トリッパー列伝   作:ADONIS+

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ザビーネ・クライバー その六

「あいつも大概馬鹿ね」

 

 私は私の元に転生してきた刻印の書を見て呆れていた。分かっていたけど筋金入りの馬鹿だ。

 

「私があれほどするなと言った世界との契約をするなんて」

 

 世界との契約は絶対だ。例えどんなに優れた英雄であってもその魂は死後世界に拘束させるというのに、あの時の士郎にはまるで悪びれた様子はなかった。

 

「まあ、いいわ。これで士郎には永遠が訪れる」

 

 守護者とはそういうものだ。死ぬことが許されぬ不滅の存在。恐らく、人類の誕生から滅亡まで永遠と有り続けるだろう。

 

 魔術使い衛宮士郎。彼は私の弟子であった。そして聖杯戦争に加わった。その戦いは私の干渉の所為で本筋とは変わっていたけど、大まかにはセイバールートの話だった。士郎はセイバーとの別れ以降、何か悟ったかのように高校卒業と共に日本を出て人助けをするようになった。

 

 これがただの人間としてNPO活動をする程度ならば問題はなかったが、魔術をおおっぴらに使い人助けをしだした。これは当然ながら、すぐに魔術協会にバレた。

 

 後は簡単、すぐに投影魔術、固有結界、刻印の書もバレてしまって、追われることになった。

 

 確かに士郎は強い。だが所詮は一個人に過ぎない。徐々に追いつめられていた。その時に私は一度人助けなど止めて異世界に身を隠すように忠告したが、士郎は断った。士郎にとって人助けは自分の命よりも優先だった。

 

 それから数ヶ月が経ち、私の元に刻印の書が転生してきた。それはつまり士郎が死んだことを意味していた。

 

「……だから言ったというのに」

 

 折角の忠告も無駄でしかなかった。

 

「でも、これで英霊エミヤには何らかの変化が出てくるはず」

 

 英霊エミヤ。それは数々の並行世界の衛宮士郎が英霊の座に登った成れの果て。だから私の弟子であった刻印の書を持ち、様々な魔術知識を有するエミヤも存在する。

 

 英霊エミヤの可能性に干渉する。その為に士郎を弟子にした。元々、士郎がこうなるのは予想していた。一応、忠告はしていたが無駄になることは分かっていた。

 

 もしかしたら私はこうなるのが分かっていたのに士郎を見捨てるのに罪悪感があったのかも知れない。だからわざわざ無駄と思いならも忠告したのか?

 

『忠告はした。悪いのは忠告を無視した士郎だ』と、思いたかったのかもしれない。

 

「……今更だね。もう遅いのに、でも一応後始末だけはしておくか」

 

 私はやり残したことをするためにその場から姿を消した。

 

 その数時間後、魔術協会に抹殺した衛宮士郎の死体が何者かに奪われたとの知らせが届くことになる。

 

 

 

 

 

「衛宮士郎が死んだそうだね」

「耳が早いわねシリウス」

 

 監察軍の本部でシリウスに話しかけられた。

 

「しかし、良かったのかね。彼は君の弟子だったのだろう?」

「あら、英霊エミヤの特性は知っているでしょう」

 

 英霊は本来なら英霊になった状態から進歩しないものだが、エミヤだけは違う。あいつは、さまざまな並行世界のその時々の時代に守護者として呼び出され、武器を登録していく。つまり英霊となることで強くなっていっていた。数多の概念武装、宝具それらを使う英霊として。

 

「既に監察軍では登録可能な物は粗方登録させて置いたでしょ?」

「ああ、そうだったな」

「だから、もう用はない」

 

 士郎の脳にはナノマシンが補助脳を形成していた。これは投影魔術が脳に負担が強いからそれを大幅に削減する為と、登録されたデータを保存する為だった。

 

 衛宮の能力は解析した物の製造技術や歴史などを分析して理解するから、ナノマシンのデータを入手することで様々な概念武装や宝具等のデータを得られた。それは監察軍で保存され必要とあらば再現される。といっても監察軍ではそうした概念武装などはあまり使わないけど。

 

「士郎の能力は固有の物。例えクローンを作ったとしても模倣は無理でしょう」

「そうだね」

「それにそこまでしたくなかったしね」

 

 仮にも弟子だった男だ。私にも情けぐらいある。回収した死体だってちゃんと火葬している。残しておくと面倒なことになりそうだし。

 

「魔術師とは思えない言葉だね」

「勘違いしないでシリウス。私は魔術使いよ」

 

 私は別に魔法や根源を目指していたわけではない。ただ暇つぶしや手段として魔術を収めていただけ。

 

「魔法使いの私が魔術使いであることは皮肉だけどね」

 

 魔法や根源を求めていなかったのに、気がつけばそうなっていた。そんなザビーネは他の魔術師から見れば嫉妬されるだろう。

 

「確かに私のいた世界の衛宮士郎は死んだけど、英霊エミヤとして存在が残っている。それに他の並行世界の衛宮士郎は存在する」

 

 刻印の書も回収できているから特に問題はない。

 

 

 

