あれから百年以上の月日が流れた。監察軍に所属するカリンとみこが同士である筈のトリッパーを殺害した事件は、他の者に大きな衝撃を与えた。
当初は情報を疑った監察軍であるが、それが正しい事が分かると当然ながらカリンとみこは拘束された。カリンとみこの行動は言うまでもなく、監察軍の規則破りだったからだ。
こうして監察軍で事件の裁判が開かれることになったが、一連の真相が知れ渡ると、彼らの間でカリンとみこに対する同情論が主流となっていった。
何しろ、被害者が殺害されたのは自業自得としかいえない事であるし、中には「トリッパーの面汚しだ!」と殺された男を罵倒する者までいた。こうなると監察軍総司令官シリウスといえど、二人に厳罰を与えるわけにはいかなかった。
しかし、何もしないというわけにもいかず、揉めに揉めていると、カリンとみこが責任を取って除隊すると言い出したため、シリウスは二人が責任をとって自主的に除隊したとして、事件の幕引きを行った。
トリッパーの中にはカリンやみこに親しい者もいて、特にみこには借りがある者もいたためそれを惜しんだ者もいたが、結局カリンとみこは監察軍を去っていった。
死神たちもこの事件の反省から、以降の精神系能力はトリッパーには効かないという制限を加えた。これは同様の事件を防ぐためと、そうしなければトリッパー同士が疑心暗鬼になりかねなかったからだ。
すでに精神系のチート能力を持っていたトリッパーも新たにリミッターを付けられる事になるが、トリッパーたちもこれは仕方ないと粛々と受け入れていった。
あの一件は、カリンとみこの心に大きな傷を残した。みこは人間不信に陥り、カリン以外のトリッパーを遠ざけるようになった。その分、カリンに過度に依存するようになったが。
かつては純真だったみこは、徐々に人が変わっていった。カリンはみこが変わってしまった事を残念に思いつつも、それでもみこは大切な親友であった為に、二人の仲は変わることはなかった。
一方、カリンもトリッパーたちを無条件に信用できなくなり、やはり人間関係がぎこちなくなっていた。そういった意味では、二人が監察軍を除隊したのは他のトリッパーたちと距離を置きたかったという理由もあったのだ。
カリンにとって唯一の救いは、みこが妊娠しなかった事だ。もしも、みこがあいつの子を妊娠していたらと思うと吐き気がする。そうなれば恐らくみこは中絶していただろう。私でもそうする。
この場合、赤子には罪はない等と綺麗事をいう人間もいるかもしれない。だけど、生まれてくる赤子を愛せるのか? あの男の子を愛せるのか? と聞かれれば無理としか言えないだろう。そんな子供を生んでも不幸にしかならない。中絶するのがせめてもの情けだ。
ちなみにカリンは妊娠していないが、そもそもカリンの妊娠はあり得ない事だった。
天使であるカリンは人間とは種族が違う。原作のカリンが「……DNAの塩素配列など、分子レベルでの構造は異なりますが、外見上は人間とまったく同じです」と言っていたように、天使であるカリンは人間にそっくりであるが分子レベルで人間とは違う種族だ。その為、人間相手ならばいくらセックスをしても妊娠のリスクはゼロである。
こうして監察軍から離れた二人は様々な下位世界を旅していた。ファンタジー世界やSF世界などを巡る気ままな旅はそれなりに楽しめた。
カリンもみこもチートであったので、派手に暴れてもかなう者はいない。最も二人はあまり力を振りかざすのは好きではなかったので、地味な行動が多かった。
そうこうして時間が過ぎていくと、第一次ベヅァー戦争が起こり、多くのトリッパーがベヅァーに殺されてしまった。あの戦争で、監察軍本部はその場にいたトリッパー諸共消滅した上に、各地の世界にいたトリッパーも大勢討ち取られてしまった。
トリッパーが激減した事で死神たちは大慌てで、これまでトリッパーの誕生に関与してこなかったみこにまでトリッパーを作ることを求めて来た程だった。
みこはそれを嫌々ながらもそれを了承した。
みこは、他のトリッパーとは関わりたくないが、トリッパーの不足は深刻で好き嫌いを言っていられなかった。それでも質の悪いトリッパーを嫌ったのか、振るいにかけていたが…。
流石に気にくわないからといってトリッパーを直接殺すような事はしなかったが、トリップしてもすぐに死亡するように仕向けていた。要するに死亡フラグ満載の世界に能力も与えずにトリップさせたのだ。こうすれば質の悪いトリッパーは自然と淘汰されていく。
しかし、このやり方ではトリッパーの数を揃えるのに手間と時間がかかり過ぎる。もっと手軽により多くのトリッパーを揃える方法がないと色々と拙いだろう。今は一人でも多くのトリッパーが必要なのだ。
それにみこのやり方に他のトリッパーの中でも反発する者がいるらしい。確かにそんなことをしていたら反発されない方がおかしい。もめ事を起こさない為には、みこを説得して止めさせないといけないね。まったく、考えるだけで頭が痛い。
……。
あーもー。いっそのこと、トリッパーをまとめて捌ける世界を用意しておくべきか?
