二周目
気が付いたら私は退院前の病室にいた。一応カレンダーの日付を確認してみたので退院前である事は間違いなかった。
「はあ、やっぱり一筋縄ではいかないか」
と、私は愚痴をこぼした。
今の私は暁美ほむらだ。そして原作における彼女は一ヶ月間を繰り替えてしていた。その為、ほむらに憑依した私がその一ヶ月間のループを超えることができるのか一抹の不安はあったのだ。
そもそも原作で暁美ほむらは同じ理由と目的で何度も時間を遡った結果、並行世界の因果律がすべて鹿目まどかに繋がってしまっていた。
それを踏まえて現状を確認すると暁美ほむら自身も因果に捕られてしまったのではないだろうか。その為、ほむらが自発的に時間遡行をしようとしなくても強制的に時間遡行してしまうのだろう。そして、そんな暁美ほむらに憑依した私はその因果の鎖に巻き込まれたというワケだ。
この推論が正しい場合、おそらく白銀武(マブラヴ オルタネイティヴ)のように特定の条件を満たないとこの一ヶ月間を自動的にループしてしまう筈だ。
このループからの脱却は”鹿目まどかを救う事”だろうね。
しかし、原作を見ても分かるようにこの条件を満たすのは厳しい。まどかの優しさをあのキュゥべえは巧みについてくるのだ。だからキュゥべえを牽制しつつまどかを守らないといけないし、おまけにあのワルプルギスの夜が立ちふさがるのだ。考えるだけでも頭が痛い。
「やぁ、ほむらさん無事だったかね?」
「アルトリアさん、意外に早かったですね」
「まぁね。私は一応様子を見に来たんだよ」
しばらく今後の事をあれこれ考えていると、私の病室にアルトリアさんがお見舞いにきてくれたが、これは別に驚くことではなかった。事前にシリウスには先ほどの懸念を伝えて該当する日には私をチェックしておいて欲しいと頼んでいたのだ。
それで、私が時間遡行で並行世界に飛ばされたことを察知して、この並行世界を特定してここにきたのだろうと、言うは容易いが、実行するのはすごく大変そうですね。
それをあっさりとやってのけるのは監察軍がその手の事に長けているからでしょう。何せ千年以上も様々な下位世界とその並行世界を調査していたワケですから、技術やノウハウの蓄積は相当なものでしょうね。
「それで、大丈夫なの?」
「ええ、どうやら並行世界に飛ばされた事以外は何の問題はないようですね。ですが今後の事をシリウスさんと相談したいのです」
「わかった。じゃあ案内するよ」
「ええ、お願いします」
と、私はベッドから降りながらそう言った。
さて、鹿目まどかを救うという目標ができたのはいいが、それを実行するとなると色々と大変だ。
まず暁美ほむらの能力は時間遡行から派生した時間停止と様々な道具を盾の内部空間に格納して自由に取り出せる事だろう。
これは強力そうに見えるが、案外そうではない。何せ単体での戦闘能力は極めて低いのだ。他の魔法少女と違って自力で魔女を撃破できる物ではない。
暁美ほむらはこれを補うために暴力団事務所や軍関係施設から武器や兵器を盗み出して使用していた。
しかし、私はそれをするつもりはない。原作通りにやれば暴力団はともかく自衛隊や在日米軍に大迷惑を掛けてしまうし、その責任者は責任を取らされてしまうだろう。だから別のやり方で兵器を調達するつもりだ。
「……というワケで、シリウスさんよろしくお願いします」
と、私は監察軍総司令官であるシリウスさんに頭を下げた。
「そういう事なら仕方ないね。兵器の提供はするよ。でもそれを使えるのかい?」
そう、それが最大の懸念だ。例えば拳銃や小銃にしても今まで銃を撃ったこともないシロウトにいきなり渡されて使いこなせるだろうか?
