二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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提督とようやく挨拶出来たようです

 提督ですが、教壇から見える光景が怖いです。

 

 あ、いや。違うんだよ。

 こうして艦娘がイスに座って机の上にノート広げてるのを見るとなんかこう、ビバっ! 学園! なんて思ったりするんだけどさ。

 

「……」

 

 向けられる視線っていうのかね。

 わくわくっつーか……キラキラっていうか……。

 鳥海とか朝潮、神通なんかの真面目組は緊張してるみたいだけど。

 

「あーそうだな、まずはやっぱり授業と言えば起立礼だよな? ……んー、長門、頼めるか?」

 

「了解したっ!」

 

 うおっ!? そんな気合い入れんでも!?

 ていうかすげぇ……一糸乱れぬってこのことか……無駄に迫力あるぞこれ。

 

 先生、やっぱり少し怖いです。

 

 ま、まぁとりあえず……だ。

 

「ありがとう。……まずは先に謝らせてくれ、済まなかった。皆とちゃんと挨拶をする時間さえ中々取れなかったというのに、こうした形がそのちゃんとする時間になってしまって」

 

 これだわな。

 

 忙しかったなんて言い訳でしかない。

 やろうと思えば出来た、とは言えないくらい忙しかったけどそれでも理由にはならないだろう。

 何よりも先にやらなくてはならない事だったはずだ。

 

「いや、大淀から事情は聞いた。むしろお疲れ様と言わせてもらいたい」

 

「ええ、そうよ提督。ほんとにお疲れ様です」

 

「……ありがとう」

 

 周りの皆も同意を示すように頷いてくれる。いやぁ、嬉しいねちょっと泣きそうだわ。

 苦労も報われるってもんだけども、その分皆にこれから苦労してもらわなきゃいけない分ちょっと気が引ける。

 ほんとにどうしてうちの鎮守府へは普通に着任できないかね? 困ったもんだ。

 

 まだまだ気張らねぇとな……!

 

「うっし! そんじゃ申し訳ないが切り替えさせてもらうぞ。まずは……」

 

 ちょっと溜めてみればゴクリという音が聞こえてきそうなくらい緊張している皆。

 いやいや、そんな緊張しないでください。

 

「自己紹介っ! そう、挨拶しようぜ!」

 

 あ、霞が机に頭ぶつけてる痛そう。

 あ、鳥海が口から魂抜けてる、戻ってこい。

 

「ちょっとこのクズ! そんなのしてる場合じゃっ――」

 

「ありがとうございますっ! ……さて、皆はどれくらいお互いのことを知っている? 好きな食べものは? 得意なことは? 趣味は? ……別にふざけてるわけじゃないさ、わかんなくてもいいけど、大事なことなんだ」

 

 俺たちは戦に赴く者。

 だが、戦うだけじゃないんだ。

 

「敵を知り己を知れば百戦殆うからず。なんて言葉があるが、そこに俺は一言味方もという単語を付け加えたいんだ。確かにここにいる皆はお互いのことをよく知っているのかも知れない、もしかしたら知らないのかも知れないけど……それ以上に俺が皆のことを知らない。だから教えてほしいんだ」

 

 日本のために、人間のために。

 もしかしたら俺のためになんて思ってくれているのかも知れない。

 

 それはとても素晴らしいことで嬉しいこと。

 だけど、戦いだけのために生きて欲しいとは思わない。

 

 隣にいる誰かと笑い合うために、笑い合いたいと思える誰かを作って欲しい。

 

 友達百人出来るかな? じゃねぇけど。

 戦いの技術以上に、幸せに暮らすための自分を作って欲しいんだ。

 

「ならば私からしよう!」

 

「おっ! 流石長門! ビッグセブンは伊達じゃない!」

 

 ちょっと沈黙が漂っていた所で長門が立ち上がってそう言ってくれる。流石だぜ。

 

「私が長門型戦艦のネームシップ、長門! 敵戦艦との殴り合いは任せてくれっ! ……着任したという言葉はまだ取っておこう、あなたの力になると証明できた時に言わせてくれ」

 

「おうっ! よろしくなっ! その力、自信。俺も見習わせてもらうぜ!」

 

 かっけぇ……まじイケメン。いや、イケ艦娘。

 その自信に満ちた振る舞いは見習わないといけないな。

 

「じゃあ次は私ね。長門型戦艦二番艦、陸奥よ。あまり火遊びは……えっと、その。提督が望むなら、いいですけど……よろしくおねがいします」

 

「なぁ、陸奥さん……それはちょっと反則だと思うんだ……」

 

 なにそれ萌え殺しかな? それともハニートラップかな? 火遊びしちゃうよ?

