三千世界監察軍。それは『魔法少女リリカルなのは』の並行世界に存在するブリタニア帝国に存在しているトリッパーの、トリッパーによる、トリッパーの為の組織だ。
その主な目的は各地の下位世界に点在しているトリッパーたちの支援であった。
姫神みこは、そんなトリッパー支援組織である監察軍に所属しているトリッパーであるが、その能力は他のトリッパーと次元が違っていた。
通常トリッパーは、死神から転生特典を与えられた場合にのみチート能力を行使できる。
しかし、姫神みこは元からあらゆる能力を自分で創造する能力を持っていた。更に創造した能力を自分で使うだけでなく、他者に後天的に与える事さえ可能で、これはチートオリ主をいくらでも作れるという事であり、最早神の領域と言えた。
トリッパーの中にも彼女から新たに能力を与えられたという者は多く、カリンも前回の反省から、『ランスシリーズ』の無敵結界と異世界転移能力をみこから貰っていた。
その圧倒的な能力から監察軍の間でみこは最高のトリッパーと称されていた。そんなみこに助けられたカリンは監察軍に所属してみことパートナーを組んでいた。その主な活動内容は、各地の下位世界に存在するトリッパーの手伝いだ。
カリンとみこは、東に困っているトリッパーがいれば助け、西に困っているトリッパーがいれば助ける。そんな日々を過ごしていた。
トリッパーは、大概は同じトリッパーには仲間意識があるから大きなもめ事にならずに、概ね上手くつき合えた。
しかし、中には例外もいて、みこの能力を知った者の中にはチート能力を要求する者がいた。目の前の男は憑依型トリッパーであるため、転生特典を持たず前世の記憶を保有していることを除けば普通の一般人として生活していた。
別に『ハヤテのごとく!』の綾崎ハヤテみたいに不幸に見舞われているわけではなくて、ただ単にチート能力で好き勝手やりたいだけという身勝手な理由だった。
それに、『Fate/stay night』の王の財宝や無限の剣製など、自重せずに沢山のチート能力を要求するものだから、みこの変わりにカリンが断っていた。
「なんで駄目なんだよ! これぐらい良いだろうが!」
「そんな能力は必要ではないでしょう。少しは自重して下さい!」
男の要求は無茶苦茶だった。世界征服でもしたいのかこいつは? 別にみこの能力からすれば不可能ではないだろうが、あまりに度が過ぎている。
「ちっ、だったら『とある科学の超電磁砲』の心理掌握(メンタルアウト)を寄こしやがれ!」
やっと能力を一つに絞ったか。それにしても何て言い方です。能力を貰うのですから、頭を下げて頼むのが普通でしょうが!
「まあ、いいよ。はい。これで心理掌握(メンタルアウト)が使えるよ」
と、みこがそれを気にすることなく男に能力を与えた。
まったく、みこは人が良すぎます。カリンは少し注意しないといけないと思っていたが、みこの様子が急におかしくなった。
「みこ、どうしたの?」
「ほう、こいつはいい」
そんなみこを眺めながら、男は邪悪な笑みを浮かべた。こいつ、心理掌握(メンタルアウト)をみこに使ったのか!
「お前、まさか!」
怒りで頭が沸騰した。こいつ、みこに何て事をするんです! カリンは男に掴みかかろうとしたが、いきなり意識が途絶えた。
心理掌握(メンタルアウト)。それは『とある魔術の禁書目録』と『とある科学の超電磁砲』で登場するレベル5の精神干渉能力だ。
精神に関する事ならば学園都市最強であり、記憶の読心・人格の洗脳・離れた相手と念話・想いの消去・意思の増幅・思考の再現・感情の移植など様々な事が可能で、まるでアーミーナイフみたいな能力である。
この能力を手に入れた男は、みことカリンを洗脳する事に成功した。洗脳されたみこは、男に様々なチート能力を与えてしまい、それに増長した男はカリンとみこを性的奴隷として陵辱した。
それで満足することなく、男は様々な世界の美少女達を洗脳してハーレムを構築するなど好き勝手する生活を送った。
どうして、こうなったの? 男が我が世の春を送る一方で、カリンは心の奥底で自問した。現在のカリンは、肉体の主導権を失い、性的な奉仕を強要されるだけの生活に疲れ切っていた。
『自由になりたいかい?』
そんな声がカリンに聞こえた。
「誰!」
そこにはカリンを転生させた髑髏姿の死神がいた。
「あなたが会いにくるなんて、どういう事かしら?」
死神は、これまで一度たりとてカリンに接触を図って来なかったのに何故?
