二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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提督は応えないようです

「勝った、か……」

 

 演習の結果、うちの鎮守府は見事な勝利を収めた。S評価間違いなしの完全勝利だ。

 

 そう、完全勝利。

 

 うちの艦隊に被害は無し。誰一人損傷判定を受けることなく演習を終えた。

 

 嬉しいと思う、疑いもなく。

 その思いに身を任せて目を閉じる。

 

 製油所沿岸地帯を攻略してから、ずっと皆で一緒に考えて訓練してきた新しい動き。

 それが、今回の演習で見事に成し遂げることが出来たから。

 

 平たく言ってしまえば第一艦隊と第二艦隊の融合、いいとこ取り。

 

 鳳翔で言えば、妖精が搭乗した艦載機による高度な攻撃術。

 一度発艦してしまえば先制航空攻撃が終わるまで戻ってくることのない艦載機を途中でフェイント、Uターンでタイミングをずらして弾着観測射撃による先制攻撃の後改めて航空攻撃。

 

 妖精に慕われている鳳翔だからだろうか、妖精は鳳翔の事をとてもよく聞く。だからこそこういった事も出来た。

 いずれより高度な航空技術を身に付けて艦隊の力になってくれるだろう。

 

 加古と大淀による協力弾着観測射撃。

 

 加古は本当に少しだけと本人は言っていたが変わった。自分をフォローしてくれる艦娘を選ばなくなった。

 今までは古鷹居てこその加古ではあったが、そう。誰とでも協力出来て自分の力を発揮することが出来るようになったんだ。

 

 相変わらず一人で何かを上手く出来る訳ではないけど、それでも大きな進歩だ。本当に少しだけなんてとんでもない。

 

 そして大淀。

 偵察機による観測技術を磨き続けたことはもちろんだが、何よりも凄いと思えるのが相手の砲弾に砲撃をぶつける技術。

 

 正直に言ってしまえば、あの作戦報告書を読んでそんな事出来るわけがないと俺ですら思っていた。だが、今回の演習含めてそれが真実であると思い知った。思い知った後疑ってすまないと大淀に謝ったら何故かドヤ顔された、やったぜ。

 

 とは言え、神業とも言えるそれだが完全に足を止めて偵察機の視界に集中しなければ出来ないっていう条件もあった。自分の視界よりも遥かに遠く、広くを見渡せる世界から自分と相手の射撃技術、距離を計算し行われるもの。

 その間は完全に無防備となるから護衛じゃないが、傍に誰かをつけなければならない。今回は鳳翔がその役目を担ってくれたが酷く限定的な神業であることは覚えておかないといけないだろう。

 

 そうしてそんな第二艦隊がする支援の中繰り広げられる第一艦隊らしさ。

 

 夕立は相変わらずの突撃娘ではあるけど、突撃の仕方が変わった。

 無理やりの突撃をしなくなり、必ず相手の隙を見つけてそこへと突撃するようになった。

 

 その後にしても、自分への被害を出さないよう今回の様に誰かを自分への射線上に挟むように動いたり。

 平たく言えば安心感のようなものが生まれた様に思える。

 

 時雨にしてもそうだ。

 自身を晒して相手をコントロールするのではなく味方が作った小さな隙を大きく広げ、その上で自分の思惑にはめる様になった。

 

 魚雷発射のセンスも凄いの一言。霧島を沈めるに至るきっかけを作った雷撃にはもうしびれたよ。

 大淀が必ず砲撃を潰して相手が動揺する。それを見越した、信じ切った最高の魚雷だった。

 

 そして天龍。

 目立った戦果を挙げたわけじゃない。だけどこの作戦の指揮を執ったのは天龍で、毎日鳳翔と遅くまで研究しあった甲斐があったというものだろう。

 

 それに加えて第六感。今まで敵に対して働いていたそれは、ついに味方にまで働くようになった。

 あの夕立が作り出した混戦状態の中、相手にだけ損傷を与える、妨害する事が出来たのもそれのお陰だろう。

 

 俺がかつて言った仲間を乗算するってのは、味方を鼓舞するって意味合いが強かったんだけど、予想以上の力を身に付けてくれたようだ。

 

 第一艦隊の呼吸を知り、それに適した支援を行えるようになった第二艦隊。

 第二艦隊の技術を知り、それを信頼しその身を預けられるようになった第一艦隊。

 

 かつて第二艦隊、鳳翔が言ったように極めて高い確率で相手の動揺を誘える動き。それは深海棲艦にも通用するもので。

 ある意味、この世界の艦娘達にとってうちの戦術は初見殺しと言って良いだろう。

 今回の演習ではその集大成ともスタートラインとも言える、我を取り戻すまでに決着をつけるといった形を貫けた。それがこの完封と言って良いだろう勝利に表れたんだと思う。

 

