6
「危なかったわね。でももう大丈夫」
突然現れた謎の人物。その人はいくつもの銃を生成して手早く使い魔達を退けていった。
使い魔の姿を見れるってことは、この人ももしかして魔法少女なのかな?
何てことを考えていると辺りにいる使い魔を全て撃退したその人がこちらに向かって歩いてきた。
「大丈夫? どこか怪我はしてない?」
「は、はい。大丈夫です」
「そう、それならよかった」
「あの! もしかしてあなたも魔法少女なんですか?」
「えぇ、そうよ。私の名前は__」
名乗ろうとした瞬間、結界の奥から新たに別の使い魔達がやってきた。
その人はそれを一瞥した後、やれやれといった感じに大きなため息をつく。
「全く…自己紹介くらいちゃんとさせて欲しいわね。手早く片付けさせてあげましょうか」
「私も手伝います!」
「大丈夫、私に任せて。見たところかなり消耗してるみたいだから、あなたはそこでお友達と一緒に休んでいて頂戴」
その人はそう言って使い魔の軍勢へと向かっていった。
さっきの口ぶりだとかなり実力がある人なのかもしれない、でもやっぱり一人で戦うのは……!
「ほむらちゃん! 私達も加勢しに行こう!」
『その必要はないわ』
「えっ?」
『彼女なら大丈夫、あの程度の使い魔相手なら何体いても同じことよ。ここは素直に従いましょう』
ほむらちゃんの意外な発言に驚いていると、あの魔法少女の人と使い魔との戦闘が始まっていた。
一見すると圧倒的に不利に見える戦いだけども、その人は顔色一つ変えずに舞うような優雅な戦いで使い魔達を圧倒していた。
その間に物陰から様子を伺っていたさやかちゃんの元に行くと私と同じく、その人の戦いぶりに圧倒されていた。
「すっげぇ……」
「うん……」
『…………』
その人の動きはとても機敏で、必要最小限の動きで攻撃を避けて、銃で的確に使い魔達に反撃をしていく。
その銃撃を受けた鶏みたいな四肢の使い魔達は、燃えながら消滅していった。
着実に数を減らしていき、戦況はどんどん有利になっていく。
けど、突然使い魔の一匹が大声を発して仲間を率いれて一斉に襲い掛かってきた。
このままじゃ危ない! と私は慌てたけども、その人はそんな私とは対照的に涼しげな顔をしていた。
「丁度よかった。私もこれ以上時間をかけたくなかったのよね__」
『謌代′鬲ゅ?繧シ繧ッ繝医→蜈ア縺ォ縺ゅj繧」繧」繧」??シ?シ』
「__だから、一気に決めさせてもらうッ!」
向かってくる使い魔達に対して、その人はこれまでの銃とは違う巨大な大砲のようなものを目の前に召喚した。
そして狙いを合わせて、ある掛け声と共に砲撃を繰り出した。
「ティロ・フィナーレ!!!」
『____ッ!!!』
撃ち抜かれた使い魔達は声をあげる間もなく消えてしまう。
ふと隣にいるさやかちゃんを見ると、その人の戦いぶりを見てキラキラと目を輝かせていた。
何とか助かった、と安心してると辺りの空間が歪み始めていた。魔女はまだ倒していないのに…と不思議に思っていると、魔法少女の人が私のところに歩いてきた。
「何とか終わったようね。魔女は逃げてしまったけども」
「あ、あの! 助けてくれてありがとうございました!」
「いいのよ。困ったときはお互い様でしょ? そっちのあなたも大丈夫?」
「あ、はい! あたしも全然元気です」
「なら一安心ね、じゃあ落ち着いたところで自己紹介をさせてもらうわ。私の名前は巴マミ、見滝原中学の三年生よ」
そう言いながら巴さんは変身を解いて、元の姿に戻る。
私とさやかちゃんは、同じ学校の先輩が魔法少女だったことを聞いて驚いた。
「お、同じ学校の人…だったんですね……」
