二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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提督が鎮守府に帰ってきたようです

 目の前にある紙束の山にため息が出る。

 

 いやまぁ久しぶりに帰って来たうちはやっぱ最高だし、六駆の皆は可愛かったし。

 萌え殺されたおかげで十分な休息を取れたって言える。

 けどもこればっかりは仕方ない、久しぶりに帰ってくれば書類仕事が溜まってるってことなんてわかっていたはずだ。

 

 艦学で俺が担当した座学……というよりは特徴把握とでも言うべきか。

 建造されたてほやほやってわけでもない皆だから基本的なことなんて当然知っていたわけで、座学なんて改めてやるよりそれぞれの特徴を確認する時間にあてたわけだ。

 

 そしてそれも一段落して一旦大淀に任せられたし、ゆっくり片付けていこう。

 

 特徴把握。

 そう、艦娘だって人間と同じように得手不得手がある。

 

 たとえばフラワーズ。

 電なんかは魚雷よりも砲撃のほうが得意だし、暁もどちらかと言えば砲撃のほうが上手い。

 雷は魚雷のセンスに目を見張る物があるけど砲撃精度はイマイチ。

 響で言えば砲雷撃戦よりも今やっている海上護衛作戦で会敵する潜水艦相手、対潜攻撃に関しての才能がメキメキと。

 那珂に関してはオールマイティになんでもこなしてくれるが得意と言えば響と同じく対潜だろう。

 

 最近毎日のように出撃してもらってるおかげであの海域に現れる深海棲艦の数も減り、一度に多くの戦力を必要としなくなったし。

 まったくフラワーズは最高だぜ。

 

 まぁようやくゆっくり出来ると喜んでた那珂ちゃんには艦学で軽巡洋艦、川内と神通の教師役に出張って貰ってるけど……すまんな、那珂ちゃん。見学に来たタイミングが良すぎたんや。

 

 こっちにずっと詰めて貰っていた第二艦隊の任務、金剛型の皆と協力して南一号作戦海域の残党狩りも順調に進んでいるし。

 それぞれにある程度の余裕が出てきただろうけど、那珂ちゃんと交代でその余裕をそれぞれ艦学で教師役をする時間にあててもらうから……うーむ、ほんとにすまねぇ……。

 予め説明して快く頷いてくれたけど……やっぱりちゃんとした休みは欲しいよな、ブラック企業かな?

 

 そういう負担を減らすためにって意味もあった特徴把握だけども、こっちはようやくというか艦これの知識が役に立った部分が大きい。

 一番わかり易いのは摩耶だろうか、ゲームで対空番長なんて呼ばれていた通りやっぱり対空射撃が上手かった。

 まぁ防空重巡洋艦とも呼ばれていたし当たり前といえばそうなんだけどな。

 

 同じ重巡洋艦の鳥海で言えば火力が高いことがゲームでの認識だったように、こっちでもその予兆は見られた。

 なんと言うか相手の脆い所や瞬間をよく狙い撃てるって感じ、計算どおりとは鳥海談。

 

 そういった感じに皆の特徴を把握してどうすればそれを活かせるかって私見を教師役をしてくれる皆に用意する。

 空母の翔鶴、瑞鶴。戦艦の長門、陸奥には鳳翔を。

 重巡洋艦の摩耶と鳥海には古鷹を。

 既に行ってもらってる那珂ちゃんには軽巡洋艦の川内、神通。駆逐艦の朝潮、霞の教師役に。

 

 ……教官役って言うべきかな? いや、まぁいいか。あんまり軍っぽくするのも嫌だし。

 

「しっかし、どうしたもんかねぇ……」

 

 書類の山が示す通り、墓場鎮守府の運営と教師役を同時にする困難さってのも当然あるけど。

 こうして回りくどいことをしなくちゃならないのは長官が言った通り兵器派の人らのせいでもある。

 曰く、思想汚染が云々かんぬん。

 そう言ってる人が一番毒されてるじゃねぇかと突っ込みたくなったのは俺だけじゃねぇよな?

