二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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提督が戦うようです

「鳳翔!」

 

「お側に」

 

「大淀!」

 

「はいっ!」

 

 補給が終わった様子の二人に声をかければ、すぐに返ってくる返事が頼もしい。

 

 目が言ってる、なんでも言ってくれと。

 

 そのことを心から嬉しいと思う。

 失敗したばかりの俺なのに……微塵も揺るがない信頼を向けてくれることに。

 

「海に出るぞっ! 俺の命を頼んだっ!」

 

「了解っ!!」

 

 我ながら適当かつ抽象的な命令だと思う。

 それでも一瞬の間すらなく返事をしてくれたことに、涙が出そうだ。

 

「ちょっと! いい加減にっ!!」

 

「言っただろ? これが俺の虚勢の張り方だ!」

 

 エンジンキーを回しながら、未だ止めようとしてくる妖精。

 その気持は嬉しい、俺の身を案じていることがわかるから。

 

「アンタが行って何になるの!? 砲撃も雷撃も出来ないっ! ただのいい的も良い所よ!? 犬死して艦娘を泣かせたいの!?」

 

「確かに何も出来ねぇ! だがよ……だが!!」

 

 だけど。

 

「一緒に……戦えるっ!!」

 

「っ!?」

 

 あいつらが知らないところで死ぬなんて嫌だ。

 あいつらをただただ待つことしか出来ない俺なんて嫌だ。

 

 怖い。

 

 怖いさ、言う通り犬死することだって!

 

 それでも、それでもだっ!

 

「なし崩しじゃない! 状況に慌てただけでもない! 俺の居場所に行くだけだっ!!」

 

 居場所。

 それは温かい鎮守府でも、砲撃飛び交う戦場でもなく。

 

 艦娘(あいつら)の隣。

 

 それが俺の居場所なんだからっ!

 

「あぁ……もうっ! バカは死ななきゃ治らないっ! わかったわよっ! 一回死んでらっしゃいなっ!!」

 

「ありがとう!!」

 

 そうして船の舵に取り付く妖精。

 あぁそうだっ! バカってのはバカに気づけねぇ! そりゃ死ぬくらいしか治す方法がないのかも知れねぇ!

 

 だったら俺のバカは一生治せねぇんだよっ! 死ぬ気はまっぴら無いからなっ!

 

「準備完了ですっ!」

 

 大淀が船に高速修復材の詰まったドラム缶を搭載してくれた。

 あぁ、流石よくわかってる。それでこそ、だ。

 

 ならば後は……っ!

 

「行くぞ……抜錨だっ!!」

 

「了解っ!」

 

 スロットル全開で征くだけだ!

 

 

 

「横須賀第二艦隊見ゆ! 戦闘中です!!」

 

「鳳翔っ!!」

 

「お任せ下さいっ!」

 

 偵察機からの情報を伝えてくれる大淀。

 前方はもちろん、この船の周囲に深海棲艦が見えないかも気を配りながら。

 

 そんな中鳳翔は弓を番える。

 まだ見えないはずの敵艦の姿を見ようと目を細めている姿はこんな時じゃなかったら間違いなく見惚れてるだろうな。

 

「風向き、よし。航空部隊、発艦!」

 

 妖精が宿っているだろうその矢が放たれる。

 そして風切り音を響かせながら飛ぶ矢がその姿を変えた。

 

 ――直上、急降下。

 

 爆撃機へと変化した矢は獲物に向かってその機体を降ろして……。

 

「よしっ!」

 

「深海棲艦の撃沈を確認っ! 周囲敵影見えずっ! 横須賀第二艦隊も無事ですっ!」

 

「よくやったっ! 流石だ鳳翔!!」

 

 思わず親指を上げて鳳翔へと向けてみれば、照れたように小さく頭を下げる鳳翔。可愛いっ!!

 

 ……あぁもうっ! そんな事思ってる場合じゃねぇってのに俺ってやつはっ!!

