二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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第三艦隊が出撃するようです

「那珂ちゃん!!」

 

「わかってる! 皆、準備は良ーい? フラワーズの見せ場だよっ!」

 

 那珂へと提督から出撃指示が出たのは第一艦隊が空母棲鬼と会敵したのと同時。

 また、那珂自身も行かなければならないと同時に判断していた。

 

 理由なき不安。

 

 指示を出す提督の声からは焦った様子を感じ取れたし、那珂自身海域の中盤で標的と出会うことに不安感を覚えた。

 

「良い? 私以外、暁ちゃん、響ちゃんは魚雷とドラム缶。雷ちゃんと電ちゃんは主砲とドラム缶を装備していくよー?」

 

「了解!」

 

 その不安を表に出さず飲み込み、出来るだけいつもを演出するように那珂は笑って指示を出す。

 

 第三艦隊へと指示を出しながら那珂もまた装備を整える。

 那珂が開発できたのは、主砲と魚雷。ソナーに爆雷、それとドラム缶のみ。偵察機を何度か開発しようと試みるも、失敗してしまった。

 

 理由はわからない。

 図面は確かにあった、間違いなく作成に問題はなかった。

 それでも失敗した。

 

 故に那珂が装備するは主砲と魚雷。

 15.2cm連装砲と61cm四連装酸素魚雷の二つのみ。

 

「……緊張してる?」

 

「もちろんっ! でも私、嬉しいわっ! その気持ちのほうが強いの!」

 

 案じた那珂の声を余所に胸を張りながら暁は答える。

 

「ようやく、一人前になれた私達の力を司令官に見せることが出来る」

 

 響が胸に手を当て、瞑目しながら続き。言い終えた後、瞼を開き電へと視線を寄せた。

 

「わ、私は司令官なんて……」

 

「そんなんじゃ駄目よ? ちゃあんと私達だってできるようになったところ、見せるんでしょ!」

 

 視線に背くように意地を張ろうと慌てた電の肩へと雷の腕が絡みつき。

 

「……はい、見せるのです、見てもらうのです。私が……私達はもう大丈夫だってところをっ!」

 

 言葉を変えた。

 

 その目は力強く那珂を射抜く。

 

 タンカー護衛任務へと赴き、帰投する度に提督は波止場で待っていた。

 嬉しいと思う反面、少し情けない気持ちが六駆にはあった。

 

 こんな任務、こなせて当たり前なのに。

 

 それでも無事な姿を見せる度に本当に嬉しそうに喜ぶ提督。

 

 嬉しいけれど、誇らしいけれど。

 

「じゃあ……証明しよっか」

 

 私達は大丈夫、あなたに守られているだけの艦娘()じゃないと。

 

「私達にしかできないことっ! 行くよっ皆っ! フラワーズ、出撃っ!」

 

「了解っ!」

 

 あなたの力であり盾。

 

 そんな一人前のレディ(アイドル)になったのだということを証明するため、思いっきり波をかき分け出撃した。

 

 

 

「勝手は、榛名がっ! 許しませんっ!!」

 

 一際大きな砲撃音を轟かせながら榛名は戦場を舞っていた。

 

 榛名率いる横須賀第二艦隊が任された任務は、金剛率いる横須賀第一艦隊を無傷で最奥へと導くこと。

 本来墓場鎮守府が道を切り拓き、海域中頃までの制海権を得てから訪れたはずの戦い。

 

「くっ……! 霧島っ! 大丈夫ですかっ!?」

 

「私は大丈夫ですっ! それよりも……」

 

 霧島が送る視線の先。

 そこには既に中破してしまった霞と神通の姿がある。

 

「こんなんじゃ……霞は沈まないわっ! 冗談じゃないったらっ!」

 

「まだ、まだ……もう一撃くらい、いけますっ!」

 

 残る鳥海、翔鶴いずれも小破。

 かくいう榛名、霧島も損傷が全くゼロとは言えなかった。

 

「なん、で……!」

 

「他鎮守府は一体何をやってるのですかっ! これじゃあ……!」

 