『なに、あの男の行動は目に余るからな』
確かにトリッパーでありながら、同じトリッパーを洗脳して奴隷にするなど、常軌を逸している。
『だから君たちの洗脳を解こう。後は君たちの好きにするがいい』
「ありがとうございます」
死神の思惑が気にならないワケではないが、解放されるならばどうでもよかった。
気が付けば、カリンは自らの意志で体を動かす事ができるようになっていた。
今のカリンの姿は全裸に首輪だけというものだった。男はカリンに首輪を付けることで、カリンが自分の奴隷であると示したかったのだろう。
「下らないわね」
カリンは忌々しげに自らの首に巻かれた首輪を外す。
「なにっ!」
さすがにカリンが解放されたことに気付いたのか、男が顔色を変えた。
「死ね!」
カリンは問答無用で男に襲いかかる。翼を展開して、凄まじい力を男に浴びせる。
「ちっ!!」
だが、それはオレンジ色の八角形の障壁に防がれた。それは、A.T.フィールド(新世紀エヴァンゲリオン)であった。
「何で洗脳が解けている!」
男は驚愕していた。何しろ男の洗脳は完璧だった。それがいきなり解けたのだから驚くのは無理もなかった。
「なら、もう一度!」
心理掌握(メンタルアウト)で再びカリンを洗脳しようとする。
「無駄よ!」
男の心理掌握は、カリンが展開していた無敵結界に弾かれた。カリンの無敵結界は精神干渉も防ぐ能力を持っており、そもそも最初から無敵結界を常時展開しておれば洗脳などされなかっただろう。
カリンがそれをしなかったのは、カリンが油断していたというのもあったが、常時展開が出来なかったという事情もあった。カリンが手に入れた無敵結界は原作通りではなかったのだ。
無敵結界は、結界である以上それを展開する為の力が必要になる。原作の魔王や魔人は、三超神プランナーが力を供給していたため恒久的に展開していても平気だったが、みこは恒久的に力を供給などしないため、カリンが自分の力で無敵結界を展開しないといけなかった。
幸いカリンの力を持ってすれば必要な時に展開するのは十分可能であるが、お世辞にも燃費が良くないため、戦闘中ならば兎も角、某学園都市の第一位のように常時展開するなどできなかったのだ。
「効かないか! なら」
男の背後から無数の聖剣や魔剣が出現する。それらは高速で射出されてカリンに襲いかかった。
王の財宝による一斉射撃。それは恐るべき攻撃であり、さしものカリンもこれをまともに受けるつもりはない。だから翼で飛び上がり上空に避けた。
「ちっ、空中戦か!」
男が苛立つ。王の財宝の一斉射撃は対地攻撃としては有効であるが、上空を高速で飛び回る敵には命中率が低かった。
カリンは上空から攻撃を加えていくが、やはりA.T.フィールドに防がれてしまい攻撃が届かない。そこにいきなり鎖が現れてカリンの体を束縛した。
「これは天の鎖(エンキドゥ)?」
鎖をほどこうとカリンはもがくが鎖はビクともしない。天の鎖(エンキドゥ)は神性を持つ者に対して絶大な効果を発揮する。カリンは悪魔の力を持つとはいえ天使であるため強い神性を有していた。
「出ろ。乖離剣(エア)」
男の手に禍々しい剣の様なものが握られていた。それは英雄王ギルガメッシュの切り札にして、アーサー王が有するエクスカリバーをも上回る化け物じみた宝具。
「あれは拙い!」
あんなものをまともにくらえば、いくら無敵結界でも持たない。危険を感じたカリンは鎖から逃れようとするが上手くいかない。
「無駄だ! くらえ!!」
「くっ!!」
乖離剣から凄まじい力が放たれると思った瞬間、それは霧散した。
「なっ、なんだと」
宝具の真名解放が不発に終わった為に男は驚愕していた。
「……そういうことね」
急に拘束が緩み消滅していく天の鎖を見て、カリンは納得した。
「能力が使えねぇ。どういうことだ!?」
「あなたの能力はみこから与えられた借り物にすぎないわ。なら、みこが能力をとりあげれば使えなくなるのは当たり前でしょ?」
カリンは呆れたように言う。
「っ!」
カリンの言葉に男は顔色を変えてみこを見た。みこは、全裸に首輪を付けただけの恰好で立っていたが、その瞳にはこれまでと違い意志の光が感じられた。みこも死神によって洗脳から解放されていたのだ。
「さて、覚悟はいいかしら?」
力を失い無力になった男だが、カリンは容赦するつもりはない。
「ま、待て! 能力が使えない俺にチート能力で攻撃する気か!」
今更、何をいっている。まさか能力を使えなくなった相手に能力を使うのは卑怯だ、とでも主張するつもりか? そんなことをこいつが言う資格など無い。
カリンは腕を振るい、その場に断末魔の叫びが響いた。
今のカリンは、光り輝く白い翼を背に負い、一糸纏わぬ体は、大量の返り血を浴びていた。その姿からはこれまでの可憐さではなく妖美さを感じさせる。陵辱されてなお、その美しさをカケラも失ってはいない。
「ふむ、あの男を殺したのはやりすぎではないかな? 仲間なのだろう」
そんなカリンに死神が話しかけた。
「彼は仲間に相応しくなかった……」
と、カリンは淡々と呟いた。
「確かに、あれは品性に欠けていたね」
死神は苦笑した。
死神としてはトリッパーが下位世界で何をしても、そう目くじらを立てない。大量虐殺しようが、ハーレムを作ろうが、それは個人の自由だ。
しかし、同じトリッパーに手を出すことは御法度だった。理由は言うまでもなく、トリッパー同士の争いを防ぐためだ。
トリッパーが勝手に同士討ちをやって自滅してしまっては、あれこれ苦労してトリッパーを揃えている死神としてはたまったものではない。
「しかし、こうなってしまっては監察軍のトリッパーにも動揺が広がるだろうし、君の立場も拙くなるな」
「……」
確かにトリッパー同士での争いは禁止されている。トリッパー支援組織に所属するカリンが同胞のトリッパーを殺害したとなれば、ただではすまない。
「まぁ私も擁護ぐらいはしておくよ。事実を説明してやれば、彼らも納得するだろう」
「よろしくお願いします」
自分の為に骨を折ってくれる死神に、カリンは頭を下げた。