 

「敵影なしなら……大淀! 鳳翔! 先行して味方艦隊の損傷を確認っ! 中破以上の損傷を受けている艦娘にはドラム缶だ! そのまま周囲警戒に努めろっ!」

 

「了解ですっ!」

 

 二人が勢いよく走っていくのを見送る。

 

 ふぅ……一旦落ち着け、俺。

 

 さて、どうするか。

 

 既に横須賀第二艦隊へ援護に入っている雷と電をこの船につけて先を行けばまず間違いなく無事にたどり着けるだろう。

 だが、それほどまでの戦力を俺につけて良いのか、それが問題だ。

 

 合流する前までの戦い振りを見るに、援護は絶対に必要と言える。

 ましてや両翼の動き、どんどんここに向かってくる深海棲艦の数は増えている事を考えれば……。

 

「ちょっと、今更怖気づいたの?」

 

「……はっ! 馬鹿言ってんじゃねぇ!」

 

 ったく、羅針盤状態でんなこと言ってんじゃねぇよ。

 

 ともあれ、横須賀第二艦隊だけじゃあこの戦いが終わるまで持ちこたえるのは難しいだろう。

 持ちこたえるだけならば六駆だけで十分かも知れない、だが……。

 

 後、一時間と言われたタイムリミット。

 時計を見てみれば残り四十五分。

 

 その時間以内に終わらせることが出来たとしても持ちこたえているだけならば、その場を放棄して弱っているだろう、空母棲姫と戦った艦隊へと挟撃に向かう選択肢だって相手にはある。

 

 釘付けにする必要がある。

 守っているだけじゃあ駄目だ、積極的攻勢が必要なんだ。

 

 なら。

 

「っ!?」

 

「っ! 無事か!? 榛名!」

 

 考えている内に到着した。

 見れば横須賀の皆は驚いたように俺へと視線を投げつけてくる。

 

 ……いや、よせやい。照れるじゃねぇか。

 

「ど、どうして――」

 

「気にするなっ! いいか? 俺達から打って出るぞ?」

 

 そう言ってみれば、驚いた表情を信じられないものを見る目へと変化させる霧島。

 

 確かに驚くだろう、守っているだけで精一杯なんだ、攻勢に出るなんて発想が出るわけもない。

 

「こ、このクソ提督っ! 状況わかってるの!? 守ってるだけで一杯一杯なのにっ!」

 

「守ってたら金剛達を助けられるのかっ!?」

 

 霞がまんま俺の考えていた事を否定してくるけど、それじゃあ金剛を助けられないんだ。

 

 わかってる。

 

 それがどれ程厳しいことなんて十分にわかってる。

 

「……何か手が、あるのですか?」

 

「もちろんだ」

 

 神通が探るように聞いてくる。

 神通だけじゃない、鳥海も、翔鶴も。

 金剛を、横須賀第一艦隊を助けたいんだ。その希望があるなら聞きたいんだ、知りたいんだ。

 

「お姉さまを……助けられるのですか?」

 

「そうだ、助けられる……いや、助けてみせる」

 

「金剛姉さまを……諦めなくて良いのですか?」

 

「そうだ、諦める必要なんて、ない」

 

 霧島が、榛名が信じられないように、縋るように聞いてくる。

 二人が……この場にいない比叡でさえも、横須賀の艦娘全員がそうだろう。

 

「……お願いします」

 

「おう」

 

 俯かせていた顔。

 その顔を。

 

「横須賀鎮守府第二艦隊っ! これより提督の指揮に入りますっ! どうか……どうか金剛姉さまをよろしくおねがいしますっ!」

 

「任せろっ!」

 

 涙を振り切るように敬礼をしながら上げた。 

 その敬礼に続く、随伴艦の面々。

 

「いいか? ここで敵がやってくるのを待っている必要なんてない。艦隊を二つに分けて左翼、右翼へと進軍する」

 

 今この場にいる戦力は横須賀の六人。榛名、霧島、翔鶴、神通、鳥海、霞。

 それに加えてうちの鳳翔、大淀、雷、電の四人。計十人の艦娘がいる。

 

「左翼に鳳翔を旗艦とし、霧島、神通、霞で進軍。右翼に榛名が旗艦で、翔鶴、鳥海、雷で進軍。大淀と電は俺と一緒に中央を突破だ」

 

