二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

68 / 114
金剛が戦うようです

 不器用な人、そう思いました。

 

 いつでも頭を抱えて。

 どうすればあの海域を攻略できるか、どういった艦隊を組めば皆の力を引き出せるか。

 

 どうすれば、誰も傷つかないで済むのか。

 

 そればかりを考えている人でした。

 

 初めて出会った時は、戦艦である私にすごく嬉しそうな顔を向けてくれて。

 

 これでもっと安全に勝利することが出来ると喜んでくれました。

 

 嬉しかった。とても。

 だから私も精一杯期待に応えたいと思いました。

 

 海を征く私、それを見守ってくれる提督。

 

 戦いは大変でした。

 生まれたばかりの私では中々期待に応えることが難しくて。

 それでもなんとか帰る度に次は頑張ろうと、もっと上手い作戦を立てられるように頑張ると言ってくれました。

 

 やがて比叡が建造されて、間を置いて榛名と霧島も着任できて、私達の戦力は増していって。

 横須賀の主力は金剛型姉妹なんて言われるようになりました。

 

 未だに突破できない日本と南西諸島海域の間にある壁。

 それでもいつか必ず突破してやると戦意は高まるばかりでした。

 

 でも、その戦意から実る力が花を咲かせることはありませんでした。

 

 南一号作戦。

 

 横須賀方面の名高い艦娘が集った一度目の作戦。

 

 必ず突破する、突破できると意気込む私達は……空母棲鬼率いる艦隊に敗北しました。

 

 横須賀鎮守府の仲間、他の鎮守府の仲間。

 次々と海に沈んでいきました。

 

 ――金剛さんがいれば必ず……!

 ――私達の後を……頼みましたっ!

 

 私さえいれば、必ず巻き返してくれる。

 今は負けても、必ず雌伏の時を乗り越えて必ず勝利してくれる。

 

 そう言って私を生かすために沈んでいきました。

 

 悔しさで頭がおかしくなりそうでした。

 

 どうして、どうしてと何度も心が泣きました。

 

 もしも、隣にずっと居てくれた比叡がいなければ、提督がいなければ。悲しみの海に沈んで二度と浮かべることはなかったでしょう。

 

 横須賀に帰投して、修復作業に追われて。

 

 今度こそと出撃しようとしたときには、もう目の前にまで深海棲艦達はやってきていました。

 

 そこで、言われたのでした。

 

 ――今からすることが正しいかは、歴史家にでも聞いてくれ。

 

 在籍艦娘を横須賀鎮守府から出撃させず、他鎮守府より出撃させる。移動するその間、横須賀鎮守府そのものを囮にする。

 

 到底頷ける作戦じゃなかったのに。何処か艦娘を犠牲にすることを嫌っていた提督らしさを感じて納得しそうになって。

 南一号作戦で散った多くの艦娘、その多くの命に涙し、心を痛め続けた彼の気持ちが痛いほど伝わってきて。

 

 もう艦娘を散らしたくない。

 もう誰も悲しませたくない。

 

 その想いに私は初めて負けたと思いました。負けたと思ってしまいました。

 

 そして、一人の英雄が執った作戦は成功しました。

 いえ、完全勝利は出来ませんでした、撤退。退けることに成功しました。

 

 瞬間、私は膝を折りました。

 悲しみに浸りました、提督の死に沈みました。

 

 そうしたことを、今でも悔やんでいます。

 

 一歩も動けないくらいに落ち込んでいる間に執られた墓場鎮守府建造作戦。

 

 更に多くの艦娘が沈みました。

 

 後を託されたのに。

 

 想いを無下にしてしまいました。

 

 だから。

 

「サンキュー……天龍。アナタ達はこの場所を確保しておいて下サイ」

 

「……わかった! 金剛さんよ……沈むんじゃねぇぞ?」

 

 返事は出来まセン。

 

 ですが、見事空母棲鬼を撃沈したあなた達に敬意を捧げ。

 そしてこの世界の未来を託しマス。

 

「っ……! 私たちの出番ネ! フォローミー! 皆さん、ついて来て下さいネー!」

 

「了解っ!!」

 

 あなた達と、あなた達の提督に。全ての艦娘に祝福を。

 

 そして今こそあの人と沈んでいった皆の悲願を……!

