二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました 作:ベリーナイスメル/靴下香
「……どう思う? 大淀」
「申し訳ありません、私にも……」
ついに、というべきか始まった天覧演習メンバーを選抜するための鎮守府演習。
第一艦隊と第二艦隊で演習するために無茶したよな、なんて思い出すのも程々に。
第一艦隊に公平を保つべく、海域哨戒を頼んで見送ってから始められたこの演習。
演習場で向き合う艦隊へと疑問符が思い浮かぶ。
「随分と……思い切ったって言うべきか? 偏った編成にしたもんだな」
艦学の編成。
長門、陸奥、霞、朝潮。その四人。
対する墓場鎮守府の編成は、榛名、古鷹、加古、那珂、暁、雷の六人。
墓場鎮守府の編成を今日になってから先に提示してから決めてもらったことも考えると流石に頭を捻ってしまう。
確かにそうすることでもう片方の艦隊を六人編成にすることは出来る。
先に六人編成をした、つまり残りは五人。比叡、霧島、大淀、響、電となるわけで。
この次の戦いで数的有利を生むためにこの編成を……?
「数的有利を……という部分で考えれば、初戦に戦艦のお二人を同時に編成する理由がよくわかりませんね」
「あぁ。確かにぱっと考えるだけなら戦艦に駆逐艦の護衛を一人ずつで動きやすそうではあるが……どうやっても手数が足りないだろう」
押しつぶされるのは明白。
それなりの損傷は与えられるだろうが、勝つための編成には思えない。
かと言って、最初から勝負を捨てるなんて雰囲気には見えない。
向き合ってる長門達の顔には不敵な笑顔が浮かんでいるし、陸奥や霞、朝潮にしてもやる気満々といった感じ。
一瞬、自分の力を俺に見せられればそれでいいと考えているのか、なんても思ったけど。
この顔を見るにそういうわけでもなさそうだ。
「何か、狙いがある。そう見るべきか」
「はい。予想は付きませんが……いえ、だからこそ楽しみですね」
少しわくわくしている様子の大淀に苦笑い。
いや、気持ちはわからないでもないんだがな。
『開始三十分前、総員最終点検を行うように』
アナウンスすればこちらに向かって敬礼する皆。
点検を行いながらしているのは打ち合わせ、だろうか。
長門が真剣な表情で全員に何かを言って、それに頷く全員。
そんな姿を目を細めて見るのは榛名。
霧島にしてもそうだけど、二人の練度向上には目を見張る物があった。
金剛、比叡と差がついていたその実力は埋まったと言って良いだろう、同じ改というステージに登ったことで自信もついたように思える。
……そう、改だ。
艦学に所属しているメンバーは誰一人改に至っていない。
そのことを考えても、圧倒的な差があると思う。
「その差を埋めるのは並大抵のもんじゃないぞ……? 長門、見せてもらおうか、その答えを」
「……提督、お時間です」
頷き、マイクを手に。
『演習、開始っ!』
開始の合図を出した瞬間だった。
「胸が熱くなるな……いくぞっ! 一斉射っ!!」
「なっ!?」
一斉射、だって!?
それは長門が改二になって初めて行えるモノのはずだぞっ!?
凛とした長門の声、合図に従い砲撃する陸奥。
同時に、突撃開始する朝潮と霞。
放たれた砲弾はしっかりと目標に吸い込まれて……。
「那珂は中破、暁、雷は大破。那珂は主砲に損傷、暁と雷は轟沈判定よ」
「あ、あぁ……」
叢雲妖精から告げられた言葉をそのままマイクを通して告げる。
水飛沫が晴れた後から覗く光景は、那珂と暁と雷の驚きに顔を染めているもののしっかり古鷹達を庇っている姿。
そうとう驚いたんだろう、流石に損傷を抑えてとは無理だったか。
「一斉射……これが長門さん達の答えですか……っ!」
大淀も目を丸くしている。いや、もちろん俺だって。
……落ち着こう、まだ演習は終わっていない。
「……なるほど、先制一斉射で数の差を埋める、か」
「はい、そして朝潮さんと霞さんの突撃は……長門さん達が装填完了するための時間稼ぎですね、見事です」
朝潮と霞は上手く榛名達の邪魔をしている。
大淀の言う通り一斉射で撃ち切った弾を装填するための時間稼ぎに注力しているのか、無茶な突撃ではない。
だけど……。
「朝潮、霞、共に中破。脚部艤装、主砲に損傷よ」
「あぁ」
流石というべきは古鷹と加古だろう。
動揺を一瞬で静めて朝潮と霞に主砲を放ち、しっかりとあてている。
「朝潮、大破。轟沈判定」
そしてそこを榛名の主砲が捉えた。いい連携だ。
流石に那珂ちゃんは効果的な攻撃は出来ないな、損傷した主砲じゃあ霞は捉え損ねてしまったみたいだ。
霞がなんとか長門と陸奥に合流する。
うん、しっかり装填も終わっているな。
「これで三対四の構図だが……」
「霞さんと那珂さんは攻撃の数として数えにくいでしょうね。ただ……」
那珂ちゃんは攻撃が出来なくても守る技術がある。
となるとお互いの数は減りはしたが構図としてはあまり変わらない、どころか長門達の不利に変わりはないだろう。
一斉射は確かに驚いた。
十分以上にうちの新たな武器として勘定できる。
うん、有意義な演習――
「なん、だと?」
「長門? いいわね? 主砲、一斉射!!」
待て待て待て、そんな事戦闘中にしたらいい的だぞ!? ていうか陸奥、お前もか!?
か、改二とは一体何だったのか……。
あぁ、そりゃ当然狙われる……って霞っ!?
「霞、大破。轟沈判定だよ」
……ったく、だから犠牲的行動は駄目だって言ってるのにな。下手くそな庇い方しやがって……。
だけど……。
「古鷹、加古、那珂が轟沈判定ね」
「あぁ」
今回は仕方ないでしょう?
なんて目でこっち見るな、変な信頼の仕方しやがってからに。
「……怒るべき行動ですが……提督?」
「わかってる。アイツは言ってんだ、ちゃんと墓場に組み込まれたらこんな事しなくてもいいのよね? って」
褒めて良いやら悪いやら。
叱るべきかそうじゃないか。
判断つかねぇよまったく。
「これで榛名さん一人に対して長門さん陸奥さん二人……数の上では逆転……って!?」
「陸奥、大破よ、轟沈ね」
榛名は大丈夫です、ってか?
古鷹、加古は一斉射の直撃コースにいながらも最後までしっかり砲撃して、霞に庇われはしたものの狙いはバッチリだった。
榛名を庇った那珂ちゃんも見事、流石フラワーズ旗艦と言うべきかあの身体でよくやったよ。
これで、一対一。
なるほど、ようやく冷静になれた。
つまるところこうしてうちに来るまでに鍛えられていた狙撃技術、その昇華が一斉射なんだろう。
その武器を信頼してそれを活かすという一念へと一途に行動した朝潮と霞。
変に欲へと駆られてしまえば、あの時間稼ぎ目的の突撃から二人は帰ってこれなかったろうし、その結果陸奥の一斉射は無理だった。
帰ってくることを信じて二度目の一斉射に向けて準備をした、途中で援護射撃をしなかった。
確かな信頼で結ばれた艦隊行動だったと言える。
残念と言うべきか、やはりと言うべきか。
長門と榛名の一対一は榛名が一方的と言っていいレベルで有利に展開されている。
それでも、よくここまで食らいついた、展開できたと称賛するべきだな。
もちろん榛名達が力不足だということはない。
むしろよく立て直したというべきだろう。
「長門、轟沈判定」
『長門、轟沈判定だ。そしてそこまで、演習終了。皆、帰投してペイントを落としてくれ』
悔しそうな顔をするのは暁と加古。
一瞬そんな表情を浮かべた榛名と古鷹ではあったが、最後には全員で握手。お互いの健闘を称えているようだ。
「提督」
「あぁ、大淀……楽しみだな?」
「はいっ! 大淀、行ってまいります!!」
おう、行ってらっしゃい。
「さて、艦隊メンバーは消去法でわかった上だ。どうなるかね」
「はいっ! 榛名、楽しみです!」
隣でわくわくと目を輝かせている榛名。
ペイントの汚れがほぼ無かったからか、始まるまでにやってきた。
改めて、艦学メンバーは旗艦は翔鶴。以下瑞鶴、摩耶、鳥海、川内、神通。
対する墓場鎮守府メンバーは大淀を旗艦として、以下霧島、比叡、響に電。
「榛名はどうなると思う?」
「そうですね、有利なのは艦学の皆さんだと思います。数的にはもちろん、総合的な火力も高いでしょうし……」
そうだな、俺もそう思う。
実際墓場鎮守府側はかなり厳しい。
翔鶴、瑞鶴の艦載機による攻撃を捌くのはもちろん、摩耶や鳥海の一発だって怖い。
川内、神通にしても侮れないのは確かだろう。
「大淀達は如何に足で相手を撹乱できるか、だけど……」
「霧島と比叡姉様がいる以上、撹乱としての足並みを揃えるのは難しいですね。速力に違いがありすぎます」
だな。
順当に考えれば響と電が戦艦二人の護衛をして、大淀が穴埋めをするって役回りだけど……ちと大淀の仕事が多すぎるな。
艦載機に目を向ければ鳥海や摩耶、重巡洋艦の一発に対応出来ないだろうし逆もそう。
どちらかを犠牲にせざるを得ない、大淀はどちらを取るのか。
先の演習で得た人数差という有利。
それをどう活かすかが艦学としては考えるところだろうな。
何も考えず物量で押し切ることが出来る……なんて甘い考えは通じない、それほどに練度の差がある。
「予想まったくつかねぇな?」
「はいっ!」
榛名可愛い。
はっ!? 思考から逃げるな、俺!
ほら、叢雲妖精が怖い目で見ているだろう?
『開始三十分前、総員最終点検を行うように』
よしっと頷かないで下さい叢雲妖精さん、怖いです。
あ、榛名さんも笑わないで下さいませんか?
「榛名が……そうだな、あそこにいたとしたらどうする?」
「はい。私なら……やっぱりまずは対空防御態勢を整えて、来るだろう艦載機の先制攻撃を凌いだ後……まずは正規空母のお二人を目標にするでしょうか」
ふむ、なるほどね。
確かに榛名も対空技術に優れている。その技術を以て艦載機の攻撃をやり過ごしてからの思考。
俺と同じだな。実際この場面で艦載機の先制攻撃をもったいぶる必要はない、むしろその攻撃結果がどうあれ後の展開は有利に運ぶだろう。
逆に大淀達からすれば、最初のそれをどうにかすることがスタートラインに立つための条件でもある。
そうして凌いだ後、翔鶴と瑞鶴を少なくとも中破以下にして艦載機発着陸不可な状態にする。
……やっぱ厳しいなぁ。
「司令官」
おっと。
全員準備完了、時刻もぴったりだな。
『演習、開始っ!』
さて……?
「やはり艦載機を飛ばしましたね」
「あぁ、セオリー通り……だけど?」
何だ? あの動き、それに数……。
あれは、全部爆撃機? いや、二人共攻撃機も積んでいたよな……?
あれじゃ流石に全機落とされちまうぞ?
「提督! あれっ!」
「うおっ!? まじか!?」
少し間を置いて飛んでいく攻撃機。
先に飛んでいった爆撃機は真っ直ぐ大淀達の場所に飛ばず、回り込んで……。
「響、中破。霧島、電が小破ね」
「……あぁ」
……すげぇ。
巧み過ぎるだろ、ていうかあの二人の息合いすぎ。
爆撃機が回り込もうとする瞬間に攻撃機の魚雷が発射され、逃げ道を塞ぐ。
なんとか避けた後すぐに襲いかかる爆撃。
それぞれ翔鶴と瑞鶴が完璧に同じ動きを取らせた。
「榛名、もしかして芸術でも見ているのでしょうか?」
「俺も似たような気分だよ榛名」
悠々と戻っていく艦載機。
攻撃機は流石に幾らか落とされたものの、爆撃機は無傷で全機翔鶴と瑞鶴の下へ。
鳳翔仕込みの発艦技術ってのはもちろんあるだろう。
だけど、あの艦載機の操り方は二人ならではのものだと確信できる。
ったく、長門や陸奥といい、翔鶴、瑞鶴といい……。
「魅せてくれやがる……っ!」
そんな空母二人の攻撃をあれだけの損傷で抑えたのは見事と言うべきなのは間違いない。
それぞれの対空態勢、対空射撃の技術はもちろん、やはりフラワーズ駆逐艦の動きが冴える。
響は比叡を完璧に庇った、比叡が負うはずだった損傷ごと。
電は霧島を完璧に庇った、お互いに損傷を半分ずつ背負い。
そうやって全体の損傷を軽微に抑えた、全員がしっかり動ける程度に抑えた。
仮に、そこいらで出くわす深海棲艦空母級なら全員無傷で潜り抜けていただろう。
改めて、ヨーイドン。
榛名はもう目のキラキラが止まらないようで、ものすごく楽しそう。
多分、俺も似たような顔してる。
そんな中先手を取ろうとしたのは鳥海。
計算していたのだろう、狙いをつけようとしていた比叡に向かって放った砲撃は当たり前のように大淀によって撃ち落とされた。
「……何度見ても神技ですね」
「まったく同感だ」
そんなの聞いたことねぇよまじで。
ともあれ、そうして比叡を遮る物は何もなく、しっかり付けられた狙い通り摩耶へと砲撃が飛び。
それを神通が庇った――無傷のままに。
「上手い、な」
「はい、まるでフラワーズの皆さんみたいです」
那珂に教導を受けたのは伊達じゃない、ってところか。
続いた霧島の砲撃、それは鳥海の撃ち終わりを狙ったものだが、これも川内が庇うことで無傷に終わる。
最初の航空戦以降、互いに損傷が生まれない膠着状態。
流石に戦闘が始まってしまえば得意のコンビネーションは出来ないのか、それとも上手く墓場鎮守府が警戒できているのか。
どちらも正しいような気がするが、確かではない。
戦闘中の艦載機発艦に関してはそう目を見張るモノはないと思う。
摩耶が、鳥海が撃った砲撃は大淀が撃ち落とし。
落とせなくとも、響や電の護衛技術という壁に阻まれる。
改めて、膠着状態が続いていた。
「状況が動きませんね」
「あぁ、どちらに対しても称賛できる光景と言えるな」
数の差を練度で埋める大淀達。
その差を埋めきられないよう突き放し続けている翔鶴達。
だが、いつまでも続くわけではない。
艦載機が発艦される度に徐々に落とされている。
いずれ発艦すべき艦載機がいなくなるのは目に見えていた。
要するに翔鶴達はジリ貧なのだ。
対する大淀達はこのままでも一向に構わない。
だから状況を動かそうとするのは翔鶴達。
そう思っていたけど。
「っ!? 電さんが!」
「突撃……? いや、あれは……!」
思い返すのは南一号作戦の時に見た電の姿。
相手の攻撃を完全に見切り、遊ぶように深海棲艦を撃沈させていくあの姿。
それが重なって見える。
「危ないっ!」
「……いや」
榛名の叫びを小さく否定する。
そして俺の予想通り、待ってましたと言わんばかりに電に向けられた鳥海の砲撃は。
「……えっ?」
「見切ったか、電」
いとも簡単に避けられた。
目を丸くする鳥海に向けて、電は笑顔を浮かべるけど。
「榛名、ちょっと怖いです」
「あはは……」
もう当たらないのですよと言っているのか。
あるいは、よく出来ましたと高みから見下し褒めているのか。
いずれにせよ挑発的に感じられる笑顔。
状況が、動いた。
守勢に回りながらも相手の動きを観察していた電が攻勢に移り、翔鶴達は動き方を変えることを強いられる。
電を止めるために川内が。それでも足りず神通が。
二人がかりでようやく電の相手が出来ている状況。
それはつまり。
「摩耶、中破」
「鳥海、中破」
比叡と霧島による攻撃から守る者がいなくなったってことだ。
「これは……決まってしまいました?」
心配そうに言う榛名だけど……そうだよな。
「そう言うわけでもなさそうだぞ?」
中破した摩耶と鳥海。
それで何かを振りきったのか二人が、電を止めるべく突撃。
同時、川内と神通が電を置いて霧島と比叡に向かって突撃しようとする。
当然それを阻もうとする電だが……。
「電、大破。轟沈判定ね」
古鷹、加古のお株を奪うような連携射撃が電に襲いかかった。
それは初めて見せる連携だろう、もしかしたら切り札として取っておいたのかも知れない。電の予想を遥かに超える程の巧みさだったから。
そして。
「霧島、大破。轟沈判定。川内も同じく轟沈よ」
神通の油断しましたねなんて声が聞こえてきそうだ。
川内と神通の突撃は実り霧島を轟沈させる。ただ、その動きに何か違和感を覚える……どうしてこうもあっさり?
だけどそれを考えている暇なく。
「爆撃機!!」
畳み掛けるような翔鶴と瑞鶴の爆撃機が比叡を襲う。
「響、轟沈。鳥海も轟沈ね」
響が比叡を庇い、轟沈。
それを信じた比叡の砲撃が鳥海を捉え、こちらも轟沈。
「一気に状況が動いたな」
「はい……未だに理解が追いつきません」
目を丸く瞬かせる榛名、可愛い。
しっかしほんと一瞬で様変わりだな。
残るは大淀と小破した比叡。それに対して神通と中破した摩耶。
翔鶴と瑞鶴は無傷だが……発艦出来る艦載機がもうないだろう。
さっきの爆撃機はしっかりと大淀が撃ち落とした。
ここで盾にならなれると動きはしないだろう、それは俺が絶対にやめろと言っていることだからではあるが……。
いや、まだそれには早いか。その理解でよしとしよう。
悔しそうに、一歩及ばなかったと唇を噛んでいる二人。今はまだこれでいい。
「決まり、ですね」
「あぁ」
俺と榛名の言葉通り、予想通り。
先の展開はやはり大淀と比叡が有利のまま終わる。
「いい、演習でした」
「そうだな、あいつらの力。しかと見ることが出来たよ」
海上で握手を交わす皆。
ありがとうございましたと言っているんだろう、どこか悔しそうな思いも伺えるけど納得してるように見える。
うん、榛名の言う通りいい演習だった。
しっかりそれぞれの力を知ることが出来た。
「それを活かすも、殺すも……俺次第だな」
あいつらの力に応えるためにも、しっかり頭捻りますか!