二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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金剛姉妹と演習するようです

『演習開始三十分前、各艦最終装備点検を行うように』

 

 提督のアナウンスが演習場に響く中、互いの艦隊旗艦である天龍と金剛が向き合っている。

 双方真剣な視線を互いに向け合っていたが、その視線をふっと緩めたのは金剛。

 

「良い演習にしまショウ」

 

 微笑みながら片手を差し出す金剛だが、表情を変えずその手を一瞥した後天龍は言う。

 

「なぁ、金剛サンよ。オレが……いや、オレ達が使われたいのは唯一人、提督だけ。使っていいのも提督だけだ。アンタにどんな理由があんのかは知らねぇ。だが、オレ達はアンタにも横須賀の提督とやらにも手に余るだろうよ」

 

 言い切ると共に天龍は金剛に背を向ける。その背中にはこれ以上話すことはないと書かれていた。

 

「なら……ティーチ、ミー。示してクダサーイ。そのパワーを、そのマインドを」

 

「……言われるまでもねぇ」

 

 天龍が自分の仲間の下へと走り去る。

 その姿が遠くなって行くのを金剛は柔らかい笑みで見送る。

 

「……シェイクハンド位、した方が良かったネ」

 

 重なる事の無かった自分の手の平を見ながら、先日払った提督の手を重ね思い出す。

 

 拒否されるという事がどれほど寂しいことなのか、思い出す。

 

「……良い、鎮守府デスネ」

 

 ポツリと呟く。

 感じていた寂しさを表すかのように、出た言葉は羨ましそうな、あるいは懐かしみを含ませたもので。

 

「お姉さま」

 

 感傷に浸るようにその場から動かない金剛へと後方に控えていた比叡が声をかける。

 

「……あの提督を、どう思いマスカ?」

 

「墓場鎮守府の司令を、ですか?」

 

 近寄ってみれば金剛にそう質問される比叡。その質問に僅かに首を傾げた後、比叡は静かに答える。

 

「……凄い司令だと、思います。正面海域を僅かな戦力で攻略したことも……そして」

 

「艦娘にアレだけ信頼、慕われていることも。デスカ?」

 

「はい。正直、驚きました……私でさえ、共に征きたいなんて思ってしまいましたから」

 

 比叡の言葉に頷きを一つ。

 

 それは金剛自身も思った事だ。

 あの提督の言葉に、雰囲気に、あるいは言葉に出来ない何かに。思わずかつて口にしたバーニングラブという言葉をぶつけてしまうところだったから。

 その気持ちを我慢するが故に思わず握手を拒否してしまった……なんてごまかしてしまいたい気持ちをぐっと堪える。

 

「ワタシは……間違っているのでしょうネ」

 

「……私には、わかりません……何が正しくて何が間違いなのかなんて。ですけどお姉さま?」

 

「……」

 

「お姉さまに着いて行くと決めた。そこに後悔なんて欠片もありませんよ」

 

 大きく深呼吸をした後、金剛は比叡へと振り返る。

 

「ソーリー……比叡。あなたには、昔から苦労をかけマスネ」

 

「ふふ、弱気なお姉さまも素敵ですけど……。私は最初からずっと金剛お姉さまを支えるって言っていましたよ?」

 

「オゥ、そうでシタね。サンキュー、比叡」

 

「はいっ!」

 

 二人は少しだけ笑いあった後、自分の装備を点検している榛名と霧島の下へと走る。

 今は感傷に浸るときでも、少しの後悔をするときでもないと。振り切る様に、走る。

 

「チェックは終わりマシタカー?」

 

「はいっ! 榛名は大丈夫ですっ!」

 

「チェック、ワン、ツー……はい、この霧島もいつでもいけます」

 

 力強く返事をした二人に金剛は笑みを深める。

 一人ひとりの顔を見返した後、静かに瞑目する金剛だが。

 

「分かってマスネ? この演習……必ず勝利シマスヨ。私達のためにも、彼女達のためにも」

 

「了解っ!!」

 

 再び開かれた目と顔には勝利への意思が強く現れていた。

 

 

 

 海の上にある輪。

 輪の中心には六人分の手が差し出され、重ね合わされている。

 

「戦艦四隻と演習できるなんて滅多にない、胸を借りるつもりで思いっきりいけ……なんて提督は言ってたが。夕立」

 

「はいっ!」

 

「オレ達の後ろには何がある?」

 

 手の持ち主は一つ下にある手へと質問する。

 

「鎮守府があるよっ!」

 

