トリッパー列伝   作:ADONIS+

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風間ちとせ(マブラヴ)

 転生特典(ギフト)を持って転生したオリ主が無双するという話は二次小説でよくある話ですが、その世界では全く役に立たない転生特典を持ってしまったために早々に原作介入を諦めたトリッパーも存在しています。私、風間ちとせ(かざま ちとせ)もそんなトリッパーの一人なのです。

 

 この名前からわかるかもしれませんが、私の転生特典は『ギャラクシーエンジェル』の烏丸ちとせの外見と能力ですが、転生先は『マブラヴ』で原作開始の40年前でした。言うまでもありませんが、私の能力は『ギャラクシーエンジェル』の世界であればエンジェル隊に参加して活躍できる物ですが、紋章機がない世界ならば意味がないものです。

 

 確かに烏丸ちとせはエンジェルとしての能力を除いても、トランスバール皇国で最エリートのセンパール士官学校を首席卒業した逸材で、とりわけ超長距離狙撃と情報分析能力に優れる才女であることは確かですが、その程度で『マブラヴ』の世界を切り抜けることなど不可能です。本気でこの世界をどうこうしたかったらサイヤ人みたいな出鱈目な戦闘能力がないとどうしようもありません。

 

 そして1973年に中国のカシュガルにBETAの落着ユニットが落下。人類が賢明な選択をすることを願いながらも予想通りにそれがかなう事はなかった。そしてBETAの侵攻は留まることをしらず人類は次々に敗退を続けていき、私は私はこの世界を切り捨てることを選びました。幸いにも私はBETA地球侵攻の5年後には監察軍と接触できたので早々にこの世界から引き揚げて監察軍に参加するという選択肢がありました。

 

 その際、『マブラヴ』の原作を知るトリッパー仲間から家族の亡命も認めてもいいといわれましたが、私は家族を切り捨てて私一人でこの世界を離れた。何故、家族を切り捨てたのかというと、家族に愛着が持てなかったからです。

 

 これは多くのトリッパーが抱えている問題ですが、私たちの多くはトリップした世界を現実というよりも物語の世界と認識してしまいます。つまり私たちに取ってこの下位世界は作り物の世界で、そこに住む人間たちも半ばNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)扱いになってしまうのです。

 

 ついでに言えばなまじ前世での家族の記憶がある為、その世界で得た家族を本当の家族と認識することができずに馴染めなくなってしまうわけです。同じく国や故郷にも愛着など持たない為に愛国心や郷土愛などあるわけもないでしょう。

 

 私にとって世界も国も家族すらも紛い物でしかなく、確かなものは自分と同じ境遇であるトリッパーたちだけで、そんなトリッパー仲間との絆こそがかけがえのないものであり、他の優先順位は大きく下がってしまいます。その為、わざわざ同族に迷惑をかけてまで家族に事情を説明して監察軍に亡命させる気にはなれなかった。まあ、たとえ説明したとしても容易に信じてくれるとは思えないというのもありますが。

 

 勿論、トリッパーのすべてが私のような人間ではなく、下位世界人をちゃんと人間として扱うトリッパーもいますが、それは余談です。

 

 

 

 後、補足としていえば、そもそも前世の私は20代のサラリーマンで、女性に興味津々な男でしたが、同時に女性に強い幻想を持っていました。要するに大和撫子という理想の女性像ですね。

 

 しかし、現代では理想の大和撫子など絶滅危惧種のようなもので、私が現実の女性に失望したのは言うまでもありません。そんな私は理想の女性がいないなら自分がなればいいじゃないと思いついたわけです。といっても女装したわけではありません。前世の私は女装もののゲームで登場する主人公のように女装がとても似合う男ではなく、やったとしても気色悪い女装男にしかなれなかったでしょう。

 

 そこで私が選んだ方法がMMORPGでネカマプレイをすることです。ネカマとはネットオカマのことで、現実ではなくネットで男が女を演じる事をいいます。自分で言うのもなんですが私が演じた理想の大和撫子のキャラクターはゲームではかなりの人気者になっていました。

 

 そんなこともあって死後転生することになった私は、転生特典に私の知りうる中で最高の大和撫子といえる烏丸ちとせの外見と能力を選んだわけですが、正直に言うと早まったと言えたでしょう。いくら転生先がランダムで分からないにしてももっと応用のきく特典があった筈ですから。

 

 私の転生先は日本帝国の外様武家の娘でした。原作開始の40年前だったのでわかりにくかったですが、第二次世界大戦で日本が無条件降伏しておらず、ドイツに原爆が投下されているなど歴史に違いがあり、最大の特徴は未だに将軍と武家が存在していることです。まあ、将軍は政威大将軍と私の知っている征夷大将軍とは少々異なるのですが、武家の棟梁という意味では同じです。

 

 これらの情報からこの世界が『マブラヴ』であることがわかったわけです。この世界がUNLIMITEDかオルタネイティヴかはわかりませんが、どっちにしても最悪です。私は黄昏ながらもなんとか理想の大和撫子として生活することにしました。

 

 唯一この世界でよかったことは前世と違って大和撫子といえる女性がそれなりにいたことです。やはり武家が存続していることや史実よりも欧米化が進んでいないことが影響しているのでしょう。まあ、それでもBETAはどうしようもないので、この世界から引き揚げることにしたわけです。

 

 

 

 そして25年もの月日が流れました。私が転生した『マブラヴ』の世界では原作が終了した2003年になり、私はこれまで原作介入は一切せずにいたのですが、この世界で新たにトリッパーの存在が確認されたことで状況が大きく変わりました。

 

 接触の為に監察軍から派遣された仲間が日本帝国でBETAに苦戦していたそのトリッパーの少女を助けるために監察軍の艦艇で武力行使を行い、件のトリッパーと接触したわけですが、相手がいきなり逆上して仲間に暴行を加えて殺害してしまったらしいのです。

