絶対零度の熱き漢   作:ケツアゴ

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第一話

 夜闇が地を覆い、人ならざる者達が行動を開始する時間帯。ジェラは相も変わらず熱かった。

 

「まだっすっ! まだ行けるっすっ! 戦闘の極意は得意分野を相手に押し付けることっ! 格上相手にも食らいつける絶対的な一を身に付けるに必要なのは基礎っすっ! まだまだ行くっすよおおおおおおおおおおっ!!」

 

「う、うん!」

 

 彼の正面に立つのはソーナ眷属の少女達であり、この日は基礎トレーニングの一環として魔力を放出し続けていた。既に放出時間は過去最高となっており、最初は噴水程度の勢いだったのが顔に浮かぶ疲労の色に呼応するかの様に弱まって来ている。だが、背中に炎を幻視してしまいそうな勢いで両の拳を震わせるジェラの勢いに釣られるが如く勢いが盛り返していった。

 

「限界を決めるのは自らの弱い心っ! 誰もが絶対に勝つべきな相手は昨日の自分っ! もっと熱くなるっす! もっと魂を燃やすっすっ! もっともっと熱くなるっすっ! もっともっともっと強くなるっすっ!!」

 

「……何だこれ」

 

 ジェラもまた自らの言葉を証明するように勢いを増した氷の魔力を上空へと放ち続ける。その勢い足るや絶え間なく吹き上がり続ける間欠泉。上空が冷気で急速に冷やされていく中、体育会系のノリに乗り遅れた少年、見学に訪れた眷属入り間近の匙は呟くしか出来なかった……。

 

 

 

 

「あっ! この後はタイヤを引きずりながらのマラソンで体力づくりの予定っすけど、匙も参加するっすねっ! 強くなれば駒の消費数が増えて、駒の消費数増えれば恩恵も大きくなるっすし、強くなれるだけ強くなるっすっ! よーしっ! こうなったらマラソンじゃなくってトライアスロンに挑戦っすよぉおおおおおっ! 自分も軽トラを引っ張って参加させて貰うっすっ!!」

 

「出来るかぁああああああああああっ!? 絶対死ぬわっ!!」

 

「え? 何でっすか? 強くなれるだけ強くなった方が得じゃないっすか」

 

 ジェラが指差した方向に積まれていたのは一般的に使われる軽自動車のタイヤではなく、大型車の大きさ相応に重いタイヤ。思わず叫ぶ匙だが、脳内麻薬が今までの熱気に煽られてドバドバ出てしまったのか特訓中の女性陣は瞳にやる気を宿す。結局、様子を見に来たソーナが止める事になるのだが、それまで匙は一連のやりとりに一切適応出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……一方、住宅地から少し離れた場所を走る路線バス、いや、走っていたバスが燃えていた。周囲は倉庫や既に営業を終了している店ばかりで、もう直ぐ隣町の駒王町に入る時間帯。正面からテナントが入っていないビルに突っ込み、瓦礫が幾つも降り注いだバスは黒煙を上げて燃え盛る。

 

「う……あ……」

 

 横転したバスを瀕死の状態で見詰めるのは兵藤一誠。投げ出され窓ガラスを突き破って地面に叩き付けられた時に強打した頭からは血が流れ、肺に折れた肋骨が刺さって呼吸もままならない。死ぬまで幾ばくの時間もない彼が思い出したのはこの事故の……いや、事件についてだった。

 

 

 

 

 

 

「そう言えばよ、こんなチラシを貰ったんだ。凄い美女だったぜ、配ってたの」

 

 この日、予定が入って来られなかった元浜を置いて松田と一緒に出掛けた一誠は羽目を外しすぎて大分遅い時間帯にバスに揺られて帰路に就いていた。鞄の中には穴場の古本屋で入手したエロ本が入っており、堪えきれず公共交通機関の中で広げようとした時、町を出る前に貰ったと松田が一枚のチラシを取り出そうとする。

 

「お客様、危ないので席から……」

 