「じゃあ大淀、その鎮守府には誰が居る?」

 

 元気よく答えながらも溢れんばかりの戦意を目に宿している手の持ち主。その下にある手に続いて質問をする。

 

「提督が、そして仲間が……私達の家族が居ます」

 

「その通りだ。加古、前に立つオレ達が深海棲艦に負ければ鎮守府は、家族はどうなる?」

 

 眼鏡の奥に真剣な色を濃く彩らせた瞳、その目を質問主に向けながら答えた手の持ち主。その下にある手へと質問が続く。

 

「当然、危険だよねー。……想像もしたくないけど」

 

「オレもそうだ。時雨、演習ってのは何のためにやるんだ?」

 

 嫌な事を想像させないでよと少し抗議の視線を質問主に向けながらも、静かに覚悟を改める手の持ち主。更に下にある手へと問われる。

 

「深海棲艦と戦う力を手に入れるため。そして家族を守る力を手に入れるためだね」

 

「そうだ、力を手に入れるためだ。ならば鳳翔さん、力を手に入れるためなら負けても良いか?」

 

 静かに答えながらも冷たく燃える炎を瞳に宿らせた手の持ち主。

 

「どんな理由が、障害があろうと……勝利を、提督に。敗北なんて捧げる訳には参りません。そうでしょう? 天龍さん」

 

 一番下にあった手の持ち主は一番上に置かれた手の持ち主へと答える。

 

「あぁそうだ、当たり前だ。ましてやこの演習相手はアイツを脅かしている。……なぁお前ら、アイツ以外の下につけるか?」

 

 その言葉に一斉に全員が首を振る、つきたいわけがないと横に振る。

 

「はっ! ったく、揃いも揃って不良品ばかりだな! 兵器が持ち主を選ぶなんてとんでもねぇ話だぜ!?」

 

「む。なら天龍さん一人で知らない人に着いて行けばいいっぽい!」

 

 笑い飛ばした天龍に頬を膨らませながら夕立は言う。

 見れば、夕立以外の全員……鳳翔ですら意見は同じ様子。

 

「はははっ! オレだってゴメンだね! そうさ、オレ達は不良品。アイツの下でしか働けねぇ不良艦娘さ。だからよ……」

 

 ――勝つぞ。

 

 最後の一言が天龍の口から零れた瞬間。

 

「了解っ!!」

 

 六隻から一つに纏った手、戦意の炎が立ち昇った。

 

 

 

「榛名っ!」

 

「はいっ!」

 

 演習開始のアナウンスが流れてすぐ。

 金剛は姉妹の中で一番対空に優れている榛名に声をかけた。その意図はそれだけで通じている。そう、対空射撃態勢を作ること。

 

 自分達に無くて相手だけが持っているもの。それが鳳翔、空母艦載機による先制航空攻撃。

 金剛達が装備している主砲、35.6cm連装砲。その射程距離よりも遠くから行える攻撃。

 

 金剛達が取る陣形は複縦陣。五隻以上であれば輪形陣を取っていただろう。

 

 お互いの射程距離が交差する中での砲雷撃戦で有利なのは戦艦である金剛達。そんな事は双方分かりきっている。

 故に金剛達が一番警戒するべきことは相手の生命線であろう鳳翔による航空攻撃だった。

 また、戦艦である自分達は相手に比べて遅い。だからこそ自分達の射程距離外から航空攻撃を仕掛け続けられないよう、最初に来るであろう艦載機の数を少しでも減らす必要があった。

 

 その先制航空攻撃に来る艦載機を撃墜し、空からの脅威を減らす。

 

 それが金剛達がこの演習で勝利を収めるためのスタートラインだった。

 

「お姉さまっ!」

 

「イエース! 予想通りネ! 榛名、よぉく狙ってネ!」

 

 速度を絞り、榛名もまた機銃を構え艦載機に狙いをつける。

 

 榛名の持つ機銃の射程距離まで、後――

 

「――は、い?」

 

「な、何で!?」

 

 射程距離に入るかどうか、その瞬間に。

 

「きゃあっ!?」

 

「榛名っ!?」

 

 艦載機はUターンし、再び距離を開けた。

 そして代わりにやってきたのは二発の砲撃。

 その砲撃の一発目は榛名へと至近弾、二発目は直撃。

 

『榛名、機銃装備に損傷。中破』

 

「シィット!! これは……!?」

 

「金剛姉さまっ! 艦載機群から一機……あれは、偵察機っ!?」

 

 鳳翔が発艦した艦載機に紛れた大淀の偵察機。

 機銃が届かない高度を悠々と飛んでいる。

 