 

 げふん……ともあれ。

 

「陸奥」

 

「はい」

 

 悶たい気持ちをなんとかこらえて陸奥と視線を交わし合う。

 陸奥が照れたように視線を外そうとするけど、なんとかと言った感じで維持してくれている。

 

「俺は助けられたか?」

 

「……はい、これ以上ないほどに」

 

 あの時交わした約束。

 金剛を、自分たちを助けてくれと言った言葉。

 

「良かった。ならこうしよう、今度は俺を助けてくれ。俺には陸奥が、皆が必要だから」

 

「……はいっ! 任せて頂戴っ!」

 

 うんうん、良かった良かった。

 こうやって陸奥の笑顔を見れてほんとに嬉しいわ。

 

「翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴です! 墓場鎮守府の皆さんに少しでも近づけるよう、瑞鶴と一緒にがんばります!」

 

「妹の瑞鶴です! 翔鶴姉ぇと一緒に提督さんのもと一生懸命頑張るわっ! 改めてよろしくおねがいします!」

 

「あぁ! 二人共期待してるぞ!」

 

 おー流石仲良し姉妹というか、同時に立ち上がって挨拶してくれた。呼吸バッチシだな。

 

 後から聞いたけどそんなに実戦経験がないとかなんとか。

 意外だな、なんて思ったりもしたけど、声をかけた時の喜ぶ顔を見て納得できた部分もあったり。

 

「二人共、誰かに近づくなんて考えなくていいぞ?」

 

「えっ!? そ、それは――」

 

「ど、どういう意味!? ……ですか?」

 

 あーっと、言い方間違えたな。これじゃあ期待してないみたいに聞こえるか。

 

「いや、言い方が悪かったな。二人共それぞれ、二人だからこそ誇れる物がある。まだわからないかも知れないけど、それを見つけて活かすこと。それが出来れば誰に引け目を感じることも無くなるさ、一緒に頑張ろうな」

 

 たとえば装甲空母になれたり。

 何より示し合わせたわけでもなく呼吸を合わせられる二人。

 きっと大きな力になれると確信できる。

 

 そんな想いを込めて二人を見つめると。

 

「……はい、そのお言葉しっかり覚えておきます」

 

 目を閉じて胸元で手を握って静かに頷く翔鶴。

 

「良かった! 私、頑張るからっ! 改めてよろしくおねがいします!」

 

 笑顔で大きく頷いてくれた瑞鶴。

 

 うむっ! 可愛いっ!

 

「高雄型重巡洋艦三番艦の摩耶様……ち、違う! えと、違います! ま、摩耶です! よろしくお願いいたしますれば!?」

 

「……おーう」

 

 摩耶様どうしちまったい。

 姐さんと呼ばせておくれよ、ていうか。

 

「何だよ皆俺をどうしたいの? 萌えなの? 死ぬの?」

 

「え、えっと……提督?」

 

 おっと、頭を抱えてる場合じゃねぇや。

 

「加古にも言ったことなんだがな? リピートアフターミー。摩耶様だぜっ! よろしくなっ! はい、どうぞ」

 

「んなっ!? え、えっと? ま……摩耶様だぜっ! よろしくなっ! ……こ、これでいいか?」

 

 うむ、大変よろしい。

 

 まぁそうやってこう、俺に気遣ってくれるっつうかそういうのは嬉しいんだけども、だ。

 

「あんまり気にしないで欲しいんだ。俺は皆と対等で、一緒に海へと挑むものだ。言いたいことを言いたいように言おう、お互いに。そっちのほうが好きだし、何より摩耶に似合ってると思うぞ」

 

「そ、そうです、か……じゃない、そうか?」

 

「あぁ。お互いらしくいこう。そしてありのままを好きになっていこう」

 

「好きっ!?」

 

 いやまぁ……俺はすでにぞっこんラブも良いところなんだけどな!

