二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
「提督? 慌てないで? まだあと一時間もありますよ?」
「あ、あぁ……そうなんだけどな?」
そんな困ったような顔を向けないで下さい。
第一艦隊が! 今日! 帰ってくる!
当然執務なんて落ち着いて出来ませんよ。出来るヤツなんているもんか。
三週間ですよ三週間! 長官やらは早すぎるって目を丸くしてたけど早いことなんてないです、長かったです。
忙しかった、忙しかったさぁ!
やっぱり夕立のダイブが、時雨の雰囲気が、天龍の自信たっぷりな態度が、龍田の笑顔が無いとさ!
寂しいんすよ!!
他の皆がいるから寂しさが紛れる、なんて思わない。誰かが誰かの代わりなんて思ってない。寂しさを埋める存在なんかじゃない。
たとえ第一艦隊の皆じゃなくて、第二艦隊の皆が離れていたとしてもこうやって寂しい思いをしていただろうよ。
当たり前としている存在がいないって事実から生まれる寂しさは受け止めるべきなんだけどさ。
うるせぇ寂しいんだよ!!
なんて話を昨日めでたく改になった加古と飲みながらしてたら抱きつかれた。毎度の抱きつき癖ながら気持ちよかったです。
まぁそれはそれとして。
腕時計を見ればマルキュウマルマル。
古鷹が言う通り到着予定は一時間後のヒトマルマルマル。
入り口に立って、続く道路を古鷹と眺めている。
その風景は変わらなくて。
だけど今にも第一艦隊を乗せた車がひょっこり現れそうで。
やっぱりそれで落ち着ききれない俺。
そんな隣で笑っているのは古鷹。
片手で海風に揺れる髪を直しながら、心地よさそうに俺へと倣い前を眺めている。
流石になんでそんなふうに笑ってられるのかなんて聞かない。
今更、お互いがお互いの隣にいることが心地良いなんて、当たり前のことを言葉にしたりはしない。
だからこれは幸せな時間。
落ち着かない気持ちはもちろんある。
だけど、隣に居たいと思ってる人達の隣にいられる時間は満ち足りているモノ。
もしかしたら俺だけが思っていることなのかも知れない。
なんて逃げたりしない。
俺は、この時間を生み出すために頑張ってきて、これからも頑張るのだから。
「あ、提督。あれ……」
「お、おぉ!?」
なんて落ち着くように思考していたら! 車! 車ですよ!
間違いない! あれは俺が手配した車!
「うおっしゃこうしちゃいられねぇ!!」
「あ! 提督!? ……もう」
すまねぇ古鷹! 俺の心が、身体が! 走りたがってるんだ!
止まらねぇ! 俺は止まらねぇからよ! 車も止まるんじゃねぇぞ!
あ、やっぱすいません止まって下さい、事故は起こるさは勘弁してどうぞ。
「提督さーんっ!!」
「おおっ! おかえり夕立っ!!」
止まった車から飛び出てきたのは夕立。
あぁ、やっぱこれっすこれっすよ!! たまんないっす!
「えへへっ! ただいまっぽい!」
「ったく、すぐそこじゃねぇか、逃げやしねぇんだから待ってろよ」
「そう言いながら天龍ちゃーん? 顔がにやけてるわよー?」
「龍田もね?」
うるせぇ全員にやけてるじゃねぇか!
あぁもう! やっぱ……やっぱりなぁ!
