二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル

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加古に乾杯 ②

「加古スペシャルを……くらえっ!!」

 

 南一号作戦海域の深海棲艦残党掃討作戦。

 順調に捗ってると思う。

 出撃する度にしっかり数を減らせているって実感がある。

 

 順調。

 そう、順調なんだよ。

 

 空母棲姫、だっけ? もうあんなのも見なくなったし、精々フラグシップ級がちらほら見られるくらいで。

 改っていう新しいステージ? そんな強さに至った第一艦隊や鳳翔さんの力を借りなくても十分にこなせるくらいには。

 

 改。

 

 金剛さんはわからないけどさ。

 もしもそんなステージに次至る人がいるのなら鳳翔さんだって思ってたから、それは問題ない。

 

 問題?

 ううん、なんていうんだろ。純粋に喜べたし、祝えたんだ。

 

 順調なのは掃討作戦だけじゃない、戦力の拡大って意味でもそう。

 養成学校についてあたしはノータッチだからよくわからないけど、きっと強くなってまたここに帰ってきてくれるって話ならそれで十分だし。

 既存戦力のあたし達第二艦隊、第三艦隊の皆だって改っていう新しい場所を見つけられたんだ、目指したいと思う。

 

 思ってる、そう、思ってるんだ。

 

「加古さんっ! 新手ですっ!」

 

「はいよっ! まっかせといて!」

 

 敵は……空母ヲ級エリートが旗艦の機動部隊、か。

 ちょっと、面倒くさいな。

 

「金剛さんっ! あたしと一緒にまずは随伴艦からやろう! 六駆の皆はいつもどおり!」

 

「イエース! 了解したネ!」

 

「任せてっ!」

 

 金剛さん、か。

 随分とうちに慣れてくれたなんて思うよ。

 

 いや、嫌味じゃないよ? 嬉しいって思ってる。

 

 天覧演習に第一艦隊、うちの代表として出ることが決まって提督や鳳翔さんと念入りに動き方の研究をしてるし、それを少しずつだけどしっかり活かせているように思う。

 少なくとも、天龍さんたちが違和感を覚えたりしない程度には動けるようになったんじゃないかな?

 

 何より、改。

 

 他の金剛型戦艦の人たちはまだって中、金剛さんだけが至った改。

 あたしが、まだ至れない、改。

 

 元々十分な練度はあったと思う。ただ気持ちがついてきていなかっただけなんだって。

 以前をあんまり知らないけど、それでも見違えたなんて思える位には強くなったんだろうね。

 

 ……羨ましい。

 

「加古さんっ!!」

 

「っ! っとお……ごめん暁っ! ありがとう!」

 

「いいのよっ! これくらい、当然だわっ! でも、気をつけてね?」

 

 いっけない、集中しなきゃね。

 危うく爆撃に巻き込まれるところだったよ……。

 

「すー……はー……」

 

 そうだ、集中しなきゃ。

 六駆の子達は今回が初めての掃討作戦参加だ、気を抜いている余裕なんて無い。

 

 でも。

 

「ウラー!」

 

「電の本気を見るのですっ!!」

 

 強くなった。

 いつの間に、なんて言ったら失礼かもしれないけど、確かにそう感じる。

 

 それに。

 

「金剛さんっ!」

 

「ハイッ! 行きますヨ? バーニング……」

 

「らああぁぁぁぁぁぶっ! ってね!」

 

 雷、改。

 

 フラワーズの中で、一番最初に改へと至った雷。

 あたしを差し置いて、那珂よりも早く。

 

 ……どうして。

 

「っ!? 加古さんっ!!」

 

「へ……っ? っとおぉう!?」

 

 あっぶな!? 今のはほんと危なかった!

 

「ごめんっ! 雷っ!」

 

「もっと頼っていいのよっ! ……って言いたいけど、加古さん? そんなんじゃ駄目よ? どうしたの? 今は敵を倒すことに集中しなきゃ!」

 

 ……煩いなぁ……。

 

 っ!?

 ち、違う! そうじゃないでしょあたし!

