1
「それで…こんな夜に話って一体何かしら?」
あれから数時間後、ほむらはマミによって公園へと呼び出されていた。
ほむらの問いかけにマミは何も言わずに手に握っていたものを投げ渡した。
手に取ったものを見て怪訝な顔をする。
「グリーフシード?」
「さっきの魔女が落としたものよ」
「あの魔女は私が倒したからこれは私のもの。って考えたからわざわざ呼び出して渡しに来てくれたってわけね」
「飲み込みがよくて助かるわ」
説明する手間が省けたお蔭かマミは小さく笑みを見せる。
しかしほむらは彼女が言い終わるや否やグリーフシードをマミに向かって投げ返した。
予想外の行動に驚かされるが速度はなくゆっくりと投げられた為、簡単に取れた。
「どういうつもり?」
「それはあなたが使いなさい。自分の必要なグリーフシードは自分の手で確保する」
「私達はこれから同じテリトリー内で魔女が持つ限りあるグリーフシードを取り合うことになる。それを考えるなら出来るだけ多く持っていた方が良いとは思わないの?」
「だからこそよ。私は少しの間あなたのテリトリーを侵すことになってしまう。そのグリーフシードは迷惑料みたいなのとして受け取りなさい」
「迷惑料って…今後のことをしっかりと考えてるのだとしたら随分と安く感じるわね」
「一ヶ月、それさえ過ぎれば私はこの街からいなくなる。それまでの期間でもまだ物足りないかしら? 必要ならばこの先私が確保したグリーフシードはあなたに渡すわ。流石に全部は難しいけども」
「何だか私が物凄くいやしくしてるような言い方ね…。別にそこまで求めてるわけじゃないわ。
でも一ヶ月って? そんな短い期間に何の用があって見滝原に……」
「それは秘密。これ以上は答えるつもりはないわ。
さて…話はこれで終わりでいい? いいならもう帰らせてもらうけど」
会話を無理やり切り上げて立ち去ろうとするほむらにマミは静かに尋ねた。
「何故鹿目さんにあんなことを言ったの?」
「…………」
背を向けたままほむらは何も話さない。
ここで問いただしても望む答えはきっと帰ってこないだろう。それでもマミは話を続ける。
「あなたと鹿目さん、とても仲が良さそうにしていたわね。転校してたった数日しか経っていないのが不思議なくらいに。あなたも彼女もお互いのことをとても大切にしているように見えて、微笑ましくも少しだけ羨ましいとも感じたわね。なのに暁美さん。あなたはどうして急にあんな冷たい突き放すようなことを言ったの?」
「…………」
「今度はだんまりなのね。お昼の時といい、自分にとって不都合な情報は一切明かさない、案外分かりやすい人なのね」
「あなたが知る必要はない。あれは彼女にとって必要なことだと私が判断したから…それだけのことよ」
「……そう。時間を取らせてしまってごめんなさいね。
じゃあこれからの一ヶ月間、お互い何のトラブルもなく過ごせることを願ってるわ」
予想はしていたが、期待した答えが返ってこないことに少しだけマミは残念そうにする。
色々と目的はあったが、イレギュラーな存在として現れた暁美ほむらという人物を探るというのが一番の目的で呼び出したのだったが簡単には明かせなさそうだ。
素っ気なく少しだけ敵意を感じさせるような口調でほむらを帰そうとしたマミだったが、ほむらは動かずに彼女にこう告げた。
「待って…最後にこれだけは言っておくわ。今後はあまり彼女達を巻き込まないようにして頂戴」
「巻き込むって魔法少女のこと? だとしたら無理な相談ね。彼女達はもうキュゥべえに選ばれてるのだから」
「彼女達とこの世界を関わらせてしまったのは私、本当ならば無理を言ってでも引き離すべきだった。でも私はすぐにその選択が出来なかった。……もしかしたら、私は傍で共に戦って欲しかったのかもしれないわね」
まるで過ぎ去ってしまった古い思い出を懐かしむように話すほむらを見て、マミは顔を曇らせる。
「あなたが何を考えて彼女達と接していたのかは分かったけども最終的に決めるのは彼女ら自身よ。私達に決断させる権利はないわ」
「……そうね」
ほむらはそう言って再び背を向けてその場を去っていった。
何だか彼女も残念そうな様子を見せていたようだが、その真意を知れるのはまだ先になりそうだ。
マミはほむらの背中を見守りながら大きく息を吐く。
別にほむらとの会話に緊張していたわけではない。素性の知れない相手との対峙に警戒こそはしていたが、そこまで自分を気張らせるような雰囲気は相手からは感じられなかったからだ。
かといってほむらについて特に情報を得られなかったことに対してのため息でもない。
その動作の意味は自分の中のスイッチの切り替え、神経を張り巡らさせなくてはいけない状況になってしまったからである。
「三人……いや四人くらいかしらね?」
マミは周囲にある木々に視線を向けてソウルジェムを手に取る。