 

「果たしてみせマスッ!!」

 

 そのためならなんでもしてみせマス。

 たとえ、この身を海に沈めることになろうトモ。

 

 

 

 空母棲鬼……いや、それを遥かに超える存在。……姫、空母棲姫とでも言うべきでショウカ。

 出会ったことも、見たことも、知ったこともない存在のハズ。

 

 だけど、私の記憶が言ってマス。

 

「ヘイッ! 瑞鶴っ!」

 

「はいっ! アウトレンジで……決めるっ!!」

 

 あれはあの時の空母棲鬼ダト。

 

「シズメ……!」

 

 墓場鎮守府の皆さんと同じように新たな力へと目覚めたのでショウカ、それはわかりまセン。

 

 瑞鶴さんの艦載機と空母棲姫の艦載機が交わり……ほぼ無傷の敵攻撃機と爆撃機が向かってクルッ!

 

「うそっ……!?」

 

「シィット! 摩耶っ!!」

 

「おうっ! ぶっ殺されてぇかぁ!?」

 

 摩耶さんの対空射撃に合わせて私と比叡も斉射する……デスケドっ!

 

「げっ!?」

 

「対空防御態勢っ!!」

 

 そのほとんどが撃墜させることも、出来マセンカ……!

 

 ……これほど、強いと言うのデスかっ! あの時より遥かに……強いというのデスかっ!

 

「皆サンッ!?」

 

 摩耶さんが中破……いや、大破と言っても過言ではありまセン。

 比叡と瑞鶴さんは小破、デスガ……。

 

「くぅっ! こんなの、かすり傷なんだからっ!!」

 

「ひえぇ!? でも、まだ気合いっ! 入ってますっ!」

 

 よし、大丈夫そうデス!

 戦闘中じゃなければ、以前までドコカ自信なさげだった瑞鶴さんの戦意が衰えていないことを褒めてあげたいところですが……!

 

 決断、するタイミングなのかも知れまセン。

 

 まだ互いの先制航空攻撃を躱しあっただけ、互いの制空権を奪い合っただけ。

 あまりに早すぎるタイミング、ですが。

 

「お姉さまっ!」

 

 わかっていマス。

 これ以上の損傷が出れば、全員沈む可能性が高まると。

 

 出来れば普通に戦って勝利を掴み取りたかった。

 叶うことなら長門達にその手を汚させたくはなかった。

 

 デスガ。

 

「……皆さん、墓場鎮守府の戦い方は覚えてマスネ?」

 

「こ、金剛さんっ!? まさか……もうっ!?」

 

「ま、待って下さいっ! 朝潮は……私はまだ大丈夫っ! やれますからっ!」

 

 川内さんと朝潮さんがやめろと言ってくれる。とても嬉しいデス。

 ですけど、その希望に縋る、吟味する時間は無さそうなのデス。

 

「今からすることが正しいかは、歴史家にでも聞いて下サイ……比叡っ! 指揮を頼みマスヨッ!!」

 

「つっ!! く、う……うぅ……!」

 

 比叡っ!!

 

「了解っ!! 比叡っ! 気合い、入れてっ! やりますっ!! ご武運をっ!!」

 

「……サンキュー、比叡。大好きデスヨ」

 

 艦隊から、離れる。

 

 背中の方から、私の名前を呼ぶ声がスル。

 

 あぁ……ソウ、グッド……悪くありまセン。

 あなたの気持ちが少し、わかった気がしマス。

 

 ――後は、頼んだぞ。

 

 はい。お任せ下サイ。

 

 あぁ、あぁ。

 

 後を託せると言うのは、こんなに気持ちの良いものなんデスネ。

 

 信じられる仲間がいる、憂いはありまセン。

 

 そう言えば、こんな言葉がありまシタ。

 

Today is a very good day to die(今日は沈むには良い日です)

 

 さぁ、行きましょう。

 

 

 

「撃ちますっ! ファイヤー!!」

 

 ふふっ! そうデス!