 

 とはいえ言っている意味がわからないでもない。

 艦学計画が成功したとして、あくまでも将来的な話にはなるけど、変に考え方や動き方にクセをつけてしまったら行き先で苦労してしまう可能性もあるわけだ。

 今回に限って言えばうちに着任する艦娘だと確定しているから、教師役に俺やうちの艦娘がなれる。だからそういう心配はないけど、目標はどの鎮守府にも即戦力として着任できるだからな。

 

 それに収穫もあった。

 俺をそういった役目として確定させたくないがために自分たちが教師役として影響を及ぼせられなくなったわけだから。

 

 権力ってのはやっぱり文字通り力なんだ。

 

 使い方によっては誰かを傷つける暴力にもなり得るわけで。

 そんな力を宿した腕を俺に振りかぶってきて、それに反撃するのはあんまり自覚ないけど南一号作戦成功の立役者らしい俺なら簡単なんだろうけど、それをやってしまったらずっと一緒の構図になってしまう。

 より大きな力でのつぶしあい程虚しいもんはないと思うから。

 

 要するに相手と同じ土俵に立って納得してもらわないと駄目なんだろうさ。

 権力争いなんてしてる余裕は欠片も無いはずだけど、自分の後が確保できないとろくに前を向けない人間だっている、俺だって権力じゃねぇけどそうだから。

 

 そう、だから結局艦娘が艦娘を教える学園という体に落着したわけだ。

 まだちゃんと決まってるわけじゃないけど、横須賀鎮守府の建造履歴を見ればちょうど練習巡洋艦である香取、鹿島が未建造だったから、二人を教師役にできればななんて思ってる。

 いや、香取はともかく鹿島が建造出来るのかはわかんないけど。

 

 だけど結局天覧演習なんていう成果発表の形になるとは思わなかった。

 それも一つの権力によるつぶしあいじゃないのかと思わないでもないけど……正直そういった部分に関しては想像もつかない。いやだって俺一般市民ですし。

 なんとなくそんな事に天皇さんを利用していいものなんかと言う不安というか、若干もやもやした思いはあるけど。

 ともあれ天皇さんも了承したって話だしそこは納得しなくちゃならないんだろうな。

 

 一ヶ月。

 大淀の予想は今手元にある報告書によって正しいと証明している。

 舞鶴の状態、各艦娘の様子。

 そういった内容に気分を落としてしまいそうになるけど、それを解決するための艦学計画。

 

「何としても成功させねぇと……ん? どうぞ」

 

 報告書から目を離せばノックの音。

 ノブが回されてドアの向こうから入ってきたのは。

 

「ヘーイ! 提督(マイフレンド)! 戦果リザルトあがったヨ!」

 

「おお、お疲れ様金剛。疲れただろう? 今お茶でも淹れるからソファに座ってくれ」

 

「サンキュー!」

 

 元気にニコニコと入室してきた金剛。

 いやぁ、やっぱいいですね、可愛いですね美人ですね。

 

 提督って呼んで貰えないのは彼女なりの考えというか整理の仕方だろう。

 まぁ俺も戦友になれるって言った手前それに異を唱えるつもりはないけど、ちょっと違和感あるのは仕方ない。慣れないとな。

 

「他の皆は大丈夫か?」

 

「イエース! 鳳翔さんのおかげネ! とは言えダメージもあって入渠してもらってるヨ」

 

 出撃してたのは金剛が旗艦で、鳳翔、加古、榛名に霧島。

 順調な残党狩りとは言え損傷する程度の敵戦力はあるってことなら、ある意味この構成にして正解だったのかも知れないな。

 なんとまぁ戦艦揃いで豪華かつ消費資材から目をそむけたくなるメンツだけど……フフフ、資材関係はすっぱり解決したからな、余裕が違いますよ。ある意味資材不足の悩みが解決したのが一番の成果かもしれねぇ。

 まぁその余裕を金剛型姉妹の中でも少し練度が低いように感じる榛名と霧島のために使えるなら良いってもんだろう。

 

 ぽすんと座った金剛を横目に、買ってから出番の無かった紅茶葉ビンの蓋を開ける。

 えっと……まずは……。

 

「そかそか、無事に帰ってきてくれて何よりだよ」

 

「エヘヘ……」

 

 何その照れ笑い、破壊力ヤバイんでもっとやってどうぞ。

 

 とと、温度は……これくらいでいいか? あ、そう言えば爺さんところから饅頭送られてきてたっけ、紅茶に饅頭……まぁ無いよりはまし、か?