 

「うん、わかってるっ! もう大丈夫だからっ!」

 

「ほんとに? わかったわ! でも無理しないでね!」

 

 無理?

 いや、無理しなきゃ……じゃないと……。

 

「違うっ! 今は、今は戦闘に集中、集中だっ!」

 

 頭を振って変な考えを振り払おうとするけど……古鷹……あたし、どうしたらいい?

 

 やっぱり第一艦隊の皆みたいに、一度轟沈一歩手前にならなきゃ駄目なのかな?

 鳳翔さんはどうやって改になったのかな?

 

 古鷹……古鷹はどうやって改に至ったの?

 

 教えて、教えてよ、あたしに。

 

 じゃないと……あたし。

 

「加古さんっ!!」

 

「あ……」

 

 これは、駄目だ。

 魚雷、避けられない、六駆も……。

 

 あぁ、でも。

 

「加古さん!!」

 

 これで、あたしも改に、なれ、る……?

 

 

 

「……やっぱ、そうだよねー……」

 

 誰に向かってつぶやいたわけでもない。

 あ、ううん? ごめんね? 修復ありがとう、大丈夫痛くないから。

 

 入渠ドックでせっせと妖精が動いている姿を見ながら、猛省するのはあたし。

 

 余計なこと言って妖精の邪魔するのもなんだし……あー気持ちいー。

 不思議なもんだよね、見た目はまるっきりお風呂なのにさ、隣では外された艤装をカンカンしてる妖精に、浸かっているだけでふさがっていくあたしの身体についた傷。

 熱いとも、冷たいとも感じないこの液体。まるで身体が液体と溶け合ってるのかって感じ。

 

 こうやって見ると、あたしは艦娘なんだなって強く思う。

 言っちゃえば人間じゃないんだなって。

 

 ここに居ると、ううん。

 この鎮守府に居ると、そんな事すら忘れてしまいそうになる。

 

 戦っている時以外だけをみれば、まるで女子寮かなんかで。

 みんな仲良く、楽しく、生活する場所みたいに思えて。

 

 ……ふふ、なら提督はあれかな? 寮母さんならぬ寮父さんかな?

 

 そんな人と禁断の関係を、なんて。ますます漫画かなんかで現実感がないや。

 

 そんな事したら皆との関係はどうなっちゃうんだろうね。

 多分、形は一緒じゃないかも知れないけど、皆提督のこと慕ってるし。

 

「……そんな皆に、迷惑かけちゃったな」

 

 あたしは、どうやら大破したらしい。

 気づいたらここに居て、心配そうな顔した妖精があたしの世話をせっせとしてくれてた。

 

 無事に戻ってこれたってことは、多分なんとかなって撤退できたんだろうけど。

 

「まずったなぁ……」

 

 ほんと、六駆の皆は初めての掃討作戦だったっていうのに、何やってんだあたしは。

 情けないって思う。嫉妬して、戦いに集中しきれなくて。

 その結果が大破だ。

 

「提督も……きっと慌てたんだろうな」

 

 順調だった。悪くて中破止まりだった。

 それもだんだん少なくなって、小破すら見なくなってきた時に、これだ。

 

 提督に心配をかけた。

 それは、何よりも辛い。

 

「ほんとに、情けない」

 

 こんなんだから改になれないんだよ。

 鳳翔さんに続いて、間を置かないですぐ古鷹が改になって、ちょっとしてから雷が改。

 

 鳳翔さんにも古鷹にも聞いたよもちろん。どうやったら改になれるのなんて。

 海と会話したって言ってたけど、いくら語りかけてもうんともすんとも言わない海。

 

 あたしだって強くなりたい。

 

 そんなの当たり前に思ってる。

 強くなって、皆の力になりたいさ。

 

「何が、違うんだよぅ……」

 

 あ、駄目だ泣いちゃいそう。

 ほんと、キャラじゃないよ……。

 

「かこさん、かこさん」

 

「……うん?」

 

 何かな? あ、もう終わった?

 

 そう思って起き上がろうとしたけど、そうじゃないみたいで。

 

「あんまり、おもいつめないほうがいいよ」

 

「え?」

 

 そんな事を言って、すぐに艤装の修復作業に戻っていった。

 

 ……思いつめる?

