アメリカside
その日、ワシントンD.C.の遥か上空から一機の戦闘機が降下してきて、それをアメリカ政府や軍人たちが熱心に見ていた。
「あれが異星人たちの戦闘機か。俺たちの戦闘機とはだいぶ違うな」
「宇宙戦闘機だからな。でも戦闘機に白い羽が生えているなんて何の意味があるんだよ?」
「さあな、異星人の考えなんてわからないから俺に聞くなよ」
そして着陸した戦闘機のコクピットらしきものから小柄な人影が出てきた。それは腰まである黒髪を赤いリボンで髪を結い、そのリボンの色に合わせるかのように赤い制服を身に纏った東洋系の見目麗しい少女だった。
「は?」
「人間? 少女?」
アメリカ人たちは予想しなかった容姿の存在が登場したことに驚愕した。何しろBETAというグロテスクな宇宙人の次は人間それも東洋系とはいえ白人の彼らですら美少女と呼べるほどの娘が出てきたのだ。そのギャップは激しかった。とはいえ、彼らもいつまでも驚いてばかりではいられない。我に返った彼らはその少女を迎えの車に乗せて会談の場に向かうのであった。
そして、今回の会場に着いた少女は早速我々に話し始める。
「先の通信でもお知らせしましたが、私はブリタニア帝国皇帝直轄機関である三千世界監察軍に所属する風間ちとせ少尉です。尚、私は監察軍からこの惑星の原住民との交渉の全権を委任されています。何か質問はありますか?」
質問を受け付ける事を受けて大統領が早速質問をした。
「ブリタニア帝国とはどのような国家で、三千世界監察軍とはどのような組織ですか?」
「ブリタニア帝国は異世界、つまりこの宇宙とは異なる別の宇宙に存在する大規模星間国家で、帝都が存在する銀河を中心に系外銀河に積極的に進出して領土を拡大している国家です。そして三千世界監察軍は皇帝陛下直轄機関で、ある程度の軍事力や研究機関を有していますが、主体は異世界専門の情報機関です」
そのあまりにスケールの大きな話に彼らは愕然とした。系外銀河だけでなく異世界にまで進出できる巨大星間国家。それはかれらが遭遇した事のない超大規模国家。そんな彼らからすればそれまで超大国として地球で覇権を握っていたアメリカですら辺境の野蛮人にすぎないだろう。
更に彼らは情報機関にすぎないのに異世界にあれ程の大艦隊を派遣できるだけの軍事力を持ち、尚且つそれすらもある程度の軍事力扱いしていた。知れば知るほどブリタニア帝国がとんでもない存在なのが嫌でも理解できた。
「貴女は名前といい容姿といい日本人に見えますが?」
そう、チトセ・カザマという名前や外見はどうみても日本人にしか見えない。
「その辺りは監察軍の特有の事情があります。監察軍は様々な世界で活動しますが、各々の世界でこれはという人材がいればスカウトすることがあるのです。確かに私はこの地球の日本帝国出身ですが、25年前にスカウトされて監察軍に所属しています」
この言葉にアメリカ側は驚いた。彼女が地球人より詳しくいえば日本人であることはいい。もしかしらたそうじゃないかと予想はしていたのだ。しかし、25年も前にスカウトされたということは少なくともそれ以前から彼らは地球と接触していたという事である。つまりBETAに侵略されている地球の現状を知りながらこれまで何のアクションをとらなかったわけである。これではブリタニア帝国こそがBETAの親玉ではないかと疑いたくもなる。
「BETAのことで何かご存知でしょうか?」
だからこそ、大統領は探りを入れるようにそんな質問をした。
「あれは有機物で構成された資源回収ユニット。端的にいうとただの土木機械です」
資源回収ユニット、土木機械、と少女は何でもないかのように言うが、そんなものの為に地球はこんなことになったのかと大統領は愕然とした。大統領はまるで自分たちがブルドーザーに蹂躙されている野生動物になったかのような気分になったが、あまりにも文明格差が開いていれば地球人など原始人と変わらないのだろうと思い直した。
「念の為に言っておきますが、私たちはBETAとは何の関係もありませんよ。というか、私たちならあんな不良品なんて使いません」