それは考えるまでもなく不可能だ。まして、監察軍の武器は地球のそれとは逸脱している代物だ。それほどの兵器を使いこなすためには最低限でも訓練を積まなければならない。そうなると、まどかを救いながら兵器の訓練をするのは不可能だろう。
「ええ、ですから今回の一ヶ月間で訓練を行って、次で決着を付けます」
今回は鹿目まどかを見捨てることになるが仕方ない。その分次で確実に決めないとね。
こうして、私は監察軍本部で監察軍のブラスター(レーザー式の拳銃)、レーザーライフルなどの訓練に励んだ。というかレーザー兵器とかマジ凄いね。SFだよ。火力とかさ、火薬式の重火器とは違うのだよ(笑)。しかも反動とかもないから命中率がいい。変な癖がないシロウトな私にはこっちの方が扱いやすくていいね。
ちなみに私の訓練を見てくれた教官はブリタニア帝国軍の軍曹さんでした。この人は本当に厳しくてまさに鬼軍曹ですよ(泣)。そんな軍曹に扱かれて挫けそうになりましたが、私は負けませんよ。
ここで意外な事に私は魔法少女の力を使える事が分かった。魔法少女の衣装に変身するだけでなく、時間停止などもできたよ。
どうも暁美ほむらの本体であるソウルジェムから肉体を遠隔操作することはできないが、私がソウルジェムから魔法少女の力を引き出す事はできるようだ。
どうしてそんなことができるのか不思議であったが、多分この肉体が暁美ほむらの物であるから、暁美ほむらのソウルジェムとの相性が抜群にいいためにそうなったのだろうとその時は思っていた。
そんな日々を過ごす内にある夢を見た。そこには私と私にそっくりな少女がいた。ぶっちゃけると暁美ほむらが二人いたのだ。私はその少女の正体はすぐにわかった。
「貴女は暁美ほむらさんですね」
「ええ、そうよ」
そう、彼女は暁美ほむら本人だ。本当の暁美ほむらはソウルジェムから肉体を遠隔操作していたが、私が憑依したために何もできなくなっていたが、それでも彼女は存在しなくなったワケではなかったのだ。肉体に干渉できなくなったが、こうして夢に干渉することはできるのだろう。
いや、彼女の肉体とソウルジェムの繋がりから私たちが偶然夢で会う事になったのかも知れないが、それはどちらでもいいか。
「そうですか、ワザとではないのですが、結果として貴女の肉体を奪う事になってしまいました。申し訳ありません」
と、私は彼女に謝罪する。
どう考えても謝罪すればそれで済む事ではないが、それでもやらないワケにはいかなかった。
「それは、もういいわ。不可抗力だったのでしょう。私も貴方の記憶を見ていたもの」
「そうですか」
私が暁美ほむらの脳から彼女の記憶を手に入れたように、彼女も私の記憶を入手していたのだろうが、これはお互い様です。双方が同じことをしているんだしね。
「それに貴方も私の所為でループに巻き込まれたようだしね」
そう私はほむらのループに巻き込まれて、それから脱却しようとしていたのだった。
「でもその代りといっては何だけど、貴方に頼みたいことがあるの」
「鹿目まどかさんを救う事ですね」
「そうよ。本当なら私がまどかを救いたかったけど、私じゃ何度やっても駄目だった。だから貴方に頼みたいの」
鹿目まどかを救うために彼女は一人で何度も繰り返していたが、それでも駄目だった。そこにイレギュラーとして現れた私が彼女の希望となったのだろう。
私の後ろ盾となっている三千世界監察軍は現代の地球を遥かに凌駕する技術力を持ち、とんでもない能力を持つトリッパー達がいる。一人ですべてをやらねばならない彼女とは環境が大きく違うのだ。
「そうですか、わかりました。何度やり直すことになるか分かりませんが、やってみます」
「ありがとう」
私の言葉に満足してくれたのか、ほむらさんが纏っている空気が柔らかくなった。
「最後にほむらさんにお聞きしたいのですが、私が魔法少女の力を使えるのはほむらさんが協力してくれているからですか?」
そう、これが疑問だった。今の私はまぎれもなく人間なのに魔法少女としての力を使えていたのだ。
「貴方が私のソウルジェムから魔法少女の力を引き出せるのは事実よ。私はそれに抵抗していないだけよ」
抵抗していないだけか。軽く言うが、それは私を受け入れてくれたという事なのだろう。本当に嫌であれば、抵抗している筈だ。
ここまでされると嬉しい反面、プレッシャーも凄いですね。これは、漢として彼女の期待に応えないといけません。私はそう自嘲したのだった。
こうした事もあったが、一ヶ月間の訓練を終えた私は次のループに入った。