「弾着観測射撃!? ……そんな、まだ距離ガ!」

 

「敵艦隊射程距離内ですっ!」

 

 比叡の声に前を向けば、そこにはいつの間にか――開始の合図と共に全速で距離を縮め、自分達の射程距離内へと入って来ていた三隻の艦と。

 

「っ!? 敵艦載機、再びこちらに来ますっ!!」

 

「榛名っ!?」

 

 再度折り返してきた艦載機が金剛の頭上に、そして降り注ぐ爆撃。その雨から榛名は身を挺して金剛を庇った。

 

『榛名、爆撃直撃。大破、轟沈判定。比叡、霧島、攻撃機の魚雷により小破』

 

「……申し訳ありません、金剛お姉さま」

 

「榛名……!」

 

 先の弾着観測射撃により榛名の持つ機銃は使用不能。

 それでも航空攻撃をなんとかしようとするのならば我が身を盾にするしかない。

 その判断に従い榛名は脇目も振らず金剛を庇った。

 

「シィイイット!! 霧島っ!」

 

「はいっ! 主砲っ! 敵を追尾して……撃てぇ!!」

 

 それでも相手はすでに自分達の距離にいる。

 榛名が戦闘不能になってしまったが、相手は自ら自分達の有利を手放したのだ。ならば、この損害の返礼を。

 その思いを霧島に託し砲撃を指示した金剛は。

 

「……アン、ビリーバボゥ」

 

「あり、えません……」

 

 誰にもあたることなく海上で爆発した霧島の砲弾に目を丸くした。

 金剛達へと尚も距離を詰める三隻よりも更に奥、主砲を発射したらしい大淀の砲弾が霧島の砲弾に直撃したのだ。

 

「っく! 比叡、霧島! フォローミー!」

 

「りょ、了解っ!」

 

 驚き止まっていた足を再度動かす金剛達だが。

 

「なっ!? どうして……!? きゃあ!」

 

「霧島っ!?」

 

『霧島、魚雷直撃。大破、戦闘継続可能も脚部艤装に深刻な損傷』

 

 動き出しを捉えた時雨の魚雷。それは霧島へと直撃した。

 

「わ、私の戦況分析が……」

 

「霧島っ! 落ち込んでいる場合じゃない! 早くっ!」

 

 比叡が足の止まった霧島を引っ張ろうとするも。

 

「遅いっぽーいっ!!」

 

「!!」

 

『霧島、砲撃直撃大破。轟沈判定』

 

 一気に距離を詰め、至近距離から放たれた夕立の12.7cm連装砲二門によって遮られた。

 

「比叡っ!!」

 

「くっ! はいっ! お姉さまっ!」

 

 ここに来て本能的に避ける、距離を取ろうとしていた自分達の過ちに気づき夕立へ砲塔を向けようとする金剛と比叡だが。

 

「させねぇよっ!!」

 

 天龍が装備した14cm単装砲二門の砲撃、その至近弾により行動が遮られる。

 

『金剛、比叡共に損傷軽微』

 

 どういう手品だろうかと金剛は困惑する。

 間違いなく夕立は自分達と肉薄しているといっても良い距離にいるのに。

 夕立が自分達に砲撃すれば自分も巻き添えになって損傷するはずだというのに。

 

 夕立は無傷。ただ金剛達だけが損傷を重ねる。

 それに加えて天龍の絶妙といってよい砲撃。まるで夕立の行動を全て理解しているかの如く、夕立を傷つけないタイミング、位置へと放たれ金剛達の行動を阻害するそれ。

 

 合間を縫って夕立を砲撃しようとするも必ずそのタイミングで金剛か比叡を盾にする位置にいる。

 

 どれ程の練度を積み重ねればこうなるのか。

 

 横須賀鎮守府でかつて主力と言われた金剛ですら想像もつかない。

 

 ただそれでも一つだけ理解できたことがある。

 

 ――完全に捕まった。

 

 金剛はそれだけを理解できた。

 開始から僅かな時間で榛名を轟沈判定へ追い込み、相手へと有効な攻撃ができないままに霧島までも轟沈判定。

 

 そうしてようやく、手のひらの上で踊らされていたことを理解した。それどころか。

 

「ひえぇっ! っく、お姉さまっ!!」

 

『比叡、大破。轟沈判定』

 

