8
その夜、私は美樹さやかに告げられた事実を思い出していた。
まさかこの数日の戦いだけで、まどかがあそこまでの負担を背負っていたなんて、これは自分でも起こりうる可能性があると想定していたけども想像以上だった。いや、そんなことなんて正直どうでもいい。重要なのは、一緒に戦っていたにも関わらず彼女の状態の変化に気づけなかった愚かな自分についてだ。
いくら自分が切羽詰まった状況に追い込まれていたとしても、このことはとても許されるものではない。
これ以上、罪を重ねてはいけないのだ。彼女を傷つけて、悲しませて、裏切ることは。
出来ればこの力は手放したくはないと思っていたけども、覚悟を決めなければいけないのかもしれない。
私は心の中で決心を固めながら、魔法少女の姿に変身して盾の中にあるものを一通り、部屋にばらまいてみた。
前の世界でのワルプルギス戦で重火器は全て底をついている。あるのは拳銃、小銃、サブマシンガンとそれに取り付けるグレネードユニット、あとは自作の爆弾くらいか……
一か月の間、グリーフシードを得て生き抜くことを考えたら十分ではあるけども、今の魔女が大量に蔓延ってるこの街のことを考えると、そのペースで狩っていてはワルプルギスがやってくる前に見滝原は魔女に喰いつくされてしまう。いくらこの街に巴マミがいたとしても。
それにそんな貴重な戦力である彼女も、あと数日で……
「せめて私が万全な状態で戦えれば……」
この世界で降りかかったイレギュラーを激しく呪いながら、武器を盾の中に戻す作業を始めた。
9
翌日、午前の授業を終えた私達三人は巴マミの待つ屋上へと向かった。
屋上には彼女以外の人間はいなく。魔法少女についての話をするのには打ってつけな環境だった。
「お待たせしました、マミさん」
「気にしないで私もついさっき来たばかりだから」
『やあ、キミ達が鹿目まどかと美樹さやかだね』
「うわっ! ビックリした!!」
キュゥべえが突然喋りだしたことに驚き後ずさりする美樹さやか。まあ初めてアイツの喋る姿を見たら誰だってこんな反応をするだろう。
私はそう思いながら、まどかの方を見ると意外にも彼女は冷静でキュゥべえに話しかけていた。
「あなたがキュゥべえなの?」
『そうだよ。ボクのことは既に暁美ほむらから聞いてるみたいだね』
「うん。一応さやかちゃんもなんだけどね」
「いやいや、何でまどかはそんな平然としてられるのさ。話を聞いてたとしても普通驚かない?」
「これまで何度も不思議なことを経験したから慣れちゃったのかも」
「順応するの早すぎるだろ……」
『これまで何人もの少女と会って来たけども、キミのような反応をする人間は極めて珍しいよ。
早速で悪いのだけども、ボクのお願いを聞いて欲しいんだ』
「随分と急な話の持っていき方だな……」
「お願いって何?」
『ボクと契約して魔法少女になっ____「無駄話はその辺にして、さっさと本題について話しましょう」
いつもの決まり文句を言おうとするのを遮って、昨日の件の続きをするように持ち掛ける。
その行動で当然だが全員の視線が私に向けられるが気にせず話を続けた。
「まず巴マミ、昨日はいろいろあって言いそびれてしまったけども助けてくれたことに礼を言わさせてもらうわ」
「え、えぇ…どういたしまして……」
「凄い勢いで話をぶった切ったよ、アイツ……」
『酷いなぁ』
外野が何か言ってるようだけども無視の方向で。
巴マミは少し戸惑いながらも私に昨日のことについて尋ねてきた。
「でも昨日の魔女の結界にあなたの姿はどこにもいなかったわよね。確か鹿目さんが路地裏からあなたを引っ張り出してきて」
「何か物っぽく扱われているのに違和感を感じるけども、あなたの言う通りよ。あの場に"私"はいなかった。あそこにあったのは私の意識だけ」
「意識?」
「その辺りもまとめて説明するわ。ちょっと長くなるけどもね」
私は巴マミとついでにキュゥべえに、まどか達と同行している間に起きたことを話した。
まどかと出会って精神を合体して魔法少女に変身したこと、それと同時期に私の魔力が急激に減少してしまったこと、一般人である美樹さやかと共にこの街にいる魔女を倒したことを。
巴マミは顔色一つ変えずに真剣な顔つきで私の話を聞いていた。そして私が話し終えると納得したように頷いた。
「なるほどね。つまり鹿目さんは契約をせずとも、暁美さんのソウルジェムに触れることによって魔法少女に変身できる……キュゥべえ、何か心当たりはある?」
『残念だけどないね。前例のない異例なことだよ』
「前例がないって…まどか、アンタとんでもないことになってるじゃん」
「う、うん。そうみたいだね」
「でも何でまどかだけ…? もしかしてまどかには何か特別な力が……」
「まさかそんなこと……」
『美樹さやかの言う通り、まどかには魔法少女としてとてつもない才能を秘めているよ』
「えっ、そうなの?」
