二周目提督がハードモード鎮守府に着任しました   作:ベリーナイスメル/靴下香

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作戦通達のようです

 静まりかえった横須賀作戦会議室。

 墓場鎮守府それぞれの旗艦である天龍、鳳翔、那珂、金剛に加えて長門。

 各他の鎮守府より天覧演習を見にやってきていた由良、羽黒。

 本来であれば大井の姿もあっただろうが、今はまだ入渠中のため不在。

 

 それら艦娘の前、壇上に立つのは長官。

 生唾を飲み込んでしまいたくなるのを必死で堪えている。

 

 空気は、極めて重い。

 

 墓場鎮守府艦娘達の視線は鋭く、それでいて早く終わらせろと無言の圧力を放っている。

 こんなところに座る時間すら勿体無い、何も言わずとも必ず作戦を成功させてやる。

 そう長官へと訴えていた。

 

 由良、羽黒もまたその雰囲気に飲み込まれそうになるのを堪え、身を縮める。

 

「じゃあ、作戦会議を始めるよ」

 

「はっ!」

 

 敬礼、そのまま着席。

 

 その行動を見納めた後、一つ大きく深呼吸をするのは長官。

 軍部で考案された作戦内容は全て頭に入っている、後はそれをここにいる全員とすり合わせるだけ。

 それだけのはずなのに、長官はまるで敵に今から挑むかのような覚悟を要した。

 

「まずは前段作戦であるAL作戦について話そう――」

 

 AL海域。

 日本より北方にある海域。提督がいるだろうその海域。

 

 改めて海域事情を考えれば、日本列島その近海全ての制海権を得ている現状。

 そこから南西諸島海域に対して睨みを利かせられていて、いつでも攻略に乗り出すことは出来る。

 防衛ラインにしても、今回の空襲を察知出来たように機能しているし、各方面所属の艦娘達が常に警備していた。

 

 だが北方海域に関しては未だ手付かず。

 AL海域に辿り着くまでには激しい深海棲艦の抵抗が予想される。

 

「本作戦は二段階にわけている。まずAL海域までの突破作戦、そしてAL海域列島にあるだろう深海棲艦の港湾基地を叩く作戦」

 

 手段としては二つあった。

 電撃突破するか、じっくり制海権を得ながら進めていくか。

 

 だが、今回の提督拉致。

 そのことから時間の余裕はなく強行、電撃突破し、そのまま基地強襲に移るという無茶な作戦を執らざるを得ない。

 何よりも、じっくり進めよう等と言えば間違いなく長官は捨て置かれてしまうだろう。

 

「……突破作戦については墓場鎮守府の第三艦隊にお願いしたい」

 

「私達、ですか?」

 

 北方海域は極めて海流が特殊だった。

 航海するだけならば問題ないが、戦闘行動をするには軽巡洋艦、駆逐艦でなければ厳しいほど、激しい海流。

 

「あぁ、第一艦隊で進むことも考えたけど……港湾基地攻略まで力を温存すべきだろうし、ね。海流の関係から作戦の第一段階については水雷戦隊じゃないと難しい。そこで後一人駆逐艦を編成したいんだけど――」

 

「ならば霞が良いだろうよ……少ないとは言え、第三艦隊と作戦を共にしたことがあるからな」

 

「――わかった。なら、そうしよう……那珂君、大丈夫かい?」

 

「問題ありません」

 

 短くそう答える那珂。

 いつもの姿は全く感じられず、他の艦娘と同様に早く出撃をと急く自分を抑えている。

 

 長官とてそれは理解している。

 だが、そうすぐに動けないことも確かで。それを説明しなくてはならないという後に控える仕事に少し怯えて(・・・)いた。

 

「……突破艦隊である第三艦隊の支援艦隊に関しては天龍君に一任しよう、支援艦隊は支援、捜索艦隊、そして作戦終了後の帰路確保艦隊でもあるからそれも加味してくれ」

 

「了解」

 

「第三艦隊が突破できればその後は港湾基地攻略に移る……予め言っておくけど、あくまでもこの作戦はMI作戦を支援するための陽動が主眼に置かれている、本格的な攻略ではないことに注意してくれ」

