二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
「捉えたっぽいっ!!」
「っつ!」
目の前で汗を飛び散らせ、金髪を踊らせ竹刀を振るう夕立を見て一言。
可愛いっ!
あ、いや、今更っすねすいません。何してても可愛いっす。
「あいたっ!?」
「一本!」
時雨の判定が道場に響く。
まー確かにびっくりしたけども、まだまだですよ。
とは言え逆胴を繰り出してくるとはね、こないだ俺がやったことの真似……か?
確かに逆胴は俺の得意技だったりするから、結構やってて見取り易いんだろうけど、どうせやるなら普通に相手の右胴を狙う胴打ちからして欲しい……。相手の左胴を狙う逆胴より応用が利くのは確かだから。
あぁ、いや、別に剣道を教えてるわけじゃないからどんな太刀筋を描こうと構わないんだけどもな?
どうやら夕立は今までのように竹刀を片手で振るうわ投げるわといった無茶苦茶はやめたらしい。何処で学んだのかしっかり剣道している。
胴返し面、平たく言えば胴を狙ってきた一撃へのカウンター。
加減はしたけど何をされたかいまいち理解できてないようで、打たれた頭を涙目になりながら擦る夕立。
逆胴への返しだったから普通とは少し変わった形になったんだけども、そこは得意な逆胴ですから対策はバッチリなわけで。
夕立が俺の真似から始めてると言うのなら、いずれこれも覚えられるんだろうなぁ……胴打ち練習しとこ。
「大丈夫か?」
「へ、へーきっぽい! それより次っ! 次やるっぽい!」
心配する俺を余所に返ってくる催促の声に思わず苦笑い。やる気があって大いに結構なんだけども。
剣道に慣れてきた夕立とは対照的に未だ艦娘に暴力……じゃあ無いのかも知れないけど、こうやって痛い思いをさせるのに慣れない。
だからついつい消極的になってしまう部分があるのは認めるところ。
「いやこの辺にしとこう、明日は作戦決行だぞ? ちと早いけど終わって身体を休めたほうがいい」
「えー!? 夕立、まだまだやりたいっぽい! 後一回! もう一回だけお願いします!」
「う、うーん」
時雨に目で助けを求めてみるが、返ってくるのは苦笑いだけ。何となくゴメンねなんて思ってそうだ。
あぁつまりもっかいやらないといけないわけね……。
「がははっ! ならばわしが代わりに相手をしようではないか」
「えあっ!? た、大佐さん!?」
……まじかよ。
「なんだ小僧? これでもわしはそこそこやる方だぞ?」
「い、いえ! 失礼しましたっ!」
そうじゃなくて、だ。
爺さんそっくりの顔してまんま爺さんと似たようなことしないで欲しいんだよ。
「わぁい! もしかして提督さんより強いっぽい?」
「さぁて……どうかな? 貴様は確か……夕立、だったな。それは実際にやってみて決めるがいい」
「はいっ! よろしくおねがいしますっ!」
あーあー……トントン拍子に決まっていくぅ。
不意に感じた視線に目を向けてみれば。
――良いの?
なんて時雨さんが困ったように。
まぁ二人共やる気満々みたいだし? 時雨さんにお任せするっぽい。
そう目で返してみれば竹刀を構えてやる気満々な二人の間に立って。
「始めっ!」
開始の合図を出した。
「突撃するっぽいっ!」
威勢よく飛び出した夕立、その姿をニンマリと笑いながら迎え撃つ大佐は……っ!? あ、あかんこれ!
