下位世界。それは私たちが存在している上位世界(現実世界や観測世界とも言う)の下位に存在している世界群の総称だ。
それらの下位世界はいずれも私たちが普段よく目にする漫画、アニメ、ゲーム、ライトノベルなどの創作物に極めてよく似ていた。その理由は、下位世界が現実世界の私たち人間によって創造された世界だからだ。
実は私たち上位世界の人間には異世界創造能力という特殊な能力がある。これは一人一人では何の意味もない能力であるが、何万何十万という上位世界の人々の力が創作物などを媒介として収束することで、その創作物そのままの下位世界を構築する事ができた。つまり条件さえ整えば世界を作り上げる事が出来るとんでもない能力なのだ。
最も条件というのが、沢山の上位世界人に認識される物語でなければならないという条件から創作物の中でも人気がある作品から下位世界が構築されやすかった。逆に二次創作ではないオリジナルの同人誌などは、よほどの人気作品ではないと下位世界として成立していない。
これは言うまでもなく一千部売れればマシという同人誌業界と、全国各地に販売されている週刊少年雑誌等とでは読者数が大違いだからだ。当然、これら少年雑誌などは読者の多さから人気作品だけでなく、余程人気のない作品でなければ下位世界として構築される事が多かった。
この他にも、ネット小説という物もある。このネット小説はインターネットさえ使えれば、誰でも自由に読めるという環境から、多くの読者が存在していて、自分のオリジナル小説(一次創作小説)をインターネットに公開している作者も多い。
この為、人気のある一次創作小説は多くの人々に知られて下位世界の元になる事例も多いが、そうした人気のネット小説は後に書籍化されて出版される事も多いため、その分類がややこしいらしい。
この様に、下位世界というのは本当に沢山ある。21世紀の娯楽文化はそれだけ多様性にあふれていて、私たちの創造力を大いに豊かにしているという事だろう。
こうして構築されている下位世界は一端できると無限の並行世界も同時に構築される。この並行世界というのはもしもやifと呼ばれている世界で、そもそも世界には無限の可能性が存在している為、世界が誕生すれば無限の可能性も発生して、その下位世界に無限の並行世界が自動的に構築されるのだ。
こうして上位世界人によって無数の下位世界とそれに属する無限の並行世界が次々に創造されていくが、これらの世界には厄介な問題があった。実は、私たちの異世界創造能力による世界創造には反作用という物が存在していたのだ。
創造の反作用、それは破壊だ。無数の世界創造の反動であるそれは凄まじい力を有しており、それが出現すれば多くの下位世界をその並行世界ごと破壊していった。
死神たちはそれを『破壊神ベヅァー』と呼んでいたが、このベヅァーによって古来より上位世界人が創造していた下位世界は滅ぼされていった。
勿論、下位世界が滅びるのはベヅァーが出現したときのみであるからベヅァーに破壊されても人気がある創作物に関しては上位世界人によって再度下位世界として創造されていったが、時代と共に忘れ去られた物や人気がなくなった創作物を元にしていた下位世界に関しては、再び創造されることはなかった。この為、昔の創作物が元になった下位世界はよほど人気がある物を除いて淘汰されていく事になった。
こうした状況を死神たちは苦々しく思うが、ベヅァーの力は凄まじく彼らの力を持ってしてもベヅァーを何とかするのは無理だったのだ。
しかし、この状況を一変させる発見が成された。そのきっかけは、ある死神が間違って死ぬ予定ではない人間を殺してしまった事だ。
これに慌てた死神はネット小説を参考にして、その人間を前世の記憶を保持させ、更には転生特典としてチート能力を与えて、下位世界に転生させたのだ。
その死神はアフターケアとして、その転生型のトリッパー(ネット小説でいえば転生者)アルトリアを定期的に見守っていたが、死神はある事に気が付いた。それはアルトリアが世界創造の反作用を中和している事だった。
これに気付いた死神は仲間の死神に相談して、彼らはアルトリアを徹底的に調べた(この調査はアルトリアの了承を取っていない)。
その結果、上位世界人の魂が下位世界に存在していると、世界創造の反作用が中和されていくという現象が確認されたのだった。
これは実に画期的な事であった。破壊神ベヅァーは世界創造の反作用によって出現する存在であるが、それを中和するという事はベヅァー出現を阻止できるという事だ。
これまでベヅァーに対して何ら手を打つことができず、多くの下位世界が滅ぼされていくのを見ている事しか出来なかった彼らにとって唯一の対策といえるだろう。
これを受けて死神はある実験を開始した。それはもっと多くの上位世界人を下位世界に転生させるという物だった。
確かにアルトリアによって世界創造の反作用を中和できているが、所詮アルトリア一人では中和できている量はたかが知れている。本格的にベヅァーを何とかするには中和できる量をもっと増やすしかない。それにはトリッパーをたくさん用意すればいいという考えだった。
こうして、多くの死神たちは総出で死亡した上位世界人をトリッパーとしてスカウトして、アルトリアがいる下位世界に転生させていった。
「……というワケで貴女の知っているネット小説でいう所の転生者(死神の分類では転生型トリッパー)をたくさん送りましたのでよろしくお願いします」
と、死神は私に対してとんでもない事を言ってきた。
「ちょっと待ちなさい! 貴方達はこの世界に一体何人の転生者を送り込んだのよ!?」
「そうですね。合計で千人は超えていますよ」
「せ、千人以上!?」
転生者のあまりの数に、私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「……その転生者たちはチート能力を持っているのですか?」
「勿論ですよ。中には三つとか五つとか複数の能力を持つ方もたくさんいます。何せ今回の実験は仲間たちも張り切って奮発していましたから」
と、軽い調子で言ってのける死神に私は頭を抱えた。
私でも能力は一つだけだというのに、複数能力持ちとかそれ何よ。というか、そんな連中を私がいる世界に送り込むな!
「ちなみに彼らにはアルトリアさんの事を伝えていますので、彼らもアルトリアさんの事を知っていますよ。そういうワケで彼らの事を頼みましたよ」
「無茶を言わないで下さい。私が転生者たちの面倒を見るなど無理です!」
そう、私は一介の傭兵でしかない。王族でもなければ貴族でもない。ただの平民だ。二次小説のテンプレから考えると、転生者たちの多くは王侯貴族として転生すると思われるから、身分の面でも私では彼らの面倒など見きれない。
それにしても死神たちは何て事をしてくれたんです。一つの世界に千人以上の転生者たちを送り込んだりしたら何が起こるか容易に想像できるでしょう!
最悪な事に既に転生者たちは私の存在を知っています。こうなると多くの転生者が私に目を付けるでしょう。それを考えるともう傭兵稼業はできないし、アルトリアという名前も使えない。これからは傭兵を辞めて、偽名で隠れ住むしかないでしょう。
こうして私はクリスティーヌという偽名を使って村娘として溶け込んでいきました。
そうこうしている内に原作開始の八年前になってしまい、現在のハルケギニア各国では幼くしてスクウェアになったり、これまで誰もやったことがない画期的な農業をやる貴族の坊ちゃんやお嬢様とかがボコボコ出てきているそうです。内政チートですね分かります。そういう情報って、地方の村でも結構流れてくる物です。少し調べたら噂とか結構集められますよ。
現在はまだ転生者たちは幼いが、彼らが成長していけばハルケギニアに齎す影響は計り知れないでしょう。私はそれに巻き込まれないように目立たないように隠れないといけませんね。やれやれ、本当に面倒な事です。