 これくらいじゃあ、あなたに損傷と呼べるものなんて与えられないっ! そんな事、わかってマス!

 

「ワタシはっ! 食らいついたら、離さないネッ!」

 

 だから精々私を舐めて下サイ、侮って下サイ。

 あの時と同じようにっ!

 

 そうデスッ! あの頃から私は変わらないまま……あなたの目の前に立っているっ!

 

「ナンドデモ……ナンドデモ……シズンデイケ……!」

 

「くぅっ……!!」

 

 懐かしいっ! そうデスっ!

 私はこの艦載機にやられましたっ! それデモッ!

 

「甘すぎるネッ!!」

 

「!?」

 

 変わらないのは気持ちだけっ! 憎くてたまらないっ! 提督を散らせたあなたがっ! それを許した私がっ! 

 だから一緒に沈みましょうっ! この世界を呪って沈みましょうっ! 

 

 そう、何ということはありません!

 

 私は……ワタしはっ!!

 

「……ユルさナイッ!!」

 

 許さない、ユルセナイ。

 

 ダれが、多くのカンむすを悲しミにシズメた?

 ダレのせいデ、オオクのいのチを散らセタ?

 

「はハッ! アはハハハはハッ!!」

 

 アあ、モウ、イタくナイ。

 

 カナシくモナイ。

 

 スベテがユルセナイ。

 

 ワタシヲノコシテイッタテイトクモ。

 イノチノショウモウニイタマナイニンゲンモ。

 

 ムリョクナジブンモ。

 

「「シズメ……シズメェ!!」」

 

 アナタモ、ソウデスカ。

 ユルセナイノデスネ。

 

 ワカル。

 

 ムネンニチラサレタ。

 

 ネガイモ。

 キボウモ。

 

 スベテ、チラサレタソンザイダト。

 

 ソウカ。

 

 ダカラ、ソウ、ナッタノカ。

 

 ナラ、ワタシモ――

 

「――チ、がいマスッ!!」

 

 アイずガ、ミエます。

 もうスグ、ウッテ、クレます。

 

 怒りニ……悲シミに……沈むのハ……。

 

「ナ!?」

 

「ソレからでいいデスッ!!」

 

 遠くデ、ほうゲキのオとガキコエタ気がしマス。

 暴レないデクダさい。

 

 一緒に、沈んであげますカラ。

 

 一人ぼっちは、寂しいデスから。

 

 いくらデモ、聞きマス、聞かせてクダサイ。

 あなたの呪いヲ。

 

 

 

「こんごおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「っ!?」

 

 は、イ……?

 

 ナンで……アナたが……ココに? 

 

 アレは、ふネ?

 セマって、船が……!?

 

「バカヤロウっ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 ナガとが、むツが撃っタ弾が来たワケでもないノニ。

 大きナ、衝ゲキが。

 

 ……いたイ。

 

「うおぉっ!」

 

 船カラワタしの身体ニ飛びつク、抱きツクように。

 そのチカラは大しタものジャないのに、空母セイキの身体ヲ手放してシマウ。

 

 離れタ、空母棲キへ船が激突シテ、そこに。

 

「ぬぉおわあああああ!?」

 

「っく!?」

 

 長門タチの砲撃が飛んでキマシタ。

 条件反射のヨウニ彼を庇ってしまう。

 

「ば、バカデスカあなたはっ!! 何でこんな所にっ!!」

 

「うるせぇ! 馬鹿に馬鹿なんて言われたくねぇっ!!」

 

 ナッ!?

 

 馬鹿はあなたでしょウ!?

 戦う力もないくせにっ! わざわざ死にに来るようなヒトのくせにっ!

 

 第イチっ!

