絶対零度の熱き漢   作:ケツアゴ

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第十四話

 振り下ろされた剣の名はエクスカリバー。アーサー王が手にしたと伝わる伝説の聖剣であり、所有する教会から奪われた七本の内の一本。放つオーラは凄まじく、上級悪魔でも迂闊に喰らえば致命傷は必須。

 

 

 

 ……だが、オーラも刃も喰らわなければ十把一絡げの数打ち物と変わらない。いや、現状の様に使い手の肘までを覆う分厚い氷に包まれているなら重量のある鉄の塊の方が武器として上でさえあった。

 

「うおっ!?」

 

 フリードからすれば偶然見かけた悪魔を斬り殺すのは使命感など感じないまでも心躍る娯楽だ。息を潜め全身のバネを使って男の首を刈り取らんと振り下ろした刃、其れが空中で一瞬にして凍り付く。突発的な緊急事態と不自然な格好で空中で体勢を崩すも見事に着地するのは流石は天才と呼ばれていただけあるだろう。

 

「……取り敢えずどうします?」

 

 だが、其処までだ。悪魔が嫌いで見敵必殺が信条の彼であっても腕も武器も使えない状態で戦闘続行を狙うほど馬鹿ではないし、引き際を弁えていない猪突猛進ならば彼を含めた悪魔祓いは生き残れない。しかし、膝まで分厚い氷に覆われて地面にくっついているなら逃亡すら不可能なまな板の上の鯉、絶体絶命という奴だ。

 

 デートの邪魔をされたからかレイヴェルは少々不機嫌そうにフリードを指さし、この時は彼も悪態をグッと堪える。現状、全身を包まれていない時点で向こうに殺す気はなく、拷問で情報を引き出すか捕虜にするかだろうと思い、逃亡のチャンスを伺っていた。

 

 無論、その際は去り際の駄賃に何人かの首を狙う腹積もりであるが……。

 

「うーん。このままじゃ目立つっすけど、俺は目を誤魔化す結界とか無理っすし」

 

「貴方にその辺は期待していませんから安心なさい。……それと守って下さってありがとう」

 

 オーラを封じ込める程に強固な氷の魔力を使ったと思われるジェラを観察し、教会所属時代に同僚に何人かは居た甘ちゃんや単純馬鹿の類と判断するも、レイヴェルはどうも敵意を向けてくるのでこの場で口車に乗せるのは無理だと思うフリード。呆れたように溜め息を吐いた後で照れながら礼を述べる姿は当の本人を除いて異性としての好意の表れだと容易に理解出来た。

 

「主であり惚れた相手のレイヴェル様をお守りするのは当然すっ! でも、大好きな相手からお礼を言われるのって嬉しいっすね!」

 

「あ、貴方はもう少し恥を知りなさい。嬉しいけど……照れますわ」

 

 羞恥で耳まで赤く染めながらも満更でもない様子にフリードは喉奥から悪態が飛び出しそうになるのを感じていた。このまま二人の遣り取りを見せられていれば我慢できなくなった時、天の助け等彼には絶対にないであろうが状況を変える人物が現れた。

 

 

「……何かありました?」

 

「あら、確かリアス様の眷属の……」

 

 お茶菓子の買い出しか和菓子屋に袋を手に提げた小猫は事態を飲み込めず訊ねる。戦闘があったのは確かとは分かった。一方、レイヴェルはゲームに参加していないので映像でしか小猫を見ておらず、序盤でリタイアしたので印象が薄い様子だ。

 

「小猫ちゃんっすよ、レイヴェル様。丁度良かった……えっと、敵っすよね?」

 

 敵としてみられていなかったという屈辱よりも、背後から切りかかったのだから敵に決まっているだろうと至極真っ当な思いが強い。もう先ほどからの光景への鬱憤を堪えきれなかった。

 

 

「敵に決まってんだろが、ボケッ! おいっ! どうして此奴は此処まで馬鹿なんだっ!?」

 

「だ、誰が馬鹿っすか!」

 

「……貴方です」

 

「貴方ですわ」

 

 その言葉に思わず二人は即答してしまった……。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。何か疲れてしまいましたわ。でも、散歩を続けたいですし……」

 

 フリードを引き渡した後で二人は散策に戻ったのだが、日が沈みかけて人気がなくなった公園に来た所でレイヴェルはジェラに寄りかかる。ちょっとだけ体をくっつけてからかう腹積もりではあったが実際にやると恥ずかしくなったらしい。今頃になって自爆からの告白まがいの羞恥心が再燃する。もう真正面から彼の顔を見ることは無理だが、そんな少女の複雑な心の機微を察せられる男ではなかった。

 

「うっし! ならば俺がお運びするっす!」

 

「きゃっ!?」

 