「そこにいるのは分かっているわ。出てきなさい」
凛とした声で辺りに呼びかける。
……しかしそれに対して周囲の反応はなく夜風の音だけが微かに聞こえるだけであった。
「……………………」
静寂の時間が刻まれるごとに徐々にマミの眉間のしわが深くなっていく。
「これ以上何も動作を起こさないのならば私はあなた達を敵と見なさせてもらうわよ?」
最終警告として再び呼びかける。
だがそれでもマミの見える景色に変化は訪れない。
「____ッ!!!」
マミは大きく目を見開き、素早く魔法少女に変身し、茂みに向かって発砲した。
発砲音が公園内に響き渡ると共に近くの茂みがガサガサと激しく動き出す。
完全には姿は見えなかったが、黒ずくめの集団が慌てて逃げていく様子だけは確認できた。
「……一体何だったのかしら?」
あっけなく去っていった集団に疑問を感じながらマミは変身を解く。
「まさかこんなので追い払えるなんてね…」
呆れた様子で発砲したマスケット銃をくるくると回しながらそんなことを口に出す。
マミが先程使用していた銃には弾は込められておらず、ただの空砲だったのだ。
「大した相手ではないのだとしても、しばらくは警戒しておいたほうが良さそうね」
謎の集団が去っていった先を睨みつけながらマミは自分に言い聞かせるように呟いた。
2
公園の物陰から二人の会話を盗み聞きしていた謎の少女達は、マミの射撃に驚いて蜘蛛の子を散らすように逃げていた。
その内の一人、黒少女は我先にとその場から離れようとして仲間を置いていってしまった。
突然の出来事に慌てふためいてとにかく逃げることだけしか考えていなかった彼女だが、逃げているうちに落ち着きを少しずつ取り戻していき、それと共に失速していってやがて近くにある電柱に身体を預けてその場に座りこんだ。
(ど、どうしよう…皆を置いて真っ先に逃げちゃった……)
肩で息をしながら黒少女は自分のしてしまった行いに激しい後悔を覚える。
急いで着ている羽の装飾がついた黒いローブの中からスマホを取り出して仲間達から連絡が来ているのかを確認する。
だが彼女宛の連絡は一切なく、これから何をすればいいのか分からなくなってしまった黒少女は蹲って頭を抱えてしまう。
(急いでさっきの公園に戻ればもしかしたら…で、でもさっきの魔法少女がまだあの場に残っていたら……)
「全く面倒なことをしてくれたわね」
『?!!』
そんなことを考えていると不意にどこからか声が聞こえてくる。
黒少女は飛び上がって慌てて武器を構える。
その様子を見ていたのか声の主は呆れた様子で彼女に語り掛けた。
「とてつもない小心者ね。上の方はよくあなたのようなのを監視役に抜擢したのね」
声は聞こえども姿は見えず、あたふたと周囲を見渡し続ける黒少女に声の主は「上よ」と短く伝える。
それに従って見上げてみると住宅地の塀の上に腰掛けている白いローブを纏っている人物がいた。
『あ、あなたは……』
「もうあなた達の支援は必要ないと上の者にも伝えたはずでしたけども、一体どういうつもりなのかしら?」
落ち着いた雰囲気で語り掛ける白ローブの人物だったが、黒少女はその様子を見て酷く怯えていた。
深く被られたフードのせいで顔全体は見ることは出来なかったが、微かに見える目から凄まじい殺気が黒少女へと向けられているのを見てしまったからだ。
「まあ大方私達と彼女らの動向を探るために上から命令されたのでしょうね」
『え、あ…その……』
「答える必要はないわ。別にあなた達がどのようなことをしようとも、あなたらの組織には大した影響はないでしょうしね。ただし__」
白ローブの人物は塀から降りて、ゆっくりと黒少女に歩み寄る。
そして黒少女の目の前に顔を近づけて二人にしか聞こえない程の声量で囁いた。
「私達の場合は別。あなた達の不用意な行動のせいで彼女らの警戒が高まって今後の私達の計画に支障が出たらどうするつもり?」
『そっ、それは……』
怯え切って委縮する黒少女。
そんな情けない姿に冷たい視線を送っていた少女だったが、口元を釣り上げて小さく嗤う。
「冗談よ。あなたらのような下っ端風情に狂わされるほど私達の計画は甘くないわ」
表情が少しだけ和らいだのを見て黒少女は安堵のため息をつく。
「けれど__」
『ッ!!』
「今回の失態について許したわけではないわ。しっかりと咎めさせてもらう」
『い、一体私達は何をすれば……』
その言葉を待っていたかのように白ローブの人物はニッ…とこれまで見せた表情の中で最も嬉しそうな表情を見せて不気味に笑う。そしてその人物は黒少女にこう伝えた。
「あなた達の手で“ウワサ”を作ってもらいたいのよ」
☆See you! Next Story…★
※本当はまどかサイドも書きたかったけども、マミほむと謎の少女達の内容に時間をかけすぎてしまったのでまた次回に……
それでは、次回……第14話 夢想に耽って② お楽しみに!