二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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提督は忙しいようです

「お疲れ様です、提督。お茶を淹れてきますね」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 勝手知ったるなんとやら、司令長官室に備え付けられている簡易なキッチンへ向かう大淀を見送って一息。

 

 いやぁーきついっす。

 

 まったくやんなっちゃうね。

 横須賀鎮守府の提督を兼任するって話からまぁ大変になるのは覚悟してたけどさ、こういう大変さは想定外だよまじで。

 

 さっきの会議もそうだけど、居心地悪いのなんのって。

 なんか知らんけど敵意? なのかね、会議室に入った瞬間すんげー目で見られるわ、いちゃもんつけられるわとなんなの死ぬの?

 昨日那珂ちゃん達に会ってなかったら間違いなく魂飛んでたね、こう、白目剥いてる俺を見るというか。

 

 ていうのもあれだ、艦娘兵器派とかいう派閥の人。

 部屋に入るなり舌打ちされるわ、意見を言えば被せてくるわととても面倒くさい。

 こちとらただでさえお偉いさんと会議するってだけで神経すり減らしてんのに、なんだってんだ。

 

 だけどまぁ勉強になった、って言えば良く言いすぎかも知れないけど。

 思想に対しては全く理解を示せないが、今後の方針については頷ける部分が多かった。

 

 南一号作戦が成功して。

 確かに横須賀方面は安定していくだろうけど、日本から見ればそれは小さなもので。

 今後、俺は南西諸島へと出撃して行くもんだとばかり思っていたけど、そこにストップをかけたのは兵器派の人。

 横須賀だけ平和になろうともそれで全国を賄えるものじゃない、うちの戦力を他に派遣するってのは兵器派ならではの意見だったと思う。

 

 話に上がっていたのは舞鶴方面だけど戦況は厳しいらしい。

 ならそこで苦しんでるのは人もそうかも知れねぇけど、艦娘だってそのはずなわけで。

 そう考えて頷いてしまった。

 

 まぁ、頷きたくなかったんだけどね。

 何が悲しくて嫁と離れ離れにならねばならんのだ。

 なんて、そういう思いはある。

 

 幸い……と言うべきかゴネて欲しかったと言うべきか、天龍達は納得してくれた。

 まぁそれぞれに条件付けられたけど俺にとってもご褒美だからそれは良い。

 今頃は舞鶴に到着した頃かな? ……あいつらなら大丈夫なんて思うのは責任放棄になるんだろうか、わからん。

 派遣する条件として作戦内容に対する拒否権は確約してもらったし、滅多な事にはならないと思うけど……まぁ条件に対してめっちゃやる気出してたし、無事に帰ってくるのは間違いないだろう。

 

 そしてさっきの会議。

 

「お待たせしました……っと、もう一つ、ですね」

 

「あはは、済まないねタイミング悪くて」

 

「お疲れ様です」

 

 振り返ろうとした所で長官が帰ってきた。

 立って敬礼しようとした所を手で遮られ、前のソファがぎしりと音を立てる。

 

「君もお疲れ様、あと 鎮守府近海対潜哨戒作戦も順調なようで何よりだ」

 

「いえ、俺は何もしてませんよ。労いの言葉はぜひ彼女たちに」

 

 いやほんと。

 第三艦隊……フラワーズは南一号作戦を経て強くなったなと実感した、守る戦いはうち随一だと思う。

 元々は1-4を攻略すれば潜水艦ひしめく1-5……ってな考えでソナーや爆雷を使った対潜戦闘を視野に入れていたことも合わさり、見事な適役振りを見せてくれた。

 

 加えて霞。

 六駆と一悶着あったって話は聞いていたけど、鳳翔の勧めもあって第三艦隊へと組み込んでみたがいい刺激になったみたいだ。

 まぁその一悶着も俺が原因だって話だから謝ったんだけど……またこのクズ呼ばわりされて反射的にありがとうございますと言ってしまった、俺はもうダメかもしれない。

 

「そうだね、そうすることにするよ」

 

 そう言って柔らかく笑う長官。

 誰だこいつなんて言いそうになるのは仕方ないと思いたい。

 言ってしまえば大淀のことや南一号作戦含めて、この人に対してはあんまり良い印象を持ってなかったからね、仕方ないね。

 

「さて、早速だけど……さっきの会議についてどう思う?」

 

「そう、ですね……」

 

 さっきの会議。

 今後、横須賀鎮守府をどう運営していくかって話なんだけども。

 

 深海棲艦との戦いが始まってからすぐに建てられた鎮守府。

 それだけに、建造できる艦娘が極めて少ない。

 多くの艦娘がそこで生まれて、散っていったためだと考えれば少し複雑な想いがある。

 

「はっきり言って伝統だとか、横須賀最大の鎮守府だとか。そういうのに拘っている場合ではないと思います」

 

