二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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第一艦隊が帰ってきてから天覧演習が始まるまでにあった話です。
この閑話はこの話を含めて四話で終わりますが、全てその時期にあった話です。


最後之閑話
夕立


「甘いっぽーい!」

 

「っ!?」

 

 んふふっ! 夕立の勝ちっぽい!

 あ、でも大丈夫かな? 結構強く打っちゃったっぽいぃ……。

 

「大丈夫っぽい?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。ですが、流石ですね夕立さん。私も見習わないといけません」

 

 褒められたっぽい? わぁい! 嬉しいっぽい!

 

 とと、喜んでばかりもいられないよね。それじゃあ手を……ぽいっとね!

 

「とと、ではもう一本……」

 

「んーん! ちょっと休憩するっぽい! 続けてやればいいってわけじゃないと思うの」

 

 やる気があるのはいい事っぽい!

 だけど、大切なのはしっかり今の内容を振り返ることだと思うの。

 一度一度の機会を大切に、しっかりと良かったところ、悪かったところを考えないとだめっぽい。

 

 それに折角こっちに来てお泊りなんだから、根を詰めすぎても勿体無いっぽい。

 

「なるほど……」

 

 そう言ってみればちょっと考えてからうなずいてくれた神通さん。

 わかってくれたっぽい?

 

「やるね、川内さん」

 

「時雨こそ……ねっ!」

 

 そんな声に振り向いてみれば、時雨と川内の打ち合い。

 竹刀のぶつかる音が聞こえなかったからすっかり忘れちゃってた。

 

 二人共、すごい。

 

 時雨がすごいのは分かってたけど、それに追いすがる川内さんも中々なの。

 夕立と神通さんはさっきので三本目だったけど、多分あの二人はまだ一本目。

 それだけずっと長い間打ち合っていたのに、一度も竹刀を相手に触れさせてないっぽい。

 

「姉さんの動きを夕立さんはどう見ますか?」

 

「ぽい?」

 

 二人の姿を眺めながら聞かれたけど……んー。

 

「二人共、似てるようで似てないっぽい」

 

 そんな風に思う。

 

 挙動全てで相手を掌握しようとする時雨に対して、挙動で相手を惑わそうとする川内さん。

 上手く言えないけどやっぱり違うっぽい。

 

 時雨の予想先、そこに虚を作る川内さん。

 今もそう、時雨は竹刀を振らせようとあえて隙を見せた、そしてそこに川内さんはフェイントを入れる。

 だけどそのフェイントは見切られていて……。

 

「うー……ややこしいっぽい!」

 

「ふふふ、そうですね」

 

 あ! 笑わないで欲しいっぽい!

 だって仕方ないっぽい! あの二人がやってることわかるけど、わからないんだもの。

 

 ……でも。

 

「そろそろ、いいかな?」

 

「くぅっ!」

 

 時雨は少し手加減してる。

 それはきっと川内さんもわかってるっぽい。

 虚から繰り出す攻撃を見切られちゃうっていうのは、実力が上じゃないと出来ないから。

 

 こうやって傍から見て初めて分かるってこういうことっぽい。

 時雨もとっても強いんだって。

 

「……決まるっぽい」

 

「え?」

 

 川内さんの動きが、虚を作りきれなくなった。

 多分、振りかぶったあと狙ったのは胴打ち。私でもわかるくらいの狙い。

 

 だから。

 

「ふっ!」

 

「いつっ!」

 

 振りかぶった竹刀が胴打ちの軌道へ変わる瞬間、時雨の小手打ちが綺麗に決まった。

 

「はぁ、はぁ……やっぱ駄目かー。うん、ありがとうございました」

 

「ううん、十分すごかったと思うよ。ありがとうございました」

 

 そんなことを言い合ってる二人の姿からも実力差がわかるっぽい。

 

 肩で息をする川内さんに、平然と笑顔を浮かべて一礼する時雨。

 やっぱりまだまだおっきな差があるんだなって思っちゃう。

 

「……良い機会だったと確信していますが、これほどの差があるのですね」

 

「ぽい?」

 

 なんとなく驚いてる……のかしら?

 そう言えばあっちでも毎日川内さんと鍛錬してたって言ってたし……自信あったっぽい?

 

 ……えへへ、じゃあやっぱり夕立達、とっても強いっぽい!

 

 って!!

