トリッパー列伝   作:ADONIS+

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ジグラド(日帰りクエスト)

 その日、日本の首都東京では爬虫類から進化したと思わしい宇宙人の集団が周囲を闊歩していた。この事態に現地ではパニックになったかというとそうではなかった。確かに大きな騒ぎにはなったが、事前に石動ミイナと縁故のある宇宙人の某国の国王とその側近の方々が東京に観光しにやってくることは伝えられていたからだ。

 

 勿論、その某国の国王はトリッパーで、ミイナから『エデンの檻』の世界に来ることを許可されていた者だった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 余の名は黄金王(グレア・ギオラム)ジグラド。神坂一(角川スニーカー文庫刊行)によるライトノベル『日帰りクエスト』に登場するギオラム・バスカー(竜人)達の王国の国王だ。

 

 このギオラムというのは、爬虫類から進化した二歩歩行型の知的生命体で、背中にある皮膜状の二対の羽で飛行が可能だ。体は硬い皮膚で覆われており、力も魔力も人間よりも強いというかなり強力な種族だ。

 

 余は元々は現代日本人の中年親父に過ぎなかったが、死後にこの世界のギオラムの王に憑依した。ここで転生ではなく憑依を選んだのは、成熟した記憶を持ったままで赤子生活を送るなどという羞恥プレイをやって黒歴史など作りたくなかったからだ。

 

 正直人間に憑依すると思っていたが、気付けはギオラムなどというトカゲの親分になってしまったときにはちょっと荒れたが、今はどうでもいい。

 

 ギオラムは南方に住む種族で、そこでいくつかの国家を形成してる。余が統治している王国もその一つなのだが、原作では領土拡大政策の一環として、居住に適した空間を作り上げる実験の為に人間の領域に攻め込んでいたが、この実験は見事なまでに失敗して国力を浪費するだけに終わってしまった。

 

 こうなってしまった原因はやはり地の利が悪すぎる事があるだろう。ギオラムは人間に比べて寒さに弱いという欠点があるのだ。それが人間の領域で活動する上で足かせになっているし、実際そうだからこそこれまで人間の領域である北方には進出しなかったのだ。

 

 それに他のギオラムの国家との睨み合いも痛い。残念ながら我が国は各国と仲が良いわけではない。こちらの戦力が低下すると他のギオラムの国から攻め込まれる危険性が大きかった。だからこそ本国から動かせる戦力には制限がかかるし、だからこそ原作でも苦戦していたのだ。

 

 結論を言えば、この実験は無謀だ。やるべきではないだろう。だから勅命で駄目だしをしておいた。

 

 後は内政をじっくりやっていればいいと思っていたが、それでも実験を求める者がいた。どうもギオラム至上主義というか過剰なまでに人間を軽視しているのだろう。地の利が悪いとかリスクが大きすぎるなどと説明してやっても全く納得しない。

 

 この事で同じトリッパー仲間であるミイナに愚痴ると、彼女がショック療法をする事を提案してきた。

 

 実は『日帰りクエスト』の世界は人間とギオラム双方とも魔道技術はあるが文明そのものは中世レベルのファンタジー世界にすぎない。だから現代文明を見せ付けて自分達の文明がいかに遅れているいるかを理解させる事で、人間を軽視するのが危険であることを教えるという物だった。

 

 こうしてギオラム一行の観光ツアーが企画された。

 

 

 

 ジグラドは重臣達だけでなく、弟のゾムドやその友人のラーディーも誘っておいた。これは原作を知るが故の遊び心だった。

 

 彼らにとって東京はまさに異世界であった。摩天楼のごとく並び立つコンクリートジャングルの群れ。馬を使わずとも動く乗り物(自動車)。すべてが彼らの常識を超えていた。

 

 ジグラドはそれらをいちいち説明しながら都市を歩き、ダメ押しとばかりに彼らを工場(石動グループ関連企業)につれていき、自動車などの工業製品が大量生産されている工程を見せ付けてやった。

 

 唯の学者にすぎないラーディーなどは純粋に驚いていただけであるが、重臣達は愕然としていた。そりゃそうだろう。いくら異世界とはいえ見下していた人間が自分たちの想像を絶する文明を持っているのだ。ショックを受けないほうがおかしい。

 

 ジグラドはショック療法が成功したことでやっと肩の荷が下りると判断した。同時に手間を掛けされてくれると臣下達に苛立ちを持ってしまったが、これも仕方ないだろう。人間(ギオラム)あまりに常識はずれなことは自分の目で確認しないと納得できないものだからな。

 

 ともかくこれで人間の潜在能力は侮れないと知らしめることができたので、根拠のない人間軽視を抑えられるだろう。

 

 

 

「はあ、疲れた」

 

 ジグラドは溜息を吐いた。観光案内というのは存外疲れる。何しろ我々の世界では人間とギオラムは共通の言葉を使っているため言葉が通じないという事はこれまでなかった。

 

 しかし、日本語を含めたこの世界で使われている言語は我々が使っている言語とは異なる為に日本語会話ができるジグラドが一々通訳に回らなければならなかったし、臣下達の説明もやらねばならなかった。

 

 特に好奇心が旺盛なラーディーなどは言葉も通じないのに勝手にあっちこっち行こうとして注意したりしなければいけなかったので余計に心身共に疲れたよ。

 

「大変でしたね」と、ミイナが労いの言葉をかけるが彼女も相当苦労しただろう。首都東京を明らかに異種族であるギオラムの集団が観光するのだ。日本政府やマスコミ対策など考えるだけで嫌気が差すような面倒があったのは想像に難くない。

 

 

 

 今回の観光をサポートする為にミイナ本人が部下やSPたちと一緒に観光案内していた。ミイナには迷惑を掛けてしまったが彼女は「気にしなくて良いですよ」と快く言ってくれたのでありがたくその気遣いを受けた。

 

 世話になったから彼女に何かお返ししておくか。そうだな。彼女をわが国に案内してあげるのもいいかもしれない。

 

 現代日本に比べれば文明レベルが格段に劣るが、それでもファンタジー風の良い世界なので観光ならばそれなりに楽しめるかもしれないからな。




解説

■ジグラド
 日帰りクエストの世界に存在するギオラムの王様に憑依したトリッパー。原作では、無謀な実験を行ったために弟を失い、国力を無駄に浪費してしまうという失態を犯してしまう。彼はそれを避けようとするが臣下達のギオラム至上主義と根拠のない人間軽視が邪魔になったので、石動ミイナと協力してショック療法をやる羽目になった。
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