 当初出た話は横須賀鎮守府への引っ越し。横須賀の提督をメインに考え、墓場鎮守府を兼任するって形への移行。まぁ、やることは変わらんけど体裁の問題だそうな。

 墓場鎮守府の戦力もまるっと移してしまうってもので、長官と何故か兵器派の人らもこぞって推そうとしてきたけど……それには盛大に反発した。

 

「横須賀で新たな戦力を建造することが期待できない以上、別の利用方法を考えるべきです」

 

「ふむ……別の利用方法、か」

 

 実際、体力的だとかまぁキャパ的に現実的じゃないっていうのは勿論なんだけど、それ以上に嫌な予感がして。

 

 大淀と一緒に問い詰めてしまえば、中々腹黒い長官だったりすると知った。

 引っ越しを提案してきたのも長官で、その理由は大佐……いや、爺さんの後継者として俺を立てて、緩衝材として利用するつもりだったとか。

 実績も立て、爺さんの後継者的な意味合いを掲げてこの軍刀を持ち、さらに横須賀へと据えることで兵器派への睨みを利かせるなんて言ってた。

 

 その目論見は俺に却下されてしまったわけだが。

 

「加えて墓場鎮守府の位置。最前線であることに変わりはないですから、横須賀の最大戦力と言われているうちを動かすわけにはいかないでしょう」

 

 そういった理由もある。

 仮に横須賀鎮守府へ引っ越して、その後誰があそこに着任するのかって話だ。

 多分兵器派の狙いはこっちだったと思う。

 最前線であるから戦果をあげられた、そういう認識を俺に持ってるみたい。

 横須賀に俺を着任させるのには抵抗がある、だが、一旦座らせておいてる間に、兵器派が最前線に立ち、戦果をあげて横須賀提督の座を奪い返す。そういう狙いがあったんじゃないかと思う。

 

 そのせいでやんややんや言われたのよ……まじで疲れた。

 

「思想、派閥。軍のパワーバランスは一旦置いておいて。俺があそこから動くってのはナシで考えましょうよ」

 

「……やれやれ、そうだね、そうすることにしよう」

 

 軍の恥部であるとは自覚しているのか、少し恥ずかしげに笑って誤魔化す長官。

 

 とは言え俺も結構無茶苦茶言ってるってのは自覚してる。

 平たく言えば横須賀鎮守府を管理する権利だけ寄越せって言ってるようなもんだから。

 別に権利が欲しいわけじゃないけど、辞令が出てしまった以上仕方ない。自分の出来る身の丈を探さないといけないわけで、それが俺の出来る範囲だってだけだ。

 

「お待たせしました……ですが、別の利用方法と言いますが何かあるのでしょうか?」

 

「そうだね、それが無ければ……次の会議では押し切られてしまうかも知れないよ?」

 

 まぁそうなんだよな。

 軍人じゃねぇからっ! 軍属だからっ!

 なんて切り抜け……いや、ゴネただけなんだよな実際。

 

 じゃあ正式に軍に迎え入れよう、じゃなきゃ提督クビな。

 なんて言われたら頷かなきゃならねぇし、多分そういう方向で考えてきそうな気もする。

 長官自身その考えはあるのだろう、ゴネ始めた俺をフォローしてくれはしたけど、どっちかと言えば冷静になって考える時間を作ってくれたって意味合いが強いと思う、その上で納得しろってことだろうさ。

 なんせ、長官も俺を横須賀に据えたいと思ってるんだから。

 

「だけど君も大きくなったね、初めてあった時とは別人のようだよ」

 

「はい?」

 

 頭を抱えだした俺を見かねたのか話を変えた長官。ありがてぇ。

 

 まぁ、そうだな。

 ここに来た時の俺なんてドッキリだと信じてたし、そうとう間抜け面をしてたんだろうさ。

 

「くすくす……私も主砲を突きつけた方を提督と呼ぶなんて思ってもみませんでした」

 

 あぁ、そうだったそうだった。

 懐かしいなぁ……そのおかげで提督になれるんだーなんて実感できて、大淀に講習を受けて……ん?

 

「講習……?」

 

「どうしたんだい?」

 

 いやちょっとまって。

 そうだよ、講習だよ講習。

 あれって本来もっと時間をかけてやるものなんだよな?

 

「長官、俺が受けた講習……時間がないからってあんなんでしたけど、本来はどうなんです?」

 

「あ、あんなん……」

 

 あ、ごめん大淀、落ち込むな? うん。

 

「あぁ、本来は軍学校……提督養成校とも言えるか、そこで一年学んでから提督として着任することになってるけど……」

 

「それですよっ!」

 

 そうだよ、養成校!

 そうやって学んできた提督があのクソ提督みたいな有様だとか言うのにはちょっと気になるところだけどそれは良いとしてっ!

