二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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作戦内容を知ったようです

「遅れてしまって済まないね」

 

 ホワイトボード横に立ち、手元の書類に目を落としながら言うのは長官。反対隣には腕を組みながら静かに立つ大佐。

 作戦会議室にいるのは俺と天龍、鳳翔、そして大淀に金剛。

 第三艦隊旗艦である那珂ちゃんも何とか出席して欲しかったんだけど、時間が遅れてしまった事でタンカー護衛任務へ間に合わなくなりそうなのでそっちを優先してもらった。

 代わりと言ってはなんだけど、大淀に出席してもらってるのはそのためだ。

 

「まずは改めて……諸君らの奮闘、活躍に感謝する。君たちのおかげで我が国、主に横須賀方面の機能は順調に回復することが出来た。軍……いや、国民を代表して謝意を述べたい。ありがとう」

 

「はっ!」

 

 笑顔を向けてくる長官に敬礼で答える。

 

 だけどやっぱりと言うべきか。今までの事を考えるとどうにも素直に受け取ることが出来ない。

 横目で大淀の様子を伺ってみればなんでも無いような顔をしながらも、拳を強く握りしめているのがわかる。

 

 鳳翔は自然な様子だけど、天龍もまた何とも言えない顔をしていて。

 

 多分、俺自身も天龍と同じ顔をしているんだろうなと思う。

 

「はは……参ったね。いや、うん。そういう顔をされるとは覚悟していたけど……大佐?」

 

「好きにせい」

 

 助けを求めるように長官は大佐の方へ視線を投げて……ん? 大佐と長官ってどっちが偉いんだっけ?

 まぁ、あの態度を見ると大佐のほうが偉いんだろうか。

 

 ともあれ覚悟していたならどうだというのか。

 

 正直、俺自身の考えは決めかねている部分が大きい。

 六駆を盾として使用しろという電文発信はこの人だし、大淀を側近扱いしていたのもこの人だ。

 つまり、艦娘をそういう扱いする物として考えているという事なんだろう。

 

 それだけを見ればはっきり言って業腹もいい所。完全にわかり合えないといい切ってもいい。

 

 だが、それをそうさせない理由。不自然さみたいな物も感じている。

 

 だから態度を決められない。

 もちろん、上司と言うかお偉い様相手だってのは重々承知しているから表に出すつもりはないけど……出してないよね?

 

「すまなかった」

 

「は……え?」

 

 そんな事を考えていれば、長官はおもむろに頭を下げてきて。

 思わず驚いてしまうぞまじで。

 

「はっきり言ってしまおう。僕は……いや、僕たちはこの鎮守府を人柱に使うつもりだった」

 

「人柱……」

 

 頭を下げた姿に驚きはしても、嘘だろ? なんて驚きは無かった。

 使えない艦娘を処理なんてお題目があったくらいだ、俺にとっちゃそれ以上の驚きなんて無いわけで。

 

「うん。君が提督としてここに着任する前に行われた作戦……そこで手酷い損害を受けた軍機能を回復させるための時間稼ぎ、その人柱にと考えていたんだよ」

 

 なるほどね?

 いや、納得できるわけ無いけどな。二重の意味で。

 

 流石にまだまだへっぽこ提督な俺でもわかるさ、時間稼ぎの難しさってやつを。

 機能回復するための時間。それがどれ位必要なのかはわからない、だけどそれ自体は絶対に必要で大事な時間だ。

 その時間を新任である俺が稼げると見込むなんてありえない。しかもその俺につけたのは時雨と夕立という駆逐艦二隻、明らかに戦力が足りない、少なすぎる。

 言われた提督適性値とやらがどれだけ信じられる物なんかはわからねぇけど、それでも明らかにおかしい。

 

 加えて、だ。この際俺のことは良いとしても、納得できねぇのは艦娘を沈める事前提、人柱にって考え方。

 

 だが。

 

「……わかりました、大丈夫ですよ長官。意図はどうあれ私達は今こうして生きていて、作戦に向かうことが出来る。それで十分ですから」

 

「……階級、立場を気にしているのなら気にしなくていいんだよ? キミには僕をなじるでもなんでもしてくれていい、それくらいの権利はあってもいいはずだ」

 

 いやいや、そんな事しねぇよ。してなんになるのさ。

 あ、鳳翔もそう思う? うんうん、そうだよな。

 

 というか、だ。

 

「先ほど謝罪の言葉を頂きました、それでも過分というものです。それに私達がここに集まった理由はその話をするためじゃあ無いでしょう?」

 

「……そうだね、キミの言う通りだ」

 

 自省するようにそう言う長官。だけど、何処かその姿に悔しそう? 苦虫を噛み潰したような……そんな気持ちが見える。

 

 多分、あの謝罪の言葉は謝罪じゃない。

 これで水に流せ……いや、そういう事にしてくれ。と言った意味なんだろう。

 

 納得はしていないが、理解を示した。

 長官にしてみればそれでは足りないのかも知れない。

 

 裏がある。

 それはわかる、だけどその裏が何で、何のためにあるのかはわからない。

 

 ……はぁ。

 

 思わず内心でため息が出る。

 つまりあれだ。俺はどうやら当面の間この人への気持ちは決められないまま過ごさなきゃいけないみたいだ。

 いや、そのまま過ごしていいんだと少し安堵する気持ちがある。

 

 だってそうだろう?