「それで技術の収集はどう?」

「ああ、神秘に関してはTYPE-MOON世界だけでなく、デモンベインなどの世界も集めている」

「ちょっと大丈夫なの? その世界は」

 

 デモンベインって、確か邪神などが出てくるとんでもない世界の筈。並み居る世界の中でも危険度が高い。下手なことをしてオカルトハザードがこちらで起こったり、邪神に目を付けられたりするのは困る。

 

「極力強力な魔導書には関わらないようにしている。それにアーカム所かアメリカにも近づいていない」

 

 確かにあの世界の魔導書は油断ならない。危険を犯したくない監察軍としてはローリスク・ローリターンで行くのは正しい。もっと言えば、あの世界にはそもそも関わらない方がいいけどね。

 

「ああ、それと念のため、神秘に関わる物は別の次元世界で研究が進められている」

 

 別の次元世界。確かこのブリタニアの近隣世界は無人世界ばかりだから、多少の無茶は出来る。いざとなれば逃げ出すことも出来るのだ。

 

「よくブリタニアが許可しましたね」

 

 確かこの星系を特区として監察軍に与えたときも色々と問題があった。

 

 ブリタニア帝国はそもそも魔法皇帝を崇拝するシドゥリ教が国教であり、国内でそうでない者は次元漂流者以外許容されていなかった。その漂流者にしても国民しては認められていない。彼等がブリタニアの民として認めて貰うには皇帝に忠誠を誓い、シドゥリ教に帰化しないといけない。

 

 監察軍が拠点にしている星系は、『魔法少女リリカルなのは』のブリタニアという世界にあるが、そこは帝国領ではない。元々監察軍に委譲されたものは貴重な資源も友人惑星も存在しておらず、コロニーで生活するしかない場所だからだ。

 

 この他にもブリタニアには様々な特区がある。その多くは様々な世界の稀少種族を保護するためのものだが、ブリタニアは別の次元世界にそうした施設を作るのは避けていたはずだ。

 

「それだけオカルトハザードを恐れているそうだ。確かにそうしたことが起こると拙いからな」

「でも性急ではないの? むやみに危険な力を振りかざすような危険なことをしなくても良いはずなのに」

 

 監察軍は今のところ大きな問題は起きていない。各世界のトリッパー達を順調に支援できているし、スポンサーのブリタニア帝国にもちゃんと知識と技術を提供している。

 

「そこは知的好奇心というものじゃないのか? それにいざというとき知識がないと対処できない。知るということはそういうことでもある」

 

 そうかもしれないね。でも警戒して置いた方がいいかもしれない。ただでさえ私達は色々な世界に関わるのだ。いずれとんでもない出来事に遭遇する可能性だって捨てきれない。

 

 君主危うきに近づかずか、あえて危険を犯していざというときの手段を確立するか、どちらが正しいかは私には分からない。分からない以上、あまり強く言うわけにもいかない。

 

「問題がおきないように祈っておくわ」

 

 そうなると運頼みしかない。このまま、何事もなくいければいいのですが。




余談『ある組織の問題』

「諸君これはゆゆしき問題だ。あの女は事もあろうに原作キャラを自分のメイドにして侍らせている」
「そうだ。ただでさえ美少女吸血鬼を大勢揃えているのに!」
「だが、原作キャラを攻略して侍らせるのは別に珍しくないぞ。今更そんなことに目くじらを立てる物かな?」

 トリッパーはオタクが多い。つまり作品のキャラクターが好きという者もいて、好きな人物を手に入れる者は古くからいた。だから今更そんな事を言っても仕方がないのだが、妬ましい事には違いない。

「別に良いじゃないのか。我々とて端から見れば若いメイドを揃えているぞ」

 ここにいるMMMの会員は十代後半~二十代前半のそれなりに容姿の整った女性を沢山メイドとして雇っているメイ度の高い猛者達ばかり。彼等は数十人から多い者では五百人ものメイドを雇用していた。彼らは現状で満たされており、他人のことに目くじらを立てない者が多いので、熱く妬む一部とそれを冷めた目で見る大多数という状況になっていた。

「でもザビーネの様に、比較的貧しい女の子を買って強制的にメイドにするのは好ましくないのでは?」
「それは仕方ないぞ。数多の世界では貧しい者などいくらでもいる。彼等を一々支援していくなど無理だ。それを考慮すると、ザビーネのやっていることは誉められた事ではないが、非難する程の事でもないだろう」

 会議場に沈黙が満ちる。彼等は知っていた。監察軍は万能ではないことを。

 確かに監察軍は数多の世界を無限に広がる並行世界に干渉できるが、それに一々干渉していたのでは予算も人手も足りない。だからトリッパーが要請でもしないかぎり手を出さない。貧しく飢えている者が沢山いる世界があっても無視している。

「……どうやら結論が出たようだな」

 空気が沈んだ中で、一人の男が口を開いた。

「元より我等はメイド愛好者だが、細かい好みの違いはある。それに口を出して文句をいうべきではないだろう」

 このMMMは細かい違いで意見が食い違うというのはよくあることだった。それを気にしていたらキリがない。その言葉を最後にその会議は終わった。
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