絶対零度の熱き漢   作:ケツアゴ

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ヒロイン未定……


プロローグ

 そこは一切の生命の生存を許さない絶対零度の地であった。見渡すばかりに広がる氷原、微生物すら存在しないこの場所で今、二つの生命が戦っていた。

 

 威風堂々と佇むのはお伽噺や伝説において最強格の存在である龍。白き鱗をその身に有し、瞳には確かな知性と誇りの色を宿す。対するはガッチリとした体格の少年。黒髪の坊主頭に快活且つ単純そうな顔、鍛え抜かれた体を覆う筈の衣服は無惨に破れてボロ布となって防寒の役目を果たさず。彼の吐く息は白く、反する様に体の各所に刻まれた真新しい傷から赤い血が流れ出した跡が存在し、その全てが凍り付いて止血されている。

 

 龍に挑み、蛮勇の報いを受けているのであろう少年の口には吐血の痕跡が存在し、疲労の色も濃く現れている。当然、白い龍は全くの無傷。蟻と巨象の闘いであり、この絶望的な結果が訪れるのは必然だ。

 

 

 

 

「燃えて来たぁあああああああっ! 俺はまだまだ戦えるっすよぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 だが、彼の瞳に宿る闘志は魂すら凍らせるが如き極寒の地と反する様に煌々と燃え上がり、高く吼えると背中に出現した悪魔の翼を広げ拳を構えて一直線に飛んでいく。無理無謀な特攻に対して龍は唯、瞳を彼に向けるのみ。闘いだと、誇りや命を懸けるべき相手だと認識していないのだ。

 

『……』

 

 羽虫を払いのける様に無造作に振るわれる爪や尻尾、直撃は勿論、掠るだけでも少年の命を容易に奪い、原型が残るかすら定かでない脅威。まさに暴風に抗おうとする弱々しい蝶である彼は臆した様子を見せず寸前で回避、余波で吹き荒れる強風を巧みに操り龍の懐に潜り込むと渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 重厚な金属が衝突しあった様な轟音が威力を物語り、打撃面を中心に龍の鱗は厚い氷に覆われる。だが、巨体は少しも動じず身震いだけで氷は無惨に砕け散る。少年の渾身の一撃は大樹にとってのそよ風で、氷を砕くのは真冬に凍った水溜まりを踏みつける程度の造作もない事。比較すら自惚れでしかない圧倒的な力の……いや、生物としての格の差を少年はまざまざと見せ付けられ……歯を見せて嬉しそうに笑った。

 

「やっぱりアンタは凄いっす、師匠っ!! 高みとはっ! 高ければ高い程に超える価値が有るっ!!」

 

『……貴様は』

 

 此処までくると勇猛果敢や蛮勇を通り越して無知無能、愚者の極み。龍の瞳も声も呆れを感じさせる。其れ程までに少年の声はその言葉が虚勢でも傲慢からの物ではなく、存在の差を突き付けられ理解した上での歓喜だと知らせていたからだ。気苦労でも感じたのか深い溜め息を吐き出す龍であったが、ふと凍り付いていた部分に目を向けて瞳に宿す感情を変化させる。宿ったのは驚きと関心だ。

 

『……くくくくく。馬鹿の一念、という奴か?』

 

 痛痒は微弱であり、偶然気付いた程度の軽微で、龍の回復力ならば短時間で癒せる程度。辛うじて傷と言える程度だが、確かに龍の肉体に凍傷が存在していた。遙か過ぎる格下に負わされた傷など誇り高い龍が認められる筈もなく、負わせた存在に止まらず傷を知った者全てを抹消しかねない事態だが、龍は実に楽しそうに嬉しそうに笑う。まるで教え子を見守る老師の様に……。

 

『……ちっ。これからだと言うのに』

 

「んじゃ、師匠……今夜も宜しくお願いしまっすっ!! 今回もお世話になりましたぁっ!!」

 

 突如歪み出す世界の景色に龍は興を削がれたとばかりに舌打ちし、少年は空気を震わせる程の大声と猛烈な勢いでのお辞儀で龍に礼を告げる。返事代わりに龍は軽く鼻を鳴らし、世界は黒一色に染まった。

 

 

 

 

「……良い所だったっすけどねぇ」

 

 先程まで彼が居た場所とは全く異なる場所、権威と財力を主張するような豪奢な屋敷の片隅の一室、物欲の無さを感じさせる極端に物が無い部屋のベッドで彼は目を覚ました。胸を高鳴らせる達成感を、この程度で満足するなと抑え込んで起き上がった彼は無傷の身体の、先程まで傷が存在していた辺りを撫でる。脳が傷があると認識して幻痛がするのか僅かに顔をしかめるも、窓を開けて明け方近くの風を全身に浴びる事で表情を一変させる。

 

「よっしっ! 今日も一日頑張るっすよぉ!!」

 

 気合いを込めた声と共に少年は背中に翼を出現させる。悪魔の翼ではなく龍の、先程まで夢の中で闘っていた龍を思わせる白い翼、神すら殺すとされる神滅具の一つ『白龍皇の光翼』だ。本来、これを宿すのは彼ではないのだが、殺して奪ったものではなく、ある理由から彼は生まれ付きこれを宿していたのだ。