 まだ俺は艦娘を道具、消耗品扱いするのが常識なんかじゃあ無いと希望を持つことが出来るんだから。

 

 申し訳なかったねと着席を促されたので座る。

 

 そう、そんな話は確かにしたいけど。ものすごくしたいけど。

 もっともっと言えば。

 

「……長官」

 

 小さく呟く大淀。

 

 大淀の姿を自分の視界に入れないように話そうとする長官。自然な立ち振舞で誤魔化そうとしているけど、わかる。

 

 エゴだとわかってるけど、この二人には少し話をして欲しいと思う。

 あの時解決できなかった大淀の問題、それを解決できるのはきっと長官しかいない。

 

 傷をつけた人にしかその傷は癒せない。

 

 確かに俺は大淀と上手くやってる……いや信頼関係を築けたしその傷にかさぶたを作ることは出来ただろうけど、癒やすことは出来ていないと思う。

 言ってしまえば新しく関係を築けただけで、修復は出来ていない。

 

 それを解決して欲しいとも強く思う。

 

 だけど。

 

 それも……今じゃないんだろう。

 

 

 

「提督、どう思う?」

 

 作戦概要の詳細を聞いてから。

 長官と大佐は金剛達と改めて情報交換を行うようであのまま会議室に、俺達は執務室へと戻った。

 一息入れた後大佐から改めて戦力の確認をしたいと話があって、明日作戦を鑑みながらの最終演習を行う事になってる。

 

 そうして執務室へ戻ってきて開口一番天龍はそんな事を聞いてきた。

 

「まるっとそのまま受け取れば、うちの戦力をあてにしてる……いや、頼りにしてると言うか依存してる作戦だな」

 

 伝えられた作戦。

 割り振られた役割は海域への一番槍。要するに先陣を切る事だった。

 

 うちの鎮守府、いや、作った防衛線から直接出撃するのはうちと横須賀鎮守府の艦娘。

 横須賀からは今いる金剛達と後から長門、陸奥といった戦艦に加えて何隻か来るみたいで。明日の最終演習相手は言ってしまえば横須賀鎮守府の最高戦力とのものになる。

 

 第一艦隊と第二艦隊で作戦海域に突入、可能な限り相手を撃破し海域を管理している相手深海棲艦親玉の場所を目指す。限界ギリギリまで進んだ所で、横須賀鎮守府の艦隊が後を引き継ぎボスを撃破する。

 要するにうちがどれ位進軍出来るかが作戦成功の是非に大きく関与しているわけだ。

 

 他の戦力は各鎮守府から直接出撃するらしく、先陣を切った俺達が囲い込まれないように戦況を整えてくれるって話。

 

「はい……ですが、妥当かも知れません」

 

「ですね、我が鎮守府の戦力は今や横須賀方面にある鎮守府一と言っても過言ではありませんから……」

 

 鳳翔、大淀が難しい顔をしながらも頷いてる。

 

 ていうか横須賀方面一番って……。

 

「提督は実感が無いかも知れませんが、艦種を考えなければまず間違いないと思います。それは先の金剛さん達との演習でもご覧になられた通り」

 

「あぁ……確かに強くなったとは思ってたよ、改めてありがとうな」

 

「い、いえっ! 褒めて頂けるのは嬉しいのですが! そ、そういう事ではなくて……!」

 

 鳳翔さんの貴重な赤面シーンがこちらです。

 

 ……げふん。

 

 まぁそれはさておき。

 

「いや、あれは参考にならないんじゃないか? 強くなったとは思う、だけど作戦が奇抜というか見慣れないもので相手が対応できないまま負けたと言うか……。それに、うちよりずっと前から海に挑み続けている鎮守府だってあるだろう?」

 

 うちははっきり言ってぽっと出もいい所だ。

 他に実績を積んだ鎮守府なんし艦娘が居てもいいし、年月というか積み重ねた時間に勝る力は無いと思うぞ。

 

「……提督はご存知ですか? この南一号作戦が二度目であるということを」

 

「二度目……?」

 

 一度こうして南一号作戦に挑んだ事がある?