 

 こくりと揃って頷く艦娘達。

 だが、墓場鎮守府の艦娘は長官がそう言った言葉の意図を都合よく理解した。

 

 無茶をするな、ではなく、必ず提督を奪還せよと。

 

「確認された北方棲姫は陸上型と思われる深海棲艦。そんなのがここまでやってきた事に疑問点はあるけど、それは置いておいて。攻略には陸攻型艦載機や三式弾が必要となるだろう、海流の事もあり戦艦の運用は厳しい、こちらには重巡洋艦と軽空母を中心とした編成が求められる」

 

「ならば第二艦隊である私達の出番ですね」

 

「うん。うちの観測機を撃墜、その事により艦載機発艦の姿も確認された。航空戦に厚みを持たせるためにも摩耶君が良いだろうか、それとあと一人」

 

「だったら神通が良いんじゃねぇか。鳳翔さん、古鷹、加古、摩耶、大淀、神通で組めばいい」

 

 瞑目し、思考しながら天龍が言う。

 同時に、支援艦隊を自分たち第一艦隊が担うとまで。

 支援艦隊として動きながら提督の捜索を行える、そう考えた。

 

 鳳翔としても、長官としてもその意見に否は無い。

 長門も神通が適任であると認める所、川内よりも対空に関しては神通の方が上であると理解していたからだ。

 

 組み上がっていく作戦。

 ある程度の形が浮かび上がりそうになった時、再び長官は大きく深呼吸をし注目を集めた。

 

「MI作戦はAL作戦が第二段階へと移行すると同時に開始される。段階としてはまず太平洋の突破、MI諸島深海棲艦泊地への攻撃。そしてMI諸島沖での決戦の三段階。……天龍君」

 

「なん……ですか?」

 

 嫌な予感がした。

 長官の目には何かの覚悟が宿っていて。

 

「君を、MI作戦における、連合艦隊旗艦へ任命したい」

 

「……は?」

 

 間の抜けた声が響いた。

 

 普通なら、通常時なら。

 栄誉だろう、連合艦隊旗艦という座。

 それは自身が有能であるという証明とも言えるだろうし、艦娘にとって憧れでもある。

 

 だが天龍は違った。

 理解した、それはつまり。

 

「辞退するっ!!」

 

「すまない……本当にすまないが、君以外に適任が居ない……いや、君程最高の適任者がいない」

 

 AL作戦に天龍は参加できないということ。

 だから間の抜けた声はその身にそぐわぬと感じる栄誉に対して驚いたからじゃない。

 

 単純に、何を言ってるんだコイツは。というものだった。

 

「何が悲しくて提督の下に走れねぇんだっ!! オレは! 墓場鎮守府艦娘筆頭だぞ!? そんなのが何で提督に――!!」

 

「だから、だよ」

 

 単なる適任者として考えれば多くの候補があった。

 壊滅寸前だった鎮守府を立て直すきっかけこそ与えられたものの、実際に立て直したのは由良。

 同じ理由として羽黒も挙げられるし、金剛とて歴戦の艦娘と言える存在で、多くの艦娘をまとめた経験だってある。

 

 そんな艦娘を差し置いての天龍。

 旧式軽巡洋艦だ、カタログスペックがなんだと言うことを差し引いても、彼女の指揮能力やその実力に並ぶものがいなかった。

 逆に言うのなら、天龍であれば、天龍がMI作戦における艦娘の代表、まとめ役とするならば勝てる。

 過信と取れるかも知れない程の評価が向けられていた。

 

「天龍、さん……」

 

 事実、連合艦隊旗艦が天龍と聞いた瞬間の由良、羽黒は言葉に出来ないほどの安心感を覚えた。

 この人が共に戦ってくれるなら。

 そんな思いさえ宿した。それほどまでに墓場鎮守の実績、功績。天龍の評価とは高いものだった。

 

「嫌だぞ! オレは!! 絶対にAL作戦に、提督を助けるんだっ!!」

 

「……そう、か」

 

