからちょっと違うんだけど。次元が違ったとでも言うべきかな?
正直夜の訓練。竹刀を持ってする訓練で夕立の相手をするのが大変になってきていた所で。
夕立の良きライバルと言うか、切磋琢磨し合える関係とは言い難くなってきてたんだよね。
夕立がどんどん深海棲艦の撃沈数を伸ばしていくと共に、手合わせでもどんどん手がつけられなくなっていってて。
一番最近の十本勝負では二回しか勝てなかった位で。
それと同時に夕立が首を傾げる姿や、少し寂しそうな顔をする所をよく見るようになってた。
その夕立を一蹴。
その姿がまたかっこ……じゃなくて。
夕立が嬉しそうに負けた事を話しているのを見て、僕も改めて思った。
海に活かす為だけじゃなく、提督の本気と触れ合える自分になりたいって。
ふふ、提督。覚悟しててね?
後、龍田ごめんね?
流石にさ、洋食と言えば時雨ってポジションを奪われたくは無かったんだよ。でも龍田の和食、僕好きだからね?
○月△日
今日はすごく賑やかな日だった。
遠征から戻ってきたら食堂で那珂と六駆の皆が歌って踊ってた。
思わず何してるのって聞いたらアイドルのレッスンだとかなんとか。
思わず首を傾げちゃった僕と一緒に遠征に出てた龍田と大淀だけど。おもむろにうっすら光る棒を渡されて。
やっぱりファンの目が無いとねっ!
なんて言われてファンにされた。どうしてああなったのか今でもわからない。
ただすごく楽しそうに踊る六駆の皆の姿を見てるとそんなのどうでも良くなっちゃって。
よくよく聞けば中々上手に歌う那珂だったりで。
気付けば手に持った光る棒を振ってた。
あ、龍田も大淀も振ってたよ? 僕だけじゃ無いからね?
そんなレッスンが終わった時。不意に後ろからアンコールのコールがかかって。
振り向いてみたら提督や他の皆がいた。
まずいと思って電の方を見れば、顔を真赤にしながらぷるぷる震えて主砲を構えていたけど……うん、よく我慢しましたってところかな?
そこからはなし崩しに那珂曰くの本番が始まっちゃって。
とっても楽しかったよ。
僕もすっかりファンになっちゃった。提督があれだけ楽しそうにするなら僕もレッスンに交ぜてもらおうかな?
○月△日
大淀が風邪を引いた。
思わず心配しつつ、艦娘も風邪を引くんだなんて思ったり。
提督に看病してもらえるなら風邪を引いちゃおうかと真面目に考えることにする。
○月△日
提督の看病をした那珂が羨ましいからファンやめるね?
○月△日
南一号作戦の詳細が届いたみたい。
提督から改めて内容が発表されたんだけど……ちょっと驚いた。
作戦行動の為にこの鎮守府に各鎮守府から艦娘が来る。うん、それはわかる。
そのために南一号作戦の準備として、必要になるだろう資材集めと製油所地帯沿岸海域の警護を集中的にしてた僕たちなんだけど。
作戦中、資材は横須賀鎮守府が負担するらしい。
要するに資材の心配はするなってことなんだろうけど……。
素直に喜べない僕がいる。
提督も同じみたいで、どうにも腑に落ちないって顔をしていた。
ともあれ、それに加えて明日、先遣隊として横須賀鎮守府から一隊ここに来るみたい。
誰が来るんだろう……。
また提督のことを好きになっちゃうんじゃないだろうか、それだけが心配で――
「時雨?」
「ん……? 夕立どうしたんだい?」
同じく部屋で日記を書いていた夕立の声に筆が止まる。
「明日誰が来るっぽい?」
「うーん、流石にわからないよ」
横須賀鎮守府と言われて思い浮かぶのは長門、陸奥といった戦艦だけど……流石に先遣隊として来るとは思えないし。
「仲良くなれるかなぁ?」
「ふふっ、夕立なら大丈夫じゃないかな?」
無垢にそんな事言われると、警戒してる僕がバカみたいじゃないか。
でも、そうだね。
「そっか! なら頑張って仲良くなるっぽい!」
「うん、僕も頑張るよ」
僕たちなら、この鎮守府なら。提督ならきっと大丈夫。
度にどんな事が起ころうとここが幸せな場所には違いないし、きっと来る艦娘だって幸せな場所だと思ってくれるだろうから。
三章投稿について活動報告あげてます。
今後の投稿について気になる方はお手数ですがお目通し頂けると幸いです。