 

「横須賀鎮守府を養成校にしましょうっ! 艦娘のっ!」

 

「艦娘の……養成校?」

 

 艦娘は提督という存在と違って、何も知らないままに生まれた鎮守府の提督に従って戦う。

 古鷹や加古、鳳翔がそうだった、信じて疑わなかった普通。その普通を形作れる事が出来れば。

 

「そうですっ! 横須賀で艦娘建造が出来ない、けど設備や備蓄は随一でそれを腐らせるには勿体無い! 横須賀方面の安全は墓場鎮守府で確保して、練度の低い新米艦娘を育成する。そうして力を身につけた艦娘が卒業し、生まれた各鎮守府へ再配属される……そういうシステムを作りましょうっ!」

 

「ふむ……なるほど」

 

 我ながら会心の発想だと思う、フフフ、天才か?

 

 そんな発想を聞いて思案顔の長官と大淀。

 いやいや、悩みなさんな、素晴らしいと言ってくれればそれで良いのだよ?

 

「まず一つ、それは誰が教えるのかな?」

 

「そりゃもちろん俺が……」

 

「そうしてしまうと、墓場鎮守府の指揮は誰が執るのでしょうか?」

 

 う、うぐっ……そ、そりゃそうだけど……。

 

「加えて建造元の鎮守府、養成中はどうするのかな? 全てがそうとは限らないが、すぐにでも戦力を欲している鎮守府だってあると思うよ?」

 

「そ、そこは異動でなんとか……」

 

「難しいでしょうね。それが可能な程高い練度を持っている艦娘のほうが少ないでしょうし、よしんば居たとしてもその鎮守府に在籍している艦娘と息を合わせるのに時間を要してしまうでしょう、私が第一艦隊の皆さんへ中々対応できなかったように」

 

 はうあっ!? う、ぎぎ……。

 

「兵器派の支持も得られないだろうね、彼らは提督養成校の実権を握っているし……思想もそうだ。君のような意に沿わない者の思想を広めたくないだろうからね」

 

「そうですね、言ってしまえば共存、共生……親艦娘派の方々からは支持頂けるかも知れませんが、少数ですし」

 

 うぐぅ。

 

 ……。

 

「ふぅ……難しいですか」

 

「そうだね」

 

 ダメかーそっかぁ……いいアイディアだと思ったんだけどなぁ。

 でも勢いで言った案なんてそんなもんかも知れない……けど。

 

 かつてクソ提督の下にいた鳳翔達。

 沈んでも目的を達成しようとする強いけど悲しい決意。

 

 言わせてもらえれば、やっぱりそんなの間違ってると思う。

 甘いと言われようが、温いと言われようが。

 

 沈まなければ、また戦えるんだ、一緒に。

 

 だったら沈まないために、沈む前に力を付ける。

 そんなのがあってもいいと思うんだけどな。

 

「だからやってみようと思う」

 

「……はい?」

 

 え? なんて言ったのこの人。

 

 やってみよう? 何を?

 

「提督提督、顔が面白いことになってます」

 

「え? あ、お、おう?」

 

 いやいや、二人揃ってクスクス笑ってないでさ?

 えっと、まぁなんだ。落ち着いて?

 

「艦娘養成校、良いじゃないか、素晴らしい。確かにさっき挙げたような問題もあるし、もっと色々出てくると思うけど……長期的に見れば間違いなく横須賀の……日本の戦力を高める結果になるだろう」

 

「はい。そうですね、丁度横須賀にいた長門さん達もいることです、彼女たちをモデルとして墓場鎮守府内で色々試しながらシステム構築してみるのがよろしいかと」

 

「うんそうだね、実際横須賀鎮守府の艦娘達はまだ墓場鎮守府のやり方を理解できていないだろうし……テストケース、モデルケースとしてやっていきながら各方面へ働きかけてみよう」

 

 あー……うん。

 何やらお話が盛り上がっている所、大変恐縮なのですが。

 

「え、やるの? 艦娘養成校」

 

「うん? 君がそう言ったんじゃないか、やらないの?」

 

 うっそまじかよ。

 

 まじかよ。

 

「……やりましょうっ!」

 

「よし、それじゃあその方向で詰めていこう。差し当たっては明日の会議で頷かせる事が出来る程度にはね」

 

「はいっ! 微力ながら私もご協力させてください!」

 

 艦隊これくしょんは始まらなかったけど。

 

 これ、あれだよな?

 

 艦娘学園始まるよ、だよな?

 

 ……。

 

「萌えてきたっ!!」

 

「おぉ、流石だね。うん、僕も負けてられないね! 頑張ろうっ!」

 

 よっしゃあ! 艦娘にセーラー服って絶対に合うんだよ間違いないっ!

 

 やってやるっ! 俺は、やってやるぞぉ!

 

 


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