ゼロの使い魔の世界に多数のトリッパーを転生させるというのは、多くの死神にとっては重要な実験だった。言うまでもないが彼らも暇ではない。わざわざ手間暇かけて転生特典を与えたのも下位世界を維持するための重要な実験だったが、その結果は死神たちの顔を引きつらせるに十分な物だった。
確かに上位世界人の魂を持つトリッパーには世界創造の反作用を中和する力があるし、トリッパーの人数に比例して中和できる量も増える事は確認できた。そこまではいい。
しかし、すぐにトリッパー同士が殺し合いを初めて彼らの数が激減したのだ。これには死神も頭を抱えた。いくらトリッパーを苦労して揃えても彼らが勝手に潰しあってしまっては意味がないのだ。
「…というワケで我々も大変困っているのです。おまけにアルトリアさんは彼らをほったらかしにしてくれましたから」
と、私を転生させた死神が私を非難するかのように言い出した。
私から言わせれば酷い言いがかりだ。まったくいきなり私のところに押しかけて来たと思えばこんな事を言われるとはね。
「自業自得です。そもそもこの世界は私が先に転生していたから、私には先住権のようなものはあったはずですよ。にもかかわらず私の了承も得ずに貴方達がチート能力を持ったトリッパーを馬鹿みたいに送り込みまくったからこんな事になったのよ。その所為で私もかなり迷惑しているわ!」
そう、死神は私にトリッパーを送り込みたいけどいいですか?と、断りを入れて来たワケではない。いきなり千人以上のトリッパーを送り込んだから彼らの面倒を見てねと、一方的に言って来たのだ。そんなふざけた話が通用するワケがないでしょう。
「やはり、同じ世界にトリッパーを送り込みすぎたのが失敗の原因ですか」
と、死神はため息をついた。
「そうでしょうね。そもそもトリッパーが複数いれば原作というパイを切り分ける事になる。それが上手くいけばいいですが、失敗すれば奪い合いになるのは目に見えているわ」
今回はトリッパーが千人以上もいたのだ。原作介入の動きや人気キャラを巡る争いは異常なまでに激化していた。
「そもそも『ゼロの使い魔』の世界にしても、その並行世界は無限にあったのでしょう? 彼らをそれぞれ別の並行世界に送り込んでいたらこんなことにはならなかった筈です」
「それはそうなんだけどね。今回の調査の為にはトリッパーが固まっていた方がやり易かったし、トリッパーたちを様々な並行世界にバラバラに送り込んで孤立させるよりも、同じ世界に固めておけばトリッパー同士で協力して上手くやっていけると思っていたのだ。しかし、実際には逆効果になってしまった。まったくどうしてこんな事になったのか」
確かにトリッパーの多くは日本人だ。普通の日本人は穏便で大人しいし、協調性を重んじる国民性から下位世界に転生しても同郷であれば仲良く協力し合っていけると思うのは無理もないだろう。
しかし、トリッパーの場合は話が違う。創作物の世界に転生して強大な能力を手に入れた事で増長した彼らは、自らがオリ主としてこの世界を牛耳る事を望んでしまったのだ。そうなると、他のトリッパーなど邪魔者でしかなく、これでは協力などできるわけがない。
「これ以上同士討ちでトリッパーが減るのは困りますから、この世界に残存するトリッパーはそれぞれ異なる並行世界に送る事が決定しました」
「そう、それはよかったわ」
と、私はあっさりとそれを受け入れる。
「……よろしいのですか?」
どうやら私があまりにもあっさりと受け入れたので意外に思ったのだろう。死神が聞き返していた。
「こんな滅茶苦茶になった世界には未練はないわ。いい加減他のトリッパーから逃げ隠れする生活に嫌気が指していたから、他のトリッパーがいない並行世界に送ってくれるならそれでいいわ」
「そうですか。まぁ話が早くていいですね。では送りますよ」
と、死神が言うと私は並行世界に転送された。
こうして転送された並行世界は原作開始の五千年前のハルケギニアだった。邪魔なトリッパーがいないという状況だったので私は傭兵稼業を再開して、ハルケギニアでの生活を満喫していた。
こうして千年ぐらい過ごしていると、また死神の来訪を受けた。
「アルトリアさんお久しぶりですね。お元気そうでなによりです」
「本当に久しぶりね。それで何の用?」
「実は今回トリッパーの支援組織を作る事になりました。つきましてはアルトリアさんに協力して頂きたいのです」
「トリッパー達の組織ですか。そんなものを作っても仲間割れを起こすだけではないの?」
私はかつての世界の出来事からそう指摘する。
「その点は我々も考慮して改善しています」
「……どういう事か説明して」
「そうですね」
事情がよくわからない私は死神の説明を聞くことにした。
トリッパー支援組織。それは下位世界に送り込まれたトリッパーたちがお互いを助けある為の組織だ。この組織がつくられるのはやはりトリッパーたちが助け合うための相互互助組織があった方がよいと判断されたからだ。
初期に発覚した失敗から死神たちは可能な限りトリッパーをそれぞれ別の世界に分散させることにした。これ自体はそれほど問題なかった。創作物を元にした下位世界は多数存在していたし、各々の下位世界は無限の並行世界を抱えていた為、トリッパーのいない世界等いくらでもあるのだ。
こうして各地に送り込まれたトリッパーであるが、やはり前世の記憶を持つという事から現世の環境に上手く馴染めなくて困るという事例が多々出て来た。死神としては、その手のアフターケアを自分たちでやりたくないので、出来るだけトリッパー達で何とかしてほしいという事情があった。彼らも自分の仕事があって忙しいから、そこまでできないのだろう。
その為、死神は組織を作り上げる事ができるトリッパーを探して『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生していたシドゥリというトリッパーに目を付けたらしい。シドゥリはかなりの勢力を誇る星間国家の皇帝(しかも専制君主)という凄まじい権力者だった。
このシドゥリが作り上げたブリタニア帝国は国力、技術力共に申し分ないもので、死神たちはシドゥリに異界転移技術(通称ユグドラシル・システム)を提供してトリッパー支援組織を作らせる事にしたらしい。
この組織の利点は異世界転移技術で各地のトリッパーを支援するという形に徹している為に各々のトリッパーの利害が衝突しないという事だ。
あの世界では一つの世界でパイの取り合いをしたから争いになったが、組織はその世界(トリッパーがトリップした世界)は該当するトリッパーの縄張りと認めており、あくまで困っていることや助けてほしい事などがあったら手を貸してあげるという形なので問題がでないのだ。
「とまあ、こんな風になっているワケですが、経験豊富なアルトリアさんにもこの組織に参加して頂きたいのです」
「なるほど、確かに問題はないようね」
聞けばシドゥリというトリッパーは600歳を超えているそうだが、経験という意味では千年以上生きている私には劣る。まあ、だからといって先輩風を吹かせるつもりはない。シドゥリも皇帝である以上権威は大切だろう。いくら同じトリッパーでも分を弁えない行動は拙い筈だ。問題にならないように付き合っていくべきだろう。
こうして、私はトリッパー支援組織、後の三千世界監察軍の創設に協力することになった。
解説
■アルトリア
原作開始の百年ほど前にゲルマニアの平民に転生したトリッパー。原作介入に興味はなく好きに過ごしていたが、チート能力を持つトリッパーが大量に転生してきたことで逃げ隠れする羽目になる。何気に神農に次いで古いトリッパーで、トリッパー黎明期から生き延びている。
◇転生特典
セイバー(Fate/Stay Night)の能力と宝具(アヴァロンを含む)