 

「馬鹿じゃないならなんデスカッ! 私のテイトクでもないのにっ! そんな言葉を言わないで下サイッ!」

 

「そうだっ! 確かに俺はお前の提督じゃねぇっ! だがなっ……だがっ!!」

 

 

 ――戦友にはなれるっ!!

 

 

「は……い?」

 

「戦友がお前を沈めていいなんて思うかっ!? 戦友がお前を沈めたいと思うかっ!? ……思わねぇっ! 全くもって思わねぇよっ! 金剛っ!!」

 

 何、を。

 言ってるのデスか? この、人は。

 

「見ろっ! あいつらは何のために戦っているっ! 見ろっ! あいつらの悲しそうな顔をっ! 誰も……誰一人としてっ! お前の死なんて望んでねぇっ!!」

 

「っ!!」

 

 分かってマス、分かってマスっ!!

 そんなことは分かっているんデスっ!

 

「それでも必要なんですっ! 私が空母棲姫に勝つためには! あの人の願いを叶えるためにはっ!!」

 

「あぁっ!? あの人の願い!? 金剛を沈めることを許すと言ったのか!? 沈めたいと言ったのか!? 言ったならそいつはただのクソだっ!!」

 

 クソ!?

 あ、頭に来ましたっ!

 

「取り消して下サイッ! 提督は、提督はクソじゃないデス! 私達の無事をいつだって願っ――」

 

 ――あの人は。

 そうだ、あの人はいつだって。

 

「だろうよっ! 提督って存在(ヤツ)はなっ! いつだって艦娘の無事を祈ってるっ! 戦友がいつだって無事に帰ってくることを祈ってんだっ! 待ってんだっ! 笑顔で帰ってくることをっ! そしてそれは提督だけじゃねぇっ!」

 

 無事を祈ってる、願っている。

 

 提督だけじゃない。

 

 それは、誰?

 

「海で戦う全ての戦友がっ! お互いの無事を願ってるっ! 金剛っ! お前は違うのかっ!? 答えてみろっ! 金剛っ!!」

 

「わ、わたし……私は……」

 

 しがみつくように、縋るように掴まれた肩が、痛い。

 生きてくれと懇願されている、生かそうとしてくれる気持ちが、痛い。

 

 ――後は、頼んだぞ。

 

 あの人の、言葉。

 それは、どういう、意味デシタ?

 

「ちぃっ!! 横須賀第一艦隊っ!!」

 

「っ!?」

 

「金剛をっ……戦友を守れっ!! 随伴艦は俺達墓場鎮守府に任せろっ!!」

 

 何か、言っている。了解という返事が聞こえた気がシマス。

 

 戦友?

 

 あぁ、そうデス。

 

 私は、あの人と一緒に戦って……今も。

 

「戦って、いマス」

 

「っ!? そうだっ! 金剛っ! 戦ってるんだっ! 戦友の意思を、命をっ! 願いを守るためにっ! 生き抜こうとしているんだっ! 金剛っ!!」

 

 後は、頼んだぞ。

 

 その言葉の意味。

 

「生きてくれ……そう言ったというのデスか、提督は」

 

 自分の、艦娘の仇を討ってくれと。南一号作戦の成功を託したわけじゃない、というのですか。

 

「教えて下サイ、提督(・・)。あなたは、私に、生きて欲しいと、願うのデスカ?」

 

 教えて下サイ。

 同じ、提督なら。

 共に戦う戦友ダト言うなら。

 

「当たり前だっ!! それは、それだけはっ! 死んでも変わらねぇっ!!」

 

「っ!!」

 

 あぁ……あぁ……。

 

 なんて、温かい……っ!

 

 それは、さっき感じた心地よさなんて比べ物にならナイ!

 

 そうデス! 私もソウ!

 確かに感じていたのデス!

 

 困ったような顔をしたあの人とのティーパーティ。

 嫉妬した比叡が無茶を言って! 榛名が楽しそうに笑って! 霧島があの人と同じように困った顔をしていマシタ!

 

 覚えている、覚えていマス。

 

 あの時あれほど心地よいと、幸せだと噛み締めていたはずなのにっ!