 予想していた、覚悟していた。

 だからもう一つ長官は覚悟を決めた。

 

 それは。

 

「なら、キミは、君が居ないことで沈む艦娘を認めるということだね」

 

「っ!?」

 

 脅迫する覚悟。

 

「キミの想いは理解できる。だが、その想いによって……提督の想いを、意思を袖にするということだね」

 

「なん、だよ……どういうことだよ!!」

 

 勇み立ち上がる天龍。

 その目には戸惑いの色。

 

 理解している、言われて理解した。

 

「羽黒君」

 

「は、はい!」

 

「天龍君が旗艦だと聞いて……どう思った?」

 

「そ、それは……」

 

 急に向けられた水に驚きながら、ちらりと横目で天龍を見る羽黒。

 

 わかっている。

 正直に言えば、間違いなく天龍は追い込まれると。

 

 天龍の思いは、理解できる。

 そして、天龍がいないことで誰かが犠牲になるだろうことも理解できる。

 

 見えない天秤が、羽黒の前に現れた。

 平行に、されどもゆらゆらと上下していて。

 その拮抗が、今か今かと羽黒の声を待つ。

 

「……安心、しました……っ!」

 

「っ!!」

 

 仲間の命と、天龍の気持ちを乗せた天秤は、仲間へと傾いた。

 

 わかる、わかっている。

 天龍がどれほど提督を大事に想っているのか。

 わかるだけに、羽黒もまたそれと同じように仲間のことを大事に想っているのだ。

 

「由良君」

 

「……天龍さんとなら、勝てる。そう、思いました……」

 

 冷たいわけじゃない。

 由良も、羽黒も目に涙を浮かべている、手をこれ以上無いほど力強く握りしめ震わせている。

 

 言わされているという認識はあった。

 だがそれ以上に天龍がいれば犠牲なく勝利出来ると感じてしまう。

 

 第一艦隊出張作戦は、こうして活きた。

 

 MI作戦を睨み、その連合艦隊旗艦への信頼感を培わせる作戦でもあったそれは、こうして最悪の形で発揮されてしまった。

 

「くそがっ!!」

 

 机を、大きく叩く天龍。

 由良を、羽黒を責める意図はない。

 ただそれ以上に、今の気持ちをぶつけられるところがないのだ。

 

「天龍さん……」

 

 鳳翔も、那珂も、金剛も長門でさえ、かける言葉が見つけられなかった。

 必ず提督は救うから。なんて言葉をかけたところで何にもならない。

 天龍の分も奮戦を誓う。そんな誓いすら無意味だろう今の天龍には。

 

「……天龍君」

 

「……」

 

「よく、考えてくれ」

 

 重い空気は沈痛な空気へと変えて。

 静かに、されども痛ましく部屋の中を漂った。

 

「……長官」

 

「聞こう」

 

 経過した時間は長かったのか、短かったのか。

 

 天龍の瞳は決断的。

 長官の背中に寒気が走るほど。

 

「やっぱりオレは提督奪還作戦に従事しねぇと駄目だ。提督の安全を確保してからじゃねぇと、とても集中できねぇ」

 

 言い方は、少し柔らかい。

 軽い笑みすら浮かんでいて、天龍は告げる。

 

「AL作戦終了後ならいくらでも望み通りやってやる。なんだったら提督奪還後そのままMI作戦に向かったっていい……もしも、それが叶わねぇのなら――」

 

 ――オレは何をするかわからねぇ。

 

 今度こそ、長官だけではなくその場にいる全ての存在が息を呑んだ。

 それほどまでに天龍の覚悟は重かった。

 

 理解していた。

 長官が言うように、自分がその座に就けば救われる命があることを。

 でもどうしても駄目だった。

 仮に今の状態で連合艦隊旗艦となったところで、気がかりに足を取られろくに動けないだろうと。

 それは提督の意思、誰も沈めたくないという意思を越えて、初めて天龍は自分の意を主張した。

 

 同時に長官も理解した。

 どうあっても墓場鎮守府艦娘の手綱は、あの提督にしか握れないということを。

 

