「特典を三つ上げるから転生してみない?」
そう死神から言われたら貴方ならどうするでしょう? オタクならば「テンプレキターーー!!」と大喜びするでしょう。しかし、私は大いに戸惑った。
なんでも彼ら死神は創作物が具現化した世界に人間を送り込む活動をしていて、そのために私がスカウトされたらしい。
下位世界(創作物を元に具現化された世界)にトリップしなければ、私は記憶や人格を抹消されて輪廻転生してしまうとの事で、ならば特典を貰って新しい人生を楽しんだ方が得かもしれない。
「では、『何があっても一生お金に困ることがない程度の金運』というのは可能ですか?」
「うん、その程度なら可能だよ。残りの二つは何がいい?」
「その特典だけで十分です」
「えっ! 本当にいいの?」
死神が驚いている。
確かに特典を三つあげるといってくれているのに、一つで十分というのは勿体ない気もしないでもありませんが、私としてはテンプレなチートオリ主みたいに特典をゴテゴテ付けなくてもいいと思うのですよ。
世の中お金さえあれば大抵の事はできます。世の中には「お金がすべてじゃない」と綺麗事を言う方も多いですが、現実問題お金がないと何もできないですよ。
これは厳しい社会生活を送ってきた私の人生経験から得た結論ですね。
じゃあ、何があっても一生お金に困ることがない程度の金運などと言う回りくどい特典ではなくて、シンプルに「大金持ちの家に転生させてくれ」と頼めば良いじゃないかと思う人もいるかもしれません。
しかし、それには大きな穴があって、その場合実家が事業に失敗して没落してしまうというリスクがあります。それを避ける為には出来るだけ穴のない特典が必要なんです。
「謙虚な人なんだね。まあいいや。では転生する世界はどれがいい?」
「そうですね。現実世界に良く似た世界にして下さい」
いくらお金があっても中世欧州風ファンタジー世界なんかに転生したら不便な生活を強いられる事になる。その点21世紀の地球を舞台にした創作物の世界なら生活しやすいはずです。
「そうかい。じゃ送るね」
死神の言葉で私は意識を失った。
こうして次に気が付いたら『エデンの檻』の石動ミイナに転生していました。そういわれてもよく分からないという人にストーリーを軽く説明しましょう。
20XX年10月4日グアム発日本行き357便のジャンボジェット機が事故で地図に無い筈の島に不時着してしまう。その島は絶滅したはずの動物たちがうじゃうじゃいる場所で、主人公を初めとする乗員乗客334名はそこで冒険をする羽目になるという物語で、石動ミイナはその飛行機事故に巻き込まれた世界有数の石動グループの跡取り娘です。
石動グループ総帥石動寿美(いするぎ よしみ)の孫娘として誕生して勝ち組と思っていた私ですが、『エデンの檻』の殺伐とした世界観を思い出して愕然としたものです。誰が悲しくて、凶暴な動物達がうろつき危険なダニやら粘菌やらが出てくる世界など好みますか!
しかし、ここでグアム発日本行きの飛行機に乗らなければいいじゃないと思い直した。そう、石動ミイナがその飛行機に乗らなければ他の誰かがその席に乗って事故に遭うだけです。つまりその誰かさんを身代わりにしてしまえばいいんです。
ここでその飛行機事故を阻止するという選択はありません。だって例えば「その飛行機に乗ると未来に時間移動してしまいますよ」とでも警告するとしましょう。そうすれば当然ながら気が狂ったと思われるだけです。恐らく飛行機自体には何の不備(整備不良など)はないでしょうから説得しようがない。つまり説得は事実上不可能であるし、そこまでしてやる義理はない。
というか原作で10歳のミイナが単身であの飛行機に乗り込んでいたのが不思議だ。石動寿美の溺愛ぶりからすれば可笑しい。多分ミイナが我侭を言ってグアム観光を強行したのではないかと推察するのが妥当でしょう。
なら海外旅行を特にグアムを避ける。そうすれば危機を回避出来るはず。
そう幼いながらも思って日々をすごしていると両親が事故で死亡してしまった。そういえば、石動寿美が「ミイナはワシのたった一人の家族じゃった」とか言っていたので両親は死んでいると思われるので別に不思議ではない。
それからというもの、石動寿美の私に対する溺愛ぶりは常軌を逸するようになった。
幼稚園はともかく、小学校にも行かさずに常に傍に置きたがり、家庭教師から英才教育を受ける日々。まあ、前世では大学を出て社会人をやっていたから今更普通の小学生と混ざって学生をやりたいわけではないので、別に構わないけどね。
そうこうしている内に大日航空357便墜落事故が発生した。しかも事故の痕跡が何もないというニュースから原作通りになったのだろう。何はともあれ私は危機を回避できた。正直、何らかの修正力が働いてライカ島行きになるかと内心ビクビクしていたので、これで一安心です。
こうしてエデン計画のフラグを潰したので、この世界ではライカ島は現れないでしょう。そうなると100年以上未来になると仙石たちが何もない海に叩き潰されて死亡してしまうと思うのですが、そんなことは知ったことじゃありません。
ここで、「何故エデン計画を潰すのか?」と疑問に思う人もいるかもしれません。その理由を言えば、あれは予算をバカ食いするからです。
確かに地球温暖化によって海面上昇が危惧されているので、埋め立て技術は興味深いでしょうが、6000兆円以上(アメリカの国家予算の数十年分)なんてキチガイな予算なんて普通に考えたら到底出せない。というより、そんな金があれば宇宙開発に力を入れて資源の問題を解決する事を優先させたほうが人類の為になる。
原作ではエデン計画を実行したばかりに相当負担がかかっている筈です。例えば福祉とか酷い事になっていそうですね。案外バイオテロの動機もその辺りの怨恨の可能性すらあります(主要各国から予算を搾り取っていたみたいだし)。
こうして原作ブレイクを行ってみたんですが、その五年後に祖父が死亡した。これは原作通りです。年齢から見ても寿命だったみたいですし、仕方ありません。
祖父が死んでからは私が石動グループ総帥になり四苦八苦する羽目になるが、父の側近だった兵藤(ひょうどう)が何かと手助けをしてくれたのでかなり助かりました。
こいつは祖父に対する忠誠心は相当な物だったから年端も行かない私にも敬意を払って従ってくれる。
何しろ今の私は15歳の小娘。重役どもは私を軽視しかねない。そうした状況では味方は少しでも欲しいからね。やれやれ前途多難です。
そんなこんなで、新米総帥をやっている内に可笑しな事に気が付きました。
どうも私が生まれた辺りから石動財閥は事業が成功続きみたいなんですよ。何をやっても上手くいくというか。業績が右肩上がりというか。
そこで、そういえば金運チートでしたと思い出した。転生してからというもの財閥令嬢をやっていて素でお金に困る事がなかったので忘れがちでしたが、私は金運が異常にいいんです。
そうそう、それと私と同じトリッパーという人と遭遇しました。その人は三千世界監察軍とかいうトリッパー組織の一員で、各地のトリッパーを支援しているらしいです。
最も私としては特に支援が必要というわけでもありませんでした。何しろ財界のドンにして金運チートですから生活に困りません。前世で定職に就けずお金に困っていたのとは大違いです。いや~、大富豪っていいですよねぇ。
でも原作でも言っていましたが、今世紀末には地球温暖化で海面が1m上昇するらしいですから、エデン計画を潰した代わりに何か役に立つ計画を立てるのも良いかもしれない。監察軍の協力を得られれば今の技術レベルでは到底不可能な事だって可能なんですから。