勝者なき第四次冬木聖杯戦争。その五年後、衛宮切継が死亡した。
「ねえ、こちらが衛宮切継の家かしら?」
私は12,3の赤毛の少年に話しかけた。
「……切継は死にました」
「そう、貴方は切継の子供かしら?」
「はい」
少年、衛宮士郎がそう答えた。元より切継が死んでいるのは知っていた。このタイミングを狙っていた。
「成る程、切継の弟子か」
「あの貴女は?」
「私は魔術師ザビーネ・クライバー。最もこの世界の魔術師達は私の事を魔法使いと呼ぶけどね」
「衛宮士郎です」
「士郎ね。貴方魔術の師匠はいるの?」
「いえ、いません」
「なら私の弟子にならない? 貴方は見所があるから色々教えて上げる」
「いいのですか?」
「ええ、私は気前が良いから大サービスよ」
戸惑う士郎に私はニッコリと微笑んだ。
それから数年が過ぎた。私は士郎をともなって数々の異世界で冒険を行った。
何しろ士郎の能力は剣の投影。だから、まずこの世界の刀剣を展示している場所に赴き解析させて、古今東西の刀剣類の情報を叩き込んだ。更に監察軍やブリタニア帝国の剣や槍などを片っ端から解析させていたが、これはあまり芳しくなかった。
剣型のデバイスというのはそれなりにあるが、監察軍では意外に概念武装という物が少ない。デバイスは神秘を帯びておらず、良質のリンカーコアを持っていないと豚に真珠。当然魔導師としての才能がない士郎には使えない。むしろその分野では私が暇つぶしに作っていた魔術礼装の魔剣の類の方がよっぼど役に立った程だ。当然それだけでは全然足りないので色々な世界の名剣・魔剣を巡ることになった。
それらは直接入手する必要はなく解析するだけで良かったので、なんとかできた。とはいえ色々な世界を巡る冒険はなかなか刺激的な物でした。ドラクエや最終幻想の世界など結構凄かったしね。
やっぱり概念武装を探すならファンタジー系の世界がいいです。そういう世界はやはりモンスター等がいるものですが、それらとの戦いも貴重な戦闘経験となり、士郎は強くなった。
私も長く実戦から離れていたので、戦闘の感覚を取り戻すのに丁度良かった。よく考えてみたら、敵のいない世界で駄弁っていたら、勘も鈍るのも当然だよね。
ちなみに魔術礼装などにやたら金が掛かるのは、材料費かかさむからだ。例えば遠坂凛の宝石魔術など、一々宝石を使い捨てにしなければならないので金がかかる。この様に魔術とは金が掛かることが多い。
それ理由はやはり材料費が高く付くから。だが監察軍に所属しているザビーネは、必要な材料は割と簡単に安く手に入れることが出来る。TYPE-MOON世界の地球では高価な物でも、余所の世界では二束三文で手に入るということは割と多い。これが方々の世界を渡る監察軍の利点の一つだね。
それと、TYPE-MOON世界では、私は死徒二十七祖第二十六位になっていた。かなり順位が低いけど、別に私が他の祖に劣る訳ではないですよ。これでも真祖と死徒のハーフだし、魔法使いですから。
そもそも死祖二十七祖は聖堂教会が認定しているものですから、その順位は彼らから見た脅威度から選ばれます。私は異世界にいることが多いし、たまにこの世界に来ることがありますが、それも挨拶程度でこの世界で騒ぎは極力起こしていない。これでは一介の死徒よりも無害ですから、ここまで順位が下がってしまいました。
一部では私を祖から外そうという話しまであります。そうなると私は一気に無名キャラになってしまいますよ。そもそも死徒は、ロアのようにかなり派手なヤツで無いと、裏社会でもあまり知られていない。その内、単に死徒A扱いになるかもしれない。
正にザコキャラ扱い。まあ、いいです。元々この世界でも知名度はそれほど重視していない。有名なら有名なりに面倒な事になりますから、無名な位が丁度良いでしょう。