 

 でも、海域は攻略出来ていないわけで……あぁ、つまり。

 

「……そうか、その時」

 

「はい……結果は痛み分けでしたが、多くの実力ある艦娘が沈みました。あの時生き残った艦娘は極めて少数だったと聞いています」

 

「……よく、ご存知ですね?」

 

「あの鎮守府にいた頃、先任の方に教えて頂きました」

 

 なるほど、な。

 その作戦で失った戦力を回復させるための時間稼ぎが……俺達に望まれていたことだったわけ、か?

 

 いや、それなら尚更その残った実力ある艦娘をここへ一時的にでも着任させたほうがいいんじゃ……?

 

「そして残った艦娘も……」

 

「鳳翔さん!」

 

「あっ!」

 

 ん? 何だ何だ? 大淀さんや、何を急に声をあげたんだい? 残った艦娘がどうなったって?

 

「……聞かせてくれ」

 

「っ……」

 

「……それは」

 

 言い辛そうに顔を伏せてしまう二人。

 そんな二人とは対照的に、天龍が素面で。

 

「戦力を回復させる為の時間稼ぎ。それをするためのここを建造する作戦が執り行われたんだよ……そうしてその作戦でより多くの艦娘が沈んだのさ」

 

「なっ!?」

 

 意味わかんねぇ!? 回復させる戦力は艦娘だろ!? なんでその艦娘沈めてんだよ!?

 

「あん時、痛手を負った艦娘達が回復するよりも早く深海棲艦は攻めてきた。残った強い艦娘がそれに対抗し、出撃したけどよ……トントン拍子にここまでの海域を奪われて。ついには横須賀の眼の前まで迫ってきてたんだ。火急を要した、実際に陸へ砲撃が飛んできた。……幸い民間人に被害は及ばなかったが、多くの軍人も死んだ。だから、仕方ねぇんだ」

 

「……先任の艦娘も、そう言いながら笑って出撃しました。しゃあないんや、うちらが、人が生きるためにはこれしかないんや。……そう言って笑って沈んでいきました」

 

「そうやって多くの力ある艦娘も……まだ力をつけることすら出来なかった艦娘をも犠牲にして、この鎮守府は建てられたんです。この鎮守府さえ建てる事ができればと一縷の望みを託して」

 

 わ、わけがわからねぇ……。

 そうやって犠牲を多くかけてまで建てたってのに……何で人柱なんだ? 何で、俺なんだ?

 

 頭が上手く回らない。

 だけど何か言わなくちゃ……違う、否定しなくちゃ。

 

「そ、それでもっ――!!」

 

「提督っ!!」

 

「っ!?」

 

 自分でもよくわからない衝動で我を乱しそうになった俺を止めたのは天龍。

 真剣な表情で、いつもと変わらない信頼とその目に宿して。

 

「仕方ねぇんだ、あん時は提督がいなかったから。だけど……だけどよっ!」

 

「……今は、貴方が居ます。だからもう、あんな事にはならない。そう私達は信じています」

 

「……はい。今は提督の下にいます。あの時何も出来なかった私じゃない、貴方が信じている私がいます。そして私が信じている提督が……います」

 

 ……。

 

 落ち着け。

 

 そうだ、忘れたのか?

 

 狼狽えるな。

 焦るな。

 このくらい何でも無いんだって虚勢を精一杯張れ。

 

「……天龍」

 

「おう」

 

「鳳翔」

 

「お側に」

 

「大淀」

 

「はっ!」

 

 この鎮守府は、艦娘の命の上に建っていた。

 想像出来ないほど多くの犠牲だろう、俺に伏せたかった位に多くの。

 

 なるほど墓場鎮守府……確かに墓場鎮守府だ。

 

 受け入れよう。受け入れてやるよ。

 

 (ヒト)達のために戦った艦娘がいる。

 

 ならば俺は艦娘のために戦おう。

 

「ここは、眠るにはちと煩すぎるよな?」

 

 この海の下に眠る艦娘。

 今、そいつらは安心してゆっくり休めているのだろうか。

 

「俺達は、強い」

 

「おう、そうだぜ提督。オレ達はアンタのためなら何処まででも強くなってやる」

 

 自信満々にニカリと笑いながら言うのは天龍。

 

「俺達は、負けない」

 

「はい、提督に捧げるのは勝利の二文字。それ以外にありません」

 

 握り拳を胸の前に静かな覚悟を示してくれる鳳翔。

 

「俺達は、勝つ」

 

「はい。暁の水平線に勝利を刻むのは私達です」

 

 穏やかに笑顔を零してくれるのは大淀。

 

「……やるぞ」

 

「了解っ!!」

 

 やってやるさ、どんな戦いであろうと、誰がどんな意図を持っていようとも。

 

 俺は、艦娘を沈めない。

 誰も、俺の目の前では絶対に沈めない。

 

 それがたとえ、深海棲艦、鬼級が確認されている作戦であろうとも。

 


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