二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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龍田

「え、えっと……提督ー? へ、変じゃない、かなー?」

 

「……」

 

 や、やっぱり変だった!? て、天龍ちゃんに聞いた私が間違ってた!?

 で、でも那珂もバッチリだって言ってくれたしー……も、もしかして提督の好みじゃなかった!?

 

「きっ! 着替えてくるねー!?」

 

「はっ!? ま、待て待て龍田! 違う違う! すっげぇ似合ってる! 可愛い! 美人! 言葉が出なかっただけだって!」

 

 可愛いっ!? 美人っ!?

 

「は、はうあうあ……」

 

「いや、ほんとに。すごく似合ってるよ龍田」

 

 う、う……嬉しいけど、あーんそんなにまじまじ見ないでぇ……。

 

「こう言っちゃ何だけど、龍田はワンピースがよく似合うな。清楚な雰囲気マシマシで……思わずどっかのお嬢様かなんかだと思ったよ」

 

「い、い、言い過ぎよぅ」

 

 いつもの制服の方がやっぱり良かったわぁ……もうドキドキしすぎてどうにかなっちゃいそう。

 で、でも折角のデートだし……。

 

「ひゃん!?」

 

「うおっ!? ど、どうした龍田!?」

 

 でででで、デート……デートなんだぁ……。

 

 おっかしいなぁ、何でこんなことになっちゃったんだろ?

 私は確か提督のお願いなんでも聞くに対して、ゆっくり休んでって言ったはずなのにー……。

 じゃあ一緒に外へ出かけようって、どうしてそうなるのよー。

 

 ううん、多分言ってくれた通り。私と一緒に出かけるのが休憩になるってことなんだってわかってる。

 う、嬉しい、けど……うぅ。

 

 それに。

 

「提督だって、その、かっこいいわー」

 

「お、そうか? ありがとうな!」

 

 あぁ! 駄目! 反撃にならないわっ!

 むしろその嬉しそうな笑顔やめて! 大破しちゃうから!

 

 でもでも、やっぱり格好いいのよ。

 シンプルなシャツとジーンズだって言うのにね、いつも軍服姿しか見ていないからかな? そんな風に感じちゃう。

 

 ……こんな人と、今から外へ行くんだー。

 

「よっし、それじゃ行こうぜ!」

 

「……ねぇ、提督ー? ほんとに、良いのかなー?」

 

 私は、艦娘で。あなたは人間。

 確かに揃って歩くことはあると思うわ、軍という囲いの中、鎮守府という中でなら。

 

 だけど、街を一緒に歩くなんて聞いたこともない。

 

「知ってるわ、私達艦娘があんまり国民の皆からよく思われてないのも」

 

 私は、良い。

 石を投げられようが、嫌な目を向けられようがなんとも思わない。

 提督が私と一緒にその、遊びに出かけるっていうのが休息になるっていうのなら、いくらでもお付き合いするわ。

 

 けど、あなたがそれで嫌な思いをするのは嫌なのよ?

 

 ……あぁ、そうか。

 だったらそんな悪意から私が守れば良いのね、単純な話。

 

 ふふ、そうね。

 あなたを守ることが出来るなんて誉れ以外になんでもないもの。

 

「龍田」

 

「え? あ、うん。なにかなー?」

 

 危ない危ない。

 やっぱりどうにも提督以外のことは……ちょっと軽く考えちゃうなー。

 でも、大丈夫よ提督。

 あなたの幸せは、私が――

 

「難しく考えるな、俺が艦娘(龍田)とデートしてみたいってだけだ。絶対楽しくするから、気楽に楽しんでくれ」

 

「はうっ!?」

 

 ドック……ドックは何処っ!? 大変、私が大破しました! ごめんなさい!

 

 だから提督はどうしてこう……もぅっ!

 

「んじゃ、改めて」

 

 ……うん。

 そうよね、そうなんだよね。

 

「えっと……今日は、よろしくお願い致します」

 

「なんだそりゃ」

 

 うふふ、私にもわからないわー。

 だけど、そんな風に思ったんだから仕方ないよねー?

 

 差し伸ばしてくれた手を、そっと握ってみれば。

 

 あぁ、提督も緊張してたのかな?

 

 なんてわかるくらいにはちょっと汗ばんでて、震えていて。

 

 今日は目一杯楽しもう、なんて思った。

 

 

 

 手をつないで街を歩く。

 やっぱり、なんて言えばそうだけどあんまり良い視線は向けられない。

 

 怒っているのかな?