「ええ、でも私も驚いたわ。まさか最近現れた魔法少女がウチの生徒だったなんて」
「私達もビックリしました」
「ふふっ、ところでもう魔女もいないんだし変身を解いたらどうかしら? 変身しっぱなしだと魔力が勿体ないわ」
「そうですね。ほむらちゃん、変身を解くね」
『分かったわ』
念のために声をかけてから指輪を外して、魔法少女から元の姿に戻る。
そのやりとりを見て、巴さんは不思議そうな顔をする。
「あなた誰と会話していたの? それに今の声は……」
「えっと…ごめんなさい、ちょっとだけ待ってくださいね。今説明しますから」
確かに何も知らない人からしたら、ちょっと変なのかもしれないね。
そんなことを思いながら、私は物陰に隠していたほむらちゃんの体を持ってくる。
「えっ?!」
「うんしょ……うんしょ……」
巴さんがその光景に驚いている横で、いつものようにソウルジェムの指輪をほむらちゃんの指にはめる。
するとほむらちゃんはすぐに目を覚まして、服のほこりを掃いながら立ち上がった。
「お疲れ様、まどか。でも次はもうちょっといい場所に隠して欲しいわ」
「ごめんね。急いでたから」
「一体どうなってるの?」
「えっとですね__あれっ……?」
事情を説明しようとした矢先、急に体の力が抜けて体勢がだんだん前のめりになっていた。
だけど地面に倒れる寸前のところでほむらちゃんが私を抱えて助けてくれた。
「大丈夫、まどか?」
「ありがとう、ほむらちゃん。急に力が抜けちゃって……」
「無理もないでしょ。さっき別の魔女と戦って疲れていたのに、そこからまた戦ったんだから」
「美樹さやか……」
さっきまでの感激していた姿はどこに行ったのか、さやかちゃんが物凄い形相でこちらに向かってきた。
「アンタ、どういうつもりなのさ。助けに来てくれたのは感謝してるけども、あんなにヘロヘロだったまどかをまた戦わせるなんて」
「さやかちゃん。それはね……」
「まどかは黙ってて! 転校生、アンタも魔法少女なんでしょ?
なのに何でアンタはいっつも戦わずにまどかに任せっきりなのさ?」
「それは……私一人じゃあなたの救出が難しいと思って」
「今回に限った話じゃない! 魔女との戦いで、まどかがどうなってるのか分かってんの?!」
「いつも…? それって……」
ほむらちゃんが私の方を見て、不思議そうな顔をする。
私はさやかちゃんが話そうとしていることを察して慌てて止めようとした。
「さやかちゃん、ダメッ!」
でも手遅れだった……
「まどかはずっと苦しんでたんだよ! こんな風に…アンタと一緒に魔女と戦う度に!!」
「えっ……」
「アンタと別れた後、あたしはずっと今みたいなまどかを抱えて家まで連れてってたんだよ。
まどかは、ほむらちゃんに心配かけたくないって言って隠そうとしてたけども、アンタといる時もずっと苦しそうだった」
「…………」
私を抱えているほむらちゃんの腕が震えだす。ほむらちゃんは青ざめた表情をしながら、さやかちゃんの話を聞いていた。
「アンタ学校でもずっとまどかと一緒にいたよね。なのに何で気づかなかったの?!
自分の友達が、一緒に戦っている仲間が、こんな状態になりながらも戦ってるのに……何でアンタは何ともないの? 何でまどかだけこんなことになってるのさ!!!」
「まどか、そうだったの…?」
「う、うん……」
生気を失ったような瞳を向けられて、私は嘘をつくことが出来ずに正直に頷いてしまう。
ほむらちゃんに何ていえばいいのだろう……と悩んでいると、巴さんが私達の間に割って入った。
「あの! ちょっといいかしら?」
「えっ……あ、はい」
「私には詳しい事情は分からないけども、今日はこの辺にしないかしら?
