「キャー!?」
騒音が溢れる室内でレイヴェルは思わず悲鳴を上げる。頭上より雷が降り注ぎ、背後から高速で迫った車両に跳ね飛ばされ、最後にバナナの皮で滑って奈落の底へと真っ逆様に落ちていく。以上、箱入り娘であるレイヴェルが初めて入ったvゲームセンターで挑戦したレースゲームの出来事だ。
「悔しいですわね、折角順調でしたのに。……このゲーム、お父様にお願いして購入しようかしら?」
一見すれば真面目な令嬢の彼女だが、根本的に裕福な家の箱入り娘。欲しい者は手に入れたくて仕方がない。ちょっとだけ興味を持っていたコンビニに、兄のお供で人間界に来たついでに向かい、めぼしい物を即決で全て購入した彼女は外から見えるクレーンゲームの商品に興味を持ち、今こうしてレースゲームに夢中になっていた。
時折、ナンパ目的なのか視線を送る男達が居るには居たが、取れるまで金をつぎ込んで獲得した大量の景品を両手に持った二人に恐れをなしたのか声を掛けるに至らない。実際、威圧していたのはカーラマインだけであったが。
「しかしスゲーっすね、ゲーセンって。面白そうなのが沢山あるっす!」
「うん? お前は来たことが……ああ、成る程な」
どうせ鍛錬ばかりで遊ぶことを禄に知らないのだろうと弟に呆れかえった姉は深い溜め息を吐く。聞くところによれば給料をそれなりに貰っているのにテレビさえ持っていないと以前聞いたことさえ有った。
「お前、少しは鍛錬以外に楽しみをだな。……好きな相手とか思い当たらないのか? 何なら私が紹介してやっても良い。そうだな、どんなのが好みだ? ライザー様の眷属の中で選んで見ろ。参考にするから」
「その中で選ぶならダントツでレイヴェル様っすねっ! 正直、ストライクっす!」
数秒間を置き、カートがスリップする音がスピーカーから響く。動揺して自分が前回の周回で仕掛けたアイテムに掛かってしまったのだ。その間に後続のキャラが次々ゴール。食いしん坊の恐竜は最下位になった。
「……い、いきなり驚かさないで下さいますっ!? あんな恥ずかしいことを……」
羞恥心からか真っ赤になって言葉尻が沈んでいくレイヴェル。一方、ジェラは相変わらずのジェラであった。一切恥じいる様子も改まった感じもない。本人の直ぐそばで好みだと伝えたにも関わらず、寧ろ疑問を抱いている風にさえ見えた。
「今のがっすか? 実際、レイヴェル様は可愛らしいお方っすし、俺を評価してくれている上に向上心もあって仕えることに抵抗が無い理想の相手っすし、好みの相手を好みって言うのが変っすか?」
「……レイヴェル様。この馬鹿、これで告白してる訳ではないので。照れる、という事を禄に知らないだけの馬鹿なのです」
「……確かにお兄様みたいに平然と女性を口説くタイプではないですわね。それにしても……」
此奴と相思相愛になった者は苦労しそうだと、二人は心底そう思うのであった。
「今日は楽しかったですわ、ジェラ」
「うっす! 俺もレイヴェル様のお供は楽しかったっす! 姉ちゃんの荷物持ちかと思ってたらレイヴェル様みたいな美少女と遊び歩けて役得っすね!」
「……ふぅ」
再び呆れから深い溜め息を吐いたレイヴェルだが、呆れられている事さえ気付いていないジェラを見て咳払いをするとカーラマインに持たせていたバックから小箱を取り出す。開けると中には悪魔の駒が一式入っていた。
「……家のコネと財力を使って漸く変異の駒の戦車を二個手に入れましたの。リアス様とお兄様の婚約も有ってか、お兄様の婿入り後か私が進級するまでお預けとなって居ますが……まだ、私の眷属になる気は有ります?」
既にシトリー家には話を通していると告げられた瞬間、ジェラはその場で跪いて頭を垂れていた。
「俺は現在、シトリー家に忠誠を誓っている身っす! でも、レイヴェル様の眷属になった暁にはこの身この魂の全てを捧げるっす!!」