 

「皆さん、おっ早うございまーすっ!!」

 

 空気を震わせる快活な声に既に起きていたメイド達も僅かに反応するが常日頃の事なのか特に驚いた様子もなく仕事に勤しんでいる。少年もまた、手早く寝間着から着替えると仕事道具一式を持って庭へと出て行くのであった。

 

 花壇の雑草の除去や庭木の枝の剪定等々、庭師の仕事を進めていくが彼は手作業だけでは進めない。広大な庭だけに花壇も大きく、雑草が生える範囲も広いのだが、宙に浮かぶ氷の腕が器用に、尚且つ育てている花に冷気が当たらないようにコントロールされて抜いていく。剪定も同様に氷の刃と鋏で複数箇所を同時に鼻歌交じりに進め、短時間で朝の仕事を終わらせた彼は手早く身なりを整えて使用人用の食堂に向かう。

 

「おう、ジェラ。ちょっと待ってな」

 

「うっすっ!」

 

 ジェラ、それが少年の名前の様だ。中年の料理人がフライパンで大量のベーコンをカリカリに焼き上げ、中まで熱がしっかり通ったゆで卵やサラダ、焼きたてのパン等が乗った皿に綺麗に盛るとジェラは其れを手にとってテーブルへと向かう。粗雑そうな印象と違って意外と行儀よく食べ終えた彼が次に向かったのは綺麗なマンションの一室の前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、お迎えに上がりましたー!!」

 

「……静かにしなさい、ジェラ。それと、こっちではお嬢様と呼ばないように言ったはずですよ」

 

「申し訳ありませんでしたぁああああああっ!」

 

 支取、表札にそう書かれている部屋から出てきたのは少々真面目さが過ぎそうな印象を与える眼鏡の少女。玄関前で元気過ぎる声を上げる馬鹿を窘めればジェラも猛烈な勢いで頭を下げ、勢い凄まじく床に頭が叩きつけられて軽い振動が起きる。

 

「……はぁ」

 

 もう少女は溜め息を吐くしかなく、軽い頭痛を感じてさえいた。

 

 

 

 

 

(善良で優秀、努力も惜しまない。……もう少し落ち着いてくれれば良いのですが)

 

「お嬢さ……ソーナ様、学校に行く時間っすよ」

 

「ええ、分かっていますよ。……別に毎日迎えに来なくても良いですのに」

 

「それは無理っす! 何せセラフォルー様からのお願いっすからね! 若輩者の身に余る大役、極めて光栄っすよ!!」

 

 一切媚びる魂胆も立場の違いからのお世辞でもなく心底思い張り切っている姿を見せられれば其れ以上なにも言えないソーナ。様付けで呼ばれるのもスルーしかない。結果、心中でシスコンが過ぎる姉への気苦労が増えるのであった。

 

 

 尚、説明は後に行うがこの気苦労の一部は彼女の、正確には彼女の前世に有るのだが今は関係ないので省略する。兎に角、ソーナの実家であるシトリー家に仕えるジェラは修行に仕事に学業に、極めて多忙な毎日を嬉々として過ごしていた。

 

 

 

 

「またっすか! 毎度毎度懲りない人達っすね!」

 

「うっさい! こうでもしなくちゃおっぱいが見られねぇんだよ!」

 

「俺達モテないんだ、仕方ないだろ!」

 

「男のロマンだってお前にも理解できるだろ!?」

 

 ……例えば、護衛も兼ねて通っている学園で有名な変態三人組の対処も行うことがある。この日は着替えを覗かれた女子から逃げる三人を捕まえ、制裁を加えようとする被害者達を宥めて代わりに正座させて説教するも反省の色がなかった。得手勝手な言い訳が次々と飛び出すのを黙って聞いていたが、途切れた瞬間に口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男のロマンってのは十分理解できるっす! 背徳感とかすごいっすからね。でも、覗きは駄目っす!  男ならっ! 自分の魅力を磨いて、着替えを見ても怒らない相手を作ってこそだと俺は思うんすよっ!! 照れながら許可してくれるとか、軽く叱って額をコツンッとか最高っす! まっ! 俺には候補すら居ないっすけどねっ!!」

 

 腕を組み堂々と言い放つジェラの空気に飲まれ何も言えない三人組。結局、この後は大人しく帰って行ったのだが、声が届いていたソーナは頭を痛めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「大声で何を堂々と……彼を眷属にする人は私より苦労しそうですね」

 

 かつて眷属にしようとするも力が足りずに保留となり、懇意にしている家の誰もが無理だったので未だ使用人の一人として仕えている少年の事を考え、ソーナは今日も深い溜め息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚、付き合いの長さや身分とか抜きにしても互いに好みでないので恋愛感情に発展する可能性はゼロである。




さて、彼が居ることでヴァーリだけでなく一誠にも影響が……よい影響だけとは限らない。私の作品で他の奴でも言ってますが、レイナーレの行動によっては……

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