 

「報告書はまたすぐに見るけど。何か感想はあるか?」

 

「そうダネー……同じ艦隊で行動するとやっぱり鳳翔サンと加古サンの凄さが良くわかったヨ。あの二人だけ次元が違ったカナー……」

 

 ふむ、改になった金剛から見てもまだそういう言葉が出るか。

 鳳翔や加古の練度が高いのはもちろんだけど、そう差は無いと思うんだけどな。

 

 しっかし、改……か。

 

 以前妖精に相談した時に聞いた時は難しいって言われた改造。

 まさか海上でそうなるとは思ってもみなかったな。

 

 ちと聞いてみるか?

 

「ほい、お待たせ。金剛程上手く淹れられてないと思うけど……あぁ、あとこの紅茶葉もあげるよ、姉妹で楽しんでくれ」

 

「わぁっ! サンキュー提督っ! あとこれハ……お饅頭?」

 

「はは、ちょうどいいお茶請けが無くてな。要らなかったら置いといてくれていいから」

 

 そう言ってみれば少し慌てて饅頭に口をつける金剛。

 もにゅもにゅと咀嚼してから。

 

「……フフ、紅茶とは少し合わないかもネ! だけど、美味しいヨ!」

 

「ありがとう。今度はちゃんとクッキーでも用意しとくよ」

 

 気を使わせてしまったかなと心配。

 ごまかすように饅頭を口に運んでみるけど……うん、やっぱ饅頭と紅茶はイマイチかも。

 

 もっかい謝っとくかと金剛へと視線を戻してみれば……何故かちょっと顔を赤らめてる金剛さん。

 

「ん? どうした?」

 

「エッ!? う、ううん! なんでもないネー!」

 

 慌てて紅茶を飲む金剛だけど、どうしたよ? うん?

 

 まぁいいか。とりあえず、だ。

 

「残党狩りとは違って、少し聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 

「え、あ、ハイ! オフコース、なんでも聞いてくだサイ!」

 

 ピシッと背筋を伸ばして聞く態勢を整えてくれる姿もいいね!

 

「あの時……空母棲姫を倒した時。金剛は改になった、という言葉で合ってるかわからねぇけどそん時の事を詳しく教えて欲しいんだ」

 

「ハイ、そうデスネ……」

 

 んー……と口に手をあてながら思い返すように考える金剛。

 

 第一艦隊の皆には結局ちゃんと聞くタイミングが無かったからなぁ。

 映像で見てた俺からすれば、轟沈を確信した瞬間に煙が晴れて無傷の天龍達がいたって感じだったし。

 

 改ってわかったのは一つ多く装備を持っていたことからだ。

 何度かこれ以上装備できないかって試したことがあるけど、持とうとすれば上手く艤装を展開できなくなったり動けなくなったりしてたからな。

 置き換えてみれば改造でスロットが一つ増えたってことなんだろう。

 

「私にわかるコトは……あの時、不意に声が聞こえてきマシタ。その声とスピークした後、身体に力が湧いてきて……知らない間に改と言っていマシタ」

 

「声?」

 

 あそこにいたのは俺と金剛、離れて比叡達が戦っていて……後は空母棲姫くらいしかいなかったけど……。

 

「ハイ。聞き覚えがある声……多分、自分の声だと思いマス。その声は言っていました、私の力になりたかったト。ようやく私になれたト」

 

「……ふむん」

 

 イマイチよくわからないけど……。

 つまるところ何かと対話して、その何かの力を手に入れた。その結果改に至ったってことだろうか。

 

 本来の改造は一定の練度に至って必要な資材を用意してってなもんだけど。

 でもあの場所に資材なんて無かったし、ましてや工廠みたいな設備もあるわけがなく。

 

 自分の声、か……。

 仮に金剛という自分がそこに居たとして、それがどうしたら金剛の力になる……うん?

