トリッパー列伝   作:ADONIS+

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ジャンヌ・ダルク その二

 皆さん御機嫌よう。私はフランスにおける国民的ヒロインのジャンヌ・ダルクです。元の世界で死んだふりをド派手に演出して既に五百年以上すぎました。

 

 あの時やってしまった演出が効きすぎてしまい、ジャンヌ・ダルクが15世紀末に列聖されてしまうというハプニングがありましたが概ね歴史通りになりました。まあ、ジャンヌ・ダルクの列聖は20世紀だったので、史実よりも早まっただけだからそこまで問題ないでしょう(笑)。 

 

 私の監察軍での生活はいろいろありましたね。なまじ有名すぎる事からサインを求められる事も多いです。有名税と言う奴ですね。

 

 しかし、私は他のメンバーに比べて優れているというわけでもありません。憑依型トリッパーだから転生特典はありませんし、死んでないから英霊になっていません。というか私はトリッパーだから例え死亡しても世界が私の魂に干渉することはできないので英霊になることはありえません。

 

 それでも昔はフランス軍を率いて大活躍しましたが、それも抑止力の後押しがあったからで、それがなくなった今では何の力もない少女にすぎません。正直に言うと他の同胞たちに比べると無能としかいいようがありません。まあ、彼らがチートなだけですけど。

 

 さて、私のトリップした世界ではとうとう『Fate/Zero』の第四次冬木聖杯戦争の時期になりました。アニメで再確認した『Fate/Zero』のジルの狂気ぶりには頭が痛いですよ。どうしてああなったのでしょうね。やはり聖杯が汚染されたせいでしょうか? 正直ジルのあの姿は見るに堪えらえません。きちんと説得して正気に戻ってもらわないといけません。

 

 そんなわけで数百年ぶりに私がトリップした世界に降りたわけですが、さてさてどうしたものでしょう。私は英霊や魔術師ではないからサーヴァントやマスターとして聖杯戦争に参加する資格がないので、一般人としてジルと接触して説得するしかないと思うのでそうしたわけです。

 

 

 

「久しぶりですねジル」

「おおっ、貴女はジャンヌ。復活しておられたのですか!」

 と、ジルは大喜びしてでだしはよかったのですが…。

 

「何故です。何故貴女は神を呪わない。唯ひたすら神のみを慕った貴女を神は見捨てたのですよジャンヌ!」

 

 神を呪い暴走するジルを諌めようと説得しましたが上手くいきません。というか、精神汚染:ランクAのスキルを持っているだけにやはり会話が成立しません。

 

 この場合、彼のスキルを一時的にも何とかしないといけないので、事前に正すと念じて“正”という文字を入れておいた文殊をジルにあてた。文殊とは『GS美神 極楽大作戦!!』の世界で登場するアイテムで、便利なので監察軍からいくつか支給して貰っていた。

 

「これは…。ジャンヌ一体何をなさったのです?」

「貴方が正気を失っていたので一時的に正気に戻しただけです」

「おお、貴女はやはり我らの聖処女だ」

 と、一時的に正気に戻ったジルが感心した。

 

 ちなみにジルはこの世界のジルではありませんね。この世界のジルは私が生き残っている事を知っている為に史実の様な暴走はしておらずフランス救国の英雄として栄光ある晩年を過ごしています。

 

 それではこのジルは何者かというと並行世界のジルです。英霊の座に存在する英霊たちは英霊になった多くの並行世界の可能性が収束されて構成されています。そうなるとジャンヌが生き残った可能性と言うのは極めて低く、それ以外ではジャンヌは火刑にされています。多分このジルはそうした世界のジルが中心に構成されているのでしょう。

 

「ジル。主は我々を見捨ててなどいませんよ。いや、そもそも主は誰一人として見捨てていらっしゃらない。ただ、何も出来ないだけです。祈ることも、供物を捧げることも、全ては己のためではなく主の為の行いでしょう。主の嘆きを、主の悲しみを癒すために我々は祈るのです。そう、私は確かに――“主の嘆きを聞いたのです”」

 

 とりあえず原作ルーラーの台詞を流用して説得します。この台詞はジャンヌらしくてとてもいいですから。

 

「嗚呼、貴女はそうでしょうね。ですが神は貴女を助けなかった。天空の高みから見るだけだったのですよ」

「ジル私は確かに神の声に従ってフランスを救いましたが、だからといって神に報酬を求めるつもりはありません。私は見返りが欲しかったわけでないのですから神を呪う必要などないのです」