「第一艦隊旗艦、天龍! 任務完了、ただいま帰投したぜ!」
姿勢の良い、笑顔で向けてくれた敬礼。
さっきまで俺に抱きついてきてた夕立もいつの間にかピシッと。
それぞれが誇らしく、そしてここに帰ってこれたことが嬉しいんだろう笑顔で、胸を張って。
「あぁ! お疲れ様! よくやってくれた、鼻が高いし嬉しいぞ! おかえり、皆!」
賑やかな、お帰りなさいパーティだった。
鳳翔の上達した腕で振るわれた料理も、突如始まったフラワーズのライブも。艦学から来てもらった旧横須賀の皆も。
全員が笑顔で楽しんだ。
霞にこんなことだけのために呼んだのかと怒られたりもしたけど、ありがとうございますの一言で一刀両断さ。
面食らっていた金剛達含めた旧横須賀のメンバーだけど、これが墓場鎮守府だってのは分かってくれたんじゃないかななんて思う。
こんな光景を守るために、続けるために、戦っている。
俺だってそう改めて思った時間だった。
そう、だからこそ。
「皆、聞いてくれ」
宴もたけなわ。
盛り上がりに水を差すってのは悪いけど、まだまだ俺たちは戦いの最中、目指すべき場所への道半ば。
自分でも少し硬めの声が出たと思う。
だからだろう、一瞬で雰囲気が切り替わった。
昼から酒が飲めるとはしゃいでいた加古も。
笑顔で踊っていた那珂ちゃんも。
お腹いっぱいで苦しそうにしていた瑞鶴も。
全員が俺へと真剣な表情を向けた。
「まずは第一艦隊が無事に任務達成して帰ってこれたこと、嬉しく思う」
「おう。こんなのお茶の子さいさいってもんだぜ? 提督」
あぁ、ありがとう。
「第一艦隊がいない中、海域の掃討作戦、海上護衛任務。苦労をかけたと思うが、よくやってくれた」
「ふふ、ありがとうございます。ですが、天龍さんの言う通り大したことではありませんよ? 提督」
「そうだよっ! 那珂ちゃんも漁師の人たちと楽しめたし! 言うことなしなんです!」
そうだな、よく頑張ってくれた。
第一艦隊と同じく、鼻が高いし、頭も上がらねぇ思いだよ。
「金剛型戦艦の皆も、慣れる、馴染む、戦うと大変だっただろう。それでもよくついてきてくれた」
「そんなことないネー! 全部楽しかったヨ!」
「はい、榛名も楽しかったです!」
そう言ってもらえると救われるよ。
そして楽しいと思ってもらえる場所であってよかった。
「艦学へは中々顔を出せずにすまない、だけど皆がしっかりと力を付けていることはわかる。それが見れるのが楽しみだよ」
「あぁ、最高の成果を捧げようとも」
自信満々に頷く長門はやっぱりカッコイイな。
それに続く皆の目にもしっかり力が漲っている、これが見れただけでも艦学は成功だと確信できる。
……大きく、深呼吸。
当たり前だが、ここで俺に信頼という絆を向けてくれている皆のことを信頼している。
未だ見ぬ、会えぬ艦娘のことだってきっと無条件で信頼するだろう。
だけど、それでも。
「これからの予定を今、改めて伝える。各自報告書等で知っていることもあるかも知れないが、しっかり聞いてくれ」
「了解!」
全員が姿勢を正して敬礼してくれる。
力を感じる。なんでも言ってくれと、なんでもやってやるという意気込みも。
それを頼もしく感じるのは当たり前。
「天覧演習はこれより十日後、横須賀鎮守府演習場にて行われる。それに臨むメンバー選出は一週間後、ここで行う演習で決める」
問題は、ない。
そう、ここまでは何の問題もないんだ。
だからある問題はこの後。
「そして、天覧演習の後。発令される作戦がある」
「……作戦?」
天龍の目が細くなった。
他の皆が集中力を高めたことがわかる。
「MI作戦」
「えむ、あい……作戦」
「予め言っておくけど、この作戦が執られることは確定している。だが、公表はされていない。全体に向けての発令は天覧演習最終日、演習後に出される」
先に知ることが許されたのは軍部の上層限られた一部のみと、俺を含めたここにいる艦娘全員だけ。
どういう形で作戦が執られることになろうとも、うちが中枢、もしくはそれに相当する何かを担うことに変わりはないだろう。
故に今から心構えを含めた準備をしておけということ。
「作戦の全体指揮は長官が執ることになっている。決まっていないのは、現場を統括する者のみ……そしてそれは、天覧演習最終日の結果によって決められる」
「っ……それは、つまり」
俺か、他の誰かか。
他の誰かにあたる人間は、兵器派の人間。
予定を無理やり変えさせた兵器派の目的はここにある。
天皇さんの目の前で力を示し、その指揮権を得るため。
裏を返せば、俺達墓場鎮守府に勝てる算段がついたということだろう。
「薄々勘付いてるかもしれないけど、あえて触れない。だけど俺は、それになりたいと思っている」
MI作戦の、目的。
艦これではAL/MI作戦と、AL海域もあったけど……まぁそれはいいだろう。
