屋敷の中庭に剣戟の音が響き渡る。この日、ジェラとカーラマインは剣術の稽古を行っていた。カーラマインが振るうのは柔の剣。速度と技量を持って相手の切っ先をずらし、防御の隙間を縫る。対してジェラが振るうのは変幻自在の柔剛合わさった剣。時に激しく、時に軽やかに戦闘スタイルが変化していた。
「……アーシアの様子がおかしい? いや、私に聞かれても困るな。お前の方が親しいし」
「そうなんすけど、姉ちゃんも一応女すから男の俺よりは分かるんじゃないかなって。どうもラットに連れられて何処かに通ってるみたいで、ちゃんと癒してるけど細かい傷とか出来てるからちょっと……。ほら、姉ちゃんと違ってか弱い女の子っすし」
「うーむ、何故か馬鹿にされている気もするが、本人の意思あっての行動なら友人であっても放置だ。女の覚悟に男が口を出すもんじゃないぞ」
一切の悪意がないのと本人の頭脳の問題で気付かないまでも違和感は感じる模様。だが、別に良いかとスルーした。してしまう時点で色々と終わっていそうだ。
「うっすっ! 確かに友が信念を持って動くなら、信じて待っているのも友情っす!! 流石姉ちゃん、男の中の男っすっ!!」
「よし、死ね! 今死ね直ぐ死ね即座に殺すっ! 流石の私も分かったぞっ!」
この姉弟、先程から本気で撃ち合っていながらも会話する余裕があったらしく、炎の魔力の刃と氷の刃がいっそう激しくぶつかり合う。冷却された炎は即座に熱せられ、溶け出した氷も同じく瞬時に冷却され氷が生成される。単純な力ならジェラの方が上だが、こと剣術に限れば互角の模様だ。
「は~い。もう九千九百九十九合打ち合ったからお終いよ~」
そんな二人の戦いは間延びした母の声で瞬時に止まる。上空を見れば巨大な岩石、城に匹敵する巨大なそれは止まらなければ隕石に匹敵する勢いで二人を追尾しながら落ちてきた事だろう。恐ろしい事を平然と我が子にしようとしたジェネットの横には紅茶と茶菓子の準備が整えられていた。
「それでね。お母さんが護衛の仕事で出かけた時、こんな若くて美しい方が護衛隊長なんて羨ましい、なんて言われちゃったの。きゃー!」
「え? 母ちゃん、殲滅部隊の隊長じゃなかったんっすか? それに若くないっすよね?」
「貴様は馬鹿だな。母さんはフェニックス家の護衛部隊の隊長じゃないか。あと、母親だからってそれは禁句だ。確かに秘術で若さ保ってるだけで、実年齢は千歳を越えているが……」
「二人とも酷いわぁ……。もう! これから親子三人で過ごせるんだからちゃんとしましょう?」
娘と息子の体を魔術で縛り上げながら紅茶を飲むジェネット。ジェラの服にはフェニックス家の所属を示す家紋が刺繍されていた。
「うん、まあ父さんには悪いと思うが、ジェラがレイヴェル様の眷属になるのは決定していたし、其れが早まっただけだ」
カーラマインの言葉の通り、リアスとの婚約がまさかの破談になった事で、白龍皇も取り逃がしては、と、関係する家の後押しもあってやや強引に話は早められた。その他にもレイヴェルと、グレモリー家の次期次期当主のミリキャスの婚約を代わりにしては、とも持ち上がったが両家の合意の元で無かったことにされている。
「あっ、そうそう。ジェラ、最近ちゃーんと休んでるのかしら? ってな訳で、えいっ!」
ジェネットが指先を縛られたままのジェラの眉間に向けるとたちまち彼は眠りに落ちた。次に指を鳴らすと暖かそうな布団が出現し、地面に敷かれたその中に宙に浮かんだジェラが入っていった。
「カーラマイン、この子のことちゃんと見ててね? 私、結構忙しいから。修行も結構だけど、遊んだり休んだりちゃんとして欲しいのよ」
「ああ、任せてくれっ! 何せ私はお姉ちゃんだからな! 弟は守るさ」
のんびりとした口調で僅かに困ったような顔をする母に対してカーラマインは自信たっぷりに自分の胸を拳で叩いた。
「それはそうとライザー様が落ち込んでるって聞いたけど……」
「ああ、勝てると思ってただけに部屋にこもる時間が増えたり、少しドラゴンが苦手になったりしているな」
「あらあら、少し根性を鍛えて差し上げようかしら? フェニックス家だし、
「だろうな。見ていて辛いし任せるよ、母さん」
本人や家族の同意も無しに話が進む中、ライザーは謎の寒気に襲われていた……。
一方、眠りに落ちたジェラが目を覚ませば意識だけ神器の中に入り込んでいた。目の前には剣を手にした前の所有者達の残留思念。怨念の固まりとなっているのが通常の彼らであるが……。
「さっきの剣技は良かったぞ! 教えた甲斐があったと燃えてきたっ!」
「私も高ぶっちゃって。少し手合わせしない?」
「我……闘いたい。お前……相手しろぉぉぉ……」
この様にジェラに感化されて自我を強く取り戻し、稽古を付けたり手合わせをしたり、全員でアルビオンに挑んだりと結構自由にしていた。尚、体育会系である。
「望むところっすよ、先輩方っ!! アンタ達との戦いで俺は更に強くなるっ!! 強くなり続けなければ男に生まれた意味が無い故にっ!!」
彼らの誘いにジェラは迷わず乗る。当然、断るなど考えもしなかった。だが、思わぬ方向から邪魔が入った。
『ええいっ! 止めんか、馬鹿弟子っ!!』
間に割り込むように踏み下ろされた脚。アルビオンは戦いを止めると苛立った様子でジェラを見下ろしていた。
『赤いのの所有者が見つかったから、何時か訪れるであろう信念を持っての戦いに備えて鍛錬をするのは結構だ。だがっ! それはそうと休む時は心身ともに休めっ! お前は餓鬼なのだからもっと遊べ、もっと休め、何より勉強をもっとしろ、勉強をっ! 夏休み前の試験、目標は平均点よりマイナス十五点以内だからなっ!!』
「……うわぁ。アルビオン、ジェラの親みたい」
「教育ママだな、教育ママ」
『誰が教育ママだっ! 大体、お前ら変わりすぎだろうっ!!』
「変わったの……悪い? 覇龍……もっと強いのになった。問題……無い」
これが神器内での歴代所有者やアルビオンとジェラとの関係だ。全員がジェラに影響を受け、彼の成長を楽しみにしている。今のジェラの力は彼ら有っての物であり、自分は恵まれていると自覚していた。
「あら、目を覚ましましたの? もう少し眠っていても宜しかったのに」
目を覚ました時、ジェラは何故かレイヴェルに膝枕され、真横では座ったまま眠りこけるアーシアの姿があった。
母ちゃん、一体何者なのか ヒントは少しでています
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