「神に対する無私の奉仕ですか。貴女らしいですね。ですが私は納得できません。何時までその高潔なる魂を神に捕らえられたままなのですか!」

 

 ジルの訴えが私の心に響く。正直いってジャンヌの死がここまで彼の精神を蝕んでいたとは思わなかった。それほどまでに思われているということは嬉しくもありますが、彼を説得するのが大変です。

 

「ジル、身代金を払わずに私を見捨てたのは人間、私を魔女として断罪したのも人間、私を火刑にしたのも人間です。すべては人が行った事です。それなのに神を憤り呪うのは筋違いです」

 

 色々と恨みを買ってしまったイングランドから酷い目に合されたのは分かりますが、あれほど助けてあげたのにシャルル7世が偽物とはいえ私をあっさりと見捨てたのはやはり複雑な思いですね。正直神はどうでもいいですがシャルル7世には思うところがありますよ。

 

「ジル、覚えていますかランスであげたシャルル王の戴冠式、その日大聖堂に差し込んで来た祝福の光、その輝きを」

「それは……。そうだ。あの時私はジャンヌと共に光に包まれていた」

 

 ジルはあの日の事を思い出して表情が変わっていきました。あの汚される前の清廉なままのオルレアンの聖処女と共に浴びた祝福の光。それは決して偽りのものではなかった。

 

「貴方が私の事で心を痛めていますが、最早その必要はありません。私の名誉は復権裁判により回復していますし、それだけでなく後に聖福だけでなく列聖されて五百年以上たった現在では最も有名な聖人の一人になっている程なんですよ」

 

 特にこの世界では天使に導かれた聖処女として史実以上に神秘性がとんでもなく持ち上げられていますから自分のことながら照れてしまいます。まあ、史実ではジャンヌが神の声を訊いたことの真偽が検討されましたが、あれだけ派手にやったら疑う余地すらなく誰もが認めるしかないです。

 

「それは本当ですか?」

 

 ジルはその話に驚く。

 

「ええ、特にフランスでは私は国民的ヒロインで大人気なんです。私は十分報われています」

「そうですか。それはよかった」

 

 やはり今日のジャンヌの地位は効果的ですね。ジルの説得は大変でしたが、これで心残りがなくなりましたよ。

 

 その後、聖杯戦争は原作通り勝者なしで終了した。アンリマユなんて代物によって聖杯が汚染されてしまった以上、まともに願いをかなえられる者などいないから当然ですね。




解説

■ジャンヌ・ダルク
 型月世界のジャンヌ・ダルクになった憑依型トリッパー。憑依型なのでチート能力を保有しておらず唯の小娘にすぎなかったが、百年戦争時代は抑止力の後押しを受けていた為に救国の英雄として活躍する。しかし、役割が終えるとポイ捨てされる事を知っていた為に歴史上において死亡する事にした。現在では一般人に過ぎないが、聖人認定されている為にこの世界では彼女の血には特別な力が宿り聖骸布などの材料になる。ゴッドブレス(不死のナノマシン)を投与している為に外見年齢は16歳のままである(正に永遠の聖処女)。

■精神汚染:ランクA
 ジルの固有スキルであり、ランクはA。混乱・混沌とした精神状態を表す。混濁・錯乱した精神構造のため、第三者による精神干渉系の魔術を遮断する事が可能。ただし、他者との意思疎通を行う場合、相手が同程度の精神汚染スキルを保有していないと成立しない。本編ではセイバーと龍之介が顕著であり、前者は基本的に会話が成立せず一方通行で、逆に後者はほぼ問題無く意思疎通を行なえている。余談であるが、この事から龍之介もまたAランク相当の精神汚染スキルの保有者である事が窺える。

■文殊
『GS美神 極楽大作戦!!』で主人公が使用する霊能アイテムであるが、文殊使いでなくとも一文字だけなら使用できる。

■正す(ただす)
 1.よくないところ、まちがっているところをなおす。正しくする。「誤植を―・す」
 2.乱れているところを整える。「姿勢を―・す」「襟を―・す」



あとがき

『Fate/Zero』を見て、もし第四次冬木聖杯戦争にジャンヌ・ダルクが現れてあのクールな旦那(笑)を諌めていたらと妄想して書いてみました。とはいえ、ご都合主義の為にジャンヌ・ダルクをトリッパーにしたので原作のジャンヌ・ダルクとは中身がかなり違ってしまいましたね。
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