軍、対外的には天覧演習にて日本の武力、戦力を民間人へと誇示し安心してもらうなんて意図があるのはもちろんな話。
そしてその戦力を以て、大規模作戦へとあたり、成功させる。
そうすればきっと国民の皆は艦娘、ひいては軍という存在を改めて認めることだろう。
そして、内事情として。
「過去を、乗り越える」
MI作戦の元となった、ミッドウェー海戦。
日本海軍は空母四隻、航空機約三百機等を失うという大きな損害を受け、以後の作戦主導権をアメリカ軍に譲り渡すことになる。まさに太平洋戦争のターニングポイントとも言える戦い。
そんな史実、過去に抗い、乗り越えるためにはうってつけの作戦。
「俺達は、過去を乗り越えないといけない。いや、受け入れると言ってもいい。多くの艦娘を悪戯に沈めてきた過去を」
それに照らし合わせている。
正直、俺にはぱっとこないものではあるが、長官は酷く真剣にそう言った。
――海に見放された我々は、海に認め直されなければならない。
そう言った。
「今までと同じように……艦娘を使ってはいけないんだ。共に立ち向かわなければならない。そしてそれが出来るのは――」
「提督しかいねぇだろうな」
天龍……。
「ありがとう」
「はっ、よせよ。オレだけじゃねぇここにいる皆そう思ってるよ」
見渡せばその通りだと頷いてくれる皆。
自惚れ……だとは分かっている。
まだまだ新米提督な俺だ、そんな大それた立場に就くなんてもっての外だなんて分かっている。
だけど。
「俺は、自惚れられなくて失敗したから。今度はしっかり自惚れたいと思う」
もしも、艦これをベースに考えるのならば。あの苦しい、いや、苦しすぎたイベントを思い出すのであれば。
戦力はまだまだ足らない、そう思う。
それでもこの作戦の先に得られるものが必要だと長官は言った。
得られるものってのが何なのかはわからない。
だけど不思議と、海に認められなければならないっていう言葉に頷けた。
すでに、艦娘達……少なくともうちの皆は海に認められているらしい。
だから鳳翔や古鷹、雷も、時間はすこしかかったけど加古だって。艦学に居る艦娘を除く墓場鎮守府、全ての艦娘は改へと至った。
認められたからこそ新たなステージに至ることが出来た。
ならば今度は俺、俺たち人間が踏ん張る番だ。
「だから皆の力を貸して欲しい……頼む」
頭を、下げる。
おかしな話だ。
この世界の住人じゃないはずの俺なのに。
僅かな時間で誰よりも艦娘を大事に想っていると自負出来てしまうなんて。
だけど海に、世界に認めて欲しい、認めさせたい。
人間は、上手く艦娘と、海と共存できるのだと。
そうしたいと思っている俺がいるのだと。
「はぁ……おい、どうする?」
「そうねぇ……やっぱりまだまだ私達は頑張らないといけないのかもー」
沈黙の後、天龍と龍田の声が聞こえた。
「そこが提督の魅力だよ」
「ぽいぽい! だから皆提督さんのことが好きっぽい!」
見なくてもわかる、笑顔でそう言ってるだろう時雨と夕立。
頭を上げてみれば、全員の笑顔が迎えてくれた。
そして。
「全艦娘、整列っ!!」
天龍が歩み出て、皆へと号令をかける。
一糸乱れぬ、なんて今まで何度も見せてくれたけど、今回はそれ以上。
まるで一つの生き物かのように、すばやく、綺麗に整列した。
「提督の願いを拒否するものは一歩前へ!」
動かない。
「願いを叶えることが難しいと思うものは一歩前へ!」
微動だにしない。
「提督の力だと自負するものは一歩前へ!!」
空気が、揺れた。
まるで大きな塊が迫ってきたかのよう。
「提督以外に使われたいと思うものは居るか!」
「いいえっ!!」
指揮者がタクトを振ったのかとでも思うくらい、一斉に否定の音が鳴り響いた。
「提督のために全力を振るう覚悟を持つものは敬礼っ!」
それは美しすぎるパーカッションだと思った。
衣擦れの音ですら、揃えばここまで迫力あるものになるのだと。
「……オレ達、墓場鎮守府艦娘、総員。提督の家族であり、友であり、力だ。提督の願いはオレたちの願い。それを嫌だと言うやつなんて、いねぇよ」
「……」
俺に向かってそう言った天龍もまた、敬礼を向けてくれた。
……。
ったく。
「わかった。よぉーくわかったよ」
こんなに気持ちよくケツを叩かれたのは初めてだ。
そうだな、そうだよな。
「俺の願いも、お前たちの願いだ」
「そういうこと」
にかっと笑った天龍の笑顔が眩しい。
確かに、俺はまだ世界にも海にも認められていないのかも知れない。
人間にだって、まだまだ俺を厄介者だと思うやつだって多いのかも知れない。
だけど。
「皆の力に期待するっ!」
「お任せ下さいっ!!」
答礼して言ってみれば、また揃って返ってくる。
あぁ……心地良い。
そうだ、そうだよな。
俺達は皆で一つの力だ。
皆で、挑もう。望みを一つに束ねて槍に変え、このさいっこうでハードな世界へと挑もうぜ。
ありがとう。
大好きだぜ、皆。