 

「……ヘイ! お馬鹿さん(マイフレンド)!」

 

「おう」

 

「泳げ、マスネー?」

 

「あったぼうよ!」

 

 回されていた腕が、手が、離される。

 さっきまで感じていた痛みがなくなったことに、寂しさを感じてしまいマス。

 

「私の活躍、見ていてくださいネ? 頑張るから目を離しちゃノー……なんだからネ!」

 

「あぁっ! 特等席で見せてもらうぜっ!!」

 

 前を、向く。

 

 そこには私の戦友が戦っている姿。

 

 涙が、浮かぶ。

 

 景色を滲ませている暇なんてないとわかっていマス。

 

 だけど。

 

「届いて……」

 

 手が震える。

 気づけば私の身体はボロボロで。

 今自分が海に立てている事が不思議に思えるくらい。

 

 そんな時。

 

 ――ようやく、私になれまシタネ。

 

 声が、聞こえた。

 

 ――ずっとずっと、待ってまシタ。

 

 ごめんなサイ。

 誰かはわかりませんが、私はようやく戦友と戦場(同じ場所)に立てまシタ。

 

 ――あなたの力になりたいと、願ってまシタ。

 

 こんなに弱い私デス。

 提督を言い訳にして、自分の弱さから逃げるような。

 

 ――だからこそ、デス。

 

 ありがとう。

 

 ――倒したいという気持ち、それは?

 

 皆と生きるタメ。

 

 ――生きるとは?

 

 守りたいと願い続けるコト。

 

 ――イエース! それがわかれば大丈夫デス! さぁ! 一緒に戦いまショウ!!

 

 ハイッ!

 

「金剛――改っ!!」

 

 何かに突き動かされたように出た言葉。

 瞬間、手の震えが止まった。頼りないと感じていた身体に力がこもった。

 

「全砲門っ! 開いて下サイ!」

 

 私を見て驚いている、喜んでいる、泣いている仲間が見える。

 ボロボロになりながらも誰一人沈まず戦い抜いている戦友が見える。

 

 心配をかけてごめんなサイ。

 弱かった私でごめんなサイ。

 

 もう、間違えまセン。

 

 だから、届いて!

 

「バーニング……」

 

 届いてくださいっ!

 提督に、仲間に、友達にっ!!

 

 そしてあなたにっ!

 

「ラァアアアアアブ!!」

 

 轟音が響く。

 

 訪れた静寂。

 

「シズカナ……キモチニ……そうか、だから私は――」

 

 ずっと聞こえた、She is me(シズメ)という言葉。

 

 最後に零れた呟きの意味、先は理解できまセン。

 でも、空母棲姫が……いえ、彼女が私と同じように救われたということはわかりまシタ。

 

「や……った?」

 

 誰かが呟いた。

 それが誰かはわかりまセン、デスケド。

 

「やった……やったあああああ!!」

 

 光の粒子となり風に運ばれていく空母棲姫。

 

 美しくも悲しいと感じるその光景をみて。

 

「お姉さまっ!!」

 

 私にボロボロの身体で抱きついてきた比叡の体温を感じて。

 

「金剛」

 

「……はい」

 

 声に振り向けば海を泳ぐ彼の姿。

 

 あぁ、そうだ。

 やらなければならないことがありまシタ。

 

「手を……」

 

「……良いのか?」

 

 隣に並び立たせてもらえる時がきたらとこの人は言っていまシタ。

 

「はい。……いいえ、こちらからお願いしたいデス」

 

「そっか」

 

 それは今です。

 あなたは私の隣に並び立つに相応しい……いえ、並んで欲しい人。

 

「金剛」

 

「ハイ」

 

 あぁ、全然似ていないその笑顔。

 全然似ていない風貌だと言うのに。

 

「よく、やったな」

 

「……ハイッ!!」

 

 提督だ。

 提督に言ってもらえた。

 

 それが、とても嬉しくて、溢れる涙が止められなくて。

 

 ようやく、勝利と知ることができまシタ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。