二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
嫉妬。
一言で言ってしまえばそんな感情。
ただただ作戦の成功を喜べただけならどれだけ良かったでしょう。
ただただ後進の育成、その成長に喜べただけならどれほど。
どうしても羨ましいという気持ちが心に巣食ったまま、そんな想いに囚われているのがわかる。
今の私は誰にも見せられないとも思います。
あの方が仰ったように、私の背を見て育つモノがいるのならば尚更。
だから私は精一杯強がる。
気にしていない、今できることに集中することしかできない。
そう思い込むことしかできない。
でも。
「悔しい、ですね」
改へと至った第一艦隊の皆へ。
正規空母であるというだけでいずれ私なんて遥かに及ばないだろう高みへと至る翔鶴さんと瑞鶴さんへ。
提督もやっぱり罪な人だと思います。
第一艦隊の皆さんだけならまだいいのです。
別格。そんな思いがあることは否定できませんから。
ただ、あの二人。
日に日に力をつけていく姿を見て、見せつけられて。
そうしているのが自分だとしても、悔しいという思いはどうにもできない。
軽空母、古い古い軽空母。
全ての空母の母といった存在だなんだと言われても力をみれば時代遅れも甚だしい。
搭載できる艦載機の数だって、後進の空母達に比べればなんて頼りないことか。
やっぱり逃げることはできないみたい。
でもどうにも足が進まなくて。
「ほうしょうさん?」
「……ごめんなさい」
肩にいた妖精さんへ謝ったのは何故でしょうか。
慕ってくれている艦娘に見せなかった姿を見せてしまったから、なのかもしれません。
もう目の前に見える
帰ればきっと温かい笑顔で皆が待っているって確信できます。
でもそんな中でこんな顔をしたままで入ることはできません。
だから。
「ちょっと、寄り道しましょうか」
返事を待たず、そっと波止場へ向けて歩みを進めた。
「かぜがきもちいいです」
「ええ、さすがにきぶんがこうようします」
肩から離れて目の前を飛び舞う妖精さんに少し笑顔を浮かべることができます。
戦いの中波立つ水面とは違い、何処までも穏やかな海。
時間が時間ならもっと綺麗だったのかもしれませんけど、既に照らしてくれる太陽は沈んでいることが残念に思えます。
今日で、教導任務は終わり。
やれることはやった。
教えられることは全て教えられたと思います。
長門さんと陸奥さん。
お二人は流石というべきか、飲み込みが早く教えることなんて殆どありませんでしたし。
空母のお二人にしても、何より足りなかった自信さえつけば後は水を得た魚のよう。
改めて、羨ましいと思いました。
私が鍛錬をつみ続け、得たものを簡単に吸収するその姿。
未熟な部分が見えど、成果は私以上のものを叩き出す光景。
きっと彼女たちに限らず、あの学園にいる皆はすぐに提督の力になれる。
改めてここに着任した時、私よりも遥かに頼られ、遥かに優れた戦果をあげる。
そう、確信できてしまう。
嬉しいという気持ちは確かにあります、あるのです。
でも……。
「……そういうもの、なのでしょうか」
座ってみれば地面は少し冷たい。
その冷たさから逃れるように膝を抱えてみますが、それほど変わりもせず。
先に散った彼女たちもこんな思いを抱えていたのでしょうか?
私に戦う術を教えてくれた方々も、こんな悔しさを覚えたのでしょうか?