 より夕立や時雨の動きを活かす方向で考えるのならば加古を龍田に変更するし、支援を重視するのならば時雨と古鷹を変更と言ったように、様々なパターンを考えて実践は進んでいる。

 

 基本的な海域攻略においては役割を基に第一艦隊、第二艦隊。第三艦隊の括りを変えるつもりはないが、これが今のうちが出来る最高の全力出撃編成。

 

 ……強くなった。本当に。

 

 もしかしたら最初から持っていた力なのかも知れない、俺は別に何かを彼女達にしたわけじゃないのかも知れない。

 それでも彼女達が成長して、笑顔を見せるようになって、こうして強くなった。

 

 それが、本当に嬉しい。

 

 だけど。

 

「提督」

 

 目を開けた時、思いに浸る俺へタイミングを見計らっていたのか龍田が声をかけてきた。

 

「良かったねー」

 

「あぁ……そう、だな」

 

 そうだ良かったんだろう。

 皆は強くなった、俺もまだまだ皆の指揮を執り続けることが出来る。悪いことなんて一つもないはずだ。

 

「何か、気にしていますか?」

 

「いや、良かった。そう、良かったと思ってるんだよ古鷹。だけど……」

 

 歯切れ悪い返事が気になったのか心配気な表情を浮かべながら俺に聞いてくる古鷹。

 

 だけどどうしても。

 

「無念を噛み締めたような金剛の表情が頭から離れないんだ」

 

「提督……」

 

 皆がこの鎮守府のために、自惚れじゃなければ俺のためにと頑張ってくれた事は言葉にできないくらい嬉しい。

 それぞれがそんな想いの下戦ってくれたって事はわかってるんだ。それに応えたい、応え続けたいと今も強く思っている。

 

 でもそう、金剛も。

 

 あの隠しきれない無念だという思い。

 それは一体何なのか、わからない。

 

 だが少なくとも。

 

「俺は……金剛が、金剛達の想いの上に立ったんだ。そう、分からないけど無念だと隠しきれない様な程その胸に強く宿した想いの上に」

 

 たとえそれが善意であろうと悪意であろうと。

 

 何らかを踏み立った事に変わりはない。

 その思いを背負う覚悟なんてとっくに出来ている。だけど、それを背負わせてくれるかどうかはまた別の話。

 

「えいっ」

 

「あたっ!?」

 

 そんな事を考えていれば龍田がおもむろにデコピンしてきた。何だよちくしょう可愛いな。

 

「提督はねー? もっと私達を自分のために使っていいのよー?」

 

「あん?」

 

 ニコニコとそんな事を言ってくる。ていうか使うってな……。

 

「使うなんて言ったら気を悪くしちゃうかも知れないけどー……あなたは私達の力になってくれた。そんな人の力になりたいの」

 

「はい、龍田さんの言う通りです。夕立ちゃんじゃありませんけど……私達は提督のためになら、きっとなんでも出来ます。なんでも出来るようになります」

 

 ……お前ら。

 

「あなたが辛いと思うなら私も辛い。だから一人でそんな思いを抱えないで? それを喜びに変えるためなら私達に半分でも全部でも……預けてくれて、いいんだよー?」

 

「力不足かも知れません。だけど……私達はいつだって、提督が提督らしく居てくれる事が何より嬉しいんです」

 

 ……はぁ。

 

 どうやら俺はまだまだ自惚れきれていなかったらしい。

 それどころか甘く見ていたとさえ思う。

 

 やっぱり艦娘は最高だ。

 

「ったく。そうだな、だったらちょっとお願いしたいことがあるんだけど良いか?」

 

「もっちろん! なんでも言って頂戴ー?」

 

「はいっ! 私達の良い所、たっくさん教えてあげちゃいますっ!」

 

「よろしい。ならば二人共、そのナイスなおっぱいを触らしてくれ」

 

 何でもするって言ったよね!

 こういう時になんかこう、格好いい言葉の一つでも言えたら良いんだけど……残念ながらイケメン力の足りない俺は下ネタに逃げるぜっ!

 

 ……。

 

 あ、時間が止まった。

 

「なな、なにゃ!? にゃにをきゅうにいっちぇるの!?」

 

「てててて、ていとく!? わた、わたたたた!?」

 

 ボンッと音を立てて二人の顔が真っ赤に。

 

 いやー良いもん見れたわー。これで俺もまだまだ頑張れるわー。

 なんて思いたかったんだけど?

 

「あーいや、すまねぇ。流石に時と場合を考えてない発言だったな?」

 

「そしょ!? しょれは!?」

 

「ときとばあいがおっけーなら!?」

 

 あ、あれ? おっかしいな?

 ここはこう。このクソ提督! よろしくビンタの一発でも飛んでくる場面……。あ、いや古鷹には失言も良い所でヤバイとすぐに頭を下げようと思ったんだけど龍田と似たような反応で……。

 

 あるぇ?

 

 ま、まま。ええわ?