 そして艦娘、自分たちにブレーキをかけるナニカ。それが外れそうになっている瞬間に直面していると理解した。

 

「……わかった、掛け合ってみよう」

 

「頼むぜ? 長官サマ?」

 

 それは長官とて理解した。

 今までどれだけのことをしても、決して反旗を翻すことのなかった艦娘。

 その決してが崩れる、そう直感した長官は静かにうなずくことしか出来なかった。

 

 

 

「――ままならない、ものだな長官」

 

「……はい」

 

 執務室に集う軍人は三人。

 元帥、長官、そして中将の姿。

 

 イスに腰掛けた元帥は両肘を杖に顔を覆い。

 悔しげな表情を浮かべる長官と、拳を震わせる中将。

 

「何故だ長官! 何故そのまま引き返して来た! もう時間はないと言うのにっ!!」

 

「わかっています……ですが、失敗すると分かっていて押し付けることは出来ませんよ」

 

 爆発したように長官へと食って掛かる中将の言葉を、苦笑いで流そうとする長官。

 結局の所先程の艦娘とのやり取りで得たものは、どうやっても当初想定された形で進めることは不可能ということでしか無かった。

 

「アイツは私に刃を振るい、砲を向けたのだぞ!? 軍規違反も甚だしい! それを盾に無理矢理にでも納得させれば良かったのだ!!」

 

「そんな事、出来るわけないじゃないですか。やったとしても、変わりませんよ」

 

 もしそうしたとしても、決して天龍は素直に従わなかっただろう。

 むしろ、そう言われた瞬間に走り出し、提督を救うべく出撃していたかも知れない。

 

 そんな長官には簡単にできる想像が、中将には出来なかった。

 

「何故だ!! お前は……っく! あなたはそうしてきたじゃないですか! そうして実績を……勝利を掴んできたではないですか!!」

 

「……中将」

 

 かつて長官が手にした勝利、栄誉。

 手にする様を、手段をずっと追いかけていた中将には、わからない。

 

「今回も同じことっ!! かつてしたように今回も! 艦娘を使って勝てばいい!! それが、あなたになら出来るでしょう!! あの提督がいない今ならっ!!」

 

 中将は……いや、兵器派の想いはただ一つ。それだけだった。

 華々しく戦果をあげる相容れぬ思想を持つ提督の上に立つことができれば。

 そうすれば長官は今の自分が間違っていると気づく、かつてのようにまた、自分たちの先に立ち導いてくれると信じていた。

 

「どうして……っ!! どうしてそうなったんです!! 同じだっ! 同じなんですっ! 勝利という二文字に違いはない! たとえどれだけの犠牲を生んだとしても! 勝利さえすれば――」

 

「そうして次の戦争を生むのですか?」

 

 その言葉に、中将は遮られた。

 

「中将を……いや。キミを責めるつもりはないし、間違っているとも言わない。言われたように、僕はそうして今の立場にいるからね」

 

「ならっ!!」

 

「でもそれじゃあ乗り越えられないんだよ」

 

 MI作戦の目的、過去を乗り越える。

 

「僕達は過去を乗り越えなければならない。それは、これからは違うんだと、新しい形でもって海へと挑むのだと……認められなければならない」

 

 今までしてきたように、艦娘を戦いの道具として捉え勝利を敗北を刻んできたように。

 同じことをして勝利を得ても、それは過去の焼き増しにしかならない。

 

 今回の勝利は乗り越えること。

 過去に、史実に、今までの軌跡に負けないこと。

 

 それこそが、今回の勝利条件。

 

「そしてそれが、とても難しいことだと僕は今……痛感しているんだ。悔しくもあるよ、僕じゃ彼女たち本来の力、十分の一だって引き出せやしないって」

 

 思い返すのは先の会議。

 もしもあそこで作戦通達したのが提督だったら。

 

「……そう、思うか」

 

「……はい。きっと、彼ならば……もしかしたら明日にでもMI作戦を成功させていたかも知れません」

 

 長官にはそうとすら思える。

 今頃出撃の準備を意気揚々と行い、戦意は留まることを知らず海へ挑む意思を燃やしていただろう。

 