時刻は夕焼け時。レイヴェルの頬はその影響か、はたまた別の理由からか赤く染まって見えた……。
「しかし良かったのか? お前、シトリー家に忠誠を誓っていただろうに。あっ、ラーメンセットのBとチャーハン大盛り」
どうせなら姉弟水入らずで食事でもなさい、と、先に一人で帰ったレイヴェルに言われた二人は適当な店に入ったのだが、五個有る唐揚げの三個目を二つに分けながらカーラマインは尋ねる。ホイホイと鞍替えするタイプでない筈の弟の行動が気になったらしい。
「傍でお仕えするだけが恩返しじゃないっすよ、姉ちゃん。白龍皇を受け渡した対価という形でシトリー家お抱えの医療機関はフェニックスの涙を割り引いて仕入れる事になったっすしね。……それに俺にも夢があるっす。最強、それが俺が目指す物であり、レーティングゲームで自分がどれだけやれるのか試したい」
「……なあ、ジェラ」
弟の心の内を聞かされたカーラマインは何時になく真剣な顔になり、二つに裂いた唐揚げの大きい方を皿に移す。そして静かな声でこう言った。
「お前の海鮮焼きそばと私のチャーハンを半分ずつにしないか? いや、しろ」
「別に良いっすよ。でも、イカは多めに貰うっすからね。姉ちゃん、唐揚げ大きいのばっかり食べたっすから……」
先程の真剣な雰囲気は消え去ったが、これは姉弟の信頼関係故なのかもしれない。この後、エビを多めに奪われた事で姉弟喧嘩に突入しそうになる二人だったが、幼い頃に構築された力関係もあってカーラマイン的には無事に話は二人の近況についてに移った。
「……ほぅ。あの子が来たのか。どうせなら私の所にも顔を出せば良い物を」
「いやいや、トップに仕える魔術師の一人だった母ちゃんが悪魔の父ちゃんと結婚するのも揉めたそうじゃないっすか、姉ちゃん。幾ら従姉妹でも俺みたいに大勢に紛れて来られるなら兎も角、フェニックス領は無理無理」
「ああ、悪魔と堕天使を嫌ってるそうだからな。……アルビオンも嫌いと聞くし注意しておけよ? そんな事よりリアス様とライザー様が婚約を賭けてゲームをする事になってな。お前のライバル候補、一応覚醒はしているようだが弱そうだな」
「まあ、経験不足っすね。限界まで力を高めて魔力を放っても空中で動く相手に当てるのは要練習っすし、空中での接近戦は踏み込みが利かないから下半身の力を伝えられない。ぶっちゃけ魔力の量や質が重要視される訳っす」
ジェラが関わる番組のイベントにこっそりやってきた親類の話や、自らがハーレムの一員である主の近況に話が移る中、カーラマインは餃子をビールで流し込んだ。
「ぷふぁー! 美味い! しかしリアス様はどうしてライザー様をあれほど嫌うのやら。年齢も元の種族も出身地もバラバラな者をトラブル無く侍らせて仲良くする事の難しさが分からんとは馬鹿だな」
「姉ちゃんに馬鹿って言われたら終わり……いや、何でもないっす。気遣いやら出来て視野も広い良い人っすけど、恋愛観の違いじゃないっすか? 俺は決めた一人に全ての愛を注ぎたいってタイプっすし、あの人も……何で驚いてるんっすか?」
「いや、お前なんかに恋愛に関して意見を貰うとはと思ってな。明日は槍だな、確実に」
互いに軽口を叩き合いながらも和気藹々と会話と食事を楽しむ二人。ノリで結婚して勢いで離婚した両親も加われれば、そう思うジェラであった。
「しかし、氷の粒を形成して足場にすれば良いだけなのにどうして誰もやらないんっすかね? それなりの強度にする必要はあるけど便利なのに」
「……いや、そんなの出来ない私に聞くな。あと、お前の言うそれなりは他人のそれなりとは大分違うからな?」
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