 あー可愛いんじゃぁ……。

 

「鳥海です! 司令官さんの下、何にも負けないようになりたいです! 摩耶共々、どうぞよろしくお願いします!」

 

「おう! かしこまったぜ!」

 

 顔を赤くしながら座った摩耶と代わるように敬礼しながらしてくれた挨拶。

 真面目だなぁという印象が強いのはやっぱあれかね、艦これのイメージと大淀……いや、眼鏡のせいか……?

 

「なぁ鳥海」

 

「はっ!」

 

 気になる……気になるぞぉ!

 そう、眼鏡をしてても美人だけど、眼鏡キャラは外すとなお美人ってのはお約束っ!

 

「眼鏡、外してみてくれない?」

 

「……は? い、いえ、構いませんが……」

 

 そういって外してくれればそこには。

 

「……おで、もうじんでもいい……」

 

「司令官さん!?」

 

 眼鏡は卑怯。俺、覚えた。

 

 皆して俺を萌え殺す気かと思っていたけど……人、これを自爆という。

 

「ありがとう鳥海……ええもん見せてもらったわ……」

 

「え、えぇ……」

 

 首を傾げながら座る鳥海。

 あぁ、霞さんの目がイタタタ……ありがとうございますっ!

 

「川内! 夜戦なら任せてくださいっ!」

 

「あぁっ! 頼りにしてるぞ!」

 

 そう言えばうち、夜戦ってあんまりしてないな。

 確か最初に夕立と時雨がしたくらいのはずだ。

 

 敬礼しながら挨拶してくれる川内を見てふと思う。

 

 多分、何処か危険な夜戦を避ける意識があったんだろう。

 あの時漁船上で見た夕立の大破姿は今でも忘れられない。

 

「川内」

 

「はい!」

 

 だけどきっとそうも言ってられなくなる。

 これからどういう風に作戦が、指令が飛んでくるかわからないけど攻略すべきはここからどんどん遠くなっていって。

 それだけ時間もかかるし、予定通り、予想通りの時間になんて出来なくなるのは確かだ。

 

「本当に頼もしい。もう一度言うけど、頼りにしている」

 

「っ……! はいっ! 任せてっ!」

 

 何かを感じ取ってくれたのか、着席した後ぐっと手を握りしめている川内。

 

 自分の好きなこと、得意なことで頼られるのは嬉しいことだって知ってる。

 だから似たような想いを抱いてくれてるんだろう、うん。本当に頼りにしているからな。

 

「神通です。……あの、どうかよろしくお願い致します」

 

「あぁ、神通。こちらこそよろしくお願いする」

 

 何処か頼りなさげに、弱々しく挨拶をする神通だけど。

 

 目が、強い。

 

 いや、ギラギラしてるって意味じゃなくて。

 静かな決意を感じる。強くなってやるって言う決意を。

 

「なるほど、鬼の二水戦」

 

「えっ!? えっと、その……」

 

 あぁいや、そうわたわたしないでおくれ!?

 

「いや、すまん。……神通は、強くなりたいんだなって思ってな。目がそう言ってる」

 

「……はい。強く、なりたいです。もう誰も沈めないためにも」

 

 強くなるためには何でもする。

 どれだけでも自分をいじめ抜く、耐えてみせるって目をしてる。

 

 ……何処か、俺に似てると思った。

 

 だから。

 

「神通」

 

「はい……っ!? え!? えっと!? あの、その!? そんな事されると、私、混乱しちゃいま……」

 

 近寄っておもむろに頭を撫でた。

 

 セクハラ? 知らんがな。

 

「……うん、神通。よろしくな?」

 

「えうっ!? えと、えっと……はいぃ……」

 

 ぽすんと顔を赤くしたまま座る神通、可愛い。

 

 川内も、神通も。

 横須賀の那珂を沈めてしまったって話は聞いた。

 

