惑星シリウス。ブリタニア帝国の首都星ヴァーブルが存在する銀河とは別の銀河にその辺境惑星があった。当時ブリタニア帝国は、別の銀河にまで進出して移住可能の惑星を探索していた。
移住に最適な惑星の条件の一つは重力が0.8G~1.1Gの範囲である事。この範囲を超えると人間が住みにくかった。
勿論、都市部に大規模な重力制御を施すという方法もあるが、コストがかさむので敬遠されていた。だから帝国は適当な重力の惑星を探し、環境が良ければそのまま移住して、少々悪い場合は惑星改造を施して移民するという手段を取っていた。
惑星シリウスは重力が約1.2G、つまり人間が住みにくいと判断され移住リストから外れた惑星だった。といってもその環境自体はそれほど悪い物でもなく、大気成分や生態系など随分と地球に近く重力さえ度外視すれば良い星だった。
そんな惑星シリウスに200年程前に移住してきた者達がいた。だが彼等は人間ではなかった。異世界(別の下位世界の並行世界)のヴァンパイアとダムピールだった。
彼等がわざわざ移住してきたのには訳があった。一人のヴァンパイアの手引きがあったからだ。そのヴァンパイアの名はシリウス、監察軍に所属する憑依型トリッパーだ。
時はアーデルハイト暴走の一年前。夜の国に住む100歳の純血のヴァンパイアのシリウスは、一人の女性と出会った。その出会いが全てを変える事になる。シリウスはアーデルハイトの暴走が収まった直後、未だ身体が回復しきっていないストラウスの元に現れた。
「……私を殺しに来たのか?シリウス」
「いえ違います。状況が変わりました」
シリウスはアーデルハイトが封印された事、だがその暴走の結果として予測される未来を語る。
「もはや事態は貴方の首一つで済む問題ではありません」
「そうだな」
太陽を克服したヴァンパイア王のみならず腐触の月光の恐怖まで味あったのだ。人間が最早我等と共存しようとは思わないだろう。人は恐怖とは隣り合わせにはできない。故に争いは避けられない。シリウスは血族を守るために決断しなければならなかった。
「そこで提案があります」
シリウスは異世界のブリタニア帝国の事、彼等と交流を持っており、移住可能な新天地の譲渡まで話が進んでいることを話す。
「……俄には信じがたい話だが」
ストラウスは戸惑っていた。中世の時代の人間に異世界だのといきなり言っても戸惑うのは当然だ。
「では彼等の本国に行って、かの帝国の皇帝陛下と会って貰いたいのです」
「数多の異世界に干渉でき、総人口1000億人を超える大帝国の皇帝か、凄まじい話だな」
大陸とは規模が違いすぎるからそう思うだろう。
「しかし、それでは時間が掛かりすぎるのではないか?」
「いえ、既に移動のための手段は用意していますし、彼等の技術は凄まじく一瞬で彼等の本国に行けます」
「……そ、そうか」
ストラウスは引きつった表情でそう零した。
ストラウスside
「あれから200年か」
あの後ストラウスはシリウスと共にブリタニア帝国に行った。彼の国は何もかもが規格外だった。文明レベルも比較にならない。終始圧倒されつつも、皇帝シドゥリに会った。意外なことに皇帝は気さくで話は進んだ。そしてあっさりと惑星シリウスに移住許可が下りた。
惑星シリウスは皇帝がシリウスに譲渡した惑星だった。元々、使い道がない惑星だったので、欲しがるシリウスに与えたらしい。
その地では地球よりも体重や物が二割ほど重い。だが重力二割り増し程度なら、ヴァンパイアやダムピールならどうという事もない。そして人間を初めとした知的生物はいないので、血族が人間との確執に頭を痛めずにすむし、その他の環境も良い。
その後、地球に帰還した私はシリウスと共にブリジットを説得し血族を纏め上げて、この新天地に移民した。幸いにもブリタニア帝国が様々な支援をしてくれたので、この地に夜の国を再建することができた。
「どうしたのだストラウス?」
愛娘のブリジットが私に尋ねる。
「いや、200年前まではこうなるとは夢にも思っていなかったな」
「そうだな私もあの時は驚いた物だ」
ブリタニア帝国は規格外だったから驚きの連続だった。凄まじいカルチャーショックを血族の者は受けた。
現在ブリタニア帝国とは不干渉条約が結ばれている。つまり惑星シリウスを血族が住む土地として認めて不必要な干渉はしないので、血族も帝国並びに監察軍に不必要な干渉をしないという内容だった。これによって夜の国は漸く安定した生活が出来るようになった。
「まぁいいさ。それより監察軍の有識者会議にでないといけないぞ」
監察軍では有識者を集めての会議を年に一度開いていた。この会議は各世界の有識者が集まって、今後の監察軍の活動に対する会議をする物で、今年もストラウスとブリジットは呼ばれていた。
「そうだね」
シリウスside
「異世界へ行くだと!!」
「そうだセーバーハーゲン。私達はこの世界からいなくなる。貴女にとっては願ったりかなったりだろう?」
私の移住宣言はセイバーハーゲンに取ってそれは寝耳に水だったのか、とても驚愕しているのが分かる。
「どういうことなのだ!?」
「そうだな、お前にも分かり易いように言おう」
正直、中世の人間に説明しても理解できるか疑問だけど、噛み砕いて言えば何とか理解できるだろう。
「……というわけだ」
俺は異世界の存在、そしてその世界との交流によって、血族を人間と揉めることのない新天地に移住する手筈を整えていた事を分かり易く説明した。
「それでは私のしてきたことは…」
「そう全て無駄。むしろ余計な被害と災厄を招いただけ。お前が余計な事をしなければこんな事にならずに円満に解決できた」
セイバーハーゲンは愕然としていた。
「ステラも可哀想だな。これではただの無駄死にだ」
「……知っていたのか?」
「ついでに貴女がステラとその子供の魂で作ったあの黒い白鳥の事もな」
「!!何故、そこまで知っている?」
「監察軍は、並行世界の観測ができるから知ろうと思えば何でも分かるんだ。まあいたずらにストラウスを苦しめるだけだからあえて伏せているけどね」
並行世界の観測をすれば過去だけでなく、未来において起こるであろう事象をも把握できる。どこぞの未来予測のレアスキルよりも遥かに使える技術だ。最もこの情報に関しては原作を読んだから知っているのだが。
「まぁいいさ。我等はこの世界から去る。お前は自分のしてきた事を後悔しながら余生を生きるがいい」
俺はセーバーハーゲンに言いたいことだけ言ってその場を立ち去った。
ちなみにヴァンパイアとダムピールが去った千年後の地球では、星人フィオによって地球人が滅ぼされた。
黒い白鳥は一応作られたものの、討伐対象のストラウスはブリタニアにいて、アーデルハイトは封印中のため手が出せずに一度も戦う事無く、時間切れで死亡。五十代目の時代に地球人が滅ぼされたので、宿主となる人間そのものがいなくなり自然消滅した。
解説
■シリウス
外見年齢20代前半の男性。ストラウスと同じく日光を克服しているが、それが発覚すると処刑されかねないので、その事を時期が来るまで秘匿していた。シドゥリが最初に接触した異世界のトリッパー。シドゥリとは仲が良く、シドゥリの手引きで血族を新天地に招いた。