「夕立っ!! 逆胴はやめろっ!!」
「っ!?」
「……ほう?」
慌ててブレーキをかけながら間合いの外へと飛び退く夕立。
何で? なんて目で見られるが……。
「そんな暇はねぇ! 来るぞっ! 集中しろっ!」
「っ!」
歳に見合わない機敏な踏み込み。
その体躯から放たれる面の一撃は。
「し、しびれる……っぽい」
「よく防いだっ!!」
受けに回り構えた夕立の竹刀から乾いた音が響いた。
音の大きさが一撃の重さ、鋭さを如実に示している。
勢いのまま攻められ続ける夕立。
反撃するなんて考えられないだろう怒涛の攻め。
覚えがある、あの竹刀捌きは受けたことがある。
あぁ、ほんとに勘弁して欲しい。
何処まで似てるんだよあの大佐は。
表情、剣筋、呼吸。
全てが記憶に重なる。
それが同一人物だなんて囁きかけてくる。
混乱している自覚がある、だから混乱から逃げようと試合に集中しようと目を向ければ。
「どうしたっ!? そのまま終わるかっ!?」
「ま、まだまだっ……ぽいぃ! そこぉ!」
大佐だけじゃない、夕立があの時の俺に重なる、重ねて見てしまう。
そうだ、あの時、爺さんから不意に放たれた逆胴を……。
「甘いわっ!!」
「!?」
返した。返して面が決まると確信したはずのそれは呆気なく空を裂いて。
「一本!!」
「……きゅう~」
そうか、これか……これだったのか。
あのときは何をされたかさっぱりわからなかったけど。
返し面の一撃を躱し様に抜き打つ、あまりにも綺麗な抜き胴。言ってしまえばカウンターに対するカウンター。
あれで、今床に沈んだ夕立と同じ格好をさせられたんだ。
「艦娘に剣道なんぞ教えとるとはな」
「剣道を教えているつもりはありませんよ」
夕立の介抱を時雨に頼み、道場に残ったのは俺と大佐だけ。縁側に腰掛けて身体を涼めている所。
がははと機嫌良く話す大佐とは裏腹に、未だに落ち着かない鼓動を気にしないようにしながら会話するのは骨が折れる。
「ならば何故だ? 趣味か?」
「まさか。俺……いや、私は単純に身体を動かす鍛錬として剣道のような何かを勧めているだけです」
実は夕立に限らず時雨もちゃんとした剣道をするようになっていたり。
天龍や龍田……まぁ他の皆はこの鍛錬に前よりも熱を向けてくれるようになったと感じてるけど、この二人のように剣道らしくというわけではなく、どうすれば俺を攻略できるかに執心してる。
「海を介さぬ鍛錬、か。なるほど、人としての力を高める。それがここの艦娘の強さというわけか」
「……さて、それはどうでしょう? 私では判断出来かねる事ではありますが、そうだといいなとは思います」
艦娘は艦にも人にもなれる。
だから艦娘の人としての力を向上させるなんて考えでやり始めたこの訓練は、力を海に活かすための何かにはなったと思う。
夕立や時雨が自分の戦い方を見つけたように、天龍が第六感なんて力を見つけたように。
それがかつて言った、人としての練度向上だというのならそうなんだろう。
ただ、それ以上に感じたことがある。
大事なのは気付きだと。
立ち向かう、立ち向かえると気付くこと。
生きる、沈まないと固く決心出来ること。
手に宿した艦としての力を人として振るう理由に気付くこと、そして理由を、自分の力を信じること。
そうやって思うことができて、気づいて一つ。
改めた考えがある。
「艦娘は艦でも人でも無い、か」
「え?」
ドキリとした、心臓が跳ねる感触がした。
考えていた事を見透かされたと思ったけど、どうやら違うようで。
「貴様はどう思う? 艦娘とは何だ? 兵器か? それとも人か?」
「艦娘です」
間髪入れず答えた。
そう、それが俺の改めた考え。
「何か? なんて答えは最初から出ていたんですよ、艦娘は艦娘だ。人か、艦か、じゃあ無いんです」
「ほう?」
こうしてこの世界に来て艦娘を目の当たりにして。
人のように話し、兵器のように深海棲艦を撃破する姿を見て。
「大佐が求める答えではないのかも知れません、そもそも答えですら無いのかも知れません。ですけど、私は……」
「……」
世界はゲームのように優しくなくて、限りないほどのハードモード。
どうすればいいか考えた、色々なことを学んだ。
艦これをプレイしていた時に想像していた勝手な設定は簡単にひっくり返った。
今までやってきたことが無駄だなんて思わない。けど、それは俺の意図とか思惑とか……そんな安い何かを軽く超えて実感として突き刺さしてきた。
この世界の現実に突き刺されて、多くを知って。