 

「てーとくさーん!!」

 

「おーやってるなって……おう、お疲れさん夕立」

 

 褒めて褒めて! 夕立、今日も頑張ったっぽい!!

 

 あふ……んー! やっぱり頭撫で撫で気持ちいいっぽい!

 

「夕立……」

 

「ぽいっ!?」

 

 し、時雨っ!?

 ご、ごめんなさいっぽい! す、すぐに代わるっぽいぃ!

 

「はいはい、時雨もお疲れさん」

 

「んっ……もう、こうすれば良いって思ってないかい?」

 

 いや、それで良いっぽい。

 時雨、尻尾があったらブンブン振ってるっぽい……夕立には見えるっぽい……。

 ほら、川内さんも神通さんも苦笑いしてるの……。

 

「しっかし神通も川内も……良いのか? パーティーの後だぞ? ゆっくりしてくれたら良いのに」

 

「あはは、やっぱり毎日やってこそだからねー」

 

「はい。それに、今の自分を知る、そして夕立さん達との違いを知るいい機会でしたから」

 

 うんうん、その通りっぽい!

 でも、提督さんの言ってることも正しいっぽい……んー、どっちのほうがいいのかしら?

 

 うーん?

 

「まぁもうすぐ夕食だ……時雨? 今日は作ってくれるんだろ? 楽しみにしてるぞ」

 

「えっ、もうそんな時間なの!? わわっ……! ごめん夕立! 片付け任せていいかな!?」

 

「了解っぽーい! ご飯楽しみにしてるっぽい!」

 

 お任せっぽい! 時雨も折角龍田にじゃんけんで勝ったんだから夕飯頑張って美味しいの作るっぽい!

 

 ……でも、どうして龍田さんも時雨も帰ったら自分が作るって言ってたのかしら? ようやく帰ってこれたんだしって、鳳翔さんも労いますって気合い入れてたっぽい。

 ……夕立も、お料理するようになったらわかるっぽい?

 

 練習してみようかしら?

 

「川内も神通も、折角の機会だ。俺と夕立で片付けておくからさ、皆と親睦深めてこい」

 

「えっ、いや、良いよ。私達もやるよ? 自分たちで使ったんだし」

 

「良いから良いから、鍛錬も大事だけど皆と仲良くなるのだって大事なんだから」

 

 夕立ももっと仲良くなりたいっぽい!

 あ、大丈夫よ神通さん! 気にしないで欲しいっぽい。

 ちゃんと提督さんと二人で――

 

 二人、で?

 

「えと、ならお言葉に甘えて……よろしいのでしょうか?」

 

「おう、むしろ甘えて、ガンガン甘えて。ほら、行った行った! ちゃんとここは夕立と二人で綺麗にしておくから……なっ? 夕立!」

 

「ぽいぃ!?」

 

 び、びっくりしたっぽい! 急に頭撫でないで欲しいっぽい!

 

 ……あれ?

 

 頭を撫でられるのは、嬉しいこと、よね?

 

 夕立、どうしちゃったの?

 

 

 

「お疲れさん、夕立」

 

「は、はい! て、提督さんも、お疲れ様でした」

 

 う、うぅ……どうしたらいいっぽい?

 夕立、上手くおしゃべり出来ないっぽい……。

 

 お掃除しながら提督さんはずっと楽しそうに笑ってお話してくれたのに……夕立、なんだか変なことしかお返事出来てなかったっぽい。

 

 提督さんとお話するの、大好きなのに。

 

「だい、すき……」

 

「ん? どうした夕立?」

 

 うん、そう。

 夕立は、提督さんのことが大好き。

 

 夕立だけじゃない。

 時雨も、龍田さんも天龍さんも、皆。

 

 提督さんのことが大好きで、提督さんのためならなんでも出来て。

 そんなのずっとわかってて、当たり前のことで。

 

 なのに。

 

「胸、ドキドキするっぽい……」

 

「夕立……?」

 

 どうしてかしら?

 

 もしかしなくても、提督さんと二人っきりだからっぽい?

 でもでも、夕立そんなの何回も……。

 

「無かったぽい……」

 

 思い返してみたら、絶対誰か一緒に居たっぽい。

 時雨が、龍田さんが……天龍さんが。その中に夕立も居て。

 

 それが、とっても楽しくて、嬉しくて。

 

 そっか、二人っきりって初めてっぽい。

 

「夕立」

 

「は、はい!」

 

 な、何かしら!? ってごめんなさい! ずっと考え込んでたっぽい!?