 俺もそうだったけど。多分、言って理解出来るものでもないと思う。

 自分で気づかないと駄目なんだ、一人で先を目指しても限界があるってことは。

 何かの壁にぶち当たって、一人ではどうしようもないって思い知って。

 

 そんな大きい壁も誰かと一緒なら乗り越えられるって気づかないと駄目なんだ。

 

 自分が強くなれば皆を守れるなんて幻想だ。

 ワンフォーオールなんて言ってしまえばそれで終わるけど、皆が皆のために。

 今度こそはと思う気持ちは分かる。けど、今度こそは自分が誰かを守るように、自分も誰かに守られてるって気づいて欲しいな。

 

 そんな思いで頭を撫でちまった。

 撫で心地? 最高でした。

 

「駆逐艦、朝潮です。勝負ならいつでも受けて立つ覚悟です!」

 

「良い意気込みだ感服したケッコンしてください」

 

「は、はい!?」

 

 黒髪ロングは正義、異論は認めない。

 しかもさぁ、真面目でさぁ、可愛くてさぁ……最高かよ。

 長門? あぁもちろん素晴らしい! だがよ、朝潮はこうさ……分かるだろ? 紳士ならさ!

 

 ……ん?

 

「あ、ごめん。思わずキュウコンしてた」

 

「い、いえっ!? し、司令官が望むのであれば……!」

 

 あぁ駄目!? 皆の目が痛いっ!!

 

 げ、げほん!

 

「いや、すまん。皆俺の嫁だから諦めてくれ」

 

「は、はぁ……?」

 

「こーぉのクズ! いやっ! 変態っ! 朝潮に変なこと言わないでよねっ!!」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 絶好調であるっ!

 

 朝潮が首を傾げて座ると代わりににょっきり勢いよく立ち上がった霞にはお礼を。

 もはやクズ呼ばわりは感謝しかねぇんだよなぁ……ママァ……。

 

「霞」

 

「何よっ!」

 

 とは言え霞からは挨拶してもらっているわけで。

 あん時の焼きまわしをしても仕方ない。

 

「ガンガン頼むぞ」

 

「……っ!」

 

 その気勢も、俺への叱咤も。

 第三艦隊の戦いを見て、思うこともあったはずだ。

 それをどう捉えて自分のものにするかはわからない、けど。

 

「あったりまえよっ! ガンガン行くわっ! ついていらっしゃいな!」

 

「あぁ、置いていかれないように頑張るよ」

 

 成し遂げてくれるだろうさ、霞なら。

 

 

 

「さて、座学を始める前に改めて皆に言っておくことがある」

 

 自己紹介、挨拶をしてもらってすぐ。

 いい加減俺も真面目モードにならねぇとな。

 

「あの時言ったように、ここでは絶対のルールがある。それが沈まない、だ」

 

 約束。

 俺のポリシーであり、艦娘とした初めての約束であり……この海への約束。

 

「皆がどれだけ沈んだ艦娘を見てきたかはわからない。けどそれも今日で終わりだ。約束する、俺は絶対に皆を沈めないって」

 

 間違ってる。

 沈んでいい、犠牲にしていいなんて間違っているんだ。

 

 日本を、人を……何かを守るために何かを捧げるなんて絶対に間違っている。

 

 誰がそれを良しとしても俺は絶対に良しとしない。

 

「今、この日本では多くの艦娘が沈んでいる。もしかしたら今この時でさえ誰かが沈みそうになっているかも知れない」

 

 第一艦隊が舞鶴の海域を突破した。

 その報せは知っている、とても喜ばしいことで感謝に絶えない。

 

 だが、まだまだ多くの艦娘が苦しんでいるであろうことは事実だ。

 

「そんな艦娘を生まないために、この養成訓練学校計画はあり、成功させたいと思っている。皆、よろしく頼むな?」

 

「了解っ!」

 

 よし。

 全員がしっかり頷いてくれた。

 

 自惚れじゃなければ、だけど。

 俺へのイメージって相当良いんだろうと思う、そのイメージを崩さないようにとは言わないけど少なくとも向けられている期待には応えられる自分でいられるように頑張らねぇとな!

 

 




5/8
修正時抜けていた翔鶴、瑞鶴のシーンを追加。
ご迷惑おかけしました……!

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