まるでBETAを送り込んだ存在を格下のように揶揄する言葉で、彼女はブリタニアならBETAの親玉よりもはるか先をいっていると言外に主張していた。勿論、そう言っても本当にブリタニア帝国がBETAと無関係とは限らないが、ここで無暗に疑ったところで彼女の不興を買うだけで何の意味がない。
「それで三千世界監察軍は何の用でこの地球に来たのでしょうか?」
25年前のようにただ人材のスカウトに来たというわけではないはずだ。小惑星規模の宇宙要塞に500万隻にも及ぶ大規模な宇宙艦隊を派遣したからにはそれ相応の理由があるはず。
「先日、私たち監察軍の仲間がこの惑星の住民に殺害されるという事件がおこりました。その為、犯人の尋問、場合によっては本国に連行して裁判にかけたいので引き渡していただきたいのです」
そこまでいって彼女は数枚の写真を取り出した。それには日本の戦術機とそのパイロットと思われる衛士強化装備を来た少女が写されていた。つまり彼女が殺人犯で、その引き渡しが要求なのだろう。
「ちょっとまってくれ。彼女は日本帝国軍人ではないかね」
そう、どうみても引き渡し要求の対象者は日本帝国軍人だろう。となると、アメリカにそんな要求が来るのは本来ならば可笑しい筈だ。
「はい。確かにそうですが、日本帝国はあの有様でとても交渉どころではありません。ですから地球で最も力がある貴国と交渉しています」
「……」
これには大統領も納得するしかない。そう、この時点の日本はBETAの侵攻で本土が陥落してオーストラリアに辛うじて亡命政府を立ち上げたばかりだった。当然ながらそのような彼らに監察軍と交渉する能力などあるわけがないのだ。
「とにかく即答できないから時間をくれないか」
確かに日本帝国がダメなら国連や他の国が代わりにやるしかないだろうが、だからといってアメリカがそれをやっていいのか見極めがつかない。いずれにしても即答できる問題ではなかった。
「確かにそうですね。では、三日待ちましょう。それまでに返事をいただきます。それと念のために言っておきますが、くれぐれもこの女を庇い立てするような事はなさらないでください。絶滅寸前の人類の寿命を更に縮めることになりますので」
あからさますぎる恐喝の言葉にアメリカ政府は顔を青ざめる。ブリタニアや監察軍にはこの地球と友好関係になるつもりなど更々なくただ圧倒的な武力をもって要求を突き付けて、それを拒否すれば叩き潰すつもりであることが彼らには嫌でも理解した。
「それで、どうするのかね」
「正直言って監察軍の要求をのんで問題の衛士を引き渡すしかありません。断れば即座に武力行使されるでしょう」
会談後、アメリカ首脳部が集まって会議をすることになったが、その意見は要求を受け入れる方向で進んでいた。相手の態度から拒否すればあの大艦隊がアメリカだけでなく地球各地に一斉攻撃しかねないのだ。正直、アメリカがここまでゴリ押しの砲艦外交を受ける羽目になるとは想像していなかった。
しかし、アメリカとて何もしないわけにはいかない。例え太刀打ちできなくても情報ぐらいは入手しておかないといけない。そして、そのヒントはあった。
「チトセ・カザマだったかな。彼女の情報から何か得られるかもしれないな」
かくして、アメリカは監察軍の要求を呑む一方でちとせに対する情報を集めることにした。
あとがき
ちとせは監察軍では少尉という階級になっています。実は初期の監察軍ではトリッパー同士で階級で雁字搦めになった厳しい上下関係ができるのを避けるためにザフト(機動戦士ガンダムSEED)のように役職はあっても階級はありませんでした。しかし、階級がない事で色々と支障が出てきたので、第一次ベヅァー戦争後にトレーズが階級制度を導入しました。なお25年も監察軍に所属しているちとせが未だに少尉なのは監察軍が年功序列ではなく実力と役職で階級が決まるからです。要するに紋章機のテストパイロットにすぎないちとせではこの階級が適切であったというわけです。