環境も変わって、俺も色々な部分が変わったんだろう。自分でまだ気付けないこともあるだろうけど。
だけど、それでも。
それでも変わらないモノがあった。
これからも変わらないモノがある。
「共に海を往く者であることに変わりはない。それで良いのだと思います」
艦娘が大好きだ。
その好きに恥じない自分で在り続けたい、その好きを守れる自分になりたい。
それだけはずっと今までも、これからも。
「……っく」
「?」
「がははははっ!! そうか! そうだな! 艦娘が何であろうとも! 共に戦う者であることに変わりはないっ! がははははっ!!」
シリアスぶち壊しの笑い声である。抱腹絶倒とはこのことか。
えー……なんか面白いこと言ったかよ……。
「いやはやすまんすまん! そんな目で見るな!」
「い、いえ! って、痛い! 痛いです!」
バシバシと景気よく肩を叩かれる。
いやまじ痛いっす。
「ふー……。あぁそうだ、その通りだ。我々は難しく考えすぎていたのかもしれんな」
「はい?」
「いや何、軍人の頭は固いという話だ」
空を仰いで喉をクックッと鳴らす大佐。
多分、この人は色々なことを知って、色々なものと戦って来たんだろう。
その道中、沢山悩んで壁にぶち当たって。
その全てが解決したかのような、長く降り続いた雨が止んで虹が差し込んだかのような。
そんなさっぱりとした笑顔を浮かべていた。
「小僧」
「……はい」
だから小僧はやめロッテ。
「ここは、良い鎮守府だな」
「……光栄です」
「ばかもん、世辞ではない。わしもここに来た時はとんとわからんかったが……今、わかった」
そう言って……いやちょ!? 頭撫でるなし!?
「おい! 確か……時雨、だったか? そんな所で隠れておらんでこっちへ来い!」
「ひゃ、ひゃい!?」
唐突に大佐が縁側廊下の奥へと声を出せば、慌てて出てくるバツの悪そうな顔をした時雨。
いやん、いつからいたのさ時雨さん。
「えっと、介抱終わって夕立寝ちゃったから……その、お茶でもって思ってね?」
「がははっ! そうだな、有り難く頂こう!」
しずしずと差し出されたお盆の上に乗ってる湯呑。
大佐に倣って飲んで見ればなんとも言えない生温さ。
「うぅ、そんな目で見ないでよ提督。は、話の邪魔になっちゃうかなって思って」
「いや、いいんだ。怒ってるわけじゃないから」
ちょっと照れくさいだけだから。
決意表明なんておおっぴらに言うもんじゃないんだよ。
「ふむ……小僧、この茶はのどが渇いたであろうわし達が飲みやすいようにと配慮してくれたものだろう? 感謝こそあれ怒る、落ち込むことはないだろうに」
「うぐ」
なんだよこの爺さん! 口うめぇなこんちくしょう! その話術俺にくれっ!
あっ、ほら! 時雨だってなんか嬉しそう……こら、その通りだよみたいな顔するでない!
あーもうほんとシリアス何処行った帰ってこい。
「……ありがとう、時雨」
「えへへ、どういたしまして」
うん。
可愛いから許すっ!!
あ、いや元から怒ってません!
「小僧」
「は、はい」
うわ、急にシリアス帰ってきたっぽい。
真面目な顔して何でございましょうか。
「わしはこの作戦で軍人引退……最後の任務だ」
「……」
そうなのか。
なんだろう、なんでだろう。
惜しいと思っている自分がいる。寂しいと思っている自分がいる。
この爺さんは似ているだけで、爺さんじゃないはずなのに。
「失敗は許さない、許されない。……いや、認められない。作戦概要上もそうだが、貴様の鎮守府戦力が成功の鍵を握っていることに間違いはない」
「……はい」
先鋒である俺達。
その成果次第で後の展開が苦しくも楽にもなる。そういうことだろう。
「これは軍人として、上官としての命令ではなく……この国に住む一人の人間としてだが……」
「はい」
「頼んだぞ」
一言。
ただその一言を告げられた。
瞬間、胸のすく思い。
「条件があります」
「ほう? いい度胸だ気に入った。言ってみろ」
それが何なのかはわからない。
ただ、わけがわからないままその衝動に従って言う。
「成功したら……お互い無事に生きて帰ってきたら……俺と、戦って下さい、剣道で」
「……良かろう。楽しみにしておく」
ニヤリと笑った後、大佐はこの場から立ち去っていく。
「提督?」
「……うん?」
袖を引かれる感触と声に向けば笑顔の時雨。
「僕、頑張るね」
「あぁ、俺も頑張るよ」
そう言って、二人で少しだけ笑いあって。
明日への覚悟を改めた。