 こうして捕まったがために、二度目の大淀と加古による協力弾着観測射撃と時雨の魚雷が比叡を襲った。

 時雨の魚雷は金剛に向けられたものだったが、その軌道上に比叡が身を割り込ませ金剛を庇い轟沈。そして複雑な戦闘行動を行っていながらも誤射なく一切の損傷が見られない敵艦隊。

 

 チェックメイト。

 

 そんな言葉が金剛の頭を過る。

 

 どうしてこうなってしまったのか。

 確かに金剛型戦艦の中で金剛と比叡はほぼ同時に建造されたが、榛名と霧島は大きく間が空いてからの建造。姉妹の中で練度に差があるのは認めるところ。

 だが、それがこの今にも着いてしまいそうな決着の理由ではないと感じている。

 

 提督には自分達の方が上だと振る舞ったその実、厳しい戦いになるとは思っていた。

 高速戦艦と言えどやはり戦艦。護衛艦も無しに上手く機能する、立ち回ることができるとまで安直には考えていなかった。

 

 だからこそ、最後は精神力の勝負になると思っていた。

 勝利への意思。

 その力の差が勝敗を分けると思っていた。

 

 だと言うのに蓋を開けてみればその舞台(気持ちの戦い)にすら辿り着けない。

 

「これでフィニッシュ!? な訳無いデショ! 私は食らいついたら離さないワ!」

 

 ――そんなの認めラレナイ。

 

 風前の灯火だった戦う意志を再び燃え上がらせる金剛。

 

「ここは……ワタシの距離デース!!」

 

 相手の攻勢に思考を止めていた金剛は自分を奮わせる。

 

 この演習で勝利し自分達の価値を、力を示すと共にここの艦娘をも守りたいと思ったのだ。

 提督が艦娘を信頼し、艦娘が提督を信頼する。

 そんな、かつて当たり前だったかも知れない鎮守府が生まれた。

 今度こそ、失ってはいけないはずの場所であり光景。

 

 だからこそ、こんな所で負ける訳にはいかない。

 

「撃ちますっ! バーニング――」

 

「いや、撃たせねぇよ」

 

 金剛に突きつけられる砲塔と魚雷。

 砲塔は正面から天龍、背後に夕立。側面から魚雷を時雨。

 上空を見れば再発艦された艦載機と偵察機。

 

 紛れもなく、疑いようもないチェックメイトだった。

 

「……聞かせてクダサイ」

 

「なんだ?」

 

 燃え上がらせた戦う意志は蝋燭火最後の煌き。やはり、徹底して気持ちの戦いすらすることができなかった無念を噛み締めながら、静かに主砲を降ろし金剛は天龍へと問う。

 

「沈むと分かっていても……提督と死に別れると分かっていても。出撃したいと思いマスカ?」

 

 俯いたままに発せられた言葉。

 その言葉に天龍は間髪入れずに答えた。

 

「するさ、出撃する。死に別れないためにな」

 

「ノー! 死に別れるのは決定事項デスっ! それハ――」

 

 勢い良く顔をあげる金剛だが。

 

 天龍も、時雨も、夕立も。

 

「アイツが望む限りオレは……オレ達は沈まない。万が一、億が一でも生き残る可能性があるのなら掴み取る。無ければ創り出す」

 

「夕立、提督さんのためなら何でもできるっぽい!」

 

「もちろん、僕だって。僕の命は提督のモノ、勝手に沈んでなんかいられない」

 

 全員が同じ顔をしていた、同じ覚悟を決めていた。

 

 沈まない。

 提督のために沈まない。

 

 それは今金剛の目の前に居る者だけではなく、この鎮守府の総意。

 

 その圧倒的な覚悟に金剛の背中へゾクリと寒気が走る。

 護国のために、提督のために、大事なモノのために沈む覚悟はいくらでもしてきたし、している。

 それでもここの艦娘は違う。

 

 必ず生き抜く。

 

 その覚悟を深く刻んでいるその事に寒気が走る。

 

 それはどれほどの覚悟なのだろうかと。

 

 ――あぁ、そうか。在るステージですらも違ったのデスネ。

 

「ハァ……バカにつける薬はアリマセンネー」

 

「……」

 

 ため息を一つ。

 愚痴に近い言葉と共に両手を上げる金剛。

 

「負けました、完敗デース……コングラッチュレーションズ。これできっと、提督と共に海を征けるデショウ」

 

 そのバカは誰に向けたものか。

 

 喜びを表す目の前の艦娘達へか。

 

 それとも。

 

 生き抜く覚悟を捨てた自分に向けてか。

 

 そんな事を、幾分すっきりとした頭で金剛は考えるのだった。

 

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