辺りも暗くなってきたし、その子もかなり疲れているみたいだし」
「……そうね、この話はまた明日にしましょう。まどかも休ませなきゃいけないし、私もちょっと考えたいことが出来たわ」
「…………」
「決まりね。それじゃ明日の昼休みに屋上で集まることでいい?」
私達三人が頷いたのを確認して、巴さんは今日はもう無理しちゃダメよ、と言い残してその場を後にした。
それを見届けた後、私達もひとまず路地裏から出ることにした。その後、さやかちゃんが私達の方に話しかけてきた。
「転校生、まどかはあたしが預かるよ。アンタよりまどかの家は近いし、慣れてるから」
「……頼んだわ」
ほむらちゃんはゆっくりと私をさやかちゃんの背中に乗せて、そのまま立ち去ってしまった。
とてもツラく、悲しそうな顔をしながら……
「まどか、約束破ってごめん。でも……アンタの為にもこうした方がいいんだ」
「さやかちゃん……」
謝罪するさやかちゃんに対して私は何も言うことが出来なかった。
この時私は自分のしたことにとても後悔していた。でも私はのちにそれよりも更に大きな後悔をすることになるなんて、この時は思ってもいませんでした。
7
建物の上から路地裏の様子を伺っていた黒ローブの少女は悔しそうに歯ぎしりをしていた。
「あー、もう! あと少しで上手くいくところだったのに、あの金髪女め…余計なことして」
「まあお前が名乗り出た時からこうなる予感はしてたよ。こういう役は彼女がやらなくちゃ」
「うっさいですねぇー、邪魔が入らなかったら作戦は成功してたっての。せーっかくこの街を私のナワバリに出来ると思ったのにー」
その隣にいた少女にバカにされて、彼女の機嫌はますます悪くなる。
険悪な漂う中、二人の元に白ローブの少女がやってくる。
「二人ともその辺りにしなさい。そんなに焦らなくてもすぐにこの街はあなたのナワバリになるわ」
「それってどういうことですかぁ?」
「あの魔法少女、巴マミはあと数日の内に魔女との戦いで命を落とすってことよ」
「そーなの? あんなに強かったのに」
「よかったら話してもいいのよ。彼女がどんな風に死ぬのか」
「別にいいよ。そんなグロい話聞きたくないし」
黒ローブの少女は嫌悪感全開な表情をしながら首を横に振る。
するとそれを聞いたさっきの少女が鼻で笑う。
「ふんっ、歪んだ性格してる割には変なところで繊細なんだねキミは」
「誰かさんにいつも媚び売るように尻尾振ってる狂犬よりはずっとマシですよぉ」
「へぇー、それはどこのちんちくりんのことかな?」
「あ"あ"っ?!」
「はあ……」
言い争いをする二人の少女に白ローブの少女が大きなため息をついてると、今度は別の黒いローブを身につけた少女がやってきた。その少女は手に携帯を持っていて既に誰かと通話状態になっていた。
「あなたに話があるとのことで……」
「貸して頂戴」
黒ローブから携帯を受け取ると、電話の向こうから怒気の混じった声が聞こえてきた。
『どういうつもりですか。私達は確かにあなた達に協力するとは言ってましたが『羽』達を魔女に喰わせてもいいなんて言った覚えはありませんよ』
「人聞きの悪いことを言わないで欲しいわね。ただ私は彼女を魔女に魅入らせて、鹿目まどか達をおびき寄せただけよ」
『……今後またこのようなことをするつもりなら、あなた達への支援は絶たせてもらいますからね』
「その心配は要らないわ。あとは私達だけで何とかする。あなた達の駒も全て返すわ」
『そうですか……』
「要件がそれだけならもう切ってもいいかしら? 次の計画の準備をしなくてはいけないから」
『一つ聞かせてもらってもいいですか』
「何かしら」
『何故あなたはこんな回りくどいやり方で対象を始末しようとしてるんです?
聞くに一人は使い魔にすら遅れを取る魔法少女、もう一人は契約すらしていないただの一般人じゃないですか。あなた達程の実力を持ってるなら直接手にかけた方が手っ取り早いはずでは……』
電話の主の問いかけに白ローブの少女は顔をしかめながらこう語る。
「出来るなら私もそうしたかったわ。でもこっちとしても下手な動きは控えたいのよ」
『何故ですか』
「あの二人は世界を滅ぼす爆弾なのよ。しかも片方に何か起こるとそれに反応し、もう一人も同じく誘爆する……」
『世界を、滅ぼす……』
「だから私達は彼女らを始末しなくてはならないの。互いに影響し合うことがないよう確実にね」
『…………』
「心配しなくても私達は必ずこの使命をやり遂げるわ。そしてあなた達の元にまた戻ってくる」
『そうですか。ご武運を祈ってます』
「それでは御機嫌よう。梓さん」
白ローブの少女はそう言って電話を切った。
まどかとほむらを狙う謎の少女達とその背後に潜む強大な闇。彼女らがそれと対峙するのは、もう少し先の話である……
☆See you!! Next Story……★
次回、第10話 見滝原の魔法少女達④