二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
「~~――!!」
「……で? 電は一体何をしてるのかしら?」
第六駆逐隊。
朝の海上護衛作戦が終わり、損傷した暁がドックから帰ってきてみればいつかと同じく電が布団の上で暴れていた。
「あ、あはは……」
苦笑いを浮かべながら誤魔化すようにお茶に口を付ける雷と素知らぬ顔で続く響。
はて、と暁は首を傾げる。
南一号作戦終了後より電は司令官へと主砲を突きつけなくなったし、ぶっ放すなどもっての他。
故にこうしてやらかした! なんて後悔や羞恥に悶えている電の姿を見なくなったはずで。
「龍田さんの気持ちを理解できたんだよ」
「はわわっ!?」
「……あー」
合点がいったと手を叩く暁。
言ってしまえばそう、照れ隠し等含めた霞の姿と自分を重ね合わせてしまっているのだ。
「こうやって受け継がれていくものなんだね……ハラショー」
「ハラショーじゃないのですっ! 他人事にしないで欲しいのですっ!」
「だって他人事だし……」
軽微なものではあったが損傷してしまった暁と違い、那珂を含めたフラワーズは艦学計画が行われている横須賀鎮守府を見学してから帰ってきた。
ちょうど今日の予定は駆逐艦の海上訓練。当然、朝潮と霞に焦点があてられた訓練内容だったのだがそこで見た光景は。
――このクズっ! こんなんじゃ駄目だったらっ!
――ありがとうございますっ!
なんてものだったわけで。
「でも何で司令官はありがとうって言うのかしら?」
「私も今度言ってみようかしらっ! このクズっ! もっと私を頼りなさいっ! ……こんな感じ?」
こうして動くように。
と言った動きを示してその通りに動く練習とは違い、それぞれの適正を確認し、相談しながらより良い動きを追求する訓練内容。
それ故提督と対象艦娘、朝潮、霞と話し合いが繰り広げられていたため話す機会は非常に多かった。
提督の意見を尊重しがちな朝潮と対照的に、霞は毎度のように提督へとあれこれ熱を持って話していて。
そんなことを言う霞の姿がやけにいきいきとしていたと言うか。
構って欲しいが故に辛辣な言葉を向けているように見えたと言うか。
――わ、私もあんな感じだったのです……?
なんて恐る恐る言った電に響は躊躇なく頷いたのだった。
以来、顔を真赤にして帰ってくるなりベッドダイブバタバタ状態の電。
何気にそれは龍田も電の姿を見て通ってきた道だったりするとは天龍談。
司令官を喜ばせるためにという考えのもと、少し危険な作戦が雷と響によって練られている中少し落ち着いた電は顔を赤くしたまま。
「こ、このままじゃ駄目なのですっ!」
「……うん?」
すっくりと立ち上がり、高らかと言った。
片手を握りしめ目には何やら決意の炎を揺らめいている。
「え? もう主砲撃っちゃ駄目よ?」
「そ、そんな事しないのですっ! これは……そうっ! 名誉挽回なのですっ! 汚名返上しなければならないのですっ!」
何を言ってるのかしらこの子は。と、首を傾げる暁と雷。
なるほど、どうやら電はあぁ言った行動を司令官にしていたということを汚点、恥と捉えているようで。
それを上回る何かをしなくてはならないと思い立ったようだ。
とは言え響は思う。
なんだかんだで司令官も嬉しそうだったけどな、なんて。
「わかったわ! 電がそう言うなら私にまっかせて! 名誉挽回作戦! 発令よっ!」
「あ、そう言えば今日司令官戻ってくるって鳳翔さんが言ってたわ! すっごく疲れてるだろうから何か出来ればいいけどって考えてた!」
「きょ、今日なのですっ!?」
最近の提督は忙しく、毎日同じ場所に留まっていることが少ない。
墓場鎮守府に基本的に詰めている第二艦隊の面々が寂しそうにしているのは記憶に新しく、フラワーズもまた同じ。