「士郎そろそろ聖杯戦争が起きるわ」
「もうそんな時期か」
士郎は呟く。
「聖杯戦争に参加するかどうかは自由だけど、気を付けておく事ね。貴方の事が他の魔術師に知れたらただではすまないわ」
概念武装だけでなく宝具まで投影して固有結界まで使うのだ。即座に封印指定にされるだろう。おまけに士郎は刻印の書の現マスターだ。魔術師から見れば、それだけでも敵意を抱いてもおかしくない。
この刻印の書というのは、私が以前製作した魔術礼装。監察軍の技術をも取り込んだオーパーツで、歴代マスターが作り上げた擬似魔術刻印を書の主が行使出来るようにした物だ。
ちなみに擬似魔術刻印という名称なのは、刻印の書に保存されているのは魔術刻印そのものではないからだ。
そもそも魔術刻印というのは人体にしか宿せない。おまけに拒絶反応の問題もあって血縁者でないと移植できない。その為、ザビーネは魔術刻印ではなくそれの代用品となる擬似魔術刻印を作り上げた。
これは闇の書(魔法少女リリカルなのは)がリンカーコアを収集することで他人が使ったことのある魔法を収集行使することが可能になっていたのをヒントに、マスターの魔術回路のデータから一度でも使ったことのある魔術を擬似的な魔術刻印として形成する機能を持たせた。
これによって通常のように魔術刻印を形成する為に同じ魔術を幾度となく使う必要もなく、多くの魔術を登録できた。
刻印の書は、その特性から血筋を無視して魔術の全てを継承できる。だが、それ故に血筋を重んじる他の魔術師からは異端視され危険視されていた。
当然、魔術師達はその書を破壊しようとするが、書の主は強く、仮に書を破壊出来たとしても書は転生して復活してしまう。かといって主以外は書に干渉する事もできず、書の封印もできないという徹底振りで、今では対処不可能な魔術礼装として扱われていた。
初代マスターのエルザから始まり、数々のマスターを経由した刻印の書は現在では魔術師の間でかなり有名な魔導書となっている。
この書の能力は凄まじく、原作通り剣の投影に特化しすぎていた士郎でも、多種多様な魔術を使えるようになっていた。
現在の士郎の戦闘スタイルは、剣の投影を主体にしてサポートには書に登録されている魔術を活用するという物だった。
元々書自体が、突出した才能の持ち主に魔術刻印を継承させることを目的に作られた物なので、士郎に任せるのは問題ない。
「ああ」
士郎は頷いていたが、彼が地元で起きる争いに無関心でいる訳がない。必ず戦争に参加するだろう。数年間いろいろと教えてやったが、根の部分は矯正できなかった。自分よりも他人を思いやる。自分を省みない。
確かに士郎は強い。私が鍛えてやったし、刻印の書のサポートもある。余程の事がない限り問題など起きないだろうが、それでも限界はある。際限なく他人に尽くし続ければ、いずれ力尽きて死ぬ。正義の味方の成れの果てとなるだろう。
しかし、士郎は道を変えない。私が言っても無駄。ならば好きにさせるしかない。とはいえ一応、世界との契約がどういう物が説明して、絶対に世界との契約をしてはいけないと注意して置いた。
英霊エミヤは世界との契約で守護者となったから、それがなければ守護者にならずに済むはず。だけど士郎はいざとなったら私の注意を無視して契約しそうだが、そこまでは面倒見切れない。一々説明して注意しているから、それから先は自己責任だ。例えそうなっても、私はどうこうするつもりはない。
解説
■刻印の書
ザビーネが作成した魔術の結晶を収集行使させるための魔術礼装。既存の魔術師のやり方とは相反する物なので、魔術師の間では忌み嫌われている魔導書。現マスターは衛宮士郎。刻印の書は主が死亡したり、破壊されたりするとザビーネの元に転生する。そうなると、ザビーネが新しい主を選んでその魔術師に書と契約させる。