 少なくなってきたとは言え、両翼の戦いはまだ続いている。

 それらに合流するように向かって進軍すれば、敵を挟撃する形になるだろう。あわよくば、両翼に展開している他鎮守府の戦力と合流することが出来るかも知れない。

 問題は。

 

「私達に……出来るでしょうか?」

 

「出来る」

 

 榛名が不安そうに言う言葉。

 それに向かって断言できる。

 

「皆の任務は唯一つ。生きて帰ってきた金剛を、第一艦隊を笑顔で迎えること……いわば今からの進軍はそのついでなんだぞ?」

 

「は……ぅ」

 

 この任務だけは放棄できねぇよなぁ? 受ける前から躓いてらんないよなぁ?

 

「俺から言えることも唯一つ。生きてこの任務を達成してみせろっ! それだけだっ!」

 

 一瞬訪れる静寂。その後に。

 

「――了解っ!!」

 

「よしっ! いくぞっ!!」

 

 全員が揃った敬礼を俺に向けてくれた。

 

「鳳翔」

 

「わかっています。……必ず、私も、皆も無事に帰らせます」

 

「雷」

 

「ふふーん! 司令官に頼られて失敗する私じゃないわっ! まっかせて!」

 

 あぁ、大丈夫だ。

 

 信じてる。

 

 

 

 残り、三十分。

 

「提督っ! 敵艦隊見ゆっ! どうされますかっ!」

 

「ちぃっ! そう上手くは行かねぇか……!」

 

 大人しく両翼に展開しておけばいいってものを……!

 

 だがどうする? こっちの戦力は軽巡洋艦と駆逐艦、大淀と電だけ。

 深海棲艦の単艦ならともかく艦隊を相手にするだけの戦力はねぇ……。

 

「司令官さん」

 

「どうした!? いなず……っ!?」

 

 船に寄ってきた電の顔を見てぞっとした。

 

「任せて欲しいのです」

 

 その顔に宿ったあまりにも強い決意の表情。

 

「っ! 駄目だっ! お前――」

 

「沈むつもりは欠片も無いのですよ? ただ、見て欲しいのです。司令官のおかげで強くなれた電の姿を」

 

 我が身を犠牲にしても。

 なんて覚悟が垣間見えたのは全く気の所為。

 

 決意の表情から、初めて見るけど知った笑顔を向けてくれた電。

 

「私は……フラワーズは守ることに特化した艦隊。ここから第一艦隊、那珂ちゃん達がいるところまでなんて……難しくもなんとも無いのです」

 

「……わかった。電、頼んだぞ」

 

「了解なのですっ!!」

 

 そう言って速力をあげ走る電。

 

「大淀っ!」

 

「はいっ!」

 

「電のフォローに注力しろっ! 後少し……頼むぞっ!」

 

「了解ですっ!」

 

 その後を追従する大淀。

 

 二人が、会敵する。

 

「電の本気を見るのですっ!」

 

 砲撃、その砲撃は敵艦隊旗艦の軽巡洋艦ホ級エリートに直撃した。

 だが、大きな損傷はなく、よくて小破止まりで……。

 その頭を電の方向へ向け――

 

 ――ようとした。

 

「ふふふっ! そっちじゃないのですよっ! 鬼さんこちらっ! なのですっ!」

 

 まじかよ……向くまでもなくその真正面に立つ、だと?

 

 っていや! 驚いてる場合じゃねぇ! あいつ……!

 

「おっと残念なのでしたっ! これはお返しなのですっ!」

 

「……は?」

 

 思わず間抜けな声が出た。

 

 いやいやありえねぇだろ! 何でそんな簡単に避けられるんだ!? 相手艦隊の一斉射だぞ!?

 

 それでも踊るように……いや、遊ぶようにひらりひらりと身を躱し続ける電。

 

 一体何が起こってる? 俺は今、何を見てるんだ?