しかし、これまでの事例から考えるとトリッパーに下手にチート能力を与えると暴走する危険がある。大体、二次小説などで登場するチートオリ主なんて物語だけで十分です。そういった連中とリアルで付き合うと気疲れしますよ。何せ厨二病満載な奴らが多いですから。
これは人である以上避けられないことでしょう。かつての地球でも銃社会アメリカの治安がやたら悪かったのは、銃という武器が気軽に入手できたからです。人というものは力を持つとそれを使ってみたくなるものだから銃で犯罪をやってしまう。
ましてやトリッパーの持つチート能力は、銃などとは比べ物にならないほど強力です。その様な人にない特別な力を急に手に入れた人間に対して、「増長するな」というのも無理な話でしょう。
勿論、全員が全員増長するなんて言いませんが、決して少なくない者が増長するでしょう。それはあの忌々しい男の例からも明かです。
それなら能力など与えずに特定の下位世界にまとめて憑依させればいい。転生特典を与えないのなら、一々赤子からやり直す必要はないので、憑依で事足りる。
とはいえ、そいつ等のアフターケアを何もしないのも拙いから、トリッパーたちをまとめ上げて監察軍のような組織を作り上げるのもいいだろう。別にチート能力はなくても組織力でトリッパーたちが協力し合えばそれなりにやっていけると思う。
これは、悪くないアイデアだ。少なくとも俺TSUEEEEE!!とか考えているような馬鹿を量産するよりはいい。早速、検討にして肉付けしてみよう。
しかし、そうなるとトリップ先の世界は能力などがなくてもやっていける世界が望ましい。だから剣と魔法のファンタジー世界は却下。その手の世界は個人能力が大きな割合を占めているからどうしてもチート能力が欲しくなるからね。となると、個人能力ではなく組織力がものをいう世界がいいだろう。
文明が現代に近い世界か、SFみたいな科学が進んだ世界とかで、個人プレイではなく組織的に内政チートをするのは結構良いかも知れない。トリッパーたちをまとめる為には大きな目的がある方が良い。
そうだね。いっそのこと仮想戦記の世界でも使うか。それなら太平洋戦争を乗り切るという大きな目標ができるだろうし、理想の日本を作り上げようという目標があれば、トリッパーたちをまとめやすいだろう。所謂チート日本だね。
といっても、そういう仮想戦記は小説で読むからこそいいのだ。自分でそれをやろうとは思えない。大体、自分たちの直接の過去ではなく、作り物の下位世界にすぎないと分かっているから、その世界が日本に近ければ近いほどかえって虚しくならないかな?
でも、このアイデアは悪くないと思う。自分ではやりたくないけど他のトリッパーにやらせるのは良いかも知れない。監察軍の人間に勧める位はしておくか。
実現すれば監察軍がテコ入れする日本が誕生するわけだ。まさに仮想戦記。それとも火葬戦記になるかはわからないけど、端から見れば割と楽しめそうです(笑)。
これなら、みこがトリッパーたちをまとめてその世界の人間に憑依させるだけですむ。面倒なアフターケアは監察軍の押しつける事ができるから面倒事から解放されるだろう。
余談であるが、カリンのこの思いつきが後に監察軍によるプロジェクトの立ち上げに繋がっていくことになるのだが、それはまた別のお話。
解説
■カリン・エレメント
身長:154㎝、スリーサイズ:B84・W57・H85、血液型:A型、天使/転生型トリッパー、 カリンは、みこのパートナーとして考えていたキャラで、必要に応じて能力を追加しています。天使達との戦いの教訓から異世界転移能力と無敵結界を、男に洗脳された教訓から精神干渉無効化能力をそれぞれ得ています。
◇転生特典
①ワーグENDの天魔の力
②静香ENDの予知能力
③薫ENDの神懸かりの強運
◇みこが与えた追加能力
①異世界転移能力……様々な下位世界を自由自在に移動できる。
②無敵結界……魔人(ランスシリーズ)の無敵結界とほぼ同じもの。
③精神干渉無効化能力……魔法や超能力などで精神に干渉してきても無効化できる。
あとがき
今回は『剣と少女と世界の旅人』の前に当たる話です。トリッパーといえど聖人君主というわけではないので、今回登場した男のように欲望に走る者もいます。この悪質なトリッパーによって、姫神みこは人が変わり、ある意味残酷な事をしでかすようになります。その為、カリンはみこの行動に頭を痛めて諫めるのに苦労しています。