「私も最初は気付かなかったけども、あの時鹿目さんの戦ってる姿を見て同じことを感じたわ」
『うん。ボクが今まで見てきた魔法少女の中では一番の才能を持っているね。ただそれと今の話はあまり関係があるとは思えないかな』
「そっかー、こうなるとますます理由が知りたくなっちゃうね」
「そうだね」
「でも気になるのはそれだけじゃないのよね」
そう言って巴マミは私に視線を向ける。
彼女が聞こうとしてることに大体の見当はついている。ここはいつも通りの対応をするべきか、それとも……
「暁美さん。聞くにあなたは鹿目さんと違ってキュゥべえと契約をして魔法少女になったのよね」
「ええ、その通りよ」
「でもこの子は、あなたと契約した覚えがないと言っていた。一体どういうことなのかしら」
「さあ? 私は確かにキュゥべえと契約をして魔法少女になったわ。このソウルジェムがそれを証明している」
「でもキュゥべえが覚えてないのは不自然だと思わない?」
「ソイツだって生き物よ、普段生活しているうちに私のことを忘れてしまった。こう考えれば辻褄は合わない?」
『確かにないとは言い切れない。ならば教えてくれないかな、暁美ほむら。ボクは一体いつ君と契約をしたんだい』
「いつだったかしら、もう随分と時間が経ってしまってるから忘れてしまったわ」
とぼけて質問をやり過ごそうとする。だがその時巴マミの目つきが変わった。
「私は覚えてるわ。魔法少女になった日も、経緯も、その願いも。
これまでだってあの日のことは一度だって忘れたことはなかった。あなただって魔法少女になったからには知ってるはずよ。
契約をきっかけに自分の人生が大きく変化するってことを」
「……………………」
「ほむらちゃん……」
不安そうな目でまどかがこちらを見つめる。魔法少女の出会いが人生の大きな転機となる、たった数日しか経ってないがこのことは彼女もよく理解しているに違いない。
誰だってそうだ。たった一つの願いと引き換えにその人の人生、命に係わる役目を背負わされる。
そんな重要な瞬間を忘れる愚か者なんて滅多にいるわけがない。
「……………………」
「答えたくないのならば次の質問をさせてもらうわね。あなたは何故この街にやって来たの?」
「療養の為よ。昔の私は心臓病を患っていて治療を受けた後、この街の病院で入院することになったの。
そして身体の都合も考慮された結果、この見滝原中学に転校して経過を見ることになった」
「さっきとは打って変わってやけに素直に話してくれたわね。その情報はあなたにとって不都合なものではないからなのかしら」
「私は答えられる範囲のものを話してるだけよ」
「そう」
そんな会話を続けていると、様子を見ていたまどかが私の方に話しかけてきた。
「あの……私もほむらちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いい…かな?」
「何かしら」
「その、ほむらちゃんはどうしてキュゥべえと契約して魔法少女になったのかな?」
「……………………」
「あっ、その言いづらいことだったら無理しなくても大丈夫なんだけど……」
「ごめんなさい。これはいくらあなたでも話すことは出来ない」
「そっか……だ、ダメだったら仕方ないよね! ごめんね、さっきのこと忘れて!」
「いいのよ。それにあなたが謝る必要なんてどこにもないわ」
「あら鹿目さんには随分と優しいのね」
「……それはそうよ、会って間もないあなたと比べたら当然だと思うけど」
「どうかしら? 私は何か特別な感じがしたけれども」
「うんうん。転校生はまどかにだけは激甘だからねー、さやかちゃんにも少しくらい分けてもらいたいものよ」
「前向きに検討しておくわ」
「それ絶対する気がない時に言うセリフだよね」
「必要最小限のことはしているつもりだけども」
「あたしとしては最・大・限のを希望したいけどね!」
「さやかちゃん、それはさすがに欲張りだよ」
「急募。誰かさやかちゃんの心の味方になってください」
そんな会話のやり取りしていると、すぐ横でそれを見ていた巴マミが微笑ましそうに笑っていた。それと共に彼女から感じられる雰囲気も少し変わったように感じた。
「何だかんだいって三人とも仲がいいのね。昨日の言い合いで少し不安に思ってたけど」
「あの件については美樹さやかが正しいわ。魔法少女として戦えるとはいえ、まどかはあくまで一般人だもの」
「ほむらちゃん、私は別に……」
「ダメよ。これはあなたの意見一つで簡単に受け入れていいものではないわ」
「でも……」
私の言葉を受け入れづらそうにしていると、ふと巴マミが口を開いた。
「それならいい方法があるわ」
「いい方法?」
「ええ、あなた達の問題を解決するのに打ってつけだと思うの」
「何ですか?」
「まずは放課後、私と一緒に街のパトロールに行きましょ。話はそれからよ」
☆ See you!! Next story…… ★
次回、第11話 お手並み拝見(仮)