 躊躇無く姫抱きをされて思わず可愛い悲鳴が口から出る。流石に抗議しようと顔を向ければジェラの顔が間近にあった。両思いだと発覚したばかりの相手の顔がである。

 

「よ、良く気が利きますわね。このまま散歩を続けなさい」

 

 今の彼女に出来ることは只一つ。必死に虚勢を張って平静を装う事のみ。落ちないように両手をジェラの首に回し、景色を見る振りをして顔を見られない様にする。心臓はバクバクと高鳴って不死のフェニックスが心臓麻痺を起こしそうだと混乱した頭で考えていた。

 

(こ、こんな時は一体どうすればっ!?」

 

 初対面から身分差を知らないと言った態度で接して来た様な相手なら兎も角、ちゃんと身分差を分かって接して来た上に自分の眷属だ。こうなれば貴族令嬢としての態度をついつい守りたくなってしまう。その一方でレイヴェル個人として接して甘えたいとも思うのだが……。

 

 

「あっ! 朝のトレーニングにアーシアも参加するんっすけどレイヴェル様もご一緒にどうっすか? ご一緒出来れば俺として最高っす!」

 

 この朝のトレーニングはジェネットの監修でカーラマインも参加するのだが、この時のレイヴェルはその様な事など思い当たらない。テンパった頭はアーシアと二人っきりと誤認してしまった。

 

「当然参加ですわ!」

 

 今は互いに友人でしかなくとも今後は分からず、ドラゴンのオーラには異性を引きつける力があるとされる。二人っきりの時間を毎朝過ごさせてなるものかと独占欲を発揮して後先考えずに言ってしまった。尚、翌日の早朝に気付いて後悔するが余談である。

 

「……ジェラは私が一緒にトレーニングすれば嬉しいのですわよね? なら、お礼に私の頼みを聞くべきではありませんこと?」

 

「当然っす! 主の為、惚れた相手の為、俺は何でもしてみせるっす! それが男ってもんすから! さあ! 何でも言って欲しいっす。期待に応えてみせるっすよ!!」

 

 この時、レイヴェルは精一杯の勇気を出していた。顔を見るのも無理なのでジェラの胸に顔を押し当て、か細い声で言おうとするが拳を握りしめて顔を上げた。

 

 

「わ、私と二人っきりの時は呼び捨てになさい! ……その、誰も側にいない時は主じゃなくて惚れた相手としてだけ接して欲しいから」

 

「分かったっすよ、レイヴェル!」

 

「いや、ムードとか……期待した私が愚かでしたわね。喉が渇きましたし何か飲みましょう」

 

 一切の照れを見せないジェラに恥ずかしがるのが馬鹿馬鹿しく感じたのか羞恥心が消え去ったレイヴェルはジェラの腕の中から降りると近くのベンチに座って自動販売機を指さす。買ってこいと言っているのだ。

 

「えっと、何か拙かったなら殴って下さいっす!」

 

「別に怒ってないから座り込まないで早く買ってきて下さいまし。この前は喫茶店でしたが、市販の紅茶を飲んでみたいですわね」

 

「うっす! 今すぐ買って来るっす!」

 

 殴りやすい様に座って腕を組んだジェラを適当に手を振って自販機まで向かわせたレイヴェルはその背中をジッと見つめて呟いた。

 

 

「そんな所も好きになったのですし、惚れた弱みとして我慢するしかないですわね」

 

  深い溜息を吐いたレイヴェルはジェラが買ったのが二本とも別の飲み物なのを見て途中で交換し、間接キスだと言ってからかおうと思ったが勇気が出ずに止めた。ちょっとだけ惜しい気がしたが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! レイヴェル様の期間限定の奴だったっす。一口貰えないっすか?」

 

「……一口だけですわよ?」

 

 この夜、レイヴェルはこの時のことが頭から離れず夜遅くまで眠ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、フリードを預かったリアス達であったが彼が持っていたエクスカリバーを見た木場が態度を一変させ、突如魔剣を創造するとがむしゃらに剣を振り下ろし続ける。

 

「壊れろっ! 壊れろ! 壊れろぉおおおっ!!」

 

「ちょっと待ちなさいっ! それが本来教会が持っている聖剣なら私達の判断で破壊する訳には行かないわ!」

 

 咄嗟に止めようとするリアスだが、手の動きを止めた木場はどうも言う事を聞いて止めたのではない様子。何を思ったのかエクスカリバーの柄を掴んで持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「僕はこれを破壊する為に生きてきた! それを邪魔するのなら……僕ははぐれ悪魔にだってなる!!」

 

 エクスカリバーを手にした彼は窓を突き破って逃走、リアス達が追うも逃げ切って姿を消す。そしてこの夜、閉じ込めていたフリードが何者かの手によって脱走を果たす。床にはフリードの物と見られる血の跡が存在し、それを踏んで出来た靴跡は木場の靴と同サイズであった……。

 

 




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