五周目
またしても、病室に戻った私はこれからするべきことを悩んだ。
前回のループではしてやられた。まさか最後の最後であんな落とし穴に落ちるとは思わなかった。でも、そうと分かれば対策は用意できる。
肝心なのはまどかを魔法少女にさせないことだが、まどかの優しさがその障害になってしまう。
まったくキュゥべえは人間の感情が理解できないと言っているくせにそれを利用するのがトコトン上手い。
中学生の少女などあっさりと利用されて騙されてしまうからね。数多の下位世界でもあいつほどの詐欺師はいないだろう。
それだけに、まどかがキュゥべえと契約しないようにするのは正直厳しい。やはり、まどかが自分の意志でキュゥべえと契約しようとしても、それができないように細工をしておくべきでしょう。
これは非人道的なのでやりたくなかったが、もう手段は選んでいられない。そう考えた私は退院手続きを終わらせて、監察軍にいって手筈を整えていった。
「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
「仲良くしてあげてくださいね」
幾度となく繰り返してきた転校の際の挨拶の後、転校生という事もあり私のまわりに人が集まっていた。
そこで私は気分が悪くなったといって保健委員のまどかに保健室に案内させることにした。勿論、これはまどかと二人きりになるための芝居だ。教室を出て二人きりになったので、まどかに話しかけることにした。
「鹿目まどか」
「は、はい!」
不意に私に話しかけられたまどかは緊張しているのかそう返事をした。
「“キュゥべえと契約するな”」
私は左目に赤い鳥のような紋様を出して、まどかにそう命令した。すると、まどかは呆けたような表情になり、そのまま突っ立った状態になった。
私がまどかにやったのはギアスによる命令だ。
今回の私は姫神みこからルルーシュ・ランペルージ(コードギアス 反逆のルルーシュ)の絶対遵守の力を貰っていた。これは人間に一つの命令を強要する事が出来る能力で、その命令に背くことができなくなるのだ。
私はまどかをその場に放置して保健室に向かった。ちなみにまどかは私が離れてしばらくして正気に戻った。
さて、原作通りならばまどかの因果に目を付けたキュゥべえはまどかに接触する筈だ。私がまどかに命令する前に接触されたら困るのでキュゥべえ狩りをしていたが、最早その必要もない。
しかし、原作知識とループの知識を使うためにはイレギュラーはない方がいいので、放課後にキュゥべえ狩りを行った。
案の定、まどかとさやかが私の邪魔をした上に魔女が現れるという事態になるが、そこはマミが追い払ったので問題はなかった。
こうして、多少の誤差はあったが、何とか原作通りに事を進めて前回と同じようにアルトリアと二人でワルプルギスの夜を倒した。その際に、キュゥべえがまどかと契約しようとしたが、ギアスの命令に阻まれて契約できなかった。
その結果、私はループを無事乗り越えることに成功した。
「やってくれたね暁美ほむら。まさかまどかにあんな仕掛けをしているなんて」
「あら、恨み言?」
まどかがキュゥべえと契約しようすると、ギアスの効果でいきなり態度が急変して契約できなった。これを不審に思ったキュゥべえが私の仕掛けに気付いたのだろう。勿論、私がやったという証拠はないだろうが、状況からみて私の仕業と判断した筈だ。
「まったく、何だいあれは? てっきり君の魔法かと思ったが全く違うよ。おかげでまどかと契約できないじゃないか」
ギアスは魔法とは異なる力。より正確に言えばインキュベーターが発明した知的生命体の感情をエネルギーに変換する技術とはまったくの別系統の代物だ。おまけにあれは一度命令すると私自身でも解除できないので、キュゥべえはギアスを解除できなかったのだ。
「なら、まどかは諦めて他を当たるのね」
「……どうやら、そうするしかないようだね。しかし、君は本当に何者なんだい。人間なのに他人のソウルジェムで魔法少女の力を引き出しているし、未知の技術は持っている。とんでもないイレギュラーだよ」