 ろくに海も守れない私達が呑気に遊んでいるのを。

 

 それでもさっきまで乗っていた車の中で提督は言ってた。

 漁師の人たちがそうだったように、皆知らないだけなんだって。

 だから、こうして一緒に歩くんだって。

 

 そういうもの、なんだろうね。

 

 知らないから、怖い。

 知らないから、遠ざけようとする。

 

 私もよく分かるわ。

 

 幸せを知らなかったから、怖かった。

 幸せへの道のりを知らなかったから、無いものと探さなかった。

 

 きっと今は私達に向けられている視線も、変わる。

 私が変わったように。

 

「龍田」

 

「なぁに?」

 

 声に振り向けば笑っている提督。

 私の幸せを創り出す人は、本当に楽しそうで。

 ただこうやって街を歩いて、展示されてる服を見て、あれが似合う、これが良いなんて言ってるだけなのに。

 

 幸せで涙が出そうになる。

 

 この人が、好き。

 私だけじゃなくて、皆を幸せにしてくれるこの人が、大好き。

 

 ずっとずっと気づいてたしわかってたこの気持ち。

 

 抑えよう、蓋をしようなんて思ったことはない。

 私と同じように皆提督へ好意を伝えていて、伝えられた提督がほんとに嬉しそうに、幸せそうに喜んでくれて。

 だから我慢しようなんて思わなかった。

 伝え方の拙い私だけど、精一杯、出来る限り同じように提督を喜ばせることが出来たらって思ってる。

 

 きっとこの人は、艦娘を愛している。

 

 天龍ちゃんを、夕立ちゃんを、時雨ちゃんを……龍田を。

 艦娘というだけで愛している。

 

 だから、救われたんだろうね私達は。

 もしも、私っていう個を見られていたならもう少し違った今があったと思う。

 それは幸せには違いないんだろうけど、多分何かを失っていた。

 誰かを守るために誰かを犠牲にしていたと思うわ。

 

 提督が、艦娘皆を愛していたから、皆、今を生きている。

 

 理屈をこねたわけじゃない、それでも何故かそう思えちゃう。

 

 だから、私は艦娘でいい。

 

 皆が幸せに過ごしていること。

 それがあなたにとっての幸せなら。

 私はその幸せを守る艦娘()になるわ。

 

「っと、龍田。ちょっと待ってて貰っていいか?」

 

「うん? いいよー、じゃああそこで待ってるね」

 

 お手洗いかな? 近くのお店に入っていく提督。

 

 ベンチに腰掛けて、流れる人を眺めてみる。

 

 ……この人達を守っている、なんて実感はないなー。

 

 こんなこと言ったらダメなんだろうけど、提督を守ることで結果的に守られているこの人達。

 正直に言っちゃえば、そんな副産物、おこぼれのように命をつないでいる存在。

 

 ううん、この人達が頑張ってるおかげで私達は戦えている。

 だから、感謝しなくちゃいけない(・・・・)

 

「なんて……私は、ダメな艦娘ねー」

 

 私にとって特別な人間は提督だけで。仲間の皆と提督の幸せを守ることが出来たらそれでいいの。 

 

 仕方ない、っていうのは言い訳よね。

 でもそれでも仕方ないのよ、私は不器用だから、大切なモノを守るだけで精一杯だから。

 

「他の皆は、どんな風に思ってるんだろうねー……って、あら?」

 

 ふとか細い泣き声が聞こえた。

 その声を追ってみれば、そこには小さな女の子。

 

 お母さんはどうしたのかな?

 

「……どうしたのー?」

 

「えーん! うえーんっ!」

 

 な、何で声をかけちゃったのかしら……?

 私に出来ることなんて、何も無いはずなのに……。

 

 だけど。

 

「えっと……お母さんはどうしたのかな?」

 

「えぐっ、えぅ……おかーさん? えぐっ……」

 

「そう、お母さん。一緒じゃないのー?」

 

 あ、間違っちゃった!? 余計に泣いちゃった……うぅ、どうしたらいいのー?

 

「お待たせ龍田って……どうした? 迷子か?」

 

「あ、提督ー……」

 

 良かった、提督が帰ってきてくれた。

 これで大丈夫ね。

 

 そう思ってたら、提督は女の子の視線に合わせるようにしゃがみこんで。

 

「お嬢ちゃん? ほれ、これを見てくれ」

 

「えぐっ、えぐっ、どれー?」

 

 何で持ってたんだろう? リボン紐? それの両端を括って……。

 

「わぁ……っ!」

 

「ちょうちょの出来上がりー」

 

 あやとりの代わり、かな?

 

「続きましてー……ほい、ほいっ! 箒の完成っ!」

 

「すごい! ねぇ! もっともっと!」

 

 はしゃぐ女の子、もうさっきまで泣いてたのが嘘みたい。

 すごいなー提督。何でそんなことまで出来るのかなー? やけに小さい子になれてるみたいだけどー……。

 

「よっし、お嬢ちゃん。もっとやってあげたいのは山々なんだけど、お客さんがお嬢ちゃん一人はにーちゃん寂しい。誰か知っている人は近くに居ないか?」

 

「おかーさ……あ、あう……あのね、あのね……えぐっ」

 

 あぁ!? ま、また泣いちゃう!? て、提督? 大丈夫!?