 ふと声に気付いて前を見れば黒い髪をした美少女が席から立ち上がり、車掌に着席するように言われている。直ぐに欲望に負けて視線を本に移そうとした瞬間、彼女の服装が扇情的な物へと一瞬で変化し、コスプレにしては出来が妙に良い黒い翼が出現した。思わず露出した部位を食い入るように見つめた時、彼女の手に現れた光の槍が車掌を運転席ごと貫く。騒然としていた車内に血飛沫が舞い、悲鳴が上がった。

 

「きゃあああああああああああああっ!?」

 

「人殺しだっ!?」

 

 混乱を来す車内、幼子を庇うように抱き締める母親や少しでも距離を取ろうと我先にと後部座席に殺到する若者達、運転手が死んで制御を失った車内にパニックが広がる中、呆然と立ち尽くす一誠と彼女の目が合う。ぞくりと背筋に冷たい物が走った。

 

 

「本当に人間って醜いわ。……じゃあね。憎むなら貴方に神器を宿した神を恨みなさい」

 

 意味不明な言葉と共にガラスを突き破って外に飛び出る女。再び光の槍が手の中に出現し、タイヤを穿つ。完全に制御を失い、パニックが加速。そして今に至る。

 

 

 

(俺は死ぬのか? まだハーレムも築いちゃいないし、おっぱいも揉んでいないのに……)

 

 薄れゆく意識の中、一誠は生きたいと強く願う。そんな彼が無意識に伸ばした手の先には先程のチラシ、『貴方の願い叶えます』と書かれたそれを掴んで願う。助けて欲しい、死にたくない、と……。

 

 

 

 

「私を喚んだのは貴方かしら?」

 

 完全に意識を失う瞬間、一誠の視界に紅い髪の少女の姿が映り込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば副会長、彼奴って普段はどんなトレーニングをしてるんっすか?」

 

 結局、トライアスロンはジェラ一人で決行され普通のマラソンに重り無しで参加した匙だが、矢張り熱気にやられてネジがはずれたのか少々ハードな距離を文句なしに走る他のメンバーに少し遅れてゴールした匙。息も絶え絶えだったのが漸く回復した時、ふと気になった疑問を生徒会副会長である椿姫に投げかけた。

 

「ああ、貴方は知りませんでしたね。こんなトレーニング一式に加え、寝ている間も週五のペースで神器の中に意識を潜らせてアルビオンや歴代の所有者の残留思念と実戦訓練を重ねているらしいです。……その他には他家への出張ですね」

 

「出張っすか?」

 

 椿姫の言葉の意味がよく理解できなかったのか聞き返す匙。椿姫は椿姫で夢の中まで修行漬けのジェラに改めて呆れていた様子だが、匙の問い掛けに対して詳しい説明を始めた。

 

 

「彼が持つ神器は神滅具ですし、当然の様に眷属にしたいという方々は居ます。ですが会長が女王の駒や戦車二個を使っても転生出来なかった彼を眷属には誰も出来ず、ならばと親しい家で任務に参加したり眷属との手合わせを所望されるのですよ。本人は色々な経験を積めると喜んでしますし問題はないのですが……確か明日はフェニックス家でしたね」

 

 フェニックス家の事は匙も知っているが、特別親しい間柄だったかと首を傾げる。まだ眷属ではないが眷属になる前に少しばかり話は聞いているし、その中にフェニックス家との親交については聞いていなかった。

 

 

 

 

 

「フェニックス家については彼自身の関係ですね。訳有って離れ離れになった姉がフェニックス家の眷属だったのですよ」

 

 そんな匙の疑問を感じ取った椿姫はそう語るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みに残留思念は当初話が通じなかったけど、近くで熱意をぶつけ続けたら応えてくれたそうです。今では拳で語り合う関係で先輩と呼んで尊敬しているとか……」

 

「何かその光景が浮かぶっす……」

 

 事実、二人の脳裏には非常に暑苦しい光景が克明に浮かんでいた。

 

 

 




まあ仮にリアスが縄張りに入れなかったら外で殺すだけだよね 尚、町の外で殺した理由はちゃんとあります


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