第二艦隊は南一号作戦海域の掃討作戦、第三艦隊は海上護衛作戦と忙しく提督と中々顔を合わせられないでいた。
大淀が提督の補佐として行動を共にしていることを妬むくらいには寂しく思っているのだ。
いわばチャンス。
たまたまタイミングよく自分たちの業務は終了していて、この後の予定は何もない。
尻込みする電とは対照的に、響は残っていたお茶を飲み干し。
「ウラー!」
「えっ!? ど、どうしたの響?」
勢いよく立ち上がって鏡の前に立つ。
帽子の角度をチェックし、髪を整えくるっと一回り。
「……ハラショー」
「え? え?」
鏡に映る自分の姿へ一つ頷いた後スタスタとドアノブに手をかけ。
「不死鳥の名は伊達じゃない。出るよ」
呆気に取られる六駆を置いて出撃していった。
「……はっ!?」
一番先に我へと返ったのは雷。
「こ、こうしちゃいられないわっ! 司令官に頼られるのは私なんだからっ!」
後を追うようにバタバタと出ていき。
「暁ちゃん」
「何かしら?」
取り残された電と暁は顔を見合わせ。
「こうしちゃ――」
「いられないわっ!」
競うように部屋を後にしたのだった。
「おかえり、司令官」
「ん? おぉ、響! ただいま」
車から降りた提督の元へとトテトテと近づき柔らかくダイブする響。
優しく抱きとめる提督は、少し目立つクマがある目尻を緩ませる。
「あれ? 今日は一人なのか?」
「んん……一人じゃ、だめかい?」
頭を撫でられる感触を堪能しながら提督を見上げる視線は少し潤んでいて、なんだか胸を高鳴らせてしまう提督は頬を指で掻きながら。
「いや、そんな事ないよ。出迎え、ありがとうな」
「うん」
頭に載せられていた手を掴み、先導するように軽く引きながら共に鎮守府へと入る二人。
「今日見学に来てくれてたけど、どうだった?」
「どうって?」
腕に絡みついてくるやけにスキンシップ過剰な響へと、何だか照れてしまった提督はごまかすようにそんな話題をふるが、いまいち意図が伝わっていなかったようで首を傾げる響。
首を傾げながら上目遣いは反則だろなんて、自分の失策へと恨むようなご褒美をあげたいような複雑な心境へと陥ってしまう。
「あぁ、いや。ほら、俺はなんか変なことしてなかったかなぁなんて」
「ううん、そんな事してなかったよ。いつもどおり、かっこいい司令官だった」
しれっとそんな事を言う響に提督はノックアウト寸前。
こんな事しれっと言う子だっただろうかなんて思いは消え去り頬を染めてしまう。
なんなの今日が俺の命日なのと頭を抱えたい提督にさらなる試練が食堂で待ち受けていた。
「おかえりなさいっ! この
「……うぼぁ」
響と共にやってきた食堂。
そこにはエプロンドレス――メイドさん風味にフリルを多くあしらった衣装に身を包んだ雷が胸を張っていた。
口から魂を飛ばす提督の隣で響は。
「……やるね」
「ふふんっ! この雷様にまっかせなさい!」
一体誰がこんな事を吹き込んだのか。
後ろで顔を赤らめて慌てる鳳翔を尻目にバチバチと視線を鳴らし合う響と雷。
そこへ。
「お、おかえりなさいっ! しれー……んっんっ、パパっ!!」
「パパ!?」
服こそいつもどおりの物だったが、手を取り続ける響の反対側へと抱きつき、破壊力抜群の言葉を放ったのは暁。
もはや歩く屍と化した提督は……もう駄目かもしれない。
「くっ……暁、なんてあざといんだ……」
「や、やるわね……!」
「ふふーん! レディの魅力にしれいか……パパもイチコロねっ!」
提督が帰ってくるとスキップして食堂に来てみれば何この光景と古鷹は提督の代わりに頭を抱えた。
その隣には加古がお腹を抱えて笑っている。
「……加古?」
「ひーお腹痛い……! いやいや違うんだよ古鷹。あれ、那珂が今度のライブのために作ったって衣装であたしは何も言ってないよ? ……暁に入れ知恵はしたけど」
提督の後から食堂に入った大淀は思わず呟いた。
――暁さん……恐ろしい子っ!
