「……もう直ぐよ。もう直ぐ私は堂々と組織に戻れる。いえ、アザゼル様達の寵愛を得られるのよ……」
逢魔が時が差し迫った頃、廃教会の一室でレイナーレは空を見上げながら呟く。目は何処か虚ろで、一誠を襲った際には整っていた髪も乱れ全体的に窶れた様子。呟いた言葉も理想の明日を夢見て陶酔していると言うよりは希望に縋っている方が近い。
そんな彼女は時計に目を向けると部屋を出て地下聖堂を目指す。其処には十字架に縛られ意識を失ったアーシアと、部下の堕天使三名の姿があった。
「……あの男は居ないのかしら?」
レイナーレは最後に残った一人であるフリードの姿を探す。人を見下す彼女は彼に対して期待も信頼もしていないが、万が一にでも計画の邪魔をされれば困るとだけ考えていた。
「いや、昨夜から帰ってきてないっすよ」
「そう、なら構わないわ。私が至高の堕天使となった後は煩わせた罰に殺してあげるだけだから。貴女達はちゃんと面倒を見てあげるから安心しなさい」
レイナーレの言葉に喜色を浮かばせる三人もまた、希望に縋り付いて必死に現実から目を逸らそうとしている様であった……。
「ソーナお嬢様とリアス達、そして皆っ! 大変お待たせしましたっすっ!」
レイナーレが地下聖堂に入った頃、悪魔の視力でならば教会が見える程度の距離に集まったソーナ達に少し遅れてジェラが合流する。この場には怪我の都合で来れなかった匙達二人と護衛の木場、訳あって封印措置のギャスパーといった男性陣は不在である。太い声で叫んで謝罪するジェラの声量は凄まじく空気が震えていた。
だが、慣れているのか動じないソーナであったが、視線を教会から彼に移した時点で固まってしまった。
「待っていましたよ。……その格好は?」
「これっすか? 今日、撮影の後に握手会があって着替える暇が無かったんっすよ」
ジェラの服はブリザードジェネラルの衣装であり、ソーナはそう言えば姉がそんな事を言っていたと思い出す。出来れば姉がフリフリの衣装を着て役を演じながら握手をする姿など想像もしたくなかったが。
「……随分と人気と聞きましたが」
「そうっすよ、小猫ちゃん。俺の技は派手で分かり易いっすし、男の子を中心に人気で嬉しいっすよっ! なんか悪魔以外にも魔法使いの女の子とか、父親の上司が悪魔嫌いだから連絡も禄に取れない従姉妹が来てたりもしたっすけどね」
「……その様な事は兎も角、今回やるべき事は理解していますね?」
「当然っすっ! 周辺被害を防ぎつつ、独断行動中の堕天使三名とはぐれ悪魔嫌い一名を撃破、殺されそうな女の子の救出っすっ! 友の仇討ちと宿敵との対決、そして人命救助とか燃えて来るっすっ! 此処にいる皆に相応しい益荒男のっ! 男の中の男の仕事っすっ! げふっ!?」」
ソーナは即座に魔力を込めたローキックをジェラの太股に叩き込む。リアス達も手は出さないが止めはしないので思うところがあるのだろう。
「ソ、ソーナお嬢様?」
「ジェラ、此処にいる皆の性別は分かっていますね?」
「当然っすよっ! 皆、女の子で、更に言うなら美少女揃いっすっ!」
親指を立て一切の臆面もなしに言い切る姿にソーナは頭に手を当てて溜息を吐く。説明するのが面倒だ。そんな中、どこに隠れていたのか姿を見せていなかったラタトクスが何時の間にかジェラの頭の上に乗り、食べかすをボロボロ落としながらクルミを食べていた。
「いい加減分かれって。この馬鹿は一切の悪気なしに馬鹿なことを言うんだからよ。大体、今回の仕事にしたって三割しか覚えてないかもって思ってたんだぜ、オレ」
「何を馬鹿な。精々三割忘れる程度でしょう。それよりラタトクス。情報に間違いはないのですね?」
ソーナはフォローになっていないフォローの後で疑いからではなく最終確認の為に尋ねる。それが分かっているのかラタトクスは少々面倒そうに顔を左右に振るがしょせんは栗鼠なので可愛かった。
「ボスのレイナーレって奴はバス丸ごと襲うのはやりすぎだからって帰ったら罰を受けるのを恐れて虚偽の報告で残ってやがる。……同じ様に騙された神器持ちを殺して便利な神器を奪って地位を得るためにな」
この、同じ様に騙された、という言葉にソーナとリアスは複雑そうだ。訳あって二人にのみ教えられた情報からの推測により、堕天使の上層部と同じ様に騙されているというのとは別の意味に取っていた。ラタトクスも普段の自己本位で皮肉屋な態度から少々苛立った様子だ。
「では、時間も惜しいことですし開始しましょう。今回は双方の眷属が襲われた事により共同作戦ですが……ジェラ、何をすべきか分かっていますね?」