そんなことはないように思えます。
やっぱり私は、提督の頼れる力でありたいと思っている……いえ、想いすぎているのでしょう。
戦力が増えて、大きくなって。
提督の力が思う存分に振るわれるようになると喜ぶべきことなはずなのに。
何処か、それは常に自分でありたいなんて思っている。
「強く、なりたい」
そう思う。
ずっとずっと思っていたことですけど、今尚更強く思います。
提督に頼られ続ける自分で居たい。
艦娘に頼られ続ける自分で在りたい。
そんな自分を誇りに思い続けたい。
……わかっています。ずるい私はわかっているのです。
たとえ強さが無くともそう思われ続けるだろうなんて。
慌ただしくここを出発した第一艦隊の皆さんだって、変わらない信頼を私に向けてくれていて。
あの時第一艦隊の皆と艦隊を組んだ古鷹さんと加古さんだってそうで。
私の言うことを流石だと頷きながら聞いてくれた学校の皆だってそうでしょう。
少しでも気を抜けば、緩めてしまえば甘えてしまいそうになるそんな考え。
そう思ってしまう自分が恥ずかしい。
「鳳翔さん」
「え?」
呼ばれる声にいつの間にか俯いていた顔をあげれば、二人の妖精さん。
飛び回っていた時の笑顔を潜めて、至極真剣な表情を浮かべていて。
「強くなりたいですか?」
いつもの雰囲気をまるっきり感じない。
それは何処か歴戦を思わせる戦人のモノで。
「私達なら……鳳翔さんの力そのものになることができます」
何かの決意すら感じるその表情。
生唾を飲み込んだことすら気づかず、飲み込まれてしまいそう。
「艦載機のパイロットなんて役目じゃなく、鳳翔さんの力に」
「鳳翔さんが望むなら、私達はいつでも……」
それは魅力的すぎる誘惑。
そう話す二人の目が、雰囲気に誘われて、私は――。
「はいストップ」
「きゃっ!?」
な、なんですか!? 敵襲ですか!? 目の前が真っ暗です!?
「何をするのですか?」
「頭にきました」
え、えっとこれは……軍服?
え? 何で……って、提督!?
「ったく、帰りが遅いから心配したぞ? ……ってはいはい、わかったから止めてくれ。赤城、加賀」
「っ!?」
「なっ!?」
赤城、加賀……?
え? 一航戦の? 何でそんな名前が……?
「あぁ、まぁうん。後で説明するけど今は置いといてくれ。とりあえず自己犠牲精神はノーサンキューってことで」
「で、ですが!」
「鳳翔さんの為になら!」
自己犠牲精神?
「沈んで尚俺達の、艦娘の力になろうとしてくれることには感謝の言葉しか出ない。けど、今は妖精とは言え元艦娘。ならそういうのは認められないな」
そういう提督の顔は真剣そのもので。
目の前を飛んでいた妖精さんが驚いたように固まって……消沈したように俯いてる。
元、艦娘……。
妖精さんが?
「鳳翔」
「は、はい!?」
思わずびくっと立って敬礼。
こうして真剣な顔をしている提督には敵いません……。
「鳳翔は、強くなりたいか?」
「……はい」
「それは、この二人を犠牲……といえば言葉が悪いな。この二人の力を貰ってでもか?」
犠牲……? 貰っても?
まさかさっきのは……。
「……」
言葉が、出ない。
思わないと、喉までのぼってきているのに、出かかっているのに。
口から言葉が発せられない。
なんで……?
教えてもらったはずだ、犠牲なんて必要ないと。
それなのに……私は……!
「……ありがとう」
「……え?」
何故、お礼を言われるのです?
何故、嬉しそうなのです?
私は……浅ましい。
力の誘惑に負けそうになっているのですよ?
あなたが赤城と、加賀と呼んだ二人を犠牲にしようとしていたのですよ?
「鳳翔、海に立ってくれないか?」
「……はい」
わからない。あなたは一体何を……?
わからないまま、艤装を展開して、海に立つ。
背後から提督と、心配そうな妖精さん二人の視線を感じる。
「目を瞑ってくれ」
「はい」
元々暗かった海。
目を閉じることで完全な闇が広がる。
感じるのは微かな波の感触と、頬を撫でる海風。
……そして。
――こんばんは、月が綺麗ですね。
「っ!?」
「そのまま」
思わず目を開けそうになったところで提督の声。
ギュッと目に力を入れる。
そうすれば全ての音がなくなった。
前から感じる微かな温もり。
目を閉じているはずなのに明るくすら感じるそれ。
光。
そう、光を感じた。
だから。
「こんばんは、いい夜ですね」
返事をした。
――随分と悩まれていたようですが、どうされましたか?