 

 あたしは、思いつめてるのかな?

 

 いや、そうなんだろうね。

 だから、大破なんてしてしまう。

 

 メリハリ。

 提督に言われた、メリハリ。

 それで言うなら、ずっと張っていたんだろうね。

 

「意識しなきゃ……って? はい?」

 

「加古さん? 修復中すいません」

 

 鳳翔さん? どうしたんだろ?

 

「修復が終われば、提督の私室へとのことです」

 

「……うん、わかったー!」

 

 遠ざかって行く足音を耳に入れながら。

 

 ……お叱り、かな?

 

 そんな事を考える。

 

 まぁ、当たり前だよね。

 今回のは完全にあたしのミスだ、言い逃れようがないし、逃れるつもりもない。

 だけど。

 

「あの提督に、怒られる、かぁ……」

 

 想像もつかないや。

 金剛さんとのやり取りは見たけど、怒ってるなんて思わなかったし……むしろ羨ましかったくらいで。

 

「駄目だってば、ほんとあたしは……羨ましいってなにさ……」

 

 ほんと、どうかしてるよ……。

 

 

 

「加古、修復終わったよー」

 

「ん? おお、お疲れさん。とりあえずそこに座ってくれ」

 

 ちょっと……どころじゃなくドキドキしながら。それでもあたしらしく、提督が望んだあたしらしく入室して声をかけたつもり。

 そんなあたしに笑顔を一つくれた後、テーブルの前にあるイスを勧めてくれる。

 けど、謝るなら、座ってなんかいられないわけで。

 

「どうした?」

 

「い、いやっ! あの、さ……」

 

 謝るつもり満々なのになんでそんなに緩い雰囲気だしてるのさ!

 しかも、えっ? 何? 箱から何を取り出すの!?

 まさか夜戦!? 特殊な夜戦訓練でお叱りされちゃうのあたし!?

 

「うん?」

 

「え、えっと……それ、何?」

 

 あたしのへたれ! 何じゃないよ! ナニだよ! 

 

 じゃない!

 

 謝ろうあたし!

 

「あぁ、実はな。爺さんから……ほれ、地酒だってさ。やっぱ飲むなら加古とだろう?」

 

「へっ? あ、あぁ、うん。お酒かー」

 

 そうでもない!

 あぁ、でもお酒……お酒かぁ。美味しそう。

 

「あの人、なんかめっちゃいろいろ送ってくれるんだよ。ありがたいよな」

 

「う、うん……そうだね、いつかお返ししなくちゃね」

 

 手際よくグラスを並べて注いでくれる提督。

 いつの間にかあたし座っちゃってるし……うぅ。

 

「そうだなぁ、何がいいかな? 今から一緒に考えてくれよ。……っと、ほらどうぞ。アテも一緒に入ってたから」

 

「あ、ありがとう」

 

 えっと、なんだっけ。エイヒレ? あ、こっちはたこわさ……あの人、渋いなぁ。

 

 それにこのお酒……なんだかいい匂いがする。

 

「花酵母だってさ。あ、ロックでいいか? それとも水割り?」

 

「ろ、ロックでいいよ」

 

「あいよ……それじゃ、今日も今日とてお疲れさん! 乾杯!」

 

「か、かんぱい!」

 

 軽くグラスをあわせてから一口……あ、美味しい。

 苺、かな? 甘い香りですごく飲みやすい。

 

「うん、美味いな」

 

「そうだね、すごく美味しいや」

 

 ちびちびと飲む。

 

 飲みながら提督は笑顔でいろいろ話してくれる。

 

 最近電が主砲向けてくれなくなって嬉しいやら寂しいやら。

 金剛がお茶会に誘ってくれただとか。

 六駆が金剛たちの真似をしてお茶会ならぬ緑茶会を始めただとか。

 

 楽しそうに、嬉しそうにそんなことを話してくれる。

 

 あたしは、それに相槌をうちながらも何処か座りが悪い想いに引きずられて。

 お酒は美味しいって思うんだけど、やっぱり何処か楽しみきれない。

 やっぱり、当たり前で。

 