 

「そっか、じゃあにーちゃんと一緒にお客さん探そっか? お母さんがいいかな?」

 

「……うん」

 

「じゃ、お母さん一緒に探そうな」

 

 わたわたしてる私とは違って、笑って女の子を抱っこして。

 まだちょっとぐずってる女の子だけど、ちょっと安心したみたいで。

 

 ぎゅっと提督にしがみついた。

 

 

 

「無事に見つかって、良かったねー」

 

「あぁ、そうだな」

 

 あれからちょっと。

 ぐずっていた女の子の機嫌がなおれば提督はすぐに女の子を肩車して。

 そのまま近くから離れないでぐるぐると歩いていれば、母親が息を切らせて走ってきた。

 買い物中にはぐれたとかなんとか。

 

 大事にならなくて良かった、なんて安心しちゃった。

 

 提督も内心すごく心配してたのかな? 母親が走って来た姿を見て、すっごく安心したような顔をしてた。

 

 ――おねえちゃんも、ありがと!

 ――艦娘の方、ですよね? 無知で申し訳ありませんが、今日のことといい、いつもありがとうございます。

 

 バイバイする時に言ってくれた言葉。

 柄じゃないと思うんだけど、それですっごく嬉しくなっちゃった。

 私って単純なのかなー……あんな子だったら、人だったら守りたい、なんて。

 

「あぁ、そっか……」

 

「ん?」

 

 まだまだ知らないことがあるのは、私も、なのね。

 悪意だなんだばかりを知って、それ以外を知らなかったから。

 

 きっと、知ることが出来たら、私は……。

 

「それにしても、悪かったな? 折角のデートなのに」

 

「……ううん、私、楽しかったなー? 提督の新しい顔も見れたしねー」

 

 守りたいと思うことが出来るのかな?

 提督のように、なんて言えないけど、提督が誇ってくれる程度にはそんな想いを持てるのかな?

 

 帰ってきて、波止場から眺めれば海は紅。

 あの赤い中で戦ったことはいっぱいあるけど、こうして見るのは初めてで。

 

 なんだか不思議。

 

 こうして提督と座って初めてを眺めるのも。

 初めて男の人とデートしたことも。

 

 あれだけ興味を持てなかった提督以外の人間に、興味を持ち始めたことも。

 

 不思議。

 

 本当に、提督の下に来ることが出来てから私はずっと不思議の中にいる。

 それはとっても心地よくて、離れがたくて。

 

「提督、ありがとうねー」

 

「どしたよ急に」

 

 ふふ、わかってるんだよー?

 今日この時間を作るために無理したでしょ? 天龍ちゃん、言ってたよー?

 ほんとなら、ちょっと怒りたいところだけど嬉しくて言えないって。本当だね。

 

「ううん、デートしてくれて。今日はほんとにありがとうございました」

 

 勿体無いってすっごく思うけど。

 これ以上こうしていたら、立ち上がれなくなっちゃいそうだから。

 

「なら良かった。けど……龍田?」

 

「なぁに?」

 

 ――まだデートは終わってないぞ?

 

 そう言って差し出してくれたのは。

 

「これは……?」

 

「括ってたリボンが無いのはノーコメントな? ……まぁ、なんだ。日頃の感謝を込めて」

 

 小さな箱。

 開けていい? って聞けば笑って頷いてくれて。

 

「わぁ……っ」

 

「センスに関してもノーコメントで」

 

 キレイ……。

 これ、ロケット、よね。

 彫ってあるのは……薔薇、かなぁ?

 

「気に入ってくれたか?」

 

「う、うんっ! じゃ、じゃなくて、どうしたの? 急に?」

 

 そう言うと、提督は曖昧に笑って。

 

「デートでプレゼントを贈るのは、普通のことだろ?」

 

 なんて言った。

 

 多分、今提督は一歩引いた。

 自分で詰めてきてくれた距離なのに、自分で一歩引いた。

 こんなにも私を幸せにしてくれてるのに、自分で幸せから一歩引いた。

 

 それは、何でだろう?

 

「提督……私、幸せだよ?」

 

「……あぁ、俺もだよ」

 

 嘘じゃない。

 でも、多分提督はそれでいいと、そこまでが自分の幸せだとラインを引いている。

 

 だから私達は救われた。

 それは間違いじゃない、だけど。

 

「今日は……ううん、これからも、この先も。ありがとうね」

 

 私は艦娘でいい。

 そう思ったばかりの私だけど。

 

 この人の幸せになろう。

 

 艦娘としてではない私は。

 幸せに何処か怯えているあなたを包む()になるわ。

 


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