 翔鶴は未だ冷静になれず、鳥海もまた苛立ちを隠せない。

 

 なぜ既に突破したはずの海路に深海棲艦がいて榛名達の行く手を阻むのか。

 

 それは両翼に展開する他鎮守府の戦力が想定以上に機能していないからだった。

 

 出撃はされた、確かに。

 

 それでも敵が強すぎるのだ、両翼で留められない程に。

 

 事実、少しずつだが他鎮守府の戦力は撤退の様相を見せ始めている。

 決戦は横須賀と墓場鎮守府に任せ、戦力を温存せよという命令が飛ばされていたためだ。

 だからこそ倒さなくてもいい、その場で相手をしておくだけでよかったはずの任務、それさえ許されなかった。

 

 そしてそれを榛名達……横須賀鎮守府、墓場鎮守府の面々は知る由もない。

 

「くぅっ! そこですっ!」

 

 榛名の主砲が深海棲艦を捉える。

 砲弾が直撃した戦艦ル級は海へと沈んでいく。

 

「もう、来ないで……!」

 

 損傷が激しい理由は、榛名達横須賀第二艦隊の練度が低いからという理由ではない。

 今もそれを証明した、決して深海棲艦に劣っていない。

 

「っく! 敵機見ゆ! 新手ですっ!」

 

 撃沈した、それは何隻目か。

 

 翔鶴が祈るように零した願いを嘲笑い、鳥海の悔しげな言葉とともに新たな深海棲艦の艦隊が顔を覗かせた。

 

 終わりの見えない増援。

 両翼が機能せず、徐々に中央へと向かってくる戦力。

 

 肉体的にはもちろん、精神的にも追い詰められていく第二艦隊。

 

「あの方達だって……っ! ここを突破したんだからっ!」

 

 墓場鎮守府の第二艦隊は見事突破した。

 予め配置されていた強力な敵艦隊を、だ。

 

 自分たちと似たような作戦だった。

 

 第一艦隊の力を温存し、決戦に備える。その露払いが第二艦隊。

 

「そうですっ! こんな所で負けていられませんっ!」

 

 榛名の悔しげな声に霧島が奮起する。

 

 そう、榛名は悔しかった。

 

 似たような作戦を完遂した墓場鎮守府の第二艦隊をすごいと思った。

 単にその強さをそう思っただけじゃない。

 

 後ろに続いていた第一艦隊の目に宿っていたのは信頼、必ず自分たちを戦場へと導いてくれるという絶対的な信頼。

 大淀が中破した時ですらそれは変わらなかった、絶対に沈まないと思わされた。

 

 そんな強く憧れてやまない艦隊に対して自分はどうだ。

 

 後方から送られてくる金剛の、第一艦隊の心配気な視線。今にも援護に出てきそうな雰囲気。

 

「こんなの……認めませんっ!」

 

 だから奮起した。

 ここで力を示して要らぬ心配だと言い切りたかった。

 そうして流石は榛名だと言って欲しかった。

 

 だが、不意に悪魔が滑り込む。

 

 ――ダレニ?

 

「あっ――」

 

 この作戦は、この作戦が終われば。そんなセリフを言ってくれる者は――

 

「霞っ!!」

 

「っ!?」

 

 思考を、動きを鈍らせたその悪魔。

 悪魔が作った隙を戦艦ル級の砲撃がつき、中破した霞に牙を突き立てようと襲い来る。

 

「私は……っ! 借りも返せないままっ……!」

 

 牙が霞を食い破ろうとした、その時。

 

「ぼーっとしないのっ!」

 

「!?」

 

 その腕を力強く引かれた。

 

「あ、あんた!?」

 

「ふぅ……まったくっ! それだから半人前って言ったのよっ!」

 

 ぷんすかっ! と怒る暁の手によって。

 

「これで貸し二つ目だね」

 

「ひ、響さん……でしたか? 今のは、一体……?」

 

「はぁいっ! 横須賀鎮守府第二艦隊の皆さんっ! お待たせっ! フラワーズやってきましたっ! もう大丈夫だよっ!」

 