もはや、あーとかうーとしか喋ることが出来ない提督の手が引かれ、なすがままされるがままに食堂席へと着席した提督。
思考力の鈍った頭の片隅で予感があった。
六駆はあと一人いる、そしてその一人が来た瞬間、自分は萌え死ぬだろうと。
そして、その一人が。
「し、しれいかんさん……お疲れ様なのです」
お盆の上にお茶を載せてやってきた。
雷と同じ姿で。
「あ、あぁ。ありがとう、電」
内心ほっとしていた。
いや、間違いなく破壊力抜群の姿ではある電の姿。
とは言えやはり二度目、破壊力はそこまでなくギリギリ、辛うじて理性を復活させることに成功した提督。
だからこの後の攻撃に対してノーガードだった。
「はわわっ!?」
「ちょっ!? あぶなっ!?」
狙いすました一撃だった。
お茶は緊張感からか震えていた電の手を伝い震えていて、いつ零してもおかしくなかった。
だからある意味必然、お盆の上に置いているお茶を提督が座るイスの前、テーブルに置こうとした時に零してしまうなど。
そしてそれが提督のズボンを濡らしてしまうなど。
「ご、ごめんなさいなのですっ!?」
「い、いや! 電こそ大丈夫か!? 火傷してないか!? ってちょぉ!?」
予め、念の為。
電は計算してやったわけではない。
当たり前に腹黒くはないし、そもそもそんな余裕がない。
だからこそ本気で慌てた。
濡らしてしまった、早く拭かなきゃとすぐさま提督の前に跪き、何処からか取り出したハンカチでズボンを拭いた。
何処をとは言わない。
そして。
「ごめんなさい、ごめんなさいなのです……えぐっ」
「――」
涙目で提督を見上げながら一生懸命拭いた。
そう、提督の薄汚い欲望の象徴ごと。
「え? 提督? 提督!?」
「た、大変!? 提督! しっかりしてください! 提督!!」
予感は正しかった。
確かに提督は死んだ。
幸せそうな顔をしながら、一切の意識を手放した。
「はっ!?」
「あ、気が付かれましたか?」
提督の自室、ベッドの上。そこで提督は目を覚ました。
傍らには鳳翔がほっと胸を撫で下ろしている姿。
なんだかんだと多忙だった提督の身体はこれ幸いと深く休息を求めていたようで、目を覚ましたのは提督の意識がシャットダウンしてから一時間程経っている。
大慌てしたその場にいる艦娘達だったが、ベッドへ運び身体を横たわらせてみれば寝ているだけだとわかって安堵した。
「え、えっと……俺は?」
「ええっと……はい。まぁ、お疲れ様でした。ということで」
――加古はお酒一週間禁止ね!
――そ、そんなぁ! 古鷹、勘弁してよー!
隣の執務室からはそんな声が聞こえてくる中、鳳翔は苦笑い混じり。
そんな鳳翔の顔を見て、さっきまでの喧騒を思い出す提督。
「……一体何だったんだ?」
「あ、あはは……。今日提督がこちらに帰って来られると聞きまして。それで――」
――労おうとこの子達なりに頑張ろうとしてくれたんですよ。
鳳翔が続けながら向けられた視線の先。
「そっか」
「はい。ですので怒らないであげてくださいね?」
半身を起こした提督の足元に固まって寝ている六駆の姿。
一番近くにあった電の頭を優しく撫でる提督の目は穏やかで。
「怒るもんか、おかげで元気になれたよ」
「……それは、良かったです」
ほっと安心する鳳翔。
六駆だって疲れていたんだろう、海上護衛作戦は漁の特性上早朝に行われる。
提督が帰ってきたのは夕方で、作戦に合わせていた身体のリズム上、いつもなら既に眠気がやってくる時間。
それでも提督のためにとあれこれやろうとしてくれた想い。
それが提督の胸を温かくする。
「俺は、幸せもんだよ」
「ふふ、この子達が起きたら言ってあげてください。きっと喜びますから」
そのまま鳳翔は食事を持ってきますねと部屋を後にした。
柔らかい電の髪を撫でる提督の手に、顔を緩ませながら。
「しれー、かんさん……」
「えへへ……もぉーっと、たよって、いいの、よー」
「うらー……」
「れでぃなら、とう、ぜん……」
可愛らしい寝言。
それぞれの顔はひどく穏やかで。
「ありがとう、な」
そんな顔を見せてくれることこそ、何よりうれしいと。
穏やかな時間に身を委ねた。