 とりあえず帰ってくる皆を迎えよか、せやな。

 

 

 

「完敗デス。これほどマデとは思ってマセンでした」

 

 いやびっくりするから入室するなりいきなり頭下げないで下さい。俺どうすればいいかわかんねぇからさ。

 しかも対応間違ったら分かってますよね? なんて顔に書いてる比叡が怖い。榛名はあたふたしてるし、霧島の眼鏡は光ってるし。

 

 もう一度言うけど、入ってくるなりいきなりこんな雰囲気にされるとマジでどうすりゃいいかわかんねぇってばさ。

 

「申し訳ありまセン。出来れば今までの失礼な言動も許して頂けるとうれしいデス」

 

 そう言って手を差し出してくる金剛。

 

 これはまぁあれか。

 握手して仲直りって事かね。

 

 まぁ、これがきっかけではあったからそれも悪くない。

 

 のだけれど。

 

「天龍」

 

「んあ? なんだ? 提督」

 

 天龍にアイコンタクト。

 お前が握手しろと伝える。

 

「んなっ? な、何でオレが……」

 

「金剛」

 

「ハイ」

 

「改めて紹介する。うちの鎮守府艦娘筆頭、天龍だ。どうかよろしく頼む」

 

「うぐっ」

 

 そう言ってみれば逃れられないと悟ったのか天龍は頭をかいた後、その手をスカートで拭い。

 

「……天龍型軽巡洋艦一番艦、天龍だ。金剛サン、よろしく頼む」

 

「……ハイ、こちらこそネ。先の演習指揮、見事デシタ。是非ワタシにもティーチしてもらいたいものデス」

 

 戸惑いながらも握手する二人。

 違うだろー、そうじゃないだろー天龍。

 

「こら筆頭。金剛にちゃんと謝罪しなさいな」

 

「な、何でだよっ!?」

 

「お前演習前に握手するの拒否しただろ。ちゃんと見てたぞ? はい、謝ってどうぞ」

 

「う、うぐぐ……ゴメンナサイ」

 

「い、イエ……こ、こちらコソ?」

 

 よしよし、これでオッケーね。

 ちゃんとうちの筆頭だってこと覚えておくんだぞー天龍ちゅわぁん。

 

「よし、それでは先の演習評価を行うが――」

 

「待って下さいっ!」

 

 と、大きな元気の良い声に目を向けてみれば比叡さん。どうしましたかね?

 

「お姉さまが謝っていますっ! なのにあなたは……なぜ応えないんですかっ! 気合いっ! 入れてっ! 受け入れて下さいっ!」

 

「ひ、比叡! ストップ! お、落ち着くネー!?」

 

 おーおー比叡の金剛好きっぷりは変わらずか。善き哉善き哉。

 あ、でも榛名の慌てっぷりに拍車が……おおう、霧島さんや眼鏡からビーム出そうやめて。

 

「比叡」

 

「なんですかっ!」

 

「何を受け入れたら良いんだ?」

 

「……はえっ?」

 

 ともあれそれがわからないわけで。

 

「失礼な態度を取られた事を受け入れたら良いのか? それともこの場を、作戦中を上手くやり取り出来るように表面上は仲良くやりましょうということをか?」

 

「っ!」

 

 確かに。

 嫌いな相手だろうがなんであろうが上手くやれ。

 それは戦場では極めて必要な技術なんだろうさ。

 

 だけど俺は生憎と軍人じゃねぇもんで。

 

「それは確かに正しい事なんだろう、だから艦娘として同じ舞台に立つ天龍には悪いが受け入れさせた。だが、俺は金剛が言ったようにお前の、お前達の提督ではない。ならばこそ本当の意味で受け取って欲しい物を受け取りたい」

 

 金剛は俺に知って欲しいとなんて露程にもまだ思ってないだろう。それは分かっている。

 だからこそ、思ってもらえる程の信頼を俺が金剛から得る事が先なんだ。

 

「金剛」

 

「ハ、ハイ」

 

 声をかければ動揺している金剛。

 煽るような事を言って悪いとは思うんだけど、金剛にとって俺が提督でないのであれば、俺はただの俺という個人。

 艦娘が大好きなただの俺として接するしか無い。

 

「シェイクハンドはノーサンキュー。あぁ、そうだ、そうだからこそ良い。上手くやるより、自然にやりたい。いつか……俺をお前の隣に並び立たせてもらえる時が来たらでいい。だから覚悟してくれ? 俺は、お前の提督じゃあないと言う事を」

 

「……ワカリ、マシタ。よく、覚えておきマス」

 

 その時は握手をしよう。共に海へと挑む者としてお互いを認め合おう。

 

 さぁ、その為にも。

 

「では演習評価を行う。その後、防衛戦構築と南一号作戦に向けての準備について打ち合わせをするぞ」

 

「了解っ!」

 

 やるべきことをやり、成すべきことを成そう。全てはそれからだ。

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