火星の後継者の乱が終結して数ヶ月。ホシノ・ルリ中佐は上層部からそのあまりに強力な能力を恐れられた為に命を狙われる事になった。その襲撃を切り抜けたルリは、ナデシコCに一人乗り込んで、宇宙に逃げ込んだが、それでも彼らはしつこく追撃を受けた。
「オモイカネ、統合軍の動きは?」
『統合軍はナデシコを包囲しているよ』
「しつこいですね。まあ、その行動力は誉めて上げましょう」
ルリは自らを狩りに来た統合軍を鼻で笑う。
『ルリ、統合軍艦隊から通信が来ているよ』
「繋げて」
一応、話ぐらいは聞いておきましょう。
『ホシノ中佐、貴官にはここで死んで貰う』
スクリーンに映る統合軍の将官からいきなりの殺害宣言。嘘でも投降しろとかいえないのですか?
「物騒ですね。そんなに私が邪魔ですか?」
『貴官はその能力を示しすぎたのだよ』
確かに普通の人間ならそう思うかもしれないが、ルリから言わせればあの程度で、と思いたくもなる。何しろ今までルリはまったく本気を出していなかった。彼女がその気になれば火星圏のシステム掌握なんて次元ではなく、この宇宙その物を滅ばせる。意味がないからやらないけど。
「所でシステム掌握が出来ないのですが、随分と強固なプロテクトを敷いていますね」
『その通りだ。いくら貴様でもこのプロテクトはそう容易くはやぶれんぞ!』
「そうですね。こうなると私も少しは本気を出さないといけません」
『なにっ! く、下らぬハッタリを言うな』
声がどもっていますよ。動揺しているのが丸分かりです。
「くすっ。そう思いますか?」
ルリが微笑を浮かべた途端に、統合軍艦隊に異変が生じた。軍人たちが艦艇ごと浸食されて悲鳴を上げる。
『『『ぐがあああっ!!!』』』
『な、なんだ! これは!』
「ふふふ……」
『き、貴様なにをした!』
「貴方達は私の餌になるのよ」
『があああっ!! おのれ、魔女めがああっ!!』
将官が悲鳴を上げている。統合軍艦艇が乗員ごとバイド(R-TYPE)に浸食されて次々にバイドと化していく。
「バカばっか。余計な事をしなければ死なずにすんだのに」
そんな統合軍の成れの果てを眺めながらルリは冷笑した。プロテクトなんかしていなければシステム掌握で終わらせていたのに、ハッキング対策なんかしているからこうなる。
統合軍艦艇は確かにマシンチャイルドのハッキングには対処していたが、バイド対策はまったくされていない。だから、バイドによる浸食が面白いように効くのだ。
当然ながら、このホシノ・ルリは原作のホシノ・ルリではない。上位世界から転生したトリッパーが、ホシノ・ルリという役割を演じていただけであった。彼女は死神から虚無の使い魔の一つ、リーブスラシルのチート版トリッパーとして転生させられていた。
彼女はホシノ・ルリ自身の能力の他に五つの転生特典を持っている。
①『ゼロの使い魔』のリーヴスラシル
虚無の使い手の魔力を増幅する能力があるが、増幅はリーヴスラシルの生命力を消費するので使いすぎると命を落とす。
②『ゼロの使い魔』の魔法がすべて使用可能
虚無魔法、四系統魔法、コモンマジック、先住魔法のすべてが使える。
③あらゆる下位世界で『ゼロの使い魔』の魔法の無条件発動
『ゼロの使い魔』の魔法が使えない下位世界でも使用可能にする。
④『R-TYPE』のバイド
バイドの能力を行使できる。バイドでありながら、人間の姿に擬態して人間と同じ自我を有する。またバイドの超越的な生命力により、虚無魔法の使いすぎによる寿命の低下などの制限がなくなった。
⑤『とある魔術の禁書目録』の聖母の慈悲
あらゆる約束・束縛・魔術的な条件などを緩める能力。これにより、虚無やリーブスラシルのルーンを使用する際に肉体にかかる負担を軽減したり、バイドでありながら明確な自我を持ち得ている。正確には後方のアックアが使う聖母の慈悲を魔術ではなく、異能として行使可能。
このようにルリは、強力な虚無の使い手であり、人間とバイドのハイブリット体と呼べる存在であった。というよりも今のルリの体はバイドが人間に擬態した物にすぎず、変わりはいくらでもある。
例えこのルリの体を破壊しても、すべてのバイドを消滅させないかぎりルリは殺せない。バイドという存在その物がルリであり、個々の個体は端末にすぎないのだ。
「原作も終わった事だし、もう潮時ですね」
ルリはこれまでナデシコ世界の流れをぶち壊さないように慎重に行動してきた。虚無の力もバイドの力も使わず、それどころかマシンチャイルドとしての力も原作よりも数段上程度に押さえていた。チートオリ主みたいにやりすぎると予測不可能な事態になるからだ。
しかし、原作も終わった事だし、この様な状況になった以上、最早この世界に留まるのは得策ではない。この世界から撤退して監察軍に行く方がいいでしょう。
こうしてホシノ・ルリはこの世界から姿を消した。
電子の妖精の失踪に彼女の知人たちやファンは悲しんだが、彼女を疎ましく思っていた上層部の人間は喜んだ。最もルリを抹殺しようとした者達は、その後スキャンダルが露出して尽く失脚することになる。
解説
■ホシノ・ルリ(機動戦艦ナデシコ)
監察軍の少数派閥、虚無の使い魔の一員、心臓のリーヴスラシル。原作において強力なマシンチャイルドであったが、バイドとなった事で桁違いの能力を獲得している。バイドという集団その物がホシノ・ルリであり、ルリはバイドの軍団をまるで自分自身のように動かすことができるという、それどこのバジュラ?といいたくなるような能力を持っている。ベヅァー戦争後は、ベヅァーが再度出現したときに足止め役を請け負うことになる。ルリが率いるバイド艦隊はトリッパー最大規模であり、戦力自体はブリタニア帝国軍すら上回る。
◇転生特典
①リーヴスラシル(ゼロの使い魔)
②ゼロの使い魔の魔法がすべて使用可能
③あらゆる下位世界でゼロの使い魔の魔法の無条件発動
④バイド(R-TYPE)
⑤聖母の慈悲(とある魔術の禁書目録)
あとがき
どうもADONISです。いくら待っても『ゼロの使い魔』の最新刊が出ないので、しびれを切らしてアニメ第四期を参考にリーブスラシルの能力を設定しました。おかげでルリちゃんが化け物じみたキャラになってしまいました(笑)。まあ、彼女は転生者なので、原作のルリちゃんとは別人だと割り切って下さい。これで虚無の使い魔なトリッパーたちの話は終わりなので、これからは他のトリッパー列伝が書けます(喜)。