 だから提督もだんだん話すことが無くなって。

 グラスがテーブルに何度かコツコツとあたる音だけがやけに耳に残って。

 

「……提督は、何も言わないんだね」

 

「ん? 何もって……あぁ、話題のチョイスまずったか? すまん、他に何があったかな……」

 

「そうじゃなくて!」

 

 それでも笑顔だけは絶やさないで、一緒に居てくれる提督。

 

 そうじゃない、そうじゃないよ。

 提督の話はなんでも楽しいさ、嬉しいよ。こうやって美味しいお酒もあって、最高だって言い切れる。

 だけど、だけどさ。

 

「怒ってないの? あたし、今日大破したんだよ? しかも、自分の不注意で、皆に迷惑かけて!」

 

「……」

 

 怒ってよ、怒って欲しい。

 何してるんだって、気を抜きすぎだって。

 

 そんなんだから、改になれないんだぞって。

 

 じゃないと、あたしは……!

 

「本当にただ自堕落なヤツになっちゃう! あたしは……提督の力になりたいのにっ!」

 

 良いところを見せたいって思った、そのために頑張ってたつもりだった。

 でも、まだあたしは改になれない。

 鳳翔さんや古鷹のように海と会話なんて出来てない。

 

 それは、なんで?

 あたしが、こんなヤツだから?

 中途半端で、一人じゃ何も出来なくて、挙げ句自分を危険にさらして、味方もそれに巻き込んで。

 そんな、ダメなやつだから?

 

「教えてよ、提督。あたしは、どうやったら提督の望むあたしになれる? どうしたら、改になれる?」

 

 教えて? 提督。

 あなたになら、何を言われても良い。

 詰ってくれても、なんなら罵声を浴びせられたって構わない。

 それで提督の望むあたしになれるなら、力になれるなら。

 ここに居て欲しいと思ってくれるなら、あたしは。

 

「なぁ、加古」

 

「……何? かな」

 

 心の準備は出来てるよ。

 なんでも言って?

 

「別にいいじゃないか、改になれなくたって」

 

「……え?」

 

 それは、あたしに何も期待していない、ってこと?

 

「あーもう、そんな捨てられた犬みたいな顔するなって。言い方悪かったか? 違う違う、俺はたとえどんな加古でも一緒にいたいって思ってるから! 捨てるなんてありえねぇから!」

 

 ……それは、嬉しい、けど。

 

「良いか加古。お前は既に俺の力だ、仲間だ、大切な家族だ。そんな風に思ってもらえてるのはすごく嬉しい、掛け値なしに。だけどそれで自分を見失うな」

 

「自分を、見失う?」

 

 あたしは、自分を見失ってた?

 自分って……何?

 

「加古は眠い眠いと言いながら、加古スペシャルしてくれるくらいが丁度いい。気を張ってる加古もかっこいいけど、そうしなくちゃならないからそうするなんてしんどいことするな」

 

 そうしなくちゃって……そんなこと。

 

「改にならなきゃ俺と一緒にいられないわけでもない、まして力不足だなんても思わない。無理なんてするな、俺の望む加古じゃない、等身大の自分を海に問え」

 

「等身大の自分を、海に問う?」

 

「そうだ。加古のなりたい加古になれ。それがたとえ改って姿じゃなくても、それはそれでいいんだ。じゃないと、海が加古を見つけられない」

 

 ……。

 あんまり、意味はわからない。

 提督は一体何を知ったんだろう、何を思ったんだろう。

 だけど。

 

「……ん」

 

「加古?」

 

 あたしでいいって言ってくれた。

 なら、こんなあたしでも大丈夫かな?

 

「とうっ!」

 

「またかよ! ったく……」

 

 こんな風に寄りかかっちゃうあたしだけど。

 どうすれば改に至れるか、まだまだ全然わからないあたしだけど。

 

「お酒、美味しいね」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 やっぱりさ、思っちゃうよ。

 

 あたしは、あなたに相応しいあたしになりたいって。

 


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