「それに答えると思う?」
敵対している奴に自分の正体を明かすほど私は愚かではない。
「君ならそう言うだろうね。仕方ない、まどかは諦めるよ。彼女から得られるだろうエネルギーは魅力的だけど、それが不可能ならまどかに関わっても無駄な労力にしかならないからね」
そういってキュゥべえはその場から立ち去った。
その日の夜、私は不思議な夢をみた。その夢の中には私と暁美ほむら、そして髑髏姿の死神がいた。
「ループ脱却、おめでとうというべきかな」
死神はそう言ってきた。
「なるほど貴方が私を暁美ほむらに憑依させた死神ですね」
私自身は死神と接触した事はなかったが、他のトリッパーとの交流で死神の情報をある程度は知っていた。
「ふむ、ついでにお前をループさせていたのも私だ」
「それは、どういう事ですが?」
「それ何だが…」
と、死神は説明を始めた。
死神の話によると、暁美ほむらがループするのは因果に捕らえられているからだが、トリッパーである私は因果に捕らえられてはいないそうだ。というのも上位世界人である私の魂は下位世界の因果でも干渉できないかららしい。
それでは何故私がループしていたのかというと、死神がほむらのループに合わせて私もループするように設定していたからだ。
私からすれば、はた迷惑な事だが、死神はワルプルギスの夜に敗れて絶望しながらもそれでも繰り返そうとしていた暁美ほむらを見て興味を持ったらしい。その為、ほむらを救済するためにイレギュラーとして私をほむらに憑依させることにしたのだ。
憑依型トリッパーではたいしたことはできないが、監察軍の協力があればループ脱却も可能だと判断したのだ。勿論、私が監察軍とすぐに接触できるように色々と手回しをしていた。
ちなみに私が選ばれたのは、私が暁美ほむらが好きだったからだ。
「随分と手間を掛けるのですね」
「何、ただの気紛れだ」
成程、この死神は私の行動を観賞して楽しんでいたのか。たまにそういう死神がいるという話は聞いたことがあるから驚くには値しないが、私としては面白くない事だ。
「しかし、私は彼女の肉体を奪っている状態です。これは好ましくないのでは?」
「その事だが、確かに今の肉体の主導権はお前にある。しかし、意識すれば二人で会話もできるし、肉体の主導権を暁美ほむらに譲ることもできるから必要に応じて切り替えればいい」
「そうなのですか?」
それは初耳だ。というか試していなかったな。
「これからはお前たちの好きにすればいい」
「そういう事ですか。一応お礼を言っておくべきかしら?」
それまで黙っていたほむらが死神にそういった。
「何ただの余興だから礼には及ばんよ。では達者に暮らせよ」
そう言って死神は姿を消した。
それからの私達はいろいろあった。
死神の言う通り、別に夢の中でなくとも二人で会話ができたし、肉体の主導権をほむらに譲ることもできた。本来ならばこの体はほむらの物だが、ほむらは私に遠慮しているのでお互いに譲り合いになることもあったね。
ちなみに私たちの監察軍での扱いは微妙な物だった。監察軍には原作知識やトリッパーの存在を下位世界人に教えないという暗黙のルールがあるが、ほむらは私と肉体と記憶を共有しているので、秘密にするなど不可能なのだ。その為、シリウスも私たちに関しては例外として扱ってくれた。勿論、ほむらには秘密にするように注意していたのは言うまでもないだろう。
そんな感じで私たちは奇妙な共同生活を送るのだった。
解説
■暁美ほむら
マギカ世界の魔法少女に憑依してしまったトリッパー。憑依先の魂とトリッパーの魂が共存しているという極めて異例な存在で、ループ脱却後は監察軍で他のトリッパーの支援をしていたが、第一次ベヅァー戦争で監察軍本部ごと死亡した。
◇姫神みこが与えた追加能力
①ランスロット(Fate/Zero)の騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)
②ルルーシュ・ランペルージ(コードギアス 反逆のルルーシュ)の絶対遵守のギアス