 

 これはトリッパーによる同族殺しとなるわけで、こんな事例は極めて珍しいことです。正直こんな狂犬みたいな方とは接触したくないのですが、同じ世界の出身ということで私に役割が回ってきました。

 

 確かにいくらトリッパーでも、いえトリッパーだからこそ同族殺しをした者には厳しく対処しないと他の者に示しがつきません。しょうがないので、同じトリッパーでも最大の戦力であるバイド艦隊を有するホシノ・ルリさんに戦力を借りることにしました。こうして私は再び生まれ育った『マブラヴ』の世界に赴くことになりました。

 

 

 

八条弥生side

 

 八条弥生(はちじょう やよい)は『マブラヴ』世界の日本帝国で一般人の娘として生まれたが、その正体は前世の記憶を持つ転生者である。その転生特典はトリコのグルメ細胞で、確かにこの特典は私に超人的な身体能力を与えてくれたが、この世界ではグルメ細胞を進化させることはできないので微妙な転生特典だった。

 

 それはそうだ。グルメ細胞を進化させるには美食という分野において異常な進化を遂げたトリコ世界の美食食品を食べなくてはいけない。とてもじゃないが、この世界の天然食品程度ではレベルが低すぎて無理だ。それどころかその低レベルの天然食品ですらまともに食べられず、人間の食事というよりも家畜の餌といったほうがいい激マズの合成食品しか食べられない有様だった。これではグルメ細胞を進化させるなど不可能だった。

 

 正直言って、現世での私の人生は最悪だった。BETAの日本侵攻によって帝都京都を含めて日本の半分が焦土と化してしまい、私も家族と生き別れる羽目になった。その後、中学生になった私は原作の舞台である横浜基地に志願して、優れた身体能力と並外れた適性で瞬く間にA-01部隊で活躍するようになった。これは原作に介入して少しでもBETAに勝てる確率を上げようとしたためだった。

 

 しかし、それは失敗といえただろう。なぜかというと主人公の白銀武が横浜基地に現れなかった為だ。どうもこの世界では白銀武はループしてこなかったらしく、どうしようもなかったのだ。結局2001年12月に第四計画は打ち切られてしまった。

 

 その後は坂道を零れ落ちるかのような戦いだった。2002年にBETA侵攻で横浜基地が陥落。2003年にはBETA侵攻を受けて東京が陥落寸前に陥ってしまった。すでに日本陥落は時間の問題となっており、政府は政府機能と国民をオーストラリアに避難させようとしていた。

 

 

 

 結局、私のやり方は間違っていた。原作知識を利用して原作通りに香月博士の研究の後押しをしようにも、中途半端な知識では肝心の00ユニットの理論を完成させることはできない。今にして思えばもっと別の方法があったのではない?と考えなくもないが、そもそも白銀武が登場しないという物語そのものが崩壊するような原作ブレイクにはどうしようもなかった。

 

 どうして、こんな原作ブレイクが起きたのかわからない。私が転生したバラフライ効果か、もしくは死神がいっていた私の前にこの世界に転生した転生者の行動の結果なのかもしれないが、忌々しいことに私の知る限り原作になんら好転はしていないのに、白銀武が現れず第四計画が失敗するという大きなデメリットしかででいない。

 

 私は横浜基地陥落後に帝国軍に入り前線で必死に戦っていたが、この劣勢はいかんともしがたく、BETAに国土を侵略されて戦友を次々に失っていった。そして東京陥落後の撤退戦にて戦術機を撃破されて生身で戦車級や闘士級を撃破しながらも絶望的な撤退戦をやる羽目になった。

 

 それでもこの絶望的な戦いの中で命尽きるまで戦おうとした私であるが、いきなり天からいくつもの光が降ってきた。驚くべきことにそれは周囲のBETAを容易く始末していく。私が見上げると上空には見たこともない艦艇が浮いていた。その艦艇は信じられないことに光線級の攻撃を見えないバリアのようなもので防ぎ、逆にレーザーであっという間に光線級を撃破してしまった。

 

 この世界の常識ではありえない性能を持つ艦艇であるが、私はそれがなんであるがなんとなく予想できた。やがて周囲に存在したすべてのBATAを排除したその艦艇は私の近くに降下して、その艦から一人の男がでてきた。その男は銀髪オッドアイでテンプレなオリ主の容姿だったから、死神からその存在を教えてもらっていたこともあって、その正体がなんなのか私には容易に理解できた。

 

「うがあああっーーー!」

 

 私は大声で叫びながらその男に殴りつけた。

 

「なんで今まで出て来なかったのよ。ビビッて引きこもっていたっての。この臆病者が!」

 

 私はこの男が許せなかった。転生者としてこれほどまでの戦力を持ちながらやるべきことをやろうとしなかったこいつが。私は何度も何度も男を殴り、気が付けばその男は事切れていた。

 

 その後、男の死体の前で呆然としていた私を他所に、艦艇から出てきたロボットたちが男の死体を回収してその艦はどこかにいってしまったのだった。




あとがき

 この世界で白銀武が登場していませんが、それはちとせが転生していた影響です。勿論、ちとせは意図的にやっていたわけではないのですが、ちとせが転生してから日本帝国で活動していたことの小さな積み重ねがバタフライ効果となって、白銀武と鑑純夏が横浜ハイヴで捕虜にならずに死亡するという結果になりました。その為、この世界では因果導体であるシロガネタケルは登場しません。また、弥生は事前に死神から先輩であるトリッパー(ちとせ)の存在を教えてもらっていた為、銀髪オッドアイのトリッパーがそうであると誤解して攻撃しています(彼は実は別の世界で転生したトリッパー)。
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