……強く、なりたいんです。
――あら? もう既に随分と強いと思いますけど。
いいえ、私は弱い。
少なくとも、後進に怯えてしまう程には弱い。
今の居場所を奪われてしまうんじゃないかと怯えてしまう程、弱いです。
――気の持ちよう……なんて言えますけど。そんなことはないでしょう? あの方も、仲間も。そんな風には考えないって理解しているのでは?
……はい。
そうです、理解しているんです。
私があるはずのないことに怯えていることくらい。
そんな事に怯えてしまうこと自体が皆への侮辱になってしまっていることくらい。
それが、回りくどくもたどり着いた私の弱さであるなんて。理解しているんです。
気にしていないような振りをして、強がって。
弱さを預けることができない、そんな私だって。
――そうは言いますが、あなたはしっかりと与えられた任務をこなしているではありませんか。先の教導任務も、この前の南一号作戦だって。
わかってます! わかっているんです!
それで十分だと、こなせたことで満足するべきだとわかっているんです!
ですけど……だけどっ!
――ですけど?
私はっ! 嫌なんですっ!
言われたことを忠実に、完璧にこなすだけじゃあ嫌なんです!
あの人に……提督に! もっともっと喜んでもらいたいんです! 次も、その次もっ! ずっとずっと、もっともっと頼りにされたいんです!
浅ましいなんてわかってる! でも三歩後ろに控えて言われるがままなんて嫌なんです!
この任務なら鳳翔を、じゃない! どんな任務でも鳳翔ならって言って欲しいんです!
私は、わたしはぁっ!
――あ、あの……わかりました、わかりましたからその辺で……照れてしまいます。
ふえっ……?
あ……。
――はい、よくわかりました。……いえ、私のことながらそれほどの激情を秘めているとは……なんて少しびっくりです。
あうあう……。
――慕っているのですね、あの方を。
……はい。
あの方は決して言わないでしょうが、この命を求められても笑って投げ出せます。
ただ慕っているだけではありません。
提督は、この世界にいる艦娘を救ってくださる方です。
未だ見ぬ悲しみでさえも、きっと幸せに変えてくれる人。
ならそのために使う私の命。なんの躊躇がありましょう。
ですが……。
――その光景を生きて、あの方の隣で見たい。
その通りです。
私は、弱い。
この先、激しさを増す戦い。
その中で生き抜くためにより大きい力が欲しい。
そうして提督の隣で笑い合いたい。
――はぁ……羨ましいです、本当に。
……ふふ、そうでしょうか?
少し、苦しいですよ? 何せ嫉妬ばかりしてしまうのですから。
――そうなのかもしれませんね。
だから、私は。
――ええ、良いでしょう。と言っても、最初からいつでも大丈夫だったんですけどね。
ん? いつでも大丈夫……ですか?
――私はあなた、あなたは私。そして私達は海の意思。既にあなた方は海に認められていますから。
海に、認められている?
――理解する必要はありません。必要なのはきっかけ、強く
……よく、わかりません。
――それでいいのですよ、私達は。後は――。
――人が、海に認められるだけ。
「鳳翔――改」
無意識に呟いていました。
それと共に身体から湧いてくる力に驚いてしまいます。
「鳳翔さん……」
「これは……流石に、気分が高揚……どころじゃありません」
声に振り向けば目を丸くする加賀と呼ばれた妖精さんと、目を潤ませる赤城と呼ばれた妖精さん。
そして。
「おかえり」
「……」
優しげな笑顔を浮かべている提督。
――あぁ、お慕いしています。
あなたの力になりたい、そう思える自分が誇らしい。
肩にかかったままだった軍服を握る。
あなたは多くの艦娘を救う人。
そして私はそんなあなたを救える艦娘で在り続けたい。
これからもずっと。
死が二人を別つまで。
「はいっ! 教導任務より鳳翔! ただいま帰投いたしましたっ!」