 

 ただただ避ける。そうして合間を縫ってコツコツと砲撃をホ級へと積み当てる。

 

「……すごい」

 

 大淀も思わずと言った様子で呟いてた。

 同感だ、そんな言葉しか出てこない。

 

 そんな時。

 

「……提督っ!」

 

「っ!?」

 

 電の相手を諦めたのか、こちらに標的を定めた敵艦隊。

 濃密な殺意が向けられていると実感して、少し足が震える。

 

 ……こんな相手と戦っていたのか。

 

 思わず逃げたくなる気持ちが鎌首をもたげる。

 

 だけど。

 

「おーっと! そっちじゃないのですよ!」

 

「電!?」

 

 突撃した。

 恐らく自分を標的とさせるために。

 

 そしてそれは……。

 

「駄目だっ! 罠だっ!」

 

 獲物がかかったと笑うように口を開け、砲塔を覗かせた深海棲艦達。

 

 ――やられる。

 

 そう思って逃げろと口を開こうとした瞬間。

 

「そこなのですっ!」

 

「!?」

 

 その砲塔に向かって鋭い砲撃が放たれた。電の主砲から。

 

「罠にかかったのはどっちなのです?」

 

「は、はは……」

 

 もう笑うしかねぇや。

 

 ホ級、自身の砲弾誘爆もあり、撃沈。

 敵艦隊は残り三隻、いずれも駆逐ロ級エリート。そのどれもが呆気に取られている。

 

 電がどうですかと言わんばかりに俺へとドヤ顔を覗かせてくる。

 

 その姿を見て、理解した。

 

「守る、か」

 

「提督?」

 

 あぁ、確かに俺は守られた。

 だがそれは結果的に、だ。

 

 戦い方は何処か、夕立と龍田に似ている。

 躊躇わない突撃、相手の動作に自身を重ねる様。

 あの二人相手に、必死に演習を重ねた成果だろうか。

 

 ……なんて、複雑に考える必要はない。

 

 要するに電は自分を守ったのだ。

 敵の攻撃を自分に向けさせ、その攻撃から自分を守った。

 その結果相手は倒れ、俺は守られた。

 

「なんてこったい……」

 

 完敗だ。

 六駆の中で一番伸びたとは思ってた。

 でもそれはどうやら第三艦隊の役目という枠を越えていたらしい。

 

「そうだよな、お前はそうやって皆を守ってきたんだもんな」

 

 一番伸びるわけだ。

 盾で収まるような電じゃなかったわ。

 

「沈んだ敵も、出来れば助けたいのです……」

 

 あぁ、はいはい。

 本音だろうよ確かに。

 

「だから……そこを退くのですっ!!」

 

 だが電さんよ、もうそれ、ただの脅し文句になってんぞ?

 

「提督!」

 

「あぁ……遠慮なんていらねぇ! 大淀も行ってこい!!」

 

「はいっ!」

 

 まったく、頼もしすぎるな。うちのやつらは。

 

「だから後は……」

 

 任せとけ、その力を振るう価値がある俺だって見せてやるから。

 

 

 

 残り時間はあとどれだけか。

 

「見えたっ!!」

 

「提督っ!?」

 

 天龍が驚いた視線を向けてくる。

 

「金剛……横須賀第一艦隊はっ!?」

 

「っ、この先だっ! オレ達はここの確保を指示されてるけど……行くのか!?」

 

「あったぼうよっ! 天龍! 言いたいことは沢山あるけどっ! まずは先にこの戦い終わらせるぞ! そいつら食い終わったらすぐに来てくれっ!」

 

 天龍達が相手しているのは戦艦ル級フラグシップ率いる艦隊。

 簡単に倒せる相手じゃねぇってのはわかるけど。

 

「おうっ! 先に行って待ってろっ! オレ達もすぐに行くっ!」

 

 頼もしすぎる返事。それに続く龍田達の頷き。

 

 あぁ、大丈夫だ。

 こうして無事な姿が見られて良かった。

 

 ほんとに、すまねぇ。

 後でいくらでも謝るから……今は。

 

「よしっ! 那珂っ! 暁! 響! 行くぞっ! 俺を守ってくれっ!!」

 

「んもうっ! ファンがステージに登ってくるのはマナー違反なんだからねっ!」

 

「その通りよ司令官っ! 折角のお披露目なのに!」

 

「でも……頼まれたからには」

 

 ――全力で応えるよっ(了解)

 

 

 

 残り時間は――

 

「こんごおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「っ!?」

 

 ――ゼロ。

 


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