 呆気に取られたままの第二艦隊を尻目に、ニコニコ笑顔な那珂が続ける。

 

「とは言うものの私達も急いでるんだよ。だからライブはまた今度ねっ!」

 

「な、那珂ちゃん! あなた達は一体……」

 

 何をしに来たのかと続く言葉は魚雷の爆破音と砲撃音でかき消された。

 

 霞へと砲撃した戦艦ル級へと放たれた、暁と響の魚雷、追い打ちかける雷と電の砲撃。

 その一斉攻撃を身に浴びせられたル級は大破寸前の状態へ陥ってしまう。

 

「ありゃりゃ、しつこいファンは嫌われるよー?」

 

 言いながらトドメの一撃を放ったのは那珂。

 放たれた主砲の砲撃は見事にル級へと吸い込まれ、海へと沈む。

 

「でも最初の那珂ちゃんの魚雷が当たっていればしつこくなかったと思うわっ!」

 

「そ、それは言っちゃ駄目なのですっ!」

 

 ル級へと放たれた魚雷は三人分。そのうち那珂の魚雷だけが外れていた。

 

「て、てへっ!」

 

 誤魔化すように笑う那珂。

 

 決して上手な砲撃でも魚雷発射でもなかった。練度から見れば榛名達のほうが格上だと感じられるものだった。

 

 それでも結果オーライと言わざるを得ない那珂のスマイル。

 

「そ、それよりもっ!」

 

「榛名さん」

 

 作戦の変更があったのかと那珂へ詰め寄る霧島を余所に、旗艦である榛名へと真面目な顔を向ける那珂。

 

「ここに、雷ちゃんと電ちゃんを預けていくよ。それで何とか持ちこたえて欲しいな」

 

「っ!」

 

 前線への道筋を確保する重要性は言うまでもない。

 

 だが、この場に駆逐艦二隻を残して何になるというのか。

 疑問が榛名の口から出る寸前で止まったのは、それで勝てる、持ちこたえられると確信しているような那珂の顔。

 そして、その通りだ任せなさいと言わんばかりの表情を浮かべた雷と電の姿。

 

「私達は確かに砲撃も魚雷もまだまだ下手っぴ。今ル級を撃破したのだってまぐれだよ? でもね?」

 

 疑問を察したように那珂は言う。

 それでも心配するなと那珂は言う。

 

「誰かを……何かを守る事だけは、できるから」

 

 それが第三艦隊、本当の役目。

 

 撃沈、撃破を目的とした出撃でもなければ輸送任務でもない。

 

 ただ、何かを守ることだけに特化した艦隊。

 

 その技術を以て暁は霞を庇ったのだ、護衛したのだ。

 

「安心してっ! 皆は攻撃に集中してくれていいのよっ!」

 

「……はい、言いたいことはあるのですけど、司令官が見てる前では誰も沈めない。それが最優先任務なのです」

 

 息を呑むのは第二艦隊。

 

 榛名も、霧島も、翔鶴も、神通も、鳥海も……霞でさえも。

 

 全員が圧倒された。

 誰も沈めないと言っていた、そう覚悟をしていると言っていたモノに圧倒された。

 

「よっし! それじゃ暁ちゃん! 響ちゃん! 行くよっ!」

 

「了解っ!」

 

 もう言葉は無いと振り向きもせず先をゆく那珂達。

 その背中は信じろという文字が書いてあるように思える。

 

「そんなんじゃ駄目よっ!」

 

 呆然と見送る第二艦隊へ雷が言った。

 言葉通りそんな状態じゃ駄目だと活を入れた。

 

「そうなのです、まだ戦いは終わってないのです。気を抜いてる場合じゃないのですよ? ねぇ、霞ちゃん?」

 

「ぐっ、ぬぬぬっ! ふんっ! そんな事言われないでもわかってるわっ! ガンガン行ってやるわよっ! あんた達こそしっかりしなさいよ!」

 

