三千世界監察軍本部。『魔法少女リリカルなのは』の並行世界の一つブリタニア帝国に存在するスペースコロニー群で構成されるそこは数多の下位世界に点在するトリッパーたちを支援する組織であり、各地の下位世界の知識、技術、情報が集まる場所であった。
そんな監察軍本部のスペースコロニー群の一つに私はいた。
「しかし、本当にここの技術が進んでいるわね」
「確かミイナのいた世界は21世紀の地球だったね。それならそう感じるのは当然だな」
私の言葉に神農(しんのう)が何気なく答えた。神農は始祖(封神演義)の一人に転生したトリッパーだ。見た目はグレイタイプの宇宙人みたいで、お世辞にもホモ・サピエンスとは似ていないが、外見を無視すればそれなりに付き合える奴だ。
ちなみに私は15歳のときに監察軍と接触しており現在では26歳になっているが、私の外見は20代半ばではなく16歳ほどでどう見ても女子高生にしか見えないだろう。それは私が16歳の誕生日の際に『BLACK CAT』の世界で猛威を振るった不死のナノマシン(といっても不完全な不死身である)ゴッド・ブレスを自分の体に投与したからだ。
本来ならば、立場上もう少し歳をとってから打ち込んだ方が良かったかも知れないが、十代の、いや女として一番美しい時期の姿を保ち続けるという魅力には勝てなかった。
こうして石動グループの(外見が)美少女会長が財界に君臨することになったのだ。
「しかし、そっちの世界は娯楽関係は豊富だろう」
神農は少し羨ましそうだ。
「まあ、日本が誇る秋葉原を抱えていますから」
私は前世では地方に住んでいたので、秋葉原に行く事はありませんでした。それだけに秋葉原には興味があったんですよ。
それに原作ブレイクの為に徹底して海外旅行を避ける代わりに国内観光に力を入れていたので、当然秋葉原に行くのが多かった。近いし気軽に行けます。
そういえば原作のミイナは浮世離れした変人だったらしいですが、私はオタクになっています。アニメや漫画などを買いあさるだけでなく、コミケなどの同人誌即売会にも行っていました。あのコミケの熱気など本当にいい物でしたよ。
私は石動財閥の跡取り娘という立場上、身代金目当ての誘拐なども警戒しないといけないので、護衛をつけないといけなかったのはちょっと困りましたが、安全の為には仕方ありません。
おかげで原作のように浮世離れした変人だの我侭娘などと言われませんでしたが、オタクだの腐女子だのと言われていますよ。一応言っておきますが私はやおいには興味はありませんよ。あくまでサブカルチャー全般が好きなんです。
一方、監察軍はというと、拠点にしているブリタニア帝国がその手の娯楽産業に乏しく全然面白くない。しょうがないので仲間内(トリッパーたち)で同人誌を作り見せ合う事をしているが、それも限界が来ている。そういった意味では娯楽文化に恵まれた私の世界を羨む気持ちは理解できる。
「特にコミケなんかは凄かったね。あの熱気は何度見ても飽きないわ」
「そうか、いいなぁ」
ミイナの言葉に神農がそういった。
それは、その場の他愛ない世間話に過ぎなかった。別に隠すような内容でもなかったので、大っぴらに話していて、だから誰かがそれを聞いていてもおかしくないが、私も神農も気にしなかった。まさか、これがあのような事態を招くとは私は想像すらしていなかったのだ。
数日後。石動邸で一本の電話が鳴った。私宛の電話で相手が政府関係者だったので直接取ったが、そのあまりの内容に愕然とした。電話の相手にいわれるままテレビを付けたミイナの顔が引きつった。
そこに映っていたのは三千世界監察軍の巡洋艦と人間よりも二回りほど大きい紫色の昆虫型の生物だった。私の記憶ではそれは『神秘の世界エルハザード』のバグロムだった。
しかし、バグロムはあくまでエルハザードの種族である為、このエデンの檻の世界でテレビ生放送されるなどという事態が発生するわけがないが、監察軍の巡洋艦を見てすべてを悟った。
そう、いたのだ。エルハザード出身のトリッパーが。それもバグロムになったトリッパーといえばただ一人(一匹?)しかいない。
あのバカは私の許しも得ずに私が縄張りにしている世界に乗り込んで来た挙句、巡洋艦や異種族の姿をエデンの檻の世界の人々に白昼堂々と晒しているのだ。
通常、監察軍では一定のルールがある。その一つに、トリッパーは自分がトリップした世界を自分の縄張りにすることができる。そして縄張りを持つトリッパーの了承を得なければ他のトリッパーはその世界に干渉してはならないというものだ。
※但し一つの世界に複数のトリッパーがいる場合は、そのトリッパー全員共同の縄張りになる。
それはトリッパー同士の諍いを防ぐ為にある。いうまでもないが、トリッパーには自分がトリップした世界で原作介入したり、または原作に関わらないなどの選択する権利がある。
