トリッパー列伝   作:ADONIS+

63 / 74
ゾルザル・エル・カエサル(ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり)

 気が付けば異世界にある帝国の第一皇子になっていた。何言っているんだかわからないという人もいるだろうが、元々は日本の平凡なサラリーマンだったけど、いきなり別人になってしまったわけだ。まあ、ネット小説とかでよくある憑依現象というしかないが、まさか自分でそれを経験する羽目になるとは思わなかった。

 

 当然ながら剣と魔法のファンタジー世界であるが、ファンタジーすぎて人権何それ美味しいのを地で行く国家であった為に正直言ってドン引きした。何せとんでもなく無茶苦茶な理由で侵略しているし、野蛮な行動が目について仕方がない。

 

 おまけに憑依したキャラがゾルザルだ。原作で散々大馬鹿と馬鹿にされた奴になるとは思わなかった。まあ、バカと言っても知的障害があったわけではないので、中の人が俺になったこともあって常人並に行動できるから問題はない。

 

 さて、俺は帝国で足場固めをしていたわけであるが、やはりこの世界でもゲートが出現してしまいました。正直言ってゲートなんて厄介事にしかならないから無視するべきなんだけど、皇帝を筆頭としてお気楽な連中は数名の捕虜(日本人)が軟弱な者達だった事から安易に異世界侵攻を決定した。勿論、俺は慎重論を唱えて反対したものの却下された上に臆病者と陰口まで叩かれる始末だ。

 

 まあ、帝国という国はこの大陸において最強の軍事力を持ち国力は無双という大国で、頂点に君臨する自分たちに国号は必要ないと国名もいらぬと、シンプルに帝国と名乗るような増長著しい連中なので俺が慎重論を唱えても聞くわけがないわな。

 

 それでも俺が反対したのは後で責任を取らされないようにする為のアリバイ工作にすぎない。いうまでもないが、帝国が原作通りにボロ負けすれば侵攻に賛成した連中は責任を追及されるが、反対した俺はそんな追及はされないからだ。

 

 しかし、このままではまずい。原作では帝国の国力はかなり低下にともない大陸の属国と周辺諸国が反乱を起こすのを警戒した為に、連合諸王国軍を編成して日本にぶつけるという方法でそうした国々の力を削ぐことに成功していた。

 

 これは何時敵になるかわからないとはいえ一応は味方(属国や周辺諸国)といえる存在なのに敵(日本)を利用して排除するというかなり外道な戦略であるが、合理的な判断である事には違いない。というか、そうでもしないとどうしようもないからな。

 

 そんなわけで、哀れにも連合諸王国軍は帝国に何の情報を提供されることなくアルヌスにて壊滅したわけである。これで時間稼ぎに成功したが日本との戦いを終わらせなければ帝国は窮地に陥るだろう。何せ国力や軍事力が違いすぎるから日本とまともに戦って勝てるわけがない。

 

 戦って勝てないとなると策略でどうにかするしかない。そのチャンスと言えるのが国会参考人招致にともないピニャが日本に訪問する時であろう。これに同乗して日本の国会に乗り込んで仕掛ける事にした。

 

 

 

「ゾルザル殿下」

 

 そんなわけで国会に乗り込んだ俺である。別に身分を偽っているワケではないので、帝国の第一皇子だとちゃんと伝えておいた。

 

「ゾルザル殿下は日本語がわかりますか?」

「ええ、ちゃんと話せますよ」

 

 俺が日本語を流暢に話せるのは彼らにとっては意外かもしれないが、前世では日常的に使っていた言語である。話せない筈がないだろう。

 

 彼らは「百五十人が亡くなった原因として、自衛隊の対応に問題はなかったか」と訊いてきた。予想通りとはいえ敵国の皇子にそんな事を訊くとはこいつら馬鹿か?と思わずにはいられない。

 

 どうして戦時中の敵国要人相手に自軍の非を主張できるのだ。どう考えても利敵行為だろう。幸原みずき議員の愚かさに頭を痛めた俺がであるが、ここで無視するわけにもいかないので一応答えておく。

 

「我々の常識では戦争時に敵国の民間人を守る義務などないのだから、炎龍が襲撃してきたときに自衛隊が民間人を見殺しにしても何ら問題なかった。寧ろ民間人の虐殺、略奪、強姦などをしないだけで十分に自衛隊は紳士的だよ」

 

 こっちでは略奪とか当たり前だしね。まあ、日本だって義和団事件のときには略奪をしていた(日本だけじゃないけどね)。だから、この世界でもその手のルールはつい最近になってから整えられたわけである。

 

「とはいえ、俺としては自衛隊よりも日本政府の方に重大な問題があると思うぞ」

「それはどういうことでしょうか?」

 

 自衛隊を責めていたのに、いきなり政府非難になった流れに周囲は戸惑っているようだ。

 

 

「君たちは憲法9条をよくご存じだろう」

 

 

 

 憲法9条という言葉に議員たちの顔が引きつる。そりゃそうだろうね。

 

「これをどう見ても自衛隊の様な実質的には軍隊という武装組織の存在はゆるされていないし、武装して国外に派遣する事も不可能だ。ましてや自衛隊を他国に送り込んで侵攻するなど論外である!」

 

 宣戦布告もなしに攻め込まれたから逆に敵国に侵攻して賠償を要求するというのはこの世界でも常識的な行動である。問題なのはそれを憲法9条が許していない事なのだ。

 

「その為、この場において日本政府には自衛隊の即時撤退を要求する。もしもそれを拒むのであれば憲法9条違反の罪を国際社会に訴えるものである!」

 

 即時撤退か、憲法違反か、を問われるかの二択だ。本来ならば宣戦布告もなしに侵略された国が逆に敵国に侵攻するのは国家として当たり前の行動であり、このような要求をされるのは常識的にあり得ない事であるが、憲法9条がそれを非合法なものにしてしまっていた。

 

 ようはこれまで法改正をしてこなかったツケが彼らにのしかかって来たわけである。この宣言に国会は大荒れになったのは言うまでもないだろう。

 

 その後、日本政府の憲法違反問題は元々ゲートを独占している日本に不満を持っていた中国や韓国といった反日国家に散々に叩かれるようになり、さりとて国内世論が上手くまとまらず憲法9条改正もできないという身動きがとれない有様であった事から、なし崩し的に自衛隊の無条件撤退という形になった。

 

 日本政府からみれば踏んだり蹴ったりであろうが、原作では特地での戦争や交渉で深入りした結果とんでもない予算を無駄に投下する羽目になったのにゲート封鎖によってそれらの費用がまったくの無駄になっていた。

 

 そう考えれば深入りする前にさっさと撤退した方が無駄な税金を投入しなくていいので、この結果は帝国だけでなく日本にとっては悪くないだろう。

 

 こうして俺は、恐るべき強敵を口先一つで撤退に追い込み戦争を終わらせた英雄となり、これが切っ掛けで皇帝に即位することになるのであった。




解説

■ゾルザル・エル・カエサル
 ゲート世界の第一皇子に憑依したトリッパー。憑依型トリッパーなので特にこれという能力をもっていないが、原作知識を利用して口先一つで国難を救った英雄になるのであった。



あとがき

 ゲート日本の行動は憲法9条に思いっきり違反しているじゃねえか、と思わず突っ込みをいれたのは私だけでしょうか? どう解釈しても無理があり過ぎると思います。まあ、戦後ずっと法改正を怠って来たツケとしかいいようがありませんが、原作は国内外からあまり突っ込まれなかった事か不思議でなりません(笑)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。