 大きい力とは、やはり扱うに足る器を持つものでなければならない。

 

 元帥はその発言を受け、自身の間違いに気づいた。

 墓場鎮守府の艦娘が強いのではない、あの提督の艦娘が強いのだと。

 

「私は、いつも……気づくのが遅い、な」

 

「……元帥」

 

 状況は、限りなく好条件の上で整っていたはずだった。

 天覧演習で軍の、艦娘の力を示し、理解を得て。

 国民との距離を縮め、離れる前により強固な関係を結ぶために予定されていた大規模作戦と紐づけて。

 

 空襲は確かに想定外だった、だがそれも一つの演出として利用できた。

 今や国民感情の多くはあの提督を救うために協力を惜しまないという一色となっただろうと。

 

 そしてその代償とも言えるのが今だとようやく気づいた。

 

「わかった。ならばMI作戦連合艦隊旗艦は白紙に戻そう、舞鶴の由良、墓場鎮守府の長門、金剛あたりを候補に」

 

「了解しました」

 

 大きく息を吐いて、元帥は想う。

 今までの自分は一体何をしていたんだろうかと。

 軍の想い、提督の想い、そして艦娘の想い。

 一体自分の目に映っていたのは何だったのか。

 

 あの老兵、大将が笑って退役した気持ちを理解した。

 確かに彼は満足できたのだろう、後を託せることが出来たのだから。

 

「……この作戦終了後、私は退こうと思う」

 

「げ、元帥!?」

 

 長官が何故今までのように海へ挑まなくなったのか、止めた瞬間何故深海棲艦の戦力向上が緩やかになったのか。

 何故あの提督があれだけの戦力から始まり、ここまで大きく力をつけることができたのか。

 南一号作戦終了後から今に至り、ようやく元帥は理解した。

 

「中将」

 

「は、はっ!」

 

 上げた元帥の顔は後悔に彩られている。

 だがそれでも、そうだからこそと言葉を続けた。

 

「中将の思想は理解できる、その必要性もだ。だが、そうだな……もう少し、艦娘を共に海へと挑むものとして認めてやれ。彼女たちは兵器であり、人でもなく……一つの意思なのだろうから」

 

「……はっ」

 

「それをこの作戦で学べ……そして作戦終了後、その学びを大将として活かせ」

 

「……」

 

 今も、今までも迷走に迷走を重ねた中将だからこそ見えるものがあると元帥は思っている。

 この作戦が成功したのならこれから先、多くに支持されるのは提督が持つ思想だろう、今までの兵器派がそうであったように、今度は親艦娘派が力をつけるのは目に見えていた。

 

 だがそれは過去の焼き増し、ただパワーバランスが変化しただけに過ぎない。

 

 それじゃあ駄目だ、乗り越えるべき過去とは全てなのだ。

 反発し合うのは良い、競争するのも必要だ、そして何よりも。

 

「共に認め合うこと、それこそが大きな力になるのだろうから」

 

 今はまだその言葉を理解できないだろう中将。

 ただ、今の言葉は上官ではなく、個人として言われた言葉だと言うことは理解できた。

 

 本来なら、今までの自分なら。

 大将という言葉に笑みを浮かべていただろう間違いなく。

 

 それでも、何故かそうすることが出来ないのは、そんな言葉のせい。

 

「長官」

 

「はっ」

 

「この作戦が成功した後……君が元帥となれ」

 

 それは軍部の頂。

 長官が目を丸くするのは一瞬。

 

「……そして司令長官は彼、ですね?」

 

「さて、な……それは長官が考えろ、中将と共に、な」

 

 元帥の意図をしっかりと理解した長官。

 彼が軍部の頂点として相応しい者になるまで面倒を見ろということ。

 

 だがそれも。

 

「まずは作戦成功に……全力を尽くします」

 

「あぁ……頼んだぞ。責任は全て、私が取る」

 

 ようやくここに来て、軍は、海へと挑む意思を確立させたのかも知れない。

 今はまだ、拙く誰かを傷つけるものだとしても。

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