「当然っすっ! 士気向上のために肩を組んで円陣を……」
「いえ、違います。馬鹿を言っていないで……先陣をお願いします。敵が混乱に陥り逃走すら出来ないような派手なのをお願いしますね」
「うっすっ! 大役、見事勤めきってご覧に入れるっすっ!」
ジェラの言葉を一切の躊躇無く切り捨て、信頼のこもった言葉を向ける。気合いを入れる為か歯を見せて笑い両の拳をぶつけた瞬間、ジェラを莫大なオーラが包み込む。
「我、目覚めるは……」
「誰がそこまでしろと言いました」
再び放たれる渾身の蹴り。今度は尻にソーナの爪先が叩き込まれ、ジェラの詠唱は中断される。ビックリした彼がソーナを見れば殆どの科目で赤点をとった時の顔をしていた。一見すれば冷静なままで、まれに見せる怒った時の顔ではない。それが逆に怖かった。
「それも禁手も使わずにやりなさい。さあ、早く」
「は、はいっすっ!」
「ソ、ソーナ?」
幼い頃からの親友であるリアスすら恐怖を覚える中、ジェラは両腕を左右から交差するように振る。一見すればそよ風が起こり近くのソーナ達のスカートが僅かに動いた程度。ただ、教会は違った。
まず老朽化が進んだ手入れの行き届いていない建物が軋む。その程度なら珍しくもない。だが、軋み続け規模が大きくなっていくのは異常な事態だった。左右から吹き続ける風は教会を挟み潰す様に力を増し続け、遂に一部が崩れたことで辛うじて保っていた拮抗が崩れ去る。後は一気に崩壊しながら建材と内部の調度品が中央へと押し込められ、天高く舞い上がったかと思えば敷地の端に積まれて山が出来上がる。
その中に三人分の手足が見えていた……。
「うっしっ! 続いて……おりゃっ!!」
気合いの籠もった叫びと共に上げた右腕を振り下ろせば空から無数の巨大な氷柱が降り注いで露わになった地下聖堂への入り口を正面以外囲む。最後に分厚い氷の板が乗れば正面を除いて完全に塞がった。
「……はっ! それじゃあ行くわよっ!」
一瞬呆けた後、管理者だからと最初に乗り込んでいくリアス達。続いてソーナ達が乗り込む中、ジェラと遠くから観察していた者の目が合った。
「ひぃっ!?」
そんな小さく情けない声を出す青年が居たが、彼が持つ道具を通して覗いていた者は違う。好戦的で獰猛な笑みを浮かべるその彼の背後には恭しく控える銀髪の青年。
「……坊ちゃま。お気に召しましたか?」
「そうだね。興味が湧いた。……うん、機会があれば戦いを挑もう。お前は周囲の邪魔者の相手だ」
「了解です。貴方方一族に仕える、それが私に残された最後の生きる理由なのですから」
「な、何事っ!?」
突如地下聖堂を襲った揺れと轟音、急激な気温の変化にアーシアは目を覚ます。レイナーレが戸惑う姿が目に映る中、見知らぬ誰か達が突入し戦闘を開始する。朦朧とした意識の中、自分は死ぬのだと覚悟した彼女は最後の望みのみを惜しんでいた。
友達が欲しい、それだけだ。癒しの力で聖女と呼ばれ崇められた彼女には同等の相手は周囲に居らず、孤独だった。友達と普通に過ごすという夢は悪魔を癒して追放された後も持ち続け、癒しの力を奪うために命を奪われようとしている今も消えない。
今、ある者の事を思い出した。自分に遠慮なく話し掛け忠告までしてくれた絵本の住人の様な存在、ラタトクス。短い時間だが楽しかったと思っている。
「よう! 湿気た顔してるな、嬢ちゃん」
聞こえないはずの声が聞こえ、誰かが拘束を外して力無く倒れ込むアーシアを抱きかかえて姫抱きにして運ぶのを感じ、はっきりしてきた意識で前を向けば見知らぬ誰かの頭に乗るラタトクスの姿が見えた。
「ラタトクスちゃん……?」
「ちゃん付けすんな、年下! オレが栗鼠だからって侮るなよ!」
「わはははは! 仕方無いっすよ、ラット! 女の子は可愛いのが好きらしいっすからねっ!」
この声の大きい人は誰だろうと思うアーシアだが不思議と警戒はしない。一切下心が感じられない快活な笑みの為か、アーシア自体がお人好しの為か、その両方か。
「ああ、安心するっすよっ! 俺とラットは親友で、ラットと友達になったっぽいアンタも俺の友達っすっ! だから助けたっすからっ!」
一切屈託のない笑みで投げ掛けられた言葉はアーシアの心に響く。その様子をソーナ達は眺めていた。
「……会長、あれって」
「ええ、天然です。まったく……」
活動報告で意見募集中 技とかヒロイン誰にすべきとか
二巻は短め だってどっちかと言えば……ねぇ