 

「近代化改修……」

 

「ハイ?」

 

 そうだ。

 仮に自分がそこにいたのなら、そしてその自分から力を得たというのなら。

 それは合成、近代化改修なんじゃないか?

 

 もしそうだとして。

 強化は確かに出来るだろう、だけど改造とは違う。

 改造には資材が……いやいや待て待て。

 

「なぁ金剛。建造される時の資材が混じり合った液体って、海の意思なんて呼ばれてるんだよな?」

 

「ええっと、ハイ。そういう風に呼ばれていマス、誰が言い出したのかはわかりまセンガ」

 

 資材。

 海上に何処からともなく生み出される艦娘専用のモノ。

 今では製油所地帯から多少なりとも生成される燃料なんかもあるけど、元々は海が生み出していたものだとすれば。

 それをまとめて建造ドックにぶちこめばそれは海となる。

 

 海の意思。

 それがその名前の通りのモノだとしたら?

 建造ドックとは海の意思から艦娘を喚び出す装置なのだとすれば?

 

 海の意思が生み出した艦娘、あるいは深海棲艦や妖精。

 そういう存在になる前の思念みたいなものが海に宿っていて……それが金剛、第一艦隊の皆の力になるとしたら?

 

「なるほど……」

 

「??」

 

 あくまでももしかしたらで確証はない。

 だけどそう考えれば……色々な疑問の答えが出てくる気がする。

 

 一度建造された鎮守府にもう一度建造されないってのは、沈んだ、あるいは沈められた場所に戻りたいなんて思わないだろうし。

 ドロップ艦娘がいないってのは……海の意思がそうさせている、のか? それは何故だ?

 

 建造ドックを使えば生まれる可能性はある。だが、海上で出会うことは無い。

 じゃあやっぱりそもそもこの考えが間違っているのか?

 

 ……わかんねぇ。

 

「――ンド! 提督っ!」

 

「えあっ!?」

 

 びっくりした! え? 何? 金剛のドアップ? 可愛い!

 

「ふぅ。どうしマシタ? いきなり考え込んデ」

 

「あ、あぁ……悪い、建造についてちょっと考えてて」

 

「そうでシタカ……いきなり難しい顔して黙ってしまうノデ、何か失礼なことを言ってしまったかと思いまシタ」

 

 いっけね、そんな顔してたか……ほっと安心したようにソファに座り直す金剛にもっかいごめんなさいだな。

 

「すまん。金剛が何か失礼をとかそんなわけないから安心してくれな」

 

「ハイ、安心しまシタ。ですけど、何か変なコト言ったらすぐに教えてくださいネ?」

 

 んー……あぁそっか。まだちょっと最初に会った時のこと気にしてるのかな?

 何の問題も無いし握手もできたから解決万々歳なんだけどな。

 

「金剛」

 

「ハイ?」

 

 名前を呼んでから手を差し出す。

 戸惑ったように俺の顔と手へと視線を彷徨わせる金剛だけど。

 

「俺は、金剛の戦友(ともだち)だろ? 変に遠慮するな。さっきだって別に俺の頭を引っ叩いても良かったんだぞ? 目を離しちゃノーって言ったデショ! なんて」

 

「……」

 

 目をパチパチと何度か瞬いた後。

 

「クスクス……ハイ、じゃあ今度はそうしマスネ!」

 

「あぁ、ご褒美だから遠慮なく頼む」

 

 手を握ってくれた。

 

 うん、あの時はどさくさに紛れてみたいなもんだったけど、改めて、な。

 

 俺も、ようやくこの世界の影を掴めたのかも知れないんだ。

 まだまだわかんねぇことはたくさんあるけど、一緒に乗り越えていこうな。


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