 からかうように水を向けられた霞は顔を赤らめいつもの調子に戻る。

 その様子を見て、我に返っていく第二艦隊達。

 

「神通さん……よね? 他に危ない人が出ない限り私はあなたにつくわっ! よろしくねっ!」

 

「……はいっ! よろしくおねがいしますっ!」

 

「それと、榛名さん」

 

「は、はい」

 

 一人未だ呆けている榛名へと雷は胸を張り、自信ありげに言う。

 

「私達への指示は要らないわっ! 損傷させてはいけないなんて考えないでねっ!」

 

「はい、いつもどおりの六人で思いっきりやってほしいのです」

 

 榛名は。

 

「はいっ! ありがとうございますっ! よろしくおねがいしますねっ!」

 

 新たに憧れを見つけた。

 

 この小さくも頼もしい二人は言外に言ってるのだ。

 

 あなた達を沈ませないし、私達も沈まないからと。

 

 ――本当に、墓場鎮守府は……!

 

 何故か湧き上がりそうになる涙。理由はわからない、理解できない。

 

 ただ、思うのだ。

 

「っ! 敵機見ゆ!! 今度は艦隊で来ますっ!」

 

「はいっ! 榛名、全力で参りますっ!」

 

 強く蓋をせざるを得なかった、金剛を犠牲にしたくないという想い。

 それを、諦めなくて良いのかも知れないと。

 

 

 

 仲間を助けるなんて当たり前。

 そして頼まれたのならば。

 

「全力で応えるのがレディよっ!」

 

「ウラー! その通りっ!」

 

 戦意を漲らせる暁と響に力を分けてもらいながら、強がっている自分を奮い立たせる。

 

 自覚していた。

 第三艦隊旗艦として振る舞う、頼りがいがあって強い那珂を演じている自分という存在を。

 

 本来の自分はあまりにも頼りなくて、か細い。

 

 それでもそんな自分が唯一誇りに思っている事がある。

 

 ――私は提督のファンで、あの人も私のファン。

 

 ならば応えよう、あの人が自分のファンでいてくれるために。

 

 それが、那珂の根源。

 揺るぎなく触れれば温かい立脚点。

 触れてしまえば折れそうな自分を支える強い点。

 

「見えたっ!! 暁ちゃん! 響ちゃん!」

 

 その点を曇らせたくない、ずっとずっとファンであり、アイドルでいて欲しい。

 

 だから戦う。

 今この時においては微かに見える第一艦隊の皆を窮地から救うために。

 

「了解っ! 行くわよっ! 響っ!!」

 

「もちろんっ!」

 

 那珂に合わせていた速度を変え、先行する二人。

 どういった窮地で、今一番に守らなければならないのは誰か。

 

 そんな訓練は山ほどやった、タンカー護衛で実践もした。

 

 先の霞を庇った時もそうだ、何を指示したわけでもなく暁は一番に助けなければならない者を助けた。

 

 だから大丈夫。

 

 そう思った。

 

 しかし。

 

「っ!?」

 

 大きな爆音が響いた。

 同時に、先行していた暁と響が足を止める。

 

「どうしたのっ!?」

 

「あ……あ……」

 

「う、そ……」

 

 震える視線を那珂が追えばそこには立ち上る爆炎。

 

「み、皆はっ!?」

 

 薄々感じている。

 

 爆煙を口元を歪めながら嗤う空母棲鬼の姿を見て。

 

 それでも信じられなかった、認めたくなかった。

 

 だが、それでも。

 

「……あそ、こ」

 

 暁の震える指先が示す先は揺らめく煙の中。

 煙の外には海へと座り込み、信じられないと言った表情を浮かべている古鷹と加古。

 

「うそ、だよ」

 

 口から出る言葉。

 

 分かっている、痛いくらいにわかってる。

 

 すなわち。

 

「嘘だああああああああ!!」

 

 守るはずだった、守ることができるはずだった。

 だと言うのに現実、目の前の光景は残酷で。

 

 ――間に合わなかった。

 

 叫んだ言葉とは裏腹に、何処か冷静な自分がそう告げた。

 




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