そして監察軍は必要に応じてそれらのトリッパーに支援していくわけであるが、ここで外部のトリッパーが無許可で介入してきてその世界を引っ掻き回されたらそういった事が滅茶苦茶になってしまう。
それは縄張りを持つトリッパーにとっては不愉快極まりない事だからこそのルールなのだが、このバカはそれを完全に無視してます(怒)。
テレビでは『宇宙人出現』というタイトルで大騒ぎになっており、日本政府関係者がその宇宙人(笑)に接触している映像が流れていた。ミイナはそれを見ているだけでも頭が痛くなる。
これだけでも許しがたいが、あいつはよりにもよってこの世界の人間達に私の名前を出しやがった。なんでも私の事を「仲間だ」とか「友人だ」とか言ってやがるらしい。当然ながら、それを聞いた政府関係者は「どういうことか?」と問い合わせの電話をしてきた。
ここまで盛大に暴露されては誤魔化しようがない。どうするのよこれ。
仕方ない。あのバカを放置してこれ以上余計な事を言われたら堪らない。とにかく、あいつと合流して口止めしておかないとな。
こうして私は石動邸を慌しく出た。
『やれやれ、それは困ったね』
ウインドウ(機動戦艦ナデシコで登場する空中モニター)に映っている監察軍総司令官トレーズが私の苦情にそう答えた。当然ながら、私はあのバカの愚行をトレーズに報告しておくことにした。
事の始まりは、私と神農の会話を聞いたあいつが私の世界に観光に来たがり、私の縄張りに侵入してきた事だった。
しかも、堂々と巡洋艦で日本に降り立ったので現地では大騒ぎになり、更に無計画にも観光資金を用意していなかったので、私に連絡を取り金を借りてついでに観光案内してもらおうとしたらしいが、連絡手段を持っていなかったので日本政府に連絡を頼んだらしい。(大馬鹿者め!)
結局、兵藤(ひょうどう)に至急で現金を用意させて、観光案内をしてやった。
あのバカには口止めをしておいたが、もう遅かった。
私があのバカと関わりがあることが日本どころが地球各国に知れ渡っていた。各国のマスコミは宇宙人とファーストコンタクトを行った地球人として石動ミイナの名前を盛んに報道している。
当然ながら私の元には各国から質問が相次いだわけであるが、話せることは少なかった(機密事項ばかり)ので、非常に困った。
「それで今回の罰則はどうなるの?」
『うむ、それが決まっていないのだ』
「それは、どういうこと?」
『確かに彼のやった事はルール違反だが、実はこれには明確な罰則規定が無いのだよ』
トリッパーの殺害など明らかに許容出来ない内容ならば懲役や死刑などという実刑が下るが、こういうケースの場合、ルール違反ではあるが罰則が伴わないので、精々怒って注意する位しかできないらしい。
「それ問題ですね。改めたほうがいいですよ」
『うむ、これまではこんな愚かな事をするトリッパーなどいなかったので、問題なかったのだが、こうなると確かに改めたほうがいいな』
トリッパーは、全員前世の記憶を継承している。例え前世が学生であろうと社会人であろうと現世の実年齢にそれらの知識と経験がプラスされるのだ。だから精神年齢は必然的に高くなる。
つまり根っからの子供はいないので、みんな大人としての対応をしてくれていた。だが例外というものはいるようだ。あの馬鹿は虫になった所為か頭の中まで虫並みになっているのだろう。
『それで、これからどうするのかね?』
トレーズは言外にその世界を放棄して撤退するのか?と聞いているのだろう。確かにあの馬鹿の所為でやりにくくなった。だからそれも一つの手段だろう。でもそれじゃ泣き寝入りだ。
「……この世界から撤退したいのは山々だけど、今更ここの生活を捨てられないのよね」
大体この世界で生活の基盤を築くのに私がどれだけ苦労したことか。それを馬鹿の観光の為に台無しにされるなど許せるものではない。
「幸いこの世界の人間はあいつを宇宙人だと誤認しているわ。どう見ても地球外知的生命体にしか見えないし、宇宙船(監察軍の巡洋艦)を見ているからそう思うのは無理も無いけど」
そう、隠さなければならないのは、数多の下位世界をまたにかける監察軍やトリッパーの存在だ。
「だから私は宇宙人とも交流を持っている地球人というスタンスを取ろうと思うわ」
嘘を言うならもっともらしい嘘を言えばいい。
『大丈夫なのかね?』
「私も伊達に財界で力を持っているわけではないわ。それに誤魔化す為にもちょっとした計画を立てておこうと思うの。そこで監察軍に協力をお願いしたいわ」
『計画か。うむ、今回の件はこちらにも不備があるからな。一応無理の無い範囲ならば協力するのもやぶさかではないが、どういった計画なのだ?』
「それはですね…」
私は笑みを浮かべながらトレーズに計画を話していった。
<お知らせ>
今回問題行動をおこしたバグロムになったトリッパーに関しては、後日トリッパー列伝に出そうと思っていますので、気長にお待ちください。