 

「ちょっと、縁側座るか。休憩しようぜ」

 

「う、うん……そうする、っぽい……」

 

 あう……いつもとおんなじ笑顔のはずなのに。

 どうしてこんなに顔が熱いのかしら。

 

 前を歩く提督さんの背中。

 いつもなら、これ幸いって飛びつきに行くはずなのに、そんな気になれない。

 

 夕立、今とってもおかしくなってるっぽい。

 

 だから、こうしてちょっと距離を空けてお隣に失礼しちゃうっぽい。

 

「ふぅ……夏真っ盛りとはいえ、この時間はやっぱマシになるな」

 

「……ぽい」

 

 そういえば、もう八月っぽい。

 夕立と時雨がここに来たのが春だから、もう半年以上経ってる。

 

 ……そっか、もうそんなに経つんだ。

 

「この時期は蚊が鬱陶しいな。夕立は……つか、艦娘って蚊に噛まれたりするのか?」

 

「う、ううん。そういうの、ないっぽい。耳元に来ると、いやだけど」

 

 蚊に噛まれると痒くなるっぽい?

 夕立、経験がないからわからないけど……。

 

「そっか、そりゃあ羨ましいな」

 

「そう、かしら?」

 

 そんなの経験したいとは思わないけど。

 でも、羨ましいのは夕立の方っぽい。

 

 だってそれは、人間さんにしか味わえないことだから。

 艦娘の夕立には、きっと、わからない感覚。

 

「なぁ夕立」

 

「ぽい?」

 

 

「ありがとうな」

 

 

 それは、何に対して?

 

「お前が、時雨が……ここに来てくれた初めての艦娘で、良かった」

 

「……」

 

 それは、夕立の台詞。

 

 白露を沈めちゃって、今度こそはって思ってたけどその機会が貰えなくて。

 見放された夕立を、大事に、大切に……強くしてくれた、夕立の台詞。

 

「俺を、信じてくれて。一緒にここまで歩んでくれて、ありがとう」

 

「ていとく、さん」

 

 それも、夕立の台詞。

 

 ずっとずっと、夕立のことを信じてくれて、手を引いてくれて。

 夕立が目指してる先で、おいでおいでってしてくれてた提督さんへの、夕立の台詞。

 

「皆を守ってくれて、皆の強さの先にいてくれて。ありがとう」

 

「それは、それは……!」

 

 夕立の台詞、夕立の台詞っぽい!

 全部……今言ってくれたこと全部! 夕立が、夕立が提督さんに言いたい言葉!

 

「俺は、艦娘()が大好きだ」

 

「……」

 

 知ってる。提督さんが夕立達のことが大好きなのは知ってること。

 

 でも、どうしてか少し寂しい。

 

「大好きな皆と一緒に過ごせるのも、皆の、夕立のおかげだ。ありがとうな」

 

「……っぽい」

 

 あぁ、なんでかしら。

 こうして笑って頭を撫でてくれてるのに、ちっとも嬉しくない。

 

 大好き。

 

 その言葉だって、とっても嬉しいはずなのに。

 

 ……あぁ、そっか。そうなんだ。

 

「提督さん」

 

「うん?」

 

 嫌なんだ。

 艦娘の夕立を好きなことが。

 

 私。

 そう、夕立じゃなくて、私に言って欲しいんだ。

 

 夕立が提督さんのことを大好きだと言っていたのと同じ。

 私も提督さんのことが大好きなんだ。

 

「私、提督さんのことが大好き」

 

「あぁ、嬉しい。俺も、大好きだぞ」

 

 違う、違うよ提督さん。

 

 でも、きっと伝わらない。

 

 だから。

 

「いつか、ね」

 

「うん」

 

 今は良い。

 きっと、私はまだ夕立だから。

 

「あなたよりも強くなる」

 

 力になる。

 提督さんが海で戦えない分、私がその力となって戦う。

 

 それは夕立じゃない、私が決めたこと。

 

「だから、その時」

 

 もう一度言おう。

 あなたの力と私が認められた時に。

 

「いっぱい褒めてねっ! 提督さんっ